冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話

岩永みやび

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16歳

524 大丈夫!

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 王宮で結構規模の大きいパーティーが開催されるらしい。なんでもエリック殿下による突然の思いつきのようだ。なんの前触れもなく、国中の貴族たちに招待状が届いたらしい。

 当然ながらうちにも届いたその招待状は、オーガス兄様が隠し持っていた。どうやらブルース兄様に見つかる前にこっそり処分しようと思っていたらしい。どれだけエリックのことが嫌いなんだ。

 オーガス兄様の努力に水をさすようで悪いが、これだけ大々的なパーティーである。招待状を隠したとしても開催の事実自体はそのうちブルース兄様の耳にも入ると思う。それでうちにまだ招待状が届いていないことを疑問に思ったブルース兄様は、オーガス兄様が隠したとピンとくるはずだ。つまりオーガス兄様の努力は無駄というわけだ。

「ユリスも行く?」
「行かない」

 オーガス兄様に同行すると決めた俺は、一応ユリスのことも誘ってみた。ユリスはそれなりに面倒な性格をしているので、たとえ端から行くつもりがなかったとしても誘いがなかったら不機嫌になるのだ。すごく我儘なお子様である。仲間外れにされたとでも感じるのだろうか。そこら辺はよくわからない。

 案の定な答えをよこしたユリスは、不思議そうに首を傾げた。

「もしかしてルイスは行くのか?」
「うん。オーガス兄様と一緒にね。兄様がひとりは嫌って言うから」

 まぁ、正直なところ俺もパーティーに興味がある。俺も行くと知ったお母様が「だったら新しい服を用意しないとね」と張り切っていた。

 兄様たちの分は? と訊いてみたのだが、「あの子たちは自分でどうにかするわよ」との素っ気ない答えが返ってきた。お母様は眉間に皺の寄っているブルース兄様と、情けなく眉尻を下げているオーガス兄様のことを度々嘆いている。「可愛げがないのよね。小さい頃は素直で可愛かったのに」というのがお母様の言い分である。

 俺の返答に変な顔をしたユリスは、迷うように視線を彷徨わせた。やがてすごく苦々しい声で「僕も行く」と驚きの発言。

「行かないって言ったじゃん」
「ルイスが行くなら僕も行ってやってもいい」

 なんだその上からの発言は。
 しかしパーティーに行きたいというのがユリスの本心ではないと丸わかりである。すごく不満そうな表情だもん。

「ユリスは来なくていいよ」

 だから断ったのだが、これにユリスはますます変な顔をする。落ち着きなく立ち上がって、無意味に部屋をうろうろする。

「それは。僕についてこられると何か不都合なことでも?」
「違うよ。ユリスが行きたくないんでしょ?」
「ルイスが行くなら僕も行く」
「いいよ。そんな無理について来なくても」
「無理はしていない」

 絶対に嘘である。態度でわかる。

「ひとりで留守番するのが嫌なのか?」
「馬鹿」

 暴言を吐くユリスは、額を押さえた。ブルース兄様そっくりの仕草である。

「パーティーだぞ。知らない人間が大勢集まるんだぞ」
「知ってる」
「変な奴に絡まれたらどうする」
「オーガス兄様と一緒にいるから大丈夫だよ」
「あいつはなんの役にも立たないだろ!」

 珍しく声を荒げるユリスは、オーガス兄様のことをひどく貶している。確かにオーガス兄様は頼りにならないけどさ。

 ユリスがそこまで心配する意味がわからない。国内だぞ。それにエリックもいるし、ブルース兄様だって同行する。多分だけどアロンも行くと思う。

「心配してくれてるの? ありがとね。でも俺は大丈夫だよ」
「なにも大丈夫ではない」

 納得いかないらしいユリスは、唸りながら窓の外を眺めている。

「マーティーもいるから大丈夫だよ」

 ユリス相手に常にビクビクしている王子の顔を思い浮かべてすぐにマーティーもあんまり頼りにならないかもしれないと思い直す。身長は伸びたマーティーだが、基本的なところはあまり変わっていない。流石に泣きはしないが、今でもユリスを前にすると泣きそうな顔になることがある。

「とにかく! 俺は大丈夫だから。ユリスは無理してついて来なくていいよ。ティアンも一緒だから」

 ね? と背後でタイラーとなにやら話し込んでいたティアンを振り返れば「えぇ」という緩い頷きが返ってきた。

「僕も同行しますのでご心配なく」
「……そうか」

 意外とあっさり引いたユリスは、ティアンの同行を知って少しは安心したらしい。あれだな。ユリスの中ではオーガス兄様よりもティアンのほうがよほど役に立つという認識らしい。オーガス兄様は長男なのに、弟からの信頼がなくて可哀想。

「美味しいお菓子あるかな?」

 ニヤッと笑えば、ユリスが「菓子を目当てに行くのはルイスくらいじゃないか」と呆れたように息を吐く。

 いいじゃん。美味しい物があると嬉しいのは別に俺だけではないはずだ。
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