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16歳
480 裏切りだよ
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「オーガス兄様ぁ! しっかりして! お父様が可哀想」
お父様に頼まれた俺は、オーガス兄様をどうにかしようと躍起になっていた。
部屋にお邪魔するなり声を上げた俺に、オーガス兄様が絶望していた。
「ルイス! 君、裏切ったな!」
「だって。お父様がペット三匹目はダメって言うから」
なんだって!? と声を荒げる兄様は、盛大に頭を抱えてしまう。姑息な取引がお父様に露呈して絶望しているのだろう。
「そんなことより。ケイシーと遊んでいい?」
「そんなことってなんだよ! 僕は今すごく困っているんだよ? ちょっとくらい手を貸してくれてもよくない?」
「でもお父様が」
お父様の名前を出した途端に、オーガス兄様は悔しそうに唇を噛み締める。
「なんでそんなに跡を継ぎたくないの?」
普通、跡継ぎというのはもっと積極的なものではないのか。オーガス兄様のやる気がなさすぎて、困惑してしまう。俺の浅い知識では、跡継ぎの座を奪い合って兄弟がバチバチのバトルをするものだとばかり。うちでは逆に押し付け合いのような状態になっている。これは絶対におかしいと思う。
拳を握った兄様は「だって!」と悲痛な声をもらした。
「僕には荷が重いんだって! 僕そういうのガラじゃないし」
「頑張ってよ。ケイシーもいるんだから」
「そう! ケイシーだよ!」
「ん?」
突然、声を張り上げた兄様は、俺に非難の目を向けてくる。
「ケイシーに変なこと教えないでくれる!?」
「教えてないけど」
なにを言い出すのだ、この兄は。
ケイシーは、オーガス兄様の子供で現在は一歳。
最近ちょっと歩き始めた。同時に、お喋りしようと頑張っている。
「ケイシーがにいにって言い始めたんだけど!?」
「やった!」
両手をあげて喜ぶ俺。
ケイシーの言う「にいに」とは、俺のことである。連日のように教えた甲斐があったというものだ。
「僕のことはパパって言ってくれないのに!」
「どんまい、兄様」
ケイシーはすごく可愛い。
オーガス兄様似の金髪はふわふわしている。まだお喋りは練習を始めたばかりだけど、簡単な単語を発するようになりつつある。すごく頼りない感じでかろうじて「にいに」と発音しているのだ。
「俺はケイシーのお兄ちゃんだからね」
「違うから」
「違うくないもん!」
ユリスと同じく細かいことを気にする兄様は、「僕の立場が」と顔を覆ってしまう。
可愛いケイシーのためにも、そろそろ駄々をこねるのはやめて堂々とするべきだ。お父様も呆れていた。
「オーガス兄様がそんなんだから。ティアンも困ってるよ」
もしかして僕のせいですか? と、非常に責任を感じていた。ティアンのせいではないから安心してほしい。どちらにせよ、オーガス兄様は近々お父様の跡を継ぐことが決まっていたのだから。
ティアンのお祝いのはずなのに、肝心のティアンが恐縮してしまっている。これは実にいけない。ティアンが可哀想だ。人生において一度のお祝い事である。彼に罪悪感を抱かせてしまうのは、主君としてあるまじき行為だ。
「しっかりしてよ! 綿毛ちゃん貸してあげるから!」
『オレを勝手に貸し出さないでぇ』
へらへらする綿毛ちゃんは、『がんばって、オーガスくん』と雑に兄様を励ましている。
「犬に励まされるなんて。情けないとは思わないのか!」
『オレ、犬じゃないけどね』
「うるさい!」
『ひどい。八つ当たりだよ』
みっともないオーガス兄様は、弟の前であろうと遠慮なく弱音を吐く。ブルース兄様に叱られるぞ。
「とにかく。しっかりしてよね。オーガス兄様がちゃんとしないと、俺がお父様にお菓子もらえないじゃん」
「お菓子もらう約束してんの!? なにそれ!?」
裏切りだよ、とうるさいオーガス兄様に肩をすくめる。
「じゃあ俺は忙しいから」
「忙しくないじゃん! どうせ部屋で遊ぶんだろ!」
「失礼だな。カル先生が来るんだよ。勉強するの! オーガス兄様と違って俺は偉いから!」
「はぁ?」
うるさい兄様を放って置いて、急いで部屋に戻る。俺だって将来のために色々とやらなければならないことがあるのだ。オーガス兄様の面倒を見ている暇はない。
お父様に頼まれた俺は、オーガス兄様をどうにかしようと躍起になっていた。
部屋にお邪魔するなり声を上げた俺に、オーガス兄様が絶望していた。
「ルイス! 君、裏切ったな!」
「だって。お父様がペット三匹目はダメって言うから」
なんだって!? と声を荒げる兄様は、盛大に頭を抱えてしまう。姑息な取引がお父様に露呈して絶望しているのだろう。
「そんなことより。ケイシーと遊んでいい?」
「そんなことってなんだよ! 僕は今すごく困っているんだよ? ちょっとくらい手を貸してくれてもよくない?」
「でもお父様が」
お父様の名前を出した途端に、オーガス兄様は悔しそうに唇を噛み締める。
「なんでそんなに跡を継ぎたくないの?」
普通、跡継ぎというのはもっと積極的なものではないのか。オーガス兄様のやる気がなさすぎて、困惑してしまう。俺の浅い知識では、跡継ぎの座を奪い合って兄弟がバチバチのバトルをするものだとばかり。うちでは逆に押し付け合いのような状態になっている。これは絶対におかしいと思う。
拳を握った兄様は「だって!」と悲痛な声をもらした。
「僕には荷が重いんだって! 僕そういうのガラじゃないし」
「頑張ってよ。ケイシーもいるんだから」
「そう! ケイシーだよ!」
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突然、声を張り上げた兄様は、俺に非難の目を向けてくる。
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「教えてないけど」
なにを言い出すのだ、この兄は。
ケイシーは、オーガス兄様の子供で現在は一歳。
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「やった!」
両手をあげて喜ぶ俺。
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ケイシーはすごく可愛い。
オーガス兄様似の金髪はふわふわしている。まだお喋りは練習を始めたばかりだけど、簡単な単語を発するようになりつつある。すごく頼りない感じでかろうじて「にいに」と発音しているのだ。
「俺はケイシーのお兄ちゃんだからね」
「違うから」
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「オーガス兄様がそんなんだから。ティアンも困ってるよ」
もしかして僕のせいですか? と、非常に責任を感じていた。ティアンのせいではないから安心してほしい。どちらにせよ、オーガス兄様は近々お父様の跡を継ぐことが決まっていたのだから。
ティアンのお祝いのはずなのに、肝心のティアンが恐縮してしまっている。これは実にいけない。ティアンが可哀想だ。人生において一度のお祝い事である。彼に罪悪感を抱かせてしまうのは、主君としてあるまじき行為だ。
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「とにかく。しっかりしてよね。オーガス兄様がちゃんとしないと、俺がお父様にお菓子もらえないじゃん」
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「じゃあ俺は忙しいから」
「忙しくないじゃん! どうせ部屋で遊ぶんだろ!」
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「はぁ?」
うるさい兄様を放って置いて、急いで部屋に戻る。俺だって将来のために色々とやらなければならないことがあるのだ。オーガス兄様の面倒を見ている暇はない。
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