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16歳
504 動物好き
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「ご趣味は?」
「趣味ですか」
思わず聞き返したのに、ブランシェは怯むことなく同じ質問を口にしてきた。それって俺を引き留めてまでしなければならない質問なのか?
しかし聞き返した以上、無視をするわけにもいかない。
「えっと。猫は好きです。うちで飼っているので」
趣味と言えるようなものはあまりない。代わりに猫が好きだと答えておけば、ブランシェは「猫ですか」と緩く頷いた。
隣ではカル先生が諦めたようにどこか遠くを見つめていた。そんな顔しないで。俺もブランシェの扱い方がわかんなくて困っているんだから。
「猫はいませんが。犬であれば」
「え!」
犬飼ってるの?
ちょっと食いつけば、ブランシェが「はい」と嬉しそうに応じた。
犬、見たい。
俺も偽物の犬なら持ってるけど。綿毛ちゃんは犬っぽいけど本物の犬ではない。人間の言葉を操るし、頭には変な角が生えている。ふわふわ毛玉も気に入っているが、ちゃんとした犬も触ってみたい。
どこにいるのだろうかと視線を走らせてみるが、近くには見当たらない。そんな俺のそわそわを察したのか。ブランシェが「また次回にでも」と言い添えた。
「はい! 楽しみです」
「動物、お好きなんですね」
「はい」
過去には黒猫も飼っていた。今では人間に戻ってしまったユリスである。目付きの悪い黒猫が懐かしい。
また今度犬を見せてくれるというブランシェとようやく別れて、馬車に乗り込んだ。出迎えてくれたティアンが「遅かったですね」と怪訝な顔。
ブランシェと立ち話をしていたからな。犬を見せてくれるという話を教えてあげれば、ティアンが「へぇ」と雑な相槌を返してきた。その目には、どこか憐れみの色が含まれているような気がした。
「でもルイス様が思っているような可愛い犬じゃないと思いますけど」
「そうなの?」
ティアンによると、おそらく番犬の類であって小さくて可愛い犬ではないとのことだ。そうかなぁ?
でも大きい犬もいいと思う。綿毛ちゃんは弱い犬なので。強い犬も見てみたい。
「さりげなく次の約束を取り付けてきましたね」
ひねくれた見方をするカル先生は、先程からため息をついている。ブランシェは俺が動物好きだと知って提案してくれただけである。なんでそんなに身構えるのか。確かにブランシェは変な人ではあるけど。
余計な会話が多い点を除けば、概ねいい人ではある。なにかと側に寄ってくるところは少し鬱陶しいけど。
「綿毛ちゃんも連れていきたい」
ブランシェに見せてあげたい。ふわふわだから気にいると思う。
しかし、ティアンがすぐに「ダメです」と眉間に皺を寄せる。そんなことはわかっている。ちょっと願望を言ってみただけだ。
「綿毛ちゃん。ちゃんとお留守番してるかな」
あの毛玉はたまに悪いことをする。俺に内緒でみんなにお菓子をもらったり、アロンたちと一緒になって夜遅くまで騒いでいたりもする。
ユリスに面倒見るよう頼んできたのだが、ユリスだからなぁ。あんまり綿毛ちゃんのお世話をしていないと思う。野放しにされた毛玉がなにをしているのか。すごく気になる。
「放っておいても大丈夫なのですか?」
カル先生の言葉に「うーん」と頭を悩ませる。綿毛ちゃんは常にへらへらしているが、そこまで余計なことはしないから放っておいても大丈夫だとは思う。あれでも長生きしている。俺よりずっと年上だから。
綿毛ちゃんなら大丈夫だよ、と笑ってみるが、カル先生は「違いますよ」と冷たい。
「綿毛ちゃんではなくブランシェ様のことです」
「あぁ、そっちか」
ブランシェのことは別にどうでも。
あまりテンションの上がらない俺に対して、ティアンは前のめりになる。そのままカル先生と話し込んでしまう。
どうやらブランシェの挙動が怪しいという話をしている。俺もそう思う。でも悪い人ではないと思う。
ティアンだって、ブランシェは真面目な男であると評していた。きっと俺が美少年すぎて緊張しているのだろう。先程の「ご趣味は?」発言も、今思えば緊張から口走っただけだと思う。なんとか俺と会話を続けたいという一心から飛び出してきたのだろう。
得意になって腕を組めば、ティアンが「なんですか。その変な自信は」と苦言を呈してきた。
俺が美少年なのは事実だもん。
「趣味ですか」
思わず聞き返したのに、ブランシェは怯むことなく同じ質問を口にしてきた。それって俺を引き留めてまでしなければならない質問なのか?
