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16歳

520 大きくならない

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「なにしてるんだ、おまえら」
「あ、ブルース兄様」

 アロンに抱えられたままにしていれば、彼はお願い通りにブルース兄様を発見してくれた。俺は動かなくてよかったので非常に楽であった。

 兄様はちょうど屋敷に入ってきたところであった。外に出ようとしていた俺たちと鉢合わせた感じだ。その背後からついてくる人影を視界にとらえて、俺は勢いよく手を上げた。

「ロニー!」
「ルイス様」

 驚いたように目を丸くするロニーは、じっと俺のことを凝視している。

 なんだろうと首を捻る前に、そういえばアロンに抱っこされた状態であることを思い出す。

「アロン、おろして」
「どうしましょうかね」
「もう!」

 アロンの頭を小突けば、へらへら笑いながらもおろしてくれた。

 なんとなく服装を整えていると、ブルース兄様が「なにをしていたんだ」と眉を寄せた。

「あのね、俺大きくなったから。もうアロンは俺のこと抱っこできないでしょって言ったらこうなった」
「よくわからない」

 なんでだよ。
 すごくわかりやすく説明したのに。

 俺の隣では、アロンがひとりでドヤ顔している。その非常に腹の立つ顔を見てブルース兄様が「おい」と低い声を発した。軽く肩をすくめてそれを流したアロンは、「ブルース様こそ一体なにを? ダメですよ、ちゃんと仕事しないと」と大人ぶって兄様を嗜めている。

 これにブルース兄様がますます不機嫌になった。

「兄様、ユリスいるよ」

 不穏な気配を察知した俺は、素早く空気を変えてしまおうとふたりの間に割り込んだ。

「俺たちについて来たんだよ。勝手に」

 俺は共犯ではない旨をさりげなくアピールしておく。小さく頷いた兄様は「そこでティアンに聞いた」と額を押さえた。

「まったく。ユリスにも困ったものだな。なんでああも勝手なんだか」
「ユリスってブルース兄様に似てるよね」
「あぁ?」
「こっわ」

 何気ない仕草とか口調がそっくりなのは、オーガス兄様も認めていた。「あのふたり年々似てくるよね」と俺にこっそり耳打ちしてきた時のオーガス兄様は、少しだけ楽しそうな顔をしていた。

 顔の怖い兄様は放っておいて、ロニーに向き直る。どうやらロニーと一緒にユリスのことを探し回っていたらしい。それもこれも兄様の側近であるはずのアロンが仕事をしないからだ。

「ロニー。ごめんね。ユリスが我儘なせいで」
「いいえ。ご無事でなによりですよ」

 いつ見ても穏やかなロニーに、俺の頬も自然と緩む。

 それにしても素敵な長髪である。そういえば、ベネットに会わせてもらってないな。ベネットは黒い髪が素敵な長髪男子さんである。フランシスの従者なのだが、ここ最近はまったく会えていない。

「ロニー、綿毛ちゃん見にくる? エリスちゃんにも触っていいよ」

 ロニーの手を引いてこのまま自室に連れて行こうと企むが、アロンが邪魔をしてきた。はやく仕事に戻れとロニーを睨みつけるアロンに、ブルース兄様が「おまえが言うな」と半眼になる。そうだね。仕事に戻るべきはアロンだ。

「アロンね、兄様の部屋で寝てたよ」
「裏切りですよ、ルイス様!」

 アロンの味方をするといった覚えはない。
 俺の告げ口に、兄様は「やっぱり」という顔をした。アロンはブルース兄様からの信用が皆無である。日頃の行いのせいだ。

 仕事に戻るというロニーをこれ以上引き止めるわけにもいかない。犬と猫はまた今度見せてあげようと思う。

「じゃあ俺も犬と猫の面倒見ないといけないから」

 ユリスが無事であると兄様に伝わったのであれば、俺の出番はもうない。それにジャンにも帰宅を報告しないといけない。

 ばいばいと兄様たちに手を振って別れる。

 急いで部屋に駆け込めば、床にペタンと伏せてうとうとしている綿毛ちゃんがいた。

「寝るな! 起きろ! 犬!」
『やめて。驚かさないで』

 むにゃむにゃと起き上がった綿毛ちゃんは『おかえり』と笑っている。部屋にいたジャンも「おかえりなさいませ」と寄ってきた。

「なんで笑うの?」
『笑っちゃいけないのぉ?』

 オレに対するあたりが強いよ? と文句を言ってくる綿毛ちゃんを抱き上げて、部屋の中をうろうろする。

『なに? 坊ちゃん、どうしたの』
「俺って大きくなったよね?」
『え? うん。そうだと思うよ』

 雑な返事を寄越す毛玉は頼りにならない。ジャンを振り返れば、彼は「はい」と肯定してくれた。

「お会いした当初から比べれば。ルイス様も随分と成長されたと思いますよ」
「だよね」

 成長したのはジャンも一緒だ。こうやって普通に会話してくれるだけで、彼も随分と成長したのだと感じる。俺から見ればジャンは結構変わったけど、ジャン本人にはあまりその自覚はないようだ。それと一緒で、俺も自分では気が付かないだけで結構成長しているのだろうか。

「綿毛ちゃんは全然成長してないよね」
『オレは基本的に変わらないからねぇ』
「そうなの?」

 綿毛ちゃんは魔法で生み出された不思議な生き物である。一時期は綿毛ちゃんを大きくしようと俺も頑張っていた。ご飯をたくさんあげたり、おやつをたくさんあげたり。『太っちゃう』と言いながらもニマニマしながら綿毛ちゃんは完食していた。

 だが、そんな俺の苦労も虚しく綿毛ちゃんは大きくならなかった。それ以来、俺は綿毛ちゃんを大きくするのは諦めた。本当は俺が乗れるくらいに大きくしたかったのに。

「綿毛ちゃんは今の大きさが弱そうでいいと思うよ」
『それって貶してない?』

 ひどいよぉと泣き真似する綿毛ちゃんをぎゅっと抱きしめておいた。
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