冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話

岩永みやび

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16歳

487 叙任式

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 叙任式は問題なく終わった。

 屋敷内にある普段は使用しない教会っぽい建物にて執り行われた。厳かな空気に視線を彷徨わせる俺の足元では、綿毛ちゃんがずっと大人しくしていた。雰囲気をぶち壊しそうなので、絶対にお喋りするなと言いふくめていたので、律儀にそれを守っているらしい。

 結局はお父様のもとで行われた。

 観客もあまりいないひっそりとした式である。もともと叙任式は騎士が忠誠を誓う儀式なので、観客の前で大々的にというものでもないとアロンが言っていた。まあ、うちは私営騎士団だからね。王立騎士団なんかと比べれば、何事も小規模だ。

 オーガス兄様は、会場の隅っこで気配を消していた。お父様に見つかって、今からでも交代しようと言われることを恐れていたのだろう。気が小さいにも程がある。ニックが呆れた顔をしていた。

 ブルース兄様は、なぜかお父様の後ろで偉そうに立っていた。団長であるはずのセドリックの姿は見えない。ニックに居場所を尋ねたところ「こういう堅苦しい式は苦手なんですよ、団長は」という答え。みんなちょっと自由過ぎないか?

 主役のティアンは普段以上に張り切っていた。父親であるクレイグが見に来ていたので、それが理由だと思う。ティアンは父親大好きっ子なので。成長してもそれは変わらないらしい。なんか安心。

「団長! あ、違った。元団長でしたね。なんで団長辞めたんでしたっけ? なんか不祥事やらかしたんでしたっけ?」
「やめなよ、アロン」

 クレイグの姿を視界に捉えるなり、ニヤリと近寄ったアロンは予想通りに変な絡み方を始める。クレイグが団長辞めたのは単に領地に戻りたかったからだ。不祥事があったわけではない。

 声をかけられたクレイグが「すごいな、アロン。まったく変わらないな」と妙な感心をしていた。心のどこかで、アロンも成長しているのではと期待していたらしい。残念。アロンはクソ野郎のままである。

 騎士服を着ていないクレイグはなかなかにレアである。彼は、俺の前ではずっと騎士団の団長だったので。

「セドリックはきちんとやっていますか?」

 唐突な問いに、俺とアロンは顔を見合わせる。元団長として、現在の団長の様子が気になるらしい。

「セドリックはえっと。うん。頑張ってるよ」

 ね? とアロンを見上げれば「まあ、セドリックにしては頑張っているんじゃないですか?」とのやる気のない答え。

 クレイグの口元が引き攣っている。
 今更ながら会場内にセドリックの姿が見えないことに気が付いたようだ。

 どうしよう。クレイグを安心させるべきだったのに、逆に不安を植え付けてしまったかもしれない。セドリックめ。

 そんな感じで、叙任式はたいしたトラブルもなく終わった。途中でユリスが大きな欠伸をしてタイラーに怒られていたが、それくらいである。

 俺は遠目から見学していたけど、ティアンの緊張が伝わってくるようでちょっぴりドキドキした。

 クレイグと並んでハラハラとティアンを見守っていた。

「ルイス様は、なんで俺の叙任式は見なかったんですか?」
「そんなこと言われても」

 アロンが意味不明なことを言う。俺がアロンと出会った時、アロンはすでに成人していたでしょうが。

 綿毛ちゃんを抱えて、ティアンを見せてあげる。これまで黙っていたジャンが「あ」と声を上げた。

「毛が」

 綿毛ちゃんの毛が俺の服につくのではと心配している。今日の俺は、いつもより綺麗な服を着ている。ティアンがお洒落しろとうるさかったからだ。

「綿毛ちゃん。毛を落とすなよ」
『すごく無茶言うね』

 ジャンによって髪も整えられた俺は、自分で言うのもなんだがすごく美少年。「黙っていればそれなりに見えるな」と、ブルース兄様が褒めているのか貶しているのか判断つかない言葉を投げてきた。

 ユリスも俺と同じ格好をしているのだが、あちらはやる気なさそうにポケットに両手を突っ込んでいる。だらしないとタイラーが眉を吊り上げていた。

「今日の俺かっこいいでしょ?」

 隣にいたアロンに笑いかければ、彼は首を捻って「かっこいいと言うより可愛いでは?」と言ってくる。別に可愛いでもいいけど。
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