しかし聞き返した以上、無視をするわけにもいかない。
「えっと。猫は好きです。うちで飼っているので」
趣味と言えるようなものはあまりない。代わりに猫が好きだと答えておけば、ブランシェは「猫ですか」と緩く頷いた。
隣ではカル先生が諦めたようにどこか遠くを見つめていた。そんな顔しないで。俺もブランシェの扱い方がわかんなくて困っているんだから。
「猫はいませんが。犬であれば」
「え!」
犬飼ってるの?
ちょっと食いつけば、ブランシェが「はい」と嬉しそうに応じた。
犬、見たい。
俺も偽物の犬なら持ってるけど。綿毛ちゃんは犬っぽいけど本物の犬ではない。人間の言葉を操るし、頭には変な角が生えている。ふわふわ毛玉も気に入っているが、ちゃんとした犬も触ってみたい。
どこにいるのだろうかと視線を走らせてみるが、近くには見当たらない。そんな俺のそわそわを察したのか。ブランシェが「また次回にでも」と言い添えた。
「はい! 楽しみです」
「動物、お好きなんですね」
「はい」
過去には黒猫も飼っていた。今では人間に戻ってしまったユリスである。目付きの悪い黒猫が懐かしい。
また今度犬を見せてくれるというブランシェとようやく別れて、馬車に乗り込んだ。出迎えてくれたティアンが「遅かったですね」と怪訝な顔。
ブランシェと立ち話をしていたからな。犬を見せてくれるという話を教えてあげれば、ティアンが「へぇ」と雑な相槌を返してきた。その目には、どこか憐れみの色が含まれているような気がした。
「でもルイス様が思っているような可愛い犬じゃないと思いますけど」
「そうなの?」
ティアンによると、おそらく番犬の類であって小さくて可愛い犬ではないとのことだ。そうかなぁ?
でも大きい犬もいいと思う。綿毛ちゃんは弱い犬なので。強い犬も見てみたい。
「さりげなく次の約束を取り付けてきましたね」
ひねくれた見方をするカル先生は、先程からため息をついている。ブランシェは俺が動物好きだと知って提案してくれただけである。なんでそんなに身構えるのか。確かにブランシェは変な人ではあるけど。
余計な会話が多い点を除けば、概ねいい人ではある。なにかと側に寄ってくるところは少し鬱陶しいけど。
「綿毛ちゃんも連れていきたい」
ブランシェに見せてあげたい。ふわふわだから気にいると思う。
しかし、ティアンがすぐに「ダメです」と眉間に皺を寄せる。そんなことはわかっている。ちょっと願望を言ってみただけだ。
「綿毛ちゃん。ちゃんとお留守番してるかな」
あの毛玉はたまに悪いことをする。俺に内緒でみんなにお菓子をもらったり、アロンたちと一緒になって夜遅くまで騒いでいたりもする。
ユリスに面倒見るよう頼んできたのだが、ユリスだからなぁ。あんまり綿毛ちゃんのお世話をしていないと思う。野放しにされた毛玉がなにをしているのか。すごく気になる。
「放っておいても大丈夫なのですか?」
カル先生の言葉に「うーん」と頭を悩ませる。綿毛ちゃんは常にへらへらしているが、そこまで余計なことはしないから放っておいても大丈夫だとは思う。あれでも長生きしている。俺よりずっと年上だから。
綿毛ちゃんなら大丈夫だよ、と笑ってみるが、カル先生は「違いますよ」と冷たい。
「綿毛ちゃんではなくブランシェ様のことです」
「あぁ、そっちか」
ブランシェのことは別にどうでも。
あまりテンションの上がらない俺に対して、ティアンは前のめりになる。そのままカル先生と話し込んでしまう。
どうやらブランシェの挙動が怪しいという話をしている。俺もそう思う。でも悪い人ではないと思う。
ティアンだって、ブランシェは真面目な男であると評していた。きっと俺が美少年すぎて緊張しているのだろう。先程の「ご趣味は?」発言も、今思えば緊張から口走っただけだと思う。なんとか俺と会話を続けたいという一心から飛び出してきたのだろう。
得意になって腕を組めば、ティアンが「なんですか。その変な自信は」と苦言を呈してきた。
俺が美少年なのは事実だもん。
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