冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話

岩永みやび

文字の大きさ
上 下
500 / 637
16歳

465 代わりに言ってあげる

しおりを挟む
 叙任式とは、一人前の騎士として認められるための儀式らしい。ティアンの話を聞く限りだと、なんだか成人式っぽい感じだ。

「ティアンはもう騎士やってるじゃん」
「それはそうですけど。正式な肩書はまだだったので」
「ふーん」

 今現在、ティアンは厳密に言うと騎士見習い的な立場にいるらしい。正式に騎士の称号をもらえるのは、成人してからなのだという。

 こいつ、これまで一人前みたいな顔で俺の隣に立っていたくせに。まだだったのか。こほんと咳払いで誤魔化すティアンは、心なしか気まずそうだった。これ以上突っ込むのはやめておいてあげよう。

 だが、叙任式がお祝い事であることは理解した。騎士になって、大人になるってことだ。二重でおめでたい。お祝いしないと。

 こっそりと張り切る俺だが、大人という単語にちょっぴり引っかかりを覚える。

「俺よりも先に大人になるのは、ずるいと思う。まだ待って」
「なにもずるくないですよ。意味のわからないことを言わないでください。待てるわけないでしょ」

 両足を投げ出して、すっかりくつろぐ俺。「服、汚れますよ」と苦い顔をするティアン。ティアンだって座ってるもん。だから俺もいいのだと主張するのに、彼は「僕は汚れてもいい格好なので」と言い返してくる。

 確かに、俺の服はあんまり派手に汚したらいけない感じだ。でも今更気をつけても手遅れだと思う。

「それで。なんでラッセルなの?」

 叙任式とラッセルの関係がいまいち結び付かない。首を捻っていれば、ティアンが「あー、それは」と、なんだか口ごもってしまう。

「どこでやるかって話ですよ」
「どこでやるの?」
「どこがいいと思います?」

 質問に質問で返してくるティアンは、どうやら悩んでいるらしい。そんなに選択肢があるのか?

 ティアンによれば、騎士を目指す子たちは成人前から騎士団に属することが多いらしい。ティアンが通っていた学園も、十八になる前に卒業するような形だったもんな。

 そのため、普通は成人した時点で属していた騎士団の君主が、叙任式を執り行うことになるらしい。

「……それって誰? ブルース兄様? オーガス兄様?」

 うちの騎士団をまとめているのはブルース兄様だ。だが、ティアンは「違いますよ」と否定してくる。

「ヴィアン家の当主様ですよ。カーティス様です」
「なるほど。お父様かぁ」

 お父様は、いまだにヴィアン家当主の座をオーガス兄様に譲っていない。オーガス兄様はそれでもいいみたいだけど、ブルース兄様が少しだけ不満そうにしている。ブルース兄様は、はやくオーガス兄様に跡を継いでもらいたいのだ。

 そのため、叙任式もお父様のもとで行うらしい。
 だが、ティアンにはもうひとつ選択肢があるらしい。

「その、王立騎士団から声をかけていただきまして」
「……」

 それって、引き抜きってこと?
 黙り込む俺に代わって、今まで沈黙していた綿毛ちゃんが口を開く。

『ティアンさんは、ここ辞めちゃうのぉ?』
「え」

 面食らったような声を出すティアンは、「なんでそうなるんですか」と困惑している。なんでって。今、そんな感じの話をしていただろ。

『だって王立騎士団に行くか迷ってるんでしょ?』

 どうなの? と興味津々の綿毛ちゃん。
 正直、そこは俺も興味がある。

 黙って耳を傾けていれば、ティアンが俺を見てくる。

「辞めませんよ。辞めるわけないです」

 静かな声音だ。そっと顔を上げる。

「……本当に?」
「はい。本当に」

 再度確認すれば、ティアンは悩むことなく答えを返してくる。

 じゃあなにを悩んでいるのか。
 ムスッとする俺に、ティアンは「悩んでいません」と変な断言をする。

 悩んでないの? すごく迷っている雰囲気だったのに?

「そうじゃなくて。その、どう断ろうかと」
「あー、そっちか」

 言いにくそうに視線を外すティアンに、俺はほっと胸を撫で下ろす。綿毛ちゃんも『なんだ、そっちかぁ』とお気楽そうに欠伸をしている。

「まさかラッセル殿が直々にやって来るなんて」
「どうせエリックが我儘言ってるんだよ。エリックはすごく自分勝手だから」

 そんでもって、ラッセルは上に忖度するのが好きな人だ。ラッセルがエリックの言いなりになっていることなんて簡単に想像できる。

 ティアンとしても、王立騎士団第一部隊の隊長にして学園時代の恩師でもあるラッセルの誘いを無下にもできないのだろう。板挟み状態なのか。理解した。

「はっきりお断りするべき!」
『するべき! するべき!』

 悩むティアンにアドバイスすれば、綿毛ちゃんも面白がって尻尾を振り始める。

「俺が断ってあげる」

 ティアンの口から言い出しにくいのであれば、俺がエリックに直接言ってやってもいい。エリックは、ちょっと強引なところがあるから。強引な奴には、こっちも強引な態度で行くべき。

「いいですよ。僕が自分で断りますから」
「そう?」

 ティアンはそう言うが、なんだか不安。エリックの強引さは俺も知っている。ティアンが断りきれるのかちょっと不安。

 疑いの目を向けてみるが、ティアンは軽く笑って「大丈夫ですよ」と手をあげる。

 本当に大丈夫なのか? 流されたりしない?
しおりを挟む
感想 448

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ
BL
 国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。  フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。  生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした

和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。 そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。 * 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵 * 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

愛する人

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」 応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。 三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。 『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。

神子の余分

朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。 おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

処理中です...