490 / 653
16歳
456 弟ですか?
しおりを挟む
ベッドに寝転んでジェフリーと他愛もない話をする。俺のくだらない話にも、いちいち真面目に相槌を返してくれるジェフリーは、どうやら猫の方を気に入ったらしい。ずっとエリスちゃんの背中を撫でている。エリスちゃんは、基本的にはおとなしい猫だ。綿毛ちゃん相手だと途端に強気になるだけで、普段はのんびりしている。
はやくも寝ているらしいエリスちゃんの背中を懸命に撫でているジェフリーは、ちらちらと俺に視線を向けている。なにか言いたいことがあるらしい。しかし、「なに?」と問いかけても、「いえ、なんでも」という素っ気ない答えしか返ってこない。
絶対になんでもなくない。だが、ジェフリーを相手にすると強く問いただせない。なんだか泣いてしまいそうだからだ。
ジェフリーは、昔に比べて強くなったように見えるけど、そうでもないらしい。
「デニスと仲良くやってる?」
「あ、はい。それなりに」
「ふーん?」
それなりってなんだろうか。
ジェフリーいわく、あまりデニスと会話する機会がないらしい。そんなことある? と一瞬だけ疑問に思ったが、俺だってお父様と会話する機会は少ない。でもお父様とは仲良しだ。余裕のある時には俺とも遊んでくれるし、お父様が遠くへ出かけた時にはお土産だって買ってきてくれる。
デニスともそんな感じなのだろうか? と考えるも、そうは見えない。
もともとデニスは我儘な性格だ。ひとりっ子だったしね。弟の面倒を積極的にみるような奴ではないのだ。
兄弟の話でも続けようかと思ったが、ジェフリーがあまり乗り気ではないのでやめた。ここで俺がユリスの話をしても、ジェフリーは嫌な気分になるかもしれない。
代わりに、なにか楽しい話題はないだろうかと考える。
ジェフリーとは何度も遊んだはずなのに、これといって話題が出てこない。そういえば、ジェフリーはいつも俺の話を一生懸命に聞くだけで、あまり自分の話をしない。これまでは、複雑な生い立ちだし積極的に話したいようなことがないのかもしれないと納得していたが、それにしても自分のことを語らない。俺がジェフリーについて知っているのは、母親が亡くなってアーキア公爵家に引きとられたこととか、読書が好きってこととか、母親が焼いてくれていたパンが好きだとか。それくらいだ。
それ以上の深いところについて、ジェフリーは語ってくれない。
そろそろ話題も尽きてきたし、寝ようと思う。明かりを消してもいいかとジェフリーを見れば、彼は小さく息を呑んだ。そのなにかを決意するかのような表情に、俺は自然と動きを止める。
「ジェフリー? どうしたの」
小声で呼びかけると、ベッドに座っていたジェフリーが俺を振り返る。
「? 寝る?」
ベッドのスペースを空けてやれば、エリスちゃんから手を離したジェフリーが、無言で隣にやってくる。そのまま俺の隣に寝転ぶと思っていたジェフリーだが、ここで予想外の行動をとった。
「え?」
なぜかこちらに近寄ってくるジェフリーは、俺の両肩に手を置くと、押し倒すようにしてベッドに転がった。当然のように巻き込まれた俺も、一緒にベッドに転がる。
「……ジェフリー?」
きょとんと目を瞬く俺。ベッドに仰向けになる俺の上に、ジェフリーが覆いかぶさっている形だ。軽く肩を押してみるが、ジェフリーが退いてくれる気配はない。
ここまで無言を貫くジェフリーのことが、なんだか怖いと思ってしまう。反射的に綿毛ちゃんを探して視線を彷徨わせるが、横たわったままでは上手く探せない。
「ジェフリー。どうしたの?」
とりあえず、優しく語りかけてみる。
それが功を奏したのかは不明だが、ようやくジェフリーが小さく口を開いた。
「僕は、ルイス様のなんですか」
「ん?」
「弟ですか?」
なんだか怒ったような声音に、今度は俺の方が口を閉ざす。これまでのどこか弱々しい雰囲気が消え失せて、知らない人みたいだ。
「僕はルイス様の弟じゃありません。弟扱いはやめてください」
きっぱりとした言葉に、動きを止める。
ジェフリーは、確かに俺の弟ではない。でもジェフリーの言う通り、ずっと弟だと思って接してきた。俺はそれで楽しかったし、ジェフリーも楽しそうだと思っていたのに。
「ご、ごめん」
言ってから、ジェフリーには謝ってばかりだなと思った。
前は、俺がティアンと間違えたことにジェフリーが泣いてしまった。それでごめんねと謝ったことはよく覚えている。
ジェフリーとはうまくやっているつもりだったのに、そうでもなかったらしい。そもそもジェフリーは、自分の考えをあまり主張しないのでわからなかった。いや、本当はちょっぴりわかっていた。
ジェフリーは俺のことが好きだと言っていた。そうであれば、もしかしたら弟扱いは嫌かもしれないと予想できたのに。俺はそれを考えないようにしていた。ジェフリーの存在を、自分に都合の良いように扱っていたかもしれない。
「ごめんね」
