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16歳
511 もしかして
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妙なアドバイスを寄越すフランシスは、苦笑している。その穏やかな表情の中には、なぜかちょっぴり照れも混じっているような気がした。
「一応訊いてみるけどさ。今のは僕に対する熱烈な愛の告白ってわけではないよね?」
「……うん?」
なんでそうなる。
首を捻っていれば、フランシスはやれやれと肩をすくめる。そろそろ離してほしいと言われたので、少し考えた末に俺は彼の腕を解放した。俺とちゃんと向き合ってくれているフランシスは、もう逃げないと確信したから。
周囲を見渡してしきりに人影を確認しているフランシスは、「言葉は選んだ方がいいよ」と再度念押ししてきた。
「なんで?」
「なんでって。誤解されたら困るだろう」
「ふーん」
よくわからないが、わかったと頷いておく。
まだ何か言いたそうな顔のフランシスは、何度か口を開いては閉じるという不自然な動きを繰り返している。
落ち着きなく己の首や前髪に触れるフランシスは、「うーん」と意味もなく唸っている。
「……本当にいいの?」
「なにが?」
俺のことを窺うように自信なさそうな目を向けてくるフランシス。なんでそう話を蒸し返すのだろうか。でも、これはフランシスにとってそれほど重大なことだったのだろうと考え直す。
俺の気持ちはどうなるのかとフランシス相手に啖呵を切ったものの、よくよく考えれば俺だって自分に都合の良いようにフランシスを誘導している。フランシスとしては、それが本心ではないにせよ俺と距離を置くのが一番だと考えていたわけで。
フランシスにちょっと申し訳ないことをしたかもしれない。というか、過去に酷いことをしたと思っている俺を相手に普通に振る舞えというのが無理な話なのかもしれない。
それでも、俺はフランシスと仲良くしたい。
「いいよ。俺がフランシスと仲良くしたいから。俺、そんなに友達多いってわけでもないから。フランシスが友達じゃなくなったら嫌だよ」
屋敷にいることの多い俺である。
ティアンのように学園に通っていたわけでもないので気軽に話せる友達は割と貴重な存在でもある。
「今度さ。遊びにきてよ。犬見せてあげる」
「……うん」
控えめに頷くフランシスに、「絶対だよ!」と念押ししておく。来ないならこっちから遊びに行ってやるまでだ。
「ルイスくんは優しいね」
噛みしめるように発せられた言葉に、目を瞬く。
「本当に。出会った頃から変わらないね。君のそういう真っ直ぐで純粋なところが時折眩しいくらいだよ」
「そう?」
さっと目尻を拭うフランシスは、「ちょっとごめん」と天を仰ぐ。
「あー、ダメだね」
なんだか涙を堪えるようなその仕草に、俺の方もちょっと泣きそうな気分になってくる。
目頭を押さえるフランシスは、パッと笑みを浮かべた。泣き笑いのような顔に、俺も釣られて笑顔を作った。
「ごめんね。みっともないところを見せたね」
「ううん」
照れたように頬を掻くフランシスは新鮮だ。
こっちまで照れてしまう。
そうしてふたりでちょっぴり照れくさいような気まずいような。けれども決して不快ではない空気にしばらく浸っていたのだが、フランシスに我慢の限界がきたらしい。わかりやすく話題を変えようと視線を彷徨わせるフランシスは、ふと思い出したと言わんばかりにスピネット子爵家の屋敷に目をやった。
「えっと。シャノンと仲がいいんだね」
「うん。フランシスは? ブランシェと友達なの?」
ブランシェはフランシスに気を使っているような素振りだったけど。でもブランシェは俺に対しても似たような感じである。そもそもが丁寧な人なのだろう。ティアンも彼のことを真面目な騎士と評していたし。
「まぁね。人脈は広げておくに限るからね」
「へー」
さすがフランシス。社交的だ。
素直に感心していたのだが、なぜかフランシスは慌てたように「あ、いや」と口ごもる。
「その別に変な意味じゃなくて」
「うん?」
「あー、いや。うん、ごめん。僕はルイスくんのように純粋ではないから」
「え、うん」
なんの話? と首を傾げると、フランシスは目を伏せてしまう。
