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16歳
512 儚いってなんだろう
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「……いや、でもルイスくんに儚げって言葉はちょっと似合わないな」
じゃあ違うね、ごめんねと。勝手にひとりで納得するフランシスは失礼だと思う。
何も違わなくない。俺は儚げな美少年だもん。
「それ多分俺のことだよ」
「え……」
なぜか言葉を失うフランシスは、俺のことを不躾に眺めてくる。「はかな、儚い? 儚いってなんだっけ」とすごく失礼なことを口走っている。先程まで俺相手に随分と遠慮していたのに。この変わり身のはやさはなんだ。まぁいいけどさ。フランシスはこれくらいフランクな方が似合っているから。
「黙っていれば儚い美少年だって。カル先生もそう言ってたよ」
「ルイスくんって黙っていられるの?」
「失礼だよ、さっきから」
思わず半眼になれば、フランシスは「ごめん」と慌てて謝罪してくる。別に真摯な謝罪がほしかったわけではない。
ブランシェが俺のことを好きらしいという話は既にアロンから聞かされていた。そう考えると、毎度意味もなくブランシェが俺の前に姿を現すことにも一応の説明がつく。要するに、俺の顔が見たいってことだろ。ここにきて突然、俺はすべてを理解した。
「だってさ。俺以上の美少年っていないよ。ユリスは俺と同じ顔だけど。でもユリスはいつも難しい顔してるから。ちょっと冷たく見えて近寄りがたいってアロンが言ってた」
「へぇ」
アロンいわく、俺とユリスは同じ顔だけどまったく違うらしい。思い返せば、アロンが俺とユリスを間違えることはない。ユリスが猫から人間に戻った直後でさえ、アロンは俺のことを間違えなかった。
俺はいつもにこにこだけど。ユリスは不機嫌なことが多い。多少機嫌がよくても、なぜかむすっとした顔をしていることも多い。眉間の皺がブルース兄様にそっくりなのだ。
ユリスの表情といい仕草といい言葉遣いといい。年々ブルース兄様に似てきている。ユリス本人にそれを言うと「そんなわけないだろ」と怒ってしまうが、もうその否定の仕方がブルース兄様にそっくりである。さすが兄弟。
これに危機感を抱いているのがお母様である。可愛いユリスが、よりによって兄弟の中で一番険しい顔をしているブルース兄様に似るのが嫌なのだろう。「ブルースの真似したらダメよ。絶対によ」と、度々ユリスを捕まえては真剣に言い聞かせている。
お母様には強く出られないユリスは「は、はい。もちろんです」と素直に頷いている。
「それにしても。本当にルイスくんのことなのかい?」
「うん。俺しかいないと思う」
「すごい自信だね」
困ったように笑うフランシスは、「ブランシェはルイスくんの事が好きなのかぁ」としみじみ呟いている。「なかなかに無謀な恋をするね。もっと堅実な男だと思っていたのに」と言いたい放題である。
「ルイスくんは? ブランシェのことをどう思っているんだい」
「どうも思ってない」
ブランシェはシャノンの兄である。それ以上でもそれ以下でもない。「きっぱり言うねぇ」とフランシスはちょっと楽しそうだ。すっかり大人になった彼だが、根っこのところは変わっていないらしい。ブランシェのことを揶揄いたくて仕方がないといった様子だ。
「すごいね。好意を向けられているのに。少しは気になったりしないの?」
「うん」
「なぜ」
なぜと言われても。
「ティアンがいるからね」
「え」
みるみる目を見開くフランシスは、「え。実はティアンと付き合ってたりするの?」と変なことを聞いてくる。どうしてそうなるのだ。フランシスは時折わけのわからないことを言う。
「付き合ってないよ。そういうことじゃなくて。困ってもティアンがどうにかしてくれるから俺は大丈夫!」
胸を張って自信満々に伝えれば、フランシスがなんだか遠い目をした。そこには憐れみが混じっている。
「なんというか、あれだね。ティアンも可哀想だね」
「なんで?」
俺がティアンに無茶振りばかりするからだろうか。でもティアンは嫌なことは嫌と言うので大丈夫。たまに我慢のできなくなった彼は、俺相手だろうがアロン相手だろうが遠慮なくキレている。だから心配する必要はない。
「ブランシェの好意には気が付くのに」
意味深に肩をすくめるフランシス。ブランシェの好意に気が付いたのは俺ではなくアロンである。だが別に訂正する必要もないので曖昧に笑っておいた。
「じゃあ可哀想だからはやいところブランシェのことを振ってやりなよ」
「なんでアロンと同じこと言うの?」
まさかの提案に面食らう。
何度でも言うが、俺はまだブランシェから告白されたわけではない。突然振ったらおかしいでしょうが。
だが、フランシスは「ブランシェが可哀想だよ」と引かない。
「どう見たって本気だからね。ほら、はやい方がね。傷が浅くて済むだろう?」
「そんなこと言われても」
アロンに言われた時には適当に流したのだが、フランシスにまで言われると少し考えてしまう。