再度謝罪すれば、ジェフリーがぎゅっと眉間に力を入れる。だがそれは、いつもの泣きそうな顔ではなく、怒っているような顔であった。
「ルイス様の弟になりたいわけじゃないです」
「うん」
ジェフリーの頬に手を伸ばす。そっと添えれば、ジェフリーがくしゃっと顔を歪める。その表情があまりにも見慣れないものだったので、俺は再び「ごめんね」と眉尻を下げた。
はやくも寝ているらしいエリスちゃんの背中を懸命に撫でているジェフリーは、ちらちらと俺に視線を向けている。なにか言いたいことがあるらしい。しかし、「なに?」と問いかけても、「いえ、なんでも」という素っ気ない答えしか返ってこない。
絶対になんでもなくない。だが、ジェフリーを相手にすると強く問いただせない。なんだか泣いてしまいそうだからだ。
ジェフリーは、昔に比べて強くなったように見えるけど、そうでもないらしい。
「デニスと仲良くやってる?」
「あ、はい。それなりに」
「ふーん?」
それなりってなんだろうか。
ジェフリーいわく、あまりデニスと会話する機会がないらしい。そんなことある? と一瞬だけ疑問に思ったが、俺だってお父様と会話する機会は少ない。でもお父様とは仲良しだ。余裕のある時には俺とも遊んでくれるし、お父様が遠くへ出かけた時にはお土産だって買ってきてくれる。
デニスともそんな感じなのだろうか? と考えるも、そうは見えない。
もともとデニスは我儘な性格だ。ひとりっ子だったしね。弟の面倒を積極的にみるような奴ではないのだ。
兄弟の話でも続けようかと思ったが、ジェフリーがあまり乗り気ではないのでやめた。ここで俺がユリスの話をしても、ジェフリーは嫌な気分になるかもしれない。
代わりに、なにか楽しい話題はないだろうかと考える。
ジェフリーとは何度も遊んだはずなのに、これといって話題が出てこない。そういえば、ジェフリーはいつも俺の話を一生懸命に聞くだけで、あまり自分の話をしない。これまでは、複雑な生い立ちだし積極的に話したいようなことがないのかもしれないと納得していたが、それにしても自分のことを語らない。俺がジェフリーについて知っているのは、母親が亡くなってアーキア公爵家に引きとられたこととか、読書が好きってこととか、母親が焼いてくれていたパンが好きだとか。それくらいだ。
それ以上の深いところについて、ジェフリーは語ってくれない。
そろそろ話題も尽きてきたし、寝ようと思う。明かりを消してもいいかとジェフリーを見れば、彼は小さく息を呑んだ。そのなにかを決意するかのような表情に、俺は自然と動きを止める。
「ジェフリー? どうしたの」
小声で呼びかけると、ベッドに座っていたジェフリーが俺を振り返る。
「? 寝る?」
ベッドのスペースを空けてやれば、エリスちゃんから手を離したジェフリーが、無言で隣にやってくる。そのまま俺の隣に寝転ぶと思っていたジェフリーだが、ここで予想外の行動をとった。
「え?」
なぜかこちらに近寄ってくるジェフリーは、俺の両肩に手を置くと、押し倒すようにしてベッドに転がった。当然のように巻き込まれた俺も、一緒にベッドに転がる。
「……ジェフリー?」
きょとんと目を瞬く俺。ベッドに仰向けになる俺の上に、ジェフリーが覆いかぶさっている形だ。軽く肩を押してみるが、ジェフリーが退いてくれる気配はない。
ここまで無言を貫くジェフリーのことが、なんだか怖いと思ってしまう。反射的に綿毛ちゃんを探して視線を彷徨わせるが、横たわったままでは上手く探せない。
「ジェフリー。どうしたの?」
とりあえず、優しく語りかけてみる。
それが功を奏したのかは不明だが、ようやくジェフリーが小さく口を開いた。
「僕は、ルイス様のなんですか」
「ん?」
「弟ですか?」
なんだか怒ったような声音に、今度は俺の方が口を閉ざす。これまでのどこか弱々しい雰囲気が消え失せて、知らない人みたいだ。
「僕はルイス様の弟じゃありません。弟扱いはやめてください」
きっぱりとした言葉に、動きを止める。
ジェフリーは、確かに俺の弟ではない。でもジェフリーの言う通り、ずっと弟だと思って接してきた。俺はそれで楽しかったし、ジェフリーも楽しそうだと思っていたのに。
「ご、ごめん」
言ってから、ジェフリーには謝ってばかりだなと思った。
前は、俺がティアンと間違えたことにジェフリーが泣いてしまった。それでごめんねと謝ったことはよく覚えている。
ジェフリーとはうまくやっているつもりだったのに、そうでもなかったらしい。そもそもジェフリーは、自分の考えをあまり主張しないのでわからなかった。いや、本当はちょっぴりわかっていた。
ジェフリーは俺のことが好きだと言っていた。そうであれば、もしかしたら弟扱いは嫌かもしれないと予想できたのに。俺はそれを考えないようにしていた。ジェフリーの存在を、自分に都合の良いように扱っていたかもしれない。
「ごめんね」
