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16歳
465 代わりに言ってあげる
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叙任式とは、一人前の騎士として認められるための儀式らしい。ティアンの話を聞く限りだと、なんだか成人式っぽい感じだ。
「ティアンはもう騎士やってるじゃん」
「それはそうですけど。正式な肩書はまだだったので」
「ふーん」
今現在、ティアンは厳密に言うと騎士見習い的な立場にいるらしい。正式に騎士の称号をもらえるのは、成人してからなのだという。
こいつ、これまで一人前みたいな顔で俺の隣に立っていたくせに。まだだったのか。こほんと咳払いで誤魔化すティアンは、心なしか気まずそうだった。これ以上突っ込むのはやめておいてあげよう。
だが、叙任式がお祝い事であることは理解した。騎士になって、大人になるってことだ。二重でおめでたい。お祝いしないと。
こっそりと張り切る俺だが、大人という単語にちょっぴり引っかかりを覚える。
「俺よりも先に大人になるのは、ずるいと思う。まだ待って」
「なにもずるくないですよ。意味のわからないことを言わないでください。待てるわけないでしょ」
両足を投げ出して、すっかりくつろぐ俺。「服、汚れますよ」と苦い顔をするティアン。ティアンだって座ってるもん。だから俺もいいのだと主張するのに、彼は「僕は汚れてもいい格好なので」と言い返してくる。
確かに、俺の服はあんまり派手に汚したらいけない感じだ。でも今更気をつけても手遅れだと思う。
「それで。なんでラッセルなの?」
叙任式とラッセルの関係がいまいち結び付かない。首を捻っていれば、ティアンが「あー、それは」と、なんだか口ごもってしまう。
「どこでやるかって話ですよ」
「どこでやるの?」
「どこがいいと思います?」
質問に質問で返してくるティアンは、どうやら悩んでいるらしい。そんなに選択肢があるのか?
ティアンによれば、騎士を目指す子たちは成人前から騎士団に属することが多いらしい。ティアンが通っていた学園も、十八になる前に卒業するような形だったもんな。
そのため、普通は成人した時点で属していた騎士団の君主が、叙任式を執り行うことになるらしい。
「……それって誰? ブルース兄様? オーガス兄様?」
うちの騎士団をまとめているのはブルース兄様だ。だが、ティアンは「違いますよ」と否定してくる。
「ヴィアン家の当主様ですよ。カーティス様です」
「なるほど。お父様かぁ」
お父様は、いまだにヴィアン家当主の座をオーガス兄様に譲っていない。オーガス兄様はそれでもいいみたいだけど、ブルース兄様が少しだけ不満そうにしている。ブルース兄様は、はやくオーガス兄様に跡を継いでもらいたいのだ。
そのため、叙任式もお父様のもとで行うらしい。
だが、ティアンにはもうひとつ選択肢があるらしい。
「その、王立騎士団から声をかけていただきまして」
「……」
それって、引き抜きってこと?
黙り込む俺に代わって、今まで沈黙していた綿毛ちゃんが口を開く。
『ティアンさんは、ここ辞めちゃうのぉ?』
「え」
面食らったような声を出すティアンは、「なんでそうなるんですか」と困惑している。なんでって。今、そんな感じの話をしていただろ。
『だって王立騎士団に行くか迷ってるんでしょ?』
どうなの? と興味津々の綿毛ちゃん。
正直、そこは俺も興味がある。
黙って耳を傾けていれば、ティアンが俺を見てくる。
「辞めませんよ。辞めるわけないです」
静かな声音だ。そっと顔を上げる。
「……本当に?」
「はい。本当に」
再度確認すれば、ティアンは悩むことなく答えを返してくる。
じゃあなにを悩んでいるのか。
ムスッとする俺に、ティアンは「悩んでいません」と変な断言をする。
悩んでないの? すごく迷っている雰囲気だったのに?
「そうじゃなくて。その、どう断ろうかと」
「あー、そっちか」
言いにくそうに視線を外すティアンに、俺はほっと胸を撫で下ろす。綿毛ちゃんも『なんだ、そっちかぁ』とお気楽そうに欠伸をしている。
「まさかラッセル殿が直々にやって来るなんて」
「どうせエリックが我儘言ってるんだよ。エリックはすごく自分勝手だから」
そんでもって、ラッセルは上に忖度するのが好きな人だ。ラッセルがエリックの言いなりになっていることなんて簡単に想像できる。
ティアンとしても、王立騎士団第一部隊の隊長にして学園時代の恩師でもあるラッセルの誘いを無下にもできないのだろう。板挟み状態なのか。理解した。
「はっきりお断りするべき!」
『するべき! するべき!』
悩むティアンにアドバイスすれば、綿毛ちゃんも面白がって尻尾を振り始める。
「俺が断ってあげる」
ティアンの口から言い出しにくいのであれば、俺がエリックに直接言ってやってもいい。エリックは、ちょっと強引なところがあるから。強引な奴には、こっちも強引な態度で行くべき。
「いいですよ。僕が自分で断りますから」
「そう?」
ティアンはそう言うが、なんだか不安。エリックの強引さは俺も知っている。ティアンが断りきれるのかちょっと不安。
疑いの目を向けてみるが、ティアンは軽く笑って「大丈夫ですよ」と手をあげる。
本当に大丈夫なのか? 流されたりしない?