けれども、何度考えても俺が先手を打ってブランシェを振るのはおかしくないか。不自然すぎると思うんだけど。
じゃあ違うね、ごめんねと。勝手にひとりで納得するフランシスは失礼だと思う。
何も違わなくない。俺は儚げな美少年だもん。
「それ多分俺のことだよ」
「え……」
なぜか言葉を失うフランシスは、俺のことを不躾に眺めてくる。「はかな、儚い? 儚いってなんだっけ」とすごく失礼なことを口走っている。先程まで俺相手に随分と遠慮していたのに。この変わり身のはやさはなんだ。まぁいいけどさ。フランシスはこれくらいフランクな方が似合っているから。
「黙っていれば儚い美少年だって。カル先生もそう言ってたよ」
「ルイスくんって黙っていられるの?」
「失礼だよ、さっきから」
思わず半眼になれば、フランシスは「ごめん」と慌てて謝罪してくる。別に真摯な謝罪がほしかったわけではない。
ブランシェが俺のことを好きらしいという話は既にアロンから聞かされていた。そう考えると、毎度意味もなくブランシェが俺の前に姿を現すことにも一応の説明がつく。要するに、俺の顔が見たいってことだろ。ここにきて突然、俺はすべてを理解した。
「だってさ。俺以上の美少年っていないよ。ユリスは俺と同じ顔だけど。でもユリスはいつも難しい顔してるから。ちょっと冷たく見えて近寄りがたいってアロンが言ってた」
「へぇ」
アロンいわく、俺とユリスは同じ顔だけどまったく違うらしい。思い返せば、アロンが俺とユリスを間違えることはない。ユリスが猫から人間に戻った直後でさえ、アロンは俺のことを間違えなかった。
俺はいつもにこにこだけど。ユリスは不機嫌なことが多い。多少機嫌がよくても、なぜかむすっとした顔をしていることも多い。眉間の皺がブルース兄様にそっくりなのだ。
ユリスの表情といい仕草といい言葉遣いといい。年々ブルース兄様に似てきている。ユリス本人にそれを言うと「そんなわけないだろ」と怒ってしまうが、もうその否定の仕方がブルース兄様にそっくりである。さすが兄弟。
これに危機感を抱いているのがお母様である。可愛いユリスが、よりによって兄弟の中で一番険しい顔をしているブルース兄様に似るのが嫌なのだろう。「ブルースの真似したらダメよ。絶対によ」と、度々ユリスを捕まえては真剣に言い聞かせている。
お母様には強く出られないユリスは「は、はい。もちろんです」と素直に頷いている。
「それにしても。本当にルイスくんのことなのかい?」
「うん。俺しかいないと思う」
「すごい自信だね」
困ったように笑うフランシスは、「ブランシェはルイスくんの事が好きなのかぁ」としみじみ呟いている。「なかなかに無謀な恋をするね。もっと堅実な男だと思っていたのに」と言いたい放題である。
「ルイスくんは? ブランシェのことをどう思っているんだい」
「どうも思ってない」
ブランシェはシャノンの兄である。それ以上でもそれ以下でもない。「きっぱり言うねぇ」とフランシスはちょっと楽しそうだ。すっかり大人になった彼だが、根っこのところは変わっていないらしい。ブランシェのことを揶揄いたくて仕方がないといった様子だ。
「すごいね。好意を向けられているのに。少しは気になったりしないの?」
「うん」
「なぜ」
なぜと言われても。
「ティアンがいるからね」
「え」
みるみる目を見開くフランシスは、「え。実はティアンと付き合ってたりするの?」と変なことを聞いてくる。どうしてそうなるのだ。フランシスは時折わけのわからないことを言う。
「付き合ってないよ。そういうことじゃなくて。困ってもティアンがどうにかしてくれるから俺は大丈夫!」
胸を張って自信満々に伝えれば、フランシスがなんだか遠い目をした。そこには憐れみが混じっている。
「なんというか、あれだね。ティアンも可哀想だね」
「なんで?」
俺がティアンに無茶振りばかりするからだろうか。でもティアンは嫌なことは嫌と言うので大丈夫。たまに我慢のできなくなった彼は、俺相手だろうがアロン相手だろうが遠慮なくキレている。だから心配する必要はない。
「ブランシェの好意には気が付くのに」
意味深に肩をすくめるフランシス。ブランシェの好意に気が付いたのは俺ではなくアロンである。だが別に訂正する必要もないので曖昧に笑っておいた。
「じゃあ可哀想だからはやいところブランシェのことを振ってやりなよ」
「なんでアロンと同じこと言うの?」
まさかの提案に面食らう。
何度でも言うが、俺はまだブランシェから告白されたわけではない。突然振ったらおかしいでしょうが。
だが、フランシスは「ブランシェが可哀想だよ」と引かない。
「どう見たって本気だからね。ほら、はやい方がね。傷が浅くて済むだろう?」
「そんなこと言われても」
アロンに言われた時には適当に流したのだが、フランシスにまで言われると少し考えてしまう。
けれども、何度考えても俺が先手を打ってブランシェを振るのはおかしくないか。不自然すぎると思うんだけど。
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