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16歳

476 これからも

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「ルイス様の護衛だったら俺がやりますよ。だからティアンがいなくても大丈夫です」
「はいはい」

 アロンの主張は聞き流すに限る。
 結局、アロンは俺の護衛と副団長。どっちをやりたいのか不明だ。訊いたところで、どっちもやりたいという清々しい答えが返ってくるに決まっている。

「ティアンの叙任式。ルイス様も見るんですか?」
「見てもいいの?」
「いいんじゃないですか? そんなたいした式でもないですし」

 そうなの?
 成人式も兼ねていると聞いた。正装が必須と言っていたので、もっと仰々しい感じの式だと思っていた。だがアロンの言うことは正直当てにならない。

「アロンもやったの?」
「やったような気もしますね」

 なんだその曖昧な返答は。
 昔のことなので覚えていないと笑うアロン。俺に根掘り葉掘り訊かれるのが嫌なだけだろう。

「ロニーは?」

 彼は、アロンと違って真面目で嘘吐かない。「懐かしいですね」と目を細めている。

 ティアンは、多分うちで叙任式をやると思う。王立騎士団には興味がないと言っていたから。

「確かに。エリック殿下の相手って大変ですからね」

 うんうんと頷くアロンに、思わず苦笑いをしてしまう。おまえが言うのか。アロンの相手も大概大変だけどな。

 それに王立騎士団にはラッセルもいる。新人がどういう配属をされるのかは不明だが、ラッセル率いる第一部隊は大変そうだ。なんせ隊長であるラッセルは、お偉いさんへの忖度に全力を注いでいる。隊員たちは滅茶苦茶振り回されていると思う。

 それに、サムだって一時期うちに潜入していた。すべてはエリックによるオーガス兄様への嫌がらせのためだ。エリックの私情に付き合わなければならない騎士たちも苦労していそうである。

「アロンはなんでうちで騎士やってるの?」

 実家は名の知られた伯爵家である。
 王立騎士団に入ることもできたはず。なんでヴィアン家の私営騎士団に腰を据えているのだろうか。

 好奇心から尋ねれば、アロンは「気になりますか?」と、変に焦らしてくる。

 ニヤリと腕を組んで、楽しそうだ。

「王立騎士団は大規模なんでね。上に行くのが面倒くさそうで」
「へー」

 大規模なところでそこそこの地位に収まるよりも、小規模なところでトップに行きたいという考えだろうか。それにしては、副団長にもなれていないけど。

「それに俺。殿下に嫌われてるんで」
「あぁ、うん」

 そういえばそうだったな。
 いつだったか。俺がまだユリスをやっていた時のことである。

 エリックにより王宮へと連れ去られた俺を、アロンは助けに来てくれた。その際、エリックがアロンは絶対に王立騎士団では採用しないと宣言していたな。

 まぁ、アロンはクソ野郎だし。
 そういう変な噂が国中に広まっているレベルのクソ野郎である。王立騎士団がアロンを拒否したくなる気持ちもわからなくはない。

「アロン、可哀想」
「エリック殿下にも言ってやってくださいよ」

 へらへらしているアロンは、だから俺に王立騎士団は無理ですと話を締めくくる。

「ティアンは、エリックに嫌われてはないもんね」

 だからこうして引き抜きの話が出てきているのだろう。小さい頃から騎士になりたいとティアンは言っていた。それに対して俺は、ティアンに騎士は向かないと考えていた。それがここまで成長するなんて。

 しみじみとティアンの成長を感じていると、アロンが思い出したと言わんばかりに頬杖をついた。

「そういえば、君も初めは騎士志望じゃなかった?」
「え」

 突然話を向けられたジャンが、わかりやすく動揺を見せた。壁際に突っ立ったまま、視線が忙しなく動いている。

「ジャンも騎士になりたかったの?」
「え、あ、はい」

 なぜか引き攣った顔をするジャンは、「申し訳ありません」と小さく頭を下げる。一体なんの謝罪だよ。

 アロンによると、ジャンは当初騎士団に新人として入団してきたらしい。それが、入団してから数ヶ月もしないうちにユリスの従者に抜擢されたのだ。

「……なんで?」

 ジャンを振り返れば、彼は遠い目をする。
 昔を思い出しているらしい。

「その、ユリス様の従者がいないということで」

 そういえば、その頃のユリスは従者をクビにしまくっていたはずだ。ベテランをつけてもユリスが簡単に解雇してしまうので、腹を立てたブルース兄様がまったくの新人をつけようと思い付いたらしい。

「ブルース兄様のせいで。ジャン、可哀想」

 どんまいと励ませば、なんともいえない苦笑が返ってきた。

「ブルース様というか。ユリス様のせいでは?」

 アロンの指摘に、それもそうかと思い直す。なんといってもユリスが従者を簡単に解雇していたのが原因なのだ。

「我儘ユリスめ」

 本当ならば、ジャンもこれまでの従者同様に解雇されていたはずだ。そうはならなかったのは、ちょうどそのタイミングで俺がユリスに成り代わったからだろう。

「もしかして、騎士になりたいって思ってる?」

 ユリスのせいで夢を奪われたような状態だったら申し訳ない。おそるおそる問いかければ、ジャンが「いえ」と背筋を伸ばした。

「私はルイス様の従者です。これまでも、これからも」
「ジャン」

 俺がこの世界に来た時からずっと。ジャンは俺のそばに居てくれる。それが俺にとってどれだけ心強いか。

 心があたたかくなった俺は、ジャンと視線を合わせてにこっと笑顔を浮かべた。
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