「ティアンはもう騎士やってるじゃん」
「それはそうですけど。正式な肩書はまだだったので」
「ふーん」
今現在、ティアンは厳密に言うと騎士見習い的な立場にいるらしい。正式に騎士の称号をもらえるのは、成人してからなのだという。
こいつ、これまで一人前みたいな顔で俺の隣に立っていたくせに。まだだったのか。こほんと咳払いで誤魔化すティアンは、心なしか気まずそうだった。これ以上突っ込むのはやめておいてあげよう。
だが、叙任式がお祝い事であることは理解した。騎士になって、大人になるってことだ。二重でおめでたい。お祝いしないと。
こっそりと張り切る俺だが、大人という単語にちょっぴり引っかかりを覚える。
「俺よりも先に大人になるのは、ずるいと思う。まだ待って」
「なにもずるくないですよ。意味のわからないことを言わないでください。待てるわけないでしょ」
両足を投げ出して、すっかりくつろぐ俺。「服、汚れますよ」と苦い顔をするティアン。ティアンだって座ってるもん。だから俺もいいのだと主張するのに、彼は「僕は汚れてもいい格好なので」と言い返してくる。
確かに、俺の服はあんまり派手に汚したらいけない感じだ。でも今更気をつけても手遅れだと思う。
「それで。なんでラッセルなの?」
叙任式とラッセルの関係がいまいち結び付かない。首を捻っていれば、ティアンが「あー、それは」と、なんだか口ごもってしまう。
「どこでやるかって話ですよ」
「どこでやるの?」
「どこがいいと思います?」
質問に質問で返してくるティアンは、どうやら悩んでいるらしい。そんなに選択肢があるのか?
ティアンによれば、騎士を目指す子たちは成人前から騎士団に属することが多いらしい。ティアンが通っていた学園も、十八になる前に卒業するような形だったもんな。
そのため、普通は成人した時点で属していた騎士団の君主が、叙任式を執り行うことになるらしい。
「……それって誰? ブルース兄様? オーガス兄様?」
うちの騎士団をまとめているのはブルース兄様だ。だが、ティアンは「違いますよ」と否定してくる。
「ヴィアン家の当主様ですよ。カーティス様です」
「なるほど。お父様かぁ」
お父様は、いまだにヴィアン家当主の座をオーガス兄様に譲っていない。オーガス兄様はそれでもいいみたいだけど、ブルース兄様が少しだけ不満そうにしている。ブルース兄様は、はやくオーガス兄様に跡を継いでもらいたいのだ。
そのため、叙任式もお父様のもとで行うらしい。
だが、ティアンにはもうひとつ選択肢があるらしい。
「その、王立騎士団から声をかけていただきまして」
「……」
それって、引き抜きってこと?
黙り込む俺に代わって、今まで沈黙していた綿毛ちゃんが口を開く。
『ティアンさんは、ここ辞めちゃうのぉ?』
「え」
面食らったような声を出すティアンは、「なんでそうなるんですか」と困惑している。なんでって。今、そんな感じの話をしていただろ。
『だって王立騎士団に行くか迷ってるんでしょ?』
どうなの? と興味津々の綿毛ちゃん。
正直、そこは俺も興味がある。
黙って耳を傾けていれば、ティアンが俺を見てくる。
「辞めませんよ。辞めるわけないです」
静かな声音だ。そっと顔を上げる。
「……本当に?」
「はい。本当に」
再度確認すれば、ティアンは悩むことなく答えを返してくる。
じゃあなにを悩んでいるのか。
ムスッとする俺に、ティアンは「悩んでいません」と変な断言をする。
悩んでないの? すごく迷っている雰囲気だったのに?
「そうじゃなくて。その、どう断ろうかと」
「あー、そっちか」
言いにくそうに視線を外すティアンに、俺はほっと胸を撫で下ろす。綿毛ちゃんも『なんだ、そっちかぁ』とお気楽そうに欠伸をしている。
「まさかラッセル殿が直々にやって来るなんて」
「どうせエリックが我儘言ってるんだよ。エリックはすごく自分勝手だから」
そんでもって、ラッセルは上に忖度するのが好きな人だ。ラッセルがエリックの言いなりになっていることなんて簡単に想像できる。
ティアンとしても、王立騎士団第一部隊の隊長にして学園時代の恩師でもあるラッセルの誘いを無下にもできないのだろう。板挟み状態なのか。理解した。
「はっきりお断りするべき!」
『するべき! するべき!』
悩むティアンにアドバイスすれば、綿毛ちゃんも面白がって尻尾を振り始める。
「俺が断ってあげる」
ティアンの口から言い出しにくいのであれば、俺がエリックに直接言ってやってもいい。エリックは、ちょっと強引なところがあるから。強引な奴には、こっちも強引な態度で行くべき。
「いいですよ。僕が自分で断りますから」
「そう?」
ティアンはそう言うが、なんだか不安。エリックの強引さは俺も知っている。ティアンが断りきれるのかちょっと不安。
疑いの目を向けてみるが、ティアンは軽く笑って「大丈夫ですよ」と手をあげる。
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