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16歳
467 雨
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雨が降っている。
窓の外を眺めて、なんとなくため息を吐く。特にこれといった用事があったわけではないのだが、雨が降ると憂鬱な気分になってしまう。
外にも行けないし、ちょっと退屈。
「毎日庭に出て、なにをそんなにやることがあるんだ」
「色々あるもん。綿毛ちゃんのお散歩とか」
俺の行動にケチをつけてくるユリスは、ふんっと偉そうに鼻を鳴らす。ユリスだって、本日は天気が悪いからといって研究所に行くのをやめてしまった。そんな理由で休んでいいのかと疑問だが、現状ユリスは趣味で研究所に通っているということになっている。そのうち正式に働くことになりそうだが、その際にもなんか偉そうな役職につくであろうことは容易に想像できる。
ユリスは読書で忙しいらしくて、俺の相手をしてくれない。彼の側にいても退屈なので、早々にユリスの部屋を後にする。
「ルイス様もお勉強してはどうですか」
「……なんでそんなこと言うの、ティアン」
半歩後ろをついてくるティアンが、嫌なことを言う。
俺だって別に毎日遊んでいるわけではない。だが、四六時中勉強しているわけでもない。今は勉強する気分じゃないのだ。
「今日は騎士棟行かないの?」
「この雨ですからね。本日の訓練は中止だそうで」
「へー」
騎士団の訓練がどういう計画でされているのかは不明だが、大方セドリックが面倒がったに違いない。面倒くさがりの団長め。
廊下に出て、あてもなく歩く。
綿毛ちゃんとティアンが律儀に追いかけてくる。ジャンは、俺の部屋でお留守番。今頃、白猫エリスちゃんと格闘していると思う。
「ルイス様!」
そんな時である。
一体どこから姿を現したのか。俺の行手にひょっこりと顔を出したアロンが、上機嫌に片手を上げて呼びかけてきた。
「アロン」
近くにブルース兄様の姿は見えない。
アロンを認識するなり、ティアンが半眼になってしまう。このふたりは、いまだに仲がよろしくない。出会った頃から、ティアンはアロンのことを毛嫌いしていた。アロンも同様。
とはいえ、現在のアロンはティアンにとって一応先輩という立場だ。子供の頃のティアンは、アロンを相手にクソ野郎だとか、嘘吐きだとか散々なことを言っていた。その意見には俺も概ね同意するのだが、大人になったティアンは面と向かってアロンの悪口を言わなくなった。
ちょっぴり悪くなる空気に、綿毛ちゃんが『仲良くしようよぉ』と声をあげている。この毛玉は、デリケートな話題にも何かと首を突っ込みたがる。慌てて抱え上げて、「静かにして!」と注意しておく。
不満そうに頬を膨らませた綿毛ちゃんは、ペシペシと尻尾で俺のことを叩いてくる。悪毛玉め。
「なんか用?」
俺の半歩後ろに控えるティアンである。自然と、俺がアロンとティアンの間に入る形となってしまう。喧嘩でもされたら面倒なので、早々に用件を問うが、アロンは予想に反して上機嫌だ。
どうやらティアンのことが視界に入っていないらしい。正確には、視認してはいるのだろうが、その存在を無視している。ちらっとティアンを確認してみるが、彼は平気な顔。どうやら俺だけが必要以上に警戒していただけらしく、ホッと肩の力を抜く。
アロンは、一時期すごく不機嫌だった。具体的には、ジェフリーと頻繁に遊んでいた時。
どうやらジェフリーのことを勝手にライバル視していたらしく、何かと突っかかってきたことは記憶に新しい。
そんなアロンであるが、俺がジェフリーのことを振った途端に機嫌がよくなった。まさか俺とジェフリーの会話を盗み聞きしていたわけではないだろうが、なんだろう。察しがよすぎてちょっと引く。
おそらくジェフリーと会う機会が減ったこととか、俺とジェフリーの距離感なんかでおおよそのことを察しているのだと思う。
思い返せば、アロンは俺がロニーに振られたことも知っていたような節がある。諜報活動が得意と前々から聞いてはいたが、得意にも程がある。ちょっとびっくり。
「ひとりですか?」
「いや。ティアンと綿毛ちゃんいるけど」
当然のように一人と一匹の存在を無視したアロンに、綿毛ちゃんが『いるけどぉ』とすかさず抗議をしている。ティアンも露骨にスルーされてますます視線が鋭くなる。
「あぁ。いたんだ」
ここでようやく俺以外の存在を認めたアロンは、「まぁいいや。いてもいなくても」と開き直り発言をする。
「そんなことよりルイス様。ちょっとこっちに来てくださいよ」
「なに?」
俺の返事も待たずに足を進めてしまうアロンに、慌ててついていく。
綿毛ちゃんも半眼で『なんですかぁ。なんの用ですかぁ』とぶつぶつ言っている。別に綿毛ちゃんに用はないと思うけど。
そのままアロンは、へらへらしながら俺たちを先導する。よくわからないが、非常にご機嫌らしい。道中も、「今日は天気が悪いですね。セドリックが目に見えてやる気を失っていましたよ。まぁ、あの人は普段からやる気はありませんが」と、ずっと喋っている。
なんだか、いつにも増してハイテンションである。
窓の外を眺めて、なんとなくため息を吐く。特にこれといった用事があったわけではないのだが、雨が降ると憂鬱な気分になってしまう。
外にも行けないし、ちょっと退屈。
「毎日庭に出て、なにをそんなにやることがあるんだ」
「色々あるもん。綿毛ちゃんのお散歩とか」
俺の行動にケチをつけてくるユリスは、ふんっと偉そうに鼻を鳴らす。ユリスだって、本日は天気が悪いからといって研究所に行くのをやめてしまった。そんな理由で休んでいいのかと疑問だが、現状ユリスは趣味で研究所に通っているということになっている。そのうち正式に働くことになりそうだが、その際にもなんか偉そうな役職につくであろうことは容易に想像できる。
ユリスは読書で忙しいらしくて、俺の相手をしてくれない。彼の側にいても退屈なので、早々にユリスの部屋を後にする。
「ルイス様もお勉強してはどうですか」
「……なんでそんなこと言うの、ティアン」
半歩後ろをついてくるティアンが、嫌なことを言う。
俺だって別に毎日遊んでいるわけではない。だが、四六時中勉強しているわけでもない。今は勉強する気分じゃないのだ。
「今日は騎士棟行かないの?」
「この雨ですからね。本日の訓練は中止だそうで」
「へー」
騎士団の訓練がどういう計画でされているのかは不明だが、大方セドリックが面倒がったに違いない。面倒くさがりの団長め。
廊下に出て、あてもなく歩く。
綿毛ちゃんとティアンが律儀に追いかけてくる。ジャンは、俺の部屋でお留守番。今頃、白猫エリスちゃんと格闘していると思う。
「ルイス様!」
そんな時である。
一体どこから姿を現したのか。俺の行手にひょっこりと顔を出したアロンが、上機嫌に片手を上げて呼びかけてきた。
「アロン」
近くにブルース兄様の姿は見えない。
アロンを認識するなり、ティアンが半眼になってしまう。このふたりは、いまだに仲がよろしくない。出会った頃から、ティアンはアロンのことを毛嫌いしていた。アロンも同様。
とはいえ、現在のアロンはティアンにとって一応先輩という立場だ。子供の頃のティアンは、アロンを相手にクソ野郎だとか、嘘吐きだとか散々なことを言っていた。その意見には俺も概ね同意するのだが、大人になったティアンは面と向かってアロンの悪口を言わなくなった。
ちょっぴり悪くなる空気に、綿毛ちゃんが『仲良くしようよぉ』と声をあげている。この毛玉は、デリケートな話題にも何かと首を突っ込みたがる。慌てて抱え上げて、「静かにして!」と注意しておく。
不満そうに頬を膨らませた綿毛ちゃんは、ペシペシと尻尾で俺のことを叩いてくる。悪毛玉め。
「なんか用?」
俺の半歩後ろに控えるティアンである。自然と、俺がアロンとティアンの間に入る形となってしまう。喧嘩でもされたら面倒なので、早々に用件を問うが、アロンは予想に反して上機嫌だ。
どうやらティアンのことが視界に入っていないらしい。正確には、視認してはいるのだろうが、その存在を無視している。ちらっとティアンを確認してみるが、彼は平気な顔。どうやら俺だけが必要以上に警戒していただけらしく、ホッと肩の力を抜く。
アロンは、一時期すごく不機嫌だった。具体的には、ジェフリーと頻繁に遊んでいた時。
どうやらジェフリーのことを勝手にライバル視していたらしく、何かと突っかかってきたことは記憶に新しい。
そんなアロンであるが、俺がジェフリーのことを振った途端に機嫌がよくなった。まさか俺とジェフリーの会話を盗み聞きしていたわけではないだろうが、なんだろう。察しがよすぎてちょっと引く。
おそらくジェフリーと会う機会が減ったこととか、俺とジェフリーの距離感なんかでおおよそのことを察しているのだと思う。
思い返せば、アロンは俺がロニーに振られたことも知っていたような節がある。諜報活動が得意と前々から聞いてはいたが、得意にも程がある。ちょっとびっくり。
「ひとりですか?」
「いや。ティアンと綿毛ちゃんいるけど」
当然のように一人と一匹の存在を無視したアロンに、綿毛ちゃんが『いるけどぉ』とすかさず抗議をしている。ティアンも露骨にスルーされてますます視線が鋭くなる。
「あぁ。いたんだ」
ここでようやく俺以外の存在を認めたアロンは、「まぁいいや。いてもいなくても」と開き直り発言をする。
「そんなことよりルイス様。ちょっとこっちに来てくださいよ」
「なに?」
俺の返事も待たずに足を進めてしまうアロンに、慌ててついていく。
綿毛ちゃんも半眼で『なんですかぁ。なんの用ですかぁ』とぶつぶつ言っている。別に綿毛ちゃんに用はないと思うけど。
そのままアロンは、へらへらしながら俺たちを先導する。よくわからないが、非常にご機嫌らしい。道中も、「今日は天気が悪いですね。セドリックが目に見えてやる気を失っていましたよ。まぁ、あの人は普段からやる気はありませんが」と、ずっと喋っている。
なんだか、いつにも増してハイテンションである。
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