冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話

岩永みやび

文字の大きさ
上 下
522 / 656
16歳

485 報告

しおりを挟む
「ティアン!」
「なんですか」

 大声で呼べば、ティアンがちょっとだけ眉を寄せる。

 俺の自室にて。
 俺は先程からずっとあることが気になっていた。ティアンに教えてあげようと声を張り上げる。

「ティアン!」
「だからなんですか」

 面倒くさいといった表情をみせる彼の足を綿毛ちゃんがちょびっと踏んでいる。ティアンの片足の上に、前足を乗せてニマニマしている。地味な悪戯だ。

「足踏まれてるよ」
「知ってますよ」

 足元に視線を落としたティアンは、綿毛ちゃんのことをじっと観察している。相変わらずにやにやしている綿毛ちゃんは、ティアンの足から動く気配がない。

 なんでティアンは綿毛ちゃんを退かさないのだろうか。弱そうな犬だから遠慮しているのかもしれない。俺だったら容赦なく追い払うけどね。動かないティアンに代わって、俺が注意をしておく。

「やめろ、犬。ティアンをいじめるな」
『犬じゃないでーす。いじめてもないでーす』

 ぺろっと舌を出す綿毛ちゃんは、なんだかそわそわしている。毛玉の企みに気が付いた俺は、さっと綿毛ちゃんを抱き上げた。

 綿毛ちゃんは、まだお父様にしか打ち明けていない俺の夢をティアンに教えたいのだ。小声で「余計なことするな!」と注意するが、綿毛ちゃんは『えー?』と笑うだけで理解しているのかも怪しい。お喋り毛玉め。

 綿毛ちゃんをティアンから遠ざける。

 不思議そうにしているティアンであったが、詳しく尋ねてはこない。

 あの後、お父様は俺がカル先生と一緒に外出することを許可してくれた。とはいえ、護衛としてティアンも連れて行くという条件付きではあるが。

 というわけで、今度はティアンにも一から説明しなければならなくなった。お父様の許しがあるので、ティアンもダメとは言わないだろう。だろうけど、やっぱり打ち明けるのには多少の決意が必要。

「……」

 しかし、いつまでも黙っておくわけにはいかない。ここはさっさと報告を済ませてしまおう。

「今度、カル先生と一緒にお出かけするから。ティアンもついて来ていいよ」
「カル先生と? 珍しいですね」

 珍しいというか、初めてである。
 思えば、ティアンも昔はカル先生の授業を俺と一緒に受けていた。俺なんかよりもよっぽど積極的に取り組んでいたことを思い出す。

『お出かけいつにするの? オレも予定あけとくね』
「綿毛ちゃんはお留守番だよ。それに予定なんてないでしょ」
『ひどい』

 この毛玉は、毎日俺の隣でごろごろしている。予定なんて皆無だろうが。

 それに、喋る犬を連れて行くわけにはいかない。俺はカル先生の授業を見学に行くのだ。犬持参で行くのはどう考えてもおかしいと思う。

 だから綿毛ちゃんはお留守番ねと説明するのだが、我儘毛玉は『いやだぁ。オレも行きたい』とうるさい。

 カル先生と話し合った結果、俺はヴィアン家のルイスであることは内緒で見学に行くことにした。そうしないと見学先に必要以上に気を使わせてしまいそうだから。そう考えると、護衛としてティアンを引き連れて行くのも微妙な気がするけど、そこは仕方がない。どうにか誤魔化そうと思う。

 その前に、まずはティアンの叙任式。
 準備も着々と進みつつある。

「俺も見に行っていい?」

 特に誘われてはいないのだが、勝手に見に行く気満々でいた。一応、思い出してティアンに確認すれば「見に来てくれるんですか?」と顔を綻ばせた。

「嫌なら見に行かないけど」
「嫌なんて言ってませんけど」
『オレも行きたいぃ』

 ここぞとばかりに綿毛ちゃんが存在を主張する。先程からうるさい。

「エリスちゃんも連れて行くね」
「猫はちょっと」

 やんわり断ってきたティアンの腕をペシッと叩いておく。「なにするんですか」と文句を言うティアンは、ちょっぴり笑っていた。
しおりを挟む
感想 474

あなたにおすすめの小説

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います

塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?

なり代わり貴妃は皇弟の溺愛から逃げられません

めがねあざらし
BL
貴妃・蘇璃月が後宮から忽然と姿を消した。 家門の名誉を守るため、璃月の双子の弟・煌星は、彼女の身代わりとして後宮へ送り込まれる。 しかし、偽りの貴妃として過ごすにはあまりにも危険が多すぎた。 調香師としての鋭い嗅覚を武器に、後宮に渦巻く陰謀を暴き、皇帝・景耀を狙う者を探り出せ――。 だが、皇帝の影に潜む男・景翊の真意は未だ知れず。 煌星は龍の寝所で生き延びることができるのか、それとも――!? /////////////////////////////// ※以前に掲載していた「成り代わり貴妃は龍を守る香」を加筆修正したものです。 ///////////////////////////////

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

神獣様の森にて。

しゅ
BL
どこ、ここ.......? 俺は橋本 俊。 残業終わり、会社のエレベーターに乗ったはずだった。 そう。そのはずである。 いつもの日常から、急に非日常になり、日常に変わる、そんなお話。 7話完結。完結後、別のペアの話を更新致します。

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

囚われた元王は逃げ出せない

スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた そうあの日までは 忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに なんで俺にこんな事を 「国王でないならもう俺のものだ」 「僕をあなたの側にずっといさせて」 「君のいない人生は生きられない」 「私の国の王妃にならないか」 いやいや、みんな何いってんの?

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

処理中です...