上 下
516 / 577
16歳

480 裏切りだよ

しおりを挟む
「オーガス兄様ぁ! しっかりして! お父様が可哀想」

 お父様に頼まれた俺は、オーガス兄様をどうにかしようと躍起になっていた。

 部屋にお邪魔するなり声を上げた俺に、オーガス兄様が絶望していた。

「ルイス! 君、裏切ったな!」
「だって。お父様がペット三匹目はダメって言うから」

 なんだって!? と声を荒げる兄様は、盛大に頭を抱えてしまう。姑息な取引がお父様に露呈して絶望しているのだろう。

「そんなことより。ケイシーと遊んでいい?」
「そんなことってなんだよ! 僕は今すごく困っているんだよ? ちょっとくらい手を貸してくれてもよくない?」
「でもお父様が」

 お父様の名前を出した途端に、オーガス兄様は悔しそうに唇を噛み締める。

「なんでそんなに跡を継ぎたくないの?」

 普通、跡継ぎというのはもっと積極的なものではないのか。オーガス兄様のやる気がなさすぎて、困惑してしまう。俺の浅い知識では、跡継ぎの座を奪い合って兄弟がバチバチのバトルをするものだとばかり。うちでは逆に押し付け合いのような状態になっている。これは絶対におかしいと思う。

 拳を握った兄様は「だって!」と悲痛な声をもらした。

「僕には荷が重いんだって! 僕そういうのガラじゃないし」
「頑張ってよ。ケイシーもいるんだから」
「そう! ケイシーだよ!」
「ん?」

 突然、声を張り上げた兄様は、俺に非難の目を向けてくる。

「ケイシーに変なこと教えないでくれる!?」
「教えてないけど」

 なにを言い出すのだ、この兄は。

 ケイシーは、オーガス兄様の子供で現在は一歳。
 最近ちょっと歩き始めた。同時に、お喋りしようと頑張っている。

「ケイシーがにいにって言い始めたんだけど!?」
「やった!」

 両手をあげて喜ぶ俺。
 ケイシーの言う「にいに」とは、俺のことである。連日のように教えた甲斐があったというものだ。

「僕のことはパパって言ってくれないのに!」
「どんまい、兄様」

 ケイシーはすごく可愛い。
 オーガス兄様似の金髪はふわふわしている。まだお喋りは練習を始めたばかりだけど、簡単な単語を発するようになりつつある。すごく頼りない感じでかろうじて「にいに」と発音しているのだ。

「俺はケイシーのお兄ちゃんだからね」
「違うから」
「違うくないもん!」

 ユリスと同じく細かいことを気にする兄様は、「僕の立場が」と顔を覆ってしまう。

 可愛いケイシーのためにも、そろそろ駄々をこねるのはやめて堂々とするべきだ。お父様も呆れていた。

「オーガス兄様がそんなんだから。ティアンも困ってるよ」

 もしかして僕のせいですか? と、非常に責任を感じていた。ティアンのせいではないから安心してほしい。どちらにせよ、オーガス兄様は近々お父様の跡を継ぐことが決まっていたのだから。

 ティアンのお祝いのはずなのに、肝心のティアンが恐縮してしまっている。これは実にいけない。ティアンが可哀想だ。人生において一度のお祝い事である。彼に罪悪感を抱かせてしまうのは、主君としてあるまじき行為だ。

「しっかりしてよ! 綿毛ちゃん貸してあげるから!」
『オレを勝手に貸し出さないでぇ』

 へらへらする綿毛ちゃんは、『がんばって、オーガスくん』と雑に兄様を励ましている。

「犬に励まされるなんて。情けないとは思わないのか!」
『オレ、犬じゃないけどね』
「うるさい!」
『ひどい。八つ当たりだよ』

 みっともないオーガス兄様は、弟の前であろうと遠慮なく弱音を吐く。ブルース兄様に叱られるぞ。

「とにかく。しっかりしてよね。オーガス兄様がちゃんとしないと、俺がお父様にお菓子もらえないじゃん」
「お菓子もらう約束してんの!? なにそれ!?」

 裏切りだよ、とうるさいオーガス兄様に肩をすくめる。

「じゃあ俺は忙しいから」
「忙しくないじゃん! どうせ部屋で遊ぶんだろ!」
「失礼だな。カル先生が来るんだよ。勉強するの! オーガス兄様と違って俺は偉いから!」
「はぁ?」

 うるさい兄様を放って置いて、急いで部屋に戻る。俺だって将来のために色々とやらなければならないことがあるのだ。オーガス兄様の面倒を見ている暇はない。
しおりを挟む
感想 415

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

氷の華を溶かしたら

こむぎダック
BL
ラリス王国。 男女問わず、子供を産む事ができる世界。 前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。 ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。 そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。 その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。 初恋を拗らせたカリストとシェルビー。 キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

総長の彼氏が俺にだけ優しい

桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、 関東で最強の暴走族の総長。 みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。 そんな日常を描いた話である。

なんで俺の周りはイケメン高身長が多いんだ!!!!

柑橘
BL
王道詰め合わせ。 ジャンルをお確かめの上お進み下さい。 7/7以降、サブストーリー(土谷虹の隣は決まってる!!!!)を公開しました!!読んでいただけると嬉しいです! ※目線が度々変わります。 ※登場人物の紹介が途中から増えるかもです。 ※火曜日20:00  金曜日19:00  日曜日17:00更新

処理中です...