再度謝罪すれば、ジェフリーがぎゅっと眉間に力を入れる。だがそれは、いつもの泣きそうな顔ではなく、怒っているような顔であった。
「ルイス様の弟になりたいわけじゃないです」
「うん」
ジェフリーの頬に手を伸ばす。そっと添えれば、ジェフリーがくしゃっと顔を歪める。その表情があまりにも見慣れないものだったので、俺は再び「ごめんね」と眉尻を下げた。
889
お気に入りに追加
3,165
あなたにおすすめの小説
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

幸せになりたかった話
幡谷ナツキ
BL
このまま幸せでいたかった。
このまま幸せになりたかった。
このまま幸せにしたかった。
けれど、まあ、それと全部置いておいて。
「苦労もいつかは笑い話になるかもね」
そんな未来を想像して、一歩踏み出そうじゃないか。
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく
七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。
忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。
学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。
しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー…
認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
全17話
2/28 番外編を更新しました

αからΩになった俺が幸せを掴むまで
なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。
10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。
義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。
アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。
義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が…
義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。
そんな海里が本当の幸せを掴むまで…
【本編完結】再び巡り合う時 ~転生オメガバース~
一ノ瀬麻紀
BL
僕は、些細な喧嘩で事故にあい、恋人を失ってしまった。
後を追うことも許されない中、偶然女の子を助け僕もこの世を去った。
目を覚ますとそこは、ファンタジーの物語に出てくるような部屋だった。
気付いたら僕は、前世の記憶を持ったまま、双子の兄に転生していた。
街で迷子になった僕たちは、とある少年に助けられた。
僕は、初めて会ったのに、初めてではない不思議な感覚に包まれていた。
そこから交流が始まり、前世の恋人に思いを馳せつつも、少年に心惹かれていく自分に戸惑う。
それでも、前世では味わえなかった平和な日々に、幸せを感じていた。
けれど、その幸せは長くは続かなかった。
前世でオメガだった僕は、転生後の世界でも、オメガだと判明した。
そこから、僕の人生は大きく変化していく。
オメガという性に振り回されながらも、前を向いて懸命に人生を歩んでいく。転生後も、再会を信じる僕たちの物語。
✤✤✤
ハピエンです。Rシーンなしの全年齢BLです。
11/23(土)19:30に完結しました。
番外編も追加しました。
第12回BL大賞 参加作品です。
よろしくお願いします。

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど
野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。
愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。
それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。
ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。
イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?!
□■
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
□■
第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる