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16歳
466 お断りしといて
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「オーガス兄様ぁ!」
「ちょっ、そんな大声出さなくても聞こえてるって」
ティアンと別れて、再び暇になった俺は綿毛ちゃんと共にオーガス兄様のもとを訪れていた。「そろそろお部屋に戻ってくださいね」と、ティアンがうるさかったので、兄様の部屋に遊びに来たというわけである。
ノックもそこそこに飛び込めば、執務机でうとうとしていた兄様が、はっと顔を上げた。目を擦って、俺を確認するなり文句を言ってくる。いつものオーガス兄様である。
「兄様。寝てた?」
「寝てないよ。仕事してたんです」
「嘘だな」
『嘘だなぁ』
綿毛ちゃんと一緒ににやにやすれば、オーガス兄様は気まずそうに視線をあらぬ方向へと向けた。
やっぱり寝ていたらしい。
なんとか誤魔化そうと試みる兄様は、「そういえば、ニックはどこに行ったんだろう」ときょろきょろし始める。
「ニックなら、騎士棟にいたよ。セドリックのこと追いかけるのに忙しそうだった」
「またかよ」
それきり言葉を失う兄様は、ニックの奇行に飽き飽きしているらしい。オーガス兄様、可哀想。ビシッと注意すればいいのに。
「それで? ルイスは何してるの?」
「綿毛ちゃんのお散歩。この犬、最近太ったから」
『太ってないもん!』
綿毛ちゃんは、俺の目を盗んではお菓子を食べている。近頃は、アロンの部屋に侵入してお酒も飲んでいるらしい。悪い犬だと思う。アロンもアロンで、面白がって綿毛ちゃんを飲み会に参加させてしまう。夜中にふと目が覚めて、隣に綿毛ちゃんがいないとがっかりする。代わりに猫を抱きしめて眠るが、ちょっぴり許せない。
綿毛ちゃんは常にへらへらしているから、誰とでも仲良くお喋りしてしまうのだ。
「アロンが綿毛ちゃんを奪ってくる」
少しの期待を込めて、オーガス兄様に告げ口してみる。
「ん? アロンって犬嫌いじゃなかったっけ?」
「動物は嫌いって言ってたよ。言ってたのに、綿毛ちゃんのこと奪ってくる」
『オレは別に奪われていませーん』
そうだな。綿毛ちゃんは、時折ベッドを抜け出してアロンの部屋にお邪魔しに行っているのだ。全てはこの毛玉が悪い。
「裏切り毛玉って呼んでやる」
『やめてぇ?』
綿毛ちゃんを執務机の上にのっけてやれば、オーガス兄様が遠慮なく撫ではじめる。綿毛ちゃんの角を気にしている兄様に、綿毛ちゃんがビビっている。
「……ティアンが」
「うん?」
思い出したように書類仕事を始めた兄様の手元を凝視する。迷うことなく動くペン先を追いながら口を開けば、兄様は一応耳を傾けてくれる。
「なんか、王立騎士団から引き抜きされてる」
ペンを止めた兄様は、「あー」と小さく呻いてしまう。その声は、なんだか心当たりがありそうな雰囲気だった。ラッセルもやって来たくらいだし、もしかしてうちにもそういう報告があったのかもしれない。
案の定、オーガス兄様は短く息を吐いた。
「エリックだよ。なんか突然さぁ。若手が足りないから寄越せとか言い始めて」
「お断りしといて!」
『しといてぇ!』
強めにお願いすれば、兄様は「はいはい」と笑ってしまう。なんで笑うんだ。俺は真剣なんだぞ。
「ティアンは俺のだから。エリックにはあげません!」
『せん!』
先程から俺の真似をしてくる綿毛ちゃんは、なんだか得意な顔だ。
目を瞬く兄様は、「そっか」と微笑ましいものでも見たような表情をする。
「ルイスはティアンのこと好きだね」
「ティアンは俺の子分」
「そこの関係性はもうちょっと考えてあげて」
意味不明なクレームを入れてくる兄様は、「子分じゃあ、ティアンが可哀想だよ」と言ってくる。なにが可哀想なんだ。ティアンは俺の護衛騎士だもん。すなわち俺の子分ってことだ。ティアンも、俺の我儘に付き合ってくれると言った。言ったよな?