「いつか困った時に頼れる伝手は広げておいた方がいいっていうのが僕の考えだよ。なんかごめんね」
「謝ることないよ」
俺がそういう打算的な付き合いを嫌うと思っているのだろう。眉尻を下げるフランシスに、思わず笑ってしまう。そんなに気を使う必要はない。いざという時に頼れる人がたくさんいるというのはいいことだと思う。ひとりで悩んだってろくな事にはならないから。
そうかい? と疑い深いフランシスは、まだ俺に対する罪悪感のようなものを抱いている。
「ブランシェ、いい人だよね」
話題を元に戻せば、フランシスは「そうだね」と同意してくれた。
「真面目な奴だよ、本当に。そんな堅物に想い人ができたっていうからちょっと揶揄いに」
「悪いことするねぇ」
ブランシェのことを揶揄いにきたと白状するフランシスに、思わずニマニマしてしまう。フランシスでもそういうことするんだな。楽しそうだな。
「なんでも儚げな美少年らしいよ。最近ここに通っているとか。あの堅物を落とすなんて一体どんな美少年なんだって噂になってるよ」
儚げな美少年という単語に、ピンとくる。
フランシスは、ブランシェが男に心を奪われたことに驚いているらしい。揶揄いにきたというのは嘘ではないようだ。気になって仕方がないという顔をしている。
「残念ながら詳しくは教えてくれなかったけどね。ルイスくんはその美少年とやらに心当たりないかな? ここにはよく来るのかい?」
「うん。最近はね。シャノンに会うためだけど」
答えながら、どうしたものかと考える。
俺の悩みに気がつかないフランシスは、「見てみたいね」と楽しそうだ。
「そんなに美少年であれば目立ちそうなものだけどね。候補になりそうな子がまったく思い当たらない。ちょっと儚い感じで。そうそう、歳はちょうどルイスくんくらい。黒髪で、綺麗な顔立ちで。あ、そうだ。カル先生のお弟子さんとかいう話だったよ。あの人、弟子とかいたんだね。ん?」
「ん?」
フランシスが、ぴたりと口を閉ざした。
そのまま目を見開いて、俺のことを凝視してくる。
「……さっき、カル先生いなかった?」
「いたよ。俺と一緒に来たからね」
「え」
え? と繰り返すフランシスは一歩後ろに下がった。
「え、もしかして?」
おそるおそる問いかけられて、俺はニヤッと口角を上げておいた。
「一応訊いてみるけどさ。今のは僕に対する熱烈な愛の告白ってわけではないよね?」
「……うん?」
なんでそうなる。
首を捻っていれば、フランシスはやれやれと肩をすくめる。そろそろ離してほしいと言われたので、少し考えた末に俺は彼の腕を解放した。俺とちゃんと向き合ってくれているフランシスは、もう逃げないと確信したから。
周囲を見渡してしきりに人影を確認しているフランシスは、「言葉は選んだ方がいいよ」と再度念押ししてきた。
「なんで?」
「なんでって。誤解されたら困るだろう」
「ふーん」
よくわからないが、わかったと頷いておく。
まだ何か言いたそうな顔のフランシスは、何度か口を開いては閉じるという不自然な動きを繰り返している。
落ち着きなく己の首や前髪に触れるフランシスは、「うーん」と意味もなく唸っている。
「……本当にいいの?」
「なにが?」
俺のことを窺うように自信なさそうな目を向けてくるフランシス。なんでそう話を蒸し返すのだろうか。でも、これはフランシスにとってそれほど重大なことだったのだろうと考え直す。
俺の気持ちはどうなるのかとフランシス相手に啖呵を切ったものの、よくよく考えれば俺だって自分に都合の良いようにフランシスを誘導している。フランシスとしては、それが本心ではないにせよ俺と距離を置くのが一番だと考えていたわけで。
フランシスにちょっと申し訳ないことをしたかもしれない。というか、過去に酷いことをしたと思っている俺を相手に普通に振る舞えというのが無理な話なのかもしれない。
それでも、俺はフランシスと仲良くしたい。
「いいよ。俺がフランシスと仲良くしたいから。俺、そんなに友達多いってわけでもないから。フランシスが友達じゃなくなったら嫌だよ」
屋敷にいることの多い俺である。
ティアンのように学園に通っていたわけでもないので気軽に話せる友達は割と貴重な存在でもある。
「今度さ。遊びにきてよ。犬見せてあげる」
「……うん」
控えめに頷くフランシスに、「絶対だよ!」と念押ししておく。来ないならこっちから遊びに行ってやるまでだ。
「ルイスくんは優しいね」
噛みしめるように発せられた言葉に、目を瞬く。
「本当に。出会った頃から変わらないね。君のそういう真っ直ぐで純粋なところが時折眩しいくらいだよ」
「そう?」
さっと目尻を拭うフランシスは、「ちょっとごめん」と天を仰ぐ。
「あー、ダメだね」
なんだか涙を堪えるようなその仕草に、俺の方もちょっと泣きそうな気分になってくる。
目頭を押さえるフランシスは、パッと笑みを浮かべた。泣き笑いのような顔に、俺も釣られて笑顔を作った。
「ごめんね。みっともないところを見せたね」
「ううん」
照れたように頬を掻くフランシスは新鮮だ。
こっちまで照れてしまう。
そうしてふたりでちょっぴり照れくさいような気まずいような。けれども決して不快ではない空気にしばらく浸っていたのだが、フランシスに我慢の限界がきたらしい。わかりやすく話題を変えようと視線を彷徨わせるフランシスは、ふと思い出したと言わんばかりにスピネット子爵家の屋敷に目をやった。
「えっと。シャノンと仲がいいんだね」
「うん。フランシスは? ブランシェと友達なの?」
ブランシェはフランシスに気を使っているような素振りだったけど。でもブランシェは俺に対しても似たような感じである。そもそもが丁寧な人なのだろう。ティアンも彼のことを真面目な騎士と評していたし。
「まぁね。人脈は広げておくに限るからね」
「へー」
さすがフランシス。社交的だ。
素直に感心していたのだが、なぜかフランシスは慌てたように「あ、いや」と口ごもる。
「その別に変な意味じゃなくて」
「うん?」
「あー、いや。うん、ごめん。僕はルイスくんのように純粋ではないから」
「え、うん」
なんの話? と首を傾げると、フランシスは目を伏せてしまう。
「いつか困った時に頼れる伝手は広げておいた方がいいっていうのが僕の考えだよ。なんかごめんね」
「謝ることないよ」
俺がそういう打算的な付き合いを嫌うと思っているのだろう。眉尻を下げるフランシスに、思わず笑ってしまう。そんなに気を使う必要はない。いざという時に頼れる人がたくさんいるというのはいいことだと思う。ひとりで悩んだってろくな事にはならないから。
そうかい? と疑い深いフランシスは、まだ俺に対する罪悪感のようなものを抱いている。
「ブランシェ、いい人だよね」
話題を元に戻せば、フランシスは「そうだね」と同意してくれた。
「真面目な奴だよ、本当に。そんな堅物に想い人ができたっていうからちょっと揶揄いに」
「悪いことするねぇ」
ブランシェのことを揶揄いにきたと白状するフランシスに、思わずニマニマしてしまう。フランシスでもそういうことするんだな。楽しそうだな。
「なんでも儚げな美少年らしいよ。最近ここに通っているとか。あの堅物を落とすなんて一体どんな美少年なんだって噂になってるよ」
儚げな美少年という単語に、ピンとくる。
フランシスは、ブランシェが男に心を奪われたことに驚いているらしい。揶揄いにきたというのは嘘ではないようだ。気になって仕方がないという顔をしている。
「残念ながら詳しくは教えてくれなかったけどね。ルイスくんはその美少年とやらに心当たりないかな? ここにはよく来るのかい?」
「うん。最近はね。シャノンに会うためだけど」
答えながら、どうしたものかと考える。
俺の悩みに気がつかないフランシスは、「見てみたいね」と楽しそうだ。
「そんなに美少年であれば目立ちそうなものだけどね。候補になりそうな子がまったく思い当たらない。ちょっと儚い感じで。そうそう、歳はちょうどルイスくんくらい。黒髪で、綺麗な顔立ちで。あ、そうだ。カル先生のお弟子さんとかいう話だったよ。あの人、弟子とかいたんだね。ん?」
「ん?」
フランシスが、ぴたりと口を閉ざした。
そのまま目を見開いて、俺のことを凝視してくる。
「……さっき、カル先生いなかった?」
「いたよ。俺と一緒に来たからね」
「え」
え? と繰り返すフランシスは一歩後ろに下がった。
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おそるおそる問いかけられて、俺はニヤッと口角を上げておいた。
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