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16歳

471 器用

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「あ、ルイスくん!」

 綿毛ちゃんを引きずって廊下を歩いていれば、キャンベルが声をかけてきた。

 以前のキャンベルは、俺相手にもオドオドしていた。それが最近では、こうやって気さくに声をかけてくれるようになって嬉しい。

「綿毛ちゃんのお散歩?」
「そう」

 日課となりつつある綿毛ちゃんのお散歩。すごく嫌そうな顔をする綿毛ちゃんを庭まで引っ張り出すのは大変だ。

『キャンベルさーん。助けてぇ』

 情けない声を出す綿毛ちゃんは、早速キャンベルに突進して行こうとする。邪魔だからやめさせないと。リードをぐいぐい引っ張って毛玉を止める。

「仲がいいですね」

 バチバチバトルをする俺と綿毛ちゃんを仲良しという言葉で片付けたキャンベルは、すごくマイペースだ。

「ちょうどお部屋に行こうと思ってたの。会えてよかった」
「俺の部屋に?」

 キャンベルが俺に用事とは珍しい。
 普段は、俺がケイシーと遊ぶために彼女の部屋を訪れるばかりだ。オーガス兄様はなんだかんだと理由をつけて、ケイシーとはあまり遊ばせてくれない。

 兄様は、俺のことを何だと思っているのだろうか。一歳児相手には、俺だって優しく接するのに。もしかしたら、犬と猫を持参するのが嫌なのかもしれない。今度は手ぶらで行ってみようかな。

「ルイスくんに渡したい物があってね」

 優しく微笑むキャンベルは、片手に持っていた小さな箱を差し出してきた。

 受け取って「開けていい?」と訊く。

「もちろん」

 心なしかわくわくしているキャンベルに言われて、そっと箱を開けてみる。足元の綿毛ちゃんも『なになに?』と、興味津々な様子だ。

 白い綺麗な小箱の中には、これまた真っ白な物が入れてあった。なんだろうと手に取って、目を輝かせる。

「猫!」
「そうそう」

 なんと、小さい白猫だ。ふわふわしてる。
 手のひらサイズのぬいぐるみみたいなやつ。

 ただ、普通のぬいぐるみではない。

「これ、エリスちゃんにそっくり」
『本当だぁ。毛がそっくり』

 白猫エリスちゃんに、そっくりな毛並みである。青い瞳もなんだか似ている。

 まじまじ観察していれば、キャンベルが「よかった」と安堵したように小さく胸を撫で下ろした。

「それ。ルイスくんが集めたエリスちゃんの毛を使って作ってみたの」
「え!」

 思い出すのは、俺がちまちま集めてオーガス兄様にプレゼントしたエリスちゃんの毛。

 あの後、オーガス兄様が持て余していたため、キャンベルがこれを作ってみたのだという。羊毛フェルトのような感じだろう。

「キャンベルすごい! ありがとう!」

 聞けば、オーガス兄様にも同じものを作ってあげたらしい。余った毛で、俺の分も作ってくれたのだとか。

 キャンベルは、こういった物を作るのが好きだという。確かに、彼女が編み物をしている姿を見たことがある。他にも、なんか俺にはよくわからない細々とした物を作っていたりもする。

「気に入ってもらえてよかった」
『キャンベルさん。すごいねぇ』

 綿毛ちゃんにも見せてあげれば、ひたすら感心したように呟いている。

 手のひらサイズのエリスちゃん。すごく嬉しい。

「エリスちゃんに見せてくる!」

 にこにこと楽しそうなキャンベルにお礼を言って、部屋に引き返す。
 綿毛ちゃんの散歩にいったはずなのに、すぐさま戻ってきた俺を見て、ジャンが不思議そうに「何か忘れ物ですか?」と問いかけてきた。

「見て、ジャン! キャンベルにもらった!」

 目を瞬くジャンは、驚いたように俺の手元を覗き込んだ。

「キャンベル様は器用でいらっしゃいますね」
「うん。すごく可愛い。エリスちゃんそっくり」

 お散歩が中止になったとニヤニヤしている綿毛ちゃんをジャンに任せて、白猫エリスちゃんを捕まえる。のんびり猫は、部屋の端っこで呑気に昼寝していた。

「エリスちゃん! 起きて!」

 ゆさゆさと揺らせば、エリスちゃんが怠そうに目を開ける。顔の前に差し出してみれば、一瞬だけ視界に入れたものの、またすぐに寝てしまう。

 エリスちゃんには、この可愛さがわからないのか。基本的に食いしん坊な猫だ。食べ物以外には興味がないのだろう。

 部屋を見渡して、ジャンが片付けたばかりの戸棚の上に、飾ってみる。可愛いですね、と笑顔になるジャン。

 あとでティアンにも見せてあげないと。
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