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16歳
509 怒ってないよ
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なんでここにフランシスが。
彼は交友関係が広い。ブランシェとも友達なのだろうか。
いや、そんなことよりも。
俺の顔を見て固まったフランシスは、静かに息を呑んでいる。
フランシスと最後に会ったのは俺が十四歳の時。あの時の彼は、俺の結婚相手にと女の子を連れてきた。あの一件以来、フランシスとは顔を合わせる機会がなかった。彼から連絡が来ることも、俺から連絡することもなかった。
まさかこんなところで会うなんて。
突然のことに動きを止める俺たち。そんな不審な動きに気が付かなかったのだろうか。ブランシェがにこやかに「ルイスさん」と片手をあげた。
だが、正直ブランシェに構っている場合ではない。それはフランシスの方も同様だったのだろう。なにかを誤魔化すように乱れてもいない襟元を整えたフランシスは「見送りはいいよ」と一方的にブランシェに告げて早足に外へ向かう。
面食らうブランシェは、「え、いや。え?」と俺とフランシスを見比べている。「お知り合いですか?」と訊かれて、答えに困ってしまう。
いや別にフランシスのことが嫌いというわけではなく。今の俺はカル先生の弟子のルイスということになっている。そんな俺がフランシスと知り合いというのは、なにかブランシェに疑いを抱かれそうな気がしたのだ。
曖昧に笑って誤魔化す俺は、その間もフランシスのことが気になって仕方がない。どうしよう。フランシスは明らかに俺を避けた。理由はだいたい察しがつく。彼の方は俺と会うのが気まずいのだろう。
前回フランシスと別れた時、俺はまた遊びにきてほしいと伝えた。だが、フランシスはあの件をまだ引きずっている。
これを逃すと、次はいつフランシスに会えるのかわからない。彼と会うのは、以前に比べてすごく難しくなってしまった。背後でブランシェがなにやら話しているが、まったく頭に入ってこない。俺の名前を口にしつつも、すぐさま顔を背けたフランシスの横顔が頭から離れない。
「ちょっと。すみません!」
「え? ルイスさん?」
ブランシェのことを強引に振り切って、フランシスを追いかける。ブランシェのことはカル先生がなんとかしてくれると思う。
外に出て、急いでフランシスを追いかける。こちらを振り向くことなく足早に立ち去ろうとするその背中に「フランシス!」と呼びかけた。
「ねえ! 待ってよ」
俺の声が聞こえているはずなのに、無反応を決め込むフランシスにどうにか追いついた。
「ねえってば!」
「っ」
勢いで腕を掴めば、フランシスがようやく歩みを止めてくれた。頑なに俺と視線を合わせない彼は、俺の手を振り解こうとしてやがて諦めたように息を吐いた。
「……やあ、ルイスくん。なんというか、久しぶりだね」
「うん」
たどたどしい様子で言葉を探すフランシスは、やんわりと俺の手に触れてくる。離してほしいということだろう。だが、俺は逆に両手で彼の腕を掴んでみる。ここで手を離せば、なんか逃げられてしまいそうな気がしたので。
フランシスは多分二十二歳だ。俺とは六つ差なので。随分大人になったと思う。少年っぽさはあまりない。
「なんで無視するの?」
ここまで走ってきて少し息が乱れた。じっとフランシスの顔を見上げて抗議すれば、彼は「いや、無視したわけでは」と頬を掻く。
じゃあなんだ。どういうつもりだ。
問い詰めたい気持ちをグッと堪える。ここでフランシスを責めるのはダメだ。俺だって、フランシスと連絡をとろうとしなかった点では彼と一緒なのだから。
自然と手に力がこもる。
フランシスが「ちょっと、ルイスくん」と控えめに腕を引いたので、慌てて力を緩めた。
「……ブランシェとは仲がいいのかい?」
場をつなぐような唐突な発言に、「え」と一瞬だけ口ごもる。こうして顔を合わせれば、フランシスは俺の相手をしてくれるのだ。
「別に。ブランシェじゃなくてシャノンに会いに来てるから」
「あぁ。ブランシェの妹さん」
緩く頷くフランシスは、視線を彷徨わせてから「それじゃあ、僕はこれで」と帰ろうとしてしまう。
まだ話は終わっていない。ぎゅっと再び手に力を込める。
「あのさ。俺、別に怒ってないから」
眉間に皺を寄せたフランシスは、「うん」と小さく答えた。
「連絡しなかった俺も悪かったけど。その、前みたいに仲良くしてほしいっていうか。避けないでよ」
フランシスに避けられると悲しい。前はすごく仲良くしてくれていたのに。フランシスはやんちゃなお兄さんという感じで俺は好きだった。もちろんフランシスの従者であるベネットのことも好き。
これまでは特に会う機会もないしなで納得できた。でもこうやって俺を避けるような態度をとられるともう納得できない。
「また一緒に遊ぼうよ。犬見せてあげるって言ったじゃん。はやく見にきてよ」
綿毛ちゃんのこと、まだフランシスに紹介していない。もふもふの犬、きっとフランシスも好きだと思う。
じっとフランシスの答えを待つ。
なんだか深刻な顔をした彼は、眉間に力を入れたまま悩んでいるようであった。
「……僕は」
やがてフランシスが絞り出すように声を発した。
「僕には君の友達を名乗る資格はないよ」
それは君もよく知っているだろうと暗い顔をするフランシスに、俺は唇を噛み締めた。
彼は交友関係が広い。ブランシェとも友達なのだろうか。
いや、そんなことよりも。
俺の顔を見て固まったフランシスは、静かに息を呑んでいる。
フランシスと最後に会ったのは俺が十四歳の時。あの時の彼は、俺の結婚相手にと女の子を連れてきた。あの一件以来、フランシスとは顔を合わせる機会がなかった。彼から連絡が来ることも、俺から連絡することもなかった。
まさかこんなところで会うなんて。
突然のことに動きを止める俺たち。そんな不審な動きに気が付かなかったのだろうか。ブランシェがにこやかに「ルイスさん」と片手をあげた。
だが、正直ブランシェに構っている場合ではない。それはフランシスの方も同様だったのだろう。なにかを誤魔化すように乱れてもいない襟元を整えたフランシスは「見送りはいいよ」と一方的にブランシェに告げて早足に外へ向かう。
面食らうブランシェは、「え、いや。え?」と俺とフランシスを見比べている。「お知り合いですか?」と訊かれて、答えに困ってしまう。
いや別にフランシスのことが嫌いというわけではなく。今の俺はカル先生の弟子のルイスということになっている。そんな俺がフランシスと知り合いというのは、なにかブランシェに疑いを抱かれそうな気がしたのだ。
曖昧に笑って誤魔化す俺は、その間もフランシスのことが気になって仕方がない。どうしよう。フランシスは明らかに俺を避けた。理由はだいたい察しがつく。彼の方は俺と会うのが気まずいのだろう。
前回フランシスと別れた時、俺はまた遊びにきてほしいと伝えた。だが、フランシスはあの件をまだ引きずっている。
これを逃すと、次はいつフランシスに会えるのかわからない。彼と会うのは、以前に比べてすごく難しくなってしまった。背後でブランシェがなにやら話しているが、まったく頭に入ってこない。俺の名前を口にしつつも、すぐさま顔を背けたフランシスの横顔が頭から離れない。
「ちょっと。すみません!」
「え? ルイスさん?」
ブランシェのことを強引に振り切って、フランシスを追いかける。ブランシェのことはカル先生がなんとかしてくれると思う。
外に出て、急いでフランシスを追いかける。こちらを振り向くことなく足早に立ち去ろうとするその背中に「フランシス!」と呼びかけた。
「ねえ! 待ってよ」
俺の声が聞こえているはずなのに、無反応を決め込むフランシスにどうにか追いついた。
「ねえってば!」
「っ」
勢いで腕を掴めば、フランシスがようやく歩みを止めてくれた。頑なに俺と視線を合わせない彼は、俺の手を振り解こうとしてやがて諦めたように息を吐いた。
「……やあ、ルイスくん。なんというか、久しぶりだね」
「うん」
たどたどしい様子で言葉を探すフランシスは、やんわりと俺の手に触れてくる。離してほしいということだろう。だが、俺は逆に両手で彼の腕を掴んでみる。ここで手を離せば、なんか逃げられてしまいそうな気がしたので。
フランシスは多分二十二歳だ。俺とは六つ差なので。随分大人になったと思う。少年っぽさはあまりない。
「なんで無視するの?」
ここまで走ってきて少し息が乱れた。じっとフランシスの顔を見上げて抗議すれば、彼は「いや、無視したわけでは」と頬を掻く。
じゃあなんだ。どういうつもりだ。
問い詰めたい気持ちをグッと堪える。ここでフランシスを責めるのはダメだ。俺だって、フランシスと連絡をとろうとしなかった点では彼と一緒なのだから。
自然と手に力がこもる。
フランシスが「ちょっと、ルイスくん」と控えめに腕を引いたので、慌てて力を緩めた。
「……ブランシェとは仲がいいのかい?」
場をつなぐような唐突な発言に、「え」と一瞬だけ口ごもる。こうして顔を合わせれば、フランシスは俺の相手をしてくれるのだ。
「別に。ブランシェじゃなくてシャノンに会いに来てるから」
「あぁ。ブランシェの妹さん」
緩く頷くフランシスは、視線を彷徨わせてから「それじゃあ、僕はこれで」と帰ろうとしてしまう。
まだ話は終わっていない。ぎゅっと再び手に力を込める。
「あのさ。俺、別に怒ってないから」
眉間に皺を寄せたフランシスは、「うん」と小さく答えた。
「連絡しなかった俺も悪かったけど。その、前みたいに仲良くしてほしいっていうか。避けないでよ」
フランシスに避けられると悲しい。前はすごく仲良くしてくれていたのに。フランシスはやんちゃなお兄さんという感じで俺は好きだった。もちろんフランシスの従者であるベネットのことも好き。
これまでは特に会う機会もないしなで納得できた。でもこうやって俺を避けるような態度をとられるともう納得できない。
「また一緒に遊ぼうよ。犬見せてあげるって言ったじゃん。はやく見にきてよ」
綿毛ちゃんのこと、まだフランシスに紹介していない。もふもふの犬、きっとフランシスも好きだと思う。
じっとフランシスの答えを待つ。
なんだか深刻な顔をした彼は、眉間に力を入れたまま悩んでいるようであった。
「……僕は」
やがてフランシスが絞り出すように声を発した。
「僕には君の友達を名乗る資格はないよ」
それは君もよく知っているだろうと暗い顔をするフランシスに、俺は唇を噛み締めた。
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