「ケイシーどこ?」
せっかく兄様の部屋まで来たので、ケイシーに綿毛ちゃんを見せてあげようと思う。ケイシーはまだ小さいけど、綿毛ちゃんなら安心安全に遊べると思う。猫は気が強いので、ケイシー相手に猫パンチしそうでちょっと怖い。ケイシーがもうちょっと大きくなったら猫と遊ばせてあげようと思う。
「キャンベルと一緒だよ。でも多分お昼寝中だから、邪魔しないであげて?」
「ケイシー、寝てばっかりだな」
『赤ちゃんだから仕方ないよ』
わかったような口を利く綿毛ちゃんは、オーガス兄様の手を避けて俺の方に寄ってくる。
「オーガス兄様は、ニックと仲良し?」
「え? 仲良し? どうだろう。普通だと思うけど」
普通ってなんだろう。
ニックは、一見真面目に見えて、全然真面目じゃない。セドリックを理由に仕事をサボるし、口も悪い。アロンがクソ野郎なので目立たないが、ニックもそれなりにクソだと思う。
「仕事サボるなってニックに言った方がいいよ」
「言ってるんだけどね。なかなかね」
言うことを聞いてくれないニックに、オーガス兄様も困っているらしい。「どんまい」と励ましておけば、苦笑が返ってきた。
「じゃあ俺は忙しいから。エリックにちゃんと言っといてね! 絶対だよ!」
「はいはい」
いまいち頼りにならない兄様の反応に、俺と綿毛ちゃんはこっそりと顔を見合わせた。
「ちょっ、そんな大声出さなくても聞こえてるって」
ティアンと別れて、再び暇になった俺は綿毛ちゃんと共にオーガス兄様のもとを訪れていた。「そろそろお部屋に戻ってくださいね」と、ティアンがうるさかったので、兄様の部屋に遊びに来たというわけである。
ノックもそこそこに飛び込めば、執務机でうとうとしていた兄様が、はっと顔を上げた。目を擦って、俺を確認するなり文句を言ってくる。いつものオーガス兄様である。
「兄様。寝てた?」
「寝てないよ。仕事してたんです」
「嘘だな」
『嘘だなぁ』
綿毛ちゃんと一緒ににやにやすれば、オーガス兄様は気まずそうに視線をあらぬ方向へと向けた。
やっぱり寝ていたらしい。
なんとか誤魔化そうと試みる兄様は、「そういえば、ニックはどこに行ったんだろう」ときょろきょろし始める。
「ニックなら、騎士棟にいたよ。セドリックのこと追いかけるのに忙しそうだった」
「またかよ」
それきり言葉を失う兄様は、ニックの奇行に飽き飽きしているらしい。オーガス兄様、可哀想。ビシッと注意すればいいのに。
「それで? ルイスは何してるの?」
「綿毛ちゃんのお散歩。この犬、最近太ったから」
『太ってないもん!』
綿毛ちゃんは、俺の目を盗んではお菓子を食べている。近頃は、アロンの部屋に侵入してお酒も飲んでいるらしい。悪い犬だと思う。アロンもアロンで、面白がって綿毛ちゃんを飲み会に参加させてしまう。夜中にふと目が覚めて、隣に綿毛ちゃんがいないとがっかりする。代わりに猫を抱きしめて眠るが、ちょっぴり許せない。
綿毛ちゃんは常にへらへらしているから、誰とでも仲良くお喋りしてしまうのだ。
「アロンが綿毛ちゃんを奪ってくる」
少しの期待を込めて、オーガス兄様に告げ口してみる。
「ん? アロンって犬嫌いじゃなかったっけ?」
「動物は嫌いって言ってたよ。言ってたのに、綿毛ちゃんのこと奪ってくる」
『オレは別に奪われていませーん』
そうだな。綿毛ちゃんは、時折ベッドを抜け出してアロンの部屋にお邪魔しに行っているのだ。全てはこの毛玉が悪い。
「裏切り毛玉って呼んでやる」
『やめてぇ?』
綿毛ちゃんを執務机の上にのっけてやれば、オーガス兄様が遠慮なく撫ではじめる。綿毛ちゃんの角を気にしている兄様に、綿毛ちゃんがビビっている。
「……ティアンが」
「うん?」
思い出したように書類仕事を始めた兄様の手元を凝視する。迷うことなく動くペン先を追いながら口を開けば、兄様は一応耳を傾けてくれる。
「なんか、王立騎士団から引き抜きされてる」
ペンを止めた兄様は、「あー」と小さく呻いてしまう。その声は、なんだか心当たりがありそうな雰囲気だった。ラッセルもやって来たくらいだし、もしかしてうちにもそういう報告があったのかもしれない。
案の定、オーガス兄様は短く息を吐いた。
「エリックだよ。なんか突然さぁ。若手が足りないから寄越せとか言い始めて」
「お断りしといて!」
『しといてぇ!』
強めにお願いすれば、兄様は「はいはい」と笑ってしまう。なんで笑うんだ。俺は真剣なんだぞ。
「ティアンは俺のだから。エリックにはあげません!」
『せん!』
先程から俺の真似をしてくる綿毛ちゃんは、なんだか得意な顔だ。
目を瞬く兄様は、「そっか」と微笑ましいものでも見たような表情をする。
「ルイスはティアンのこと好きだね」
「ティアンは俺の子分」
「そこの関係性はもうちょっと考えてあげて」
意味不明なクレームを入れてくる兄様は、「子分じゃあ、ティアンが可哀想だよ」と言ってくる。なにが可哀想なんだ。ティアンは俺の護衛騎士だもん。すなわち俺の子分ってことだ。ティアンも、俺の我儘に付き合ってくれると言った。言ったよな?
「ケイシーどこ?」
せっかく兄様の部屋まで来たので、ケイシーに綿毛ちゃんを見せてあげようと思う。ケイシーはまだ小さいけど、綿毛ちゃんなら安心安全に遊べると思う。猫は気が強いので、ケイシー相手に猫パンチしそうでちょっと怖い。ケイシーがもうちょっと大きくなったら猫と遊ばせてあげようと思う。
「キャンベルと一緒だよ。でも多分お昼寝中だから、邪魔しないであげて?」
「ケイシー、寝てばっかりだな」
『赤ちゃんだから仕方ないよ』
わかったような口を利く綿毛ちゃんは、オーガス兄様の手を避けて俺の方に寄ってくる。
「オーガス兄様は、ニックと仲良し?」
「え? 仲良し? どうだろう。普通だと思うけど」
普通ってなんだろう。
ニックは、一見真面目に見えて、全然真面目じゃない。セドリックを理由に仕事をサボるし、口も悪い。アロンがクソ野郎なので目立たないが、ニックもそれなりにクソだと思う。
「仕事サボるなってニックに言った方がいいよ」
「言ってるんだけどね。なかなかね」
言うことを聞いてくれないニックに、オーガス兄様も困っているらしい。「どんまい」と励ましておけば、苦笑が返ってきた。
「じゃあ俺は忙しいから。エリックにちゃんと言っといてね! 絶対だよ!」
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いまいち頼りにならない兄様の反応に、俺と綿毛ちゃんはこっそりと顔を見合わせた。
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