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16歳

455 なんでもいい

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「綿毛ちゃん。みんなに内緒でお菓子とジュース持ってきて」
『無理だよぉ。オレ、ジュース持てない』
「人間になって」
『嫌だよぉ。面倒くさい』

 ぐだぐだ言う綿毛ちゃんは、床にべたっと伏せたまま動く気配がない。最近の綿毛ちゃんは我儘だ。

 ジェフリーとデニスがお泊まりすることになり、ユリスは露骨に疲れた表情をしていた。今頃、デニスと楽しくお喋りでもしているのだろう。あのふたりが普段どんな会話をしているのか。ちょっと想像できない。おそらく、デニスが一方的に話しかけて、ユリスは適当に聞き流しているのだろう。

 ジェフリーは、客室にこもったまま出てこない。ジェフリーが泊まりたいと言い出したのに、どういうことだろうか。一度、客室まで足を運んで声をかけたのだが、なんだか渋い反応が返ってきた。

 そんなわけで、俺は自室にて綿毛ちゃんとお喋りしていた。そろそろ寝る時間なので、ジャンとティアンも引き上げてしまった。様子を確認しに来たらしいアロンも、ジェフリーが客室に引きこもっていると知って満足そうに帰って行った。

 一体なんなのか。

 ジェフリーの行動が理解できずに、猫を抱えて綿毛ちゃんの前に連れて行く。

「綿毛ちゃん。猫と勝負しろ」
『しないよ?』

 逃げの姿勢をみせる綿毛ちゃんに、猫を押しやる。「行け、エリスちゃん!」と猫の背中を押すと、エリスちゃんがゆっくりと前足をあげて綿毛ちゃんに狙いを定めている。

『こっわ。仲良くしようよぉ』

 猫にビビる綿毛ちゃんは、そろそろと後ろにさがる。綿毛ちゃんは猫と同じくらいの大きさだけど、猫との意思疎通はできないらしい。『だってオレは人間によって作り出された生き物だもん。人間にもわからない猫の言葉なんて、オレにわかるわけないよ』というのが綿毛ちゃんの言い分だ。

 逃げる犬を、猫と一緒に追いかける。『やめてぇ』と情けない声を出す犬は、とことこ短い足で走りまわる。

 そうして静かに追いかけっこをしていると、ドアが控えめにノックされた。

「ジェフリーだ」

 弱々しく、遠慮していることが伝わってくるそれは、ジェフリーに違いない。

 急いで開けてやれば、案の定。
 なんだか困った顔をしているジェフリーがいた。

「なにしてたの? ずっと待ってたのに」

 どうぞとドアを開け放てば、ジェフリーが中の様子を窺うように首を伸ばす。

「あの、ルイス様だけですか?」
「うん。もう遅いからね。犬と猫ならいるけど」

 いまだに綿毛ちゃんを追いまわしている猫を、ジェフリーが興味ありそうに目で追っている。ジェフリーは、動物好きだと思う。怖がってあまりベタベタ触らないけど、いつも目で追っている。

 綿毛ちゃんなら安全に触れる。姿は犬だけど、人間にも化けられる。噛んだりしない。「触る?」と訊ねてみれば、寝巻き姿のジェフリーがおずおずと部屋に入ってくる。

 その際、アロンに「一緒に寝たらダメですよ!」と強めに言われていたことを唐突に思い出した。

 少し考えてみるが、ジェフリーはまだ十四歳である。それに成長したとはいえ、まだ弱々しい表情の時も多い。たまにちょっぴり強気な態度もみせるが、基本的にはまだ子どもだ。俺の背中に隠れることも多い。そういう時、俺はジェフリーのことを守ってやらねばという気持ちになるのだ。

 今だって、自信なさそうに佇んでいるジェフリーに、そわそわとした気分になる。そっと手をとって、部屋の中に連れていく。暴れる犬を抱えて、差し出してやる。

「犬は噛まないから大丈夫だよ」
「は、はい」

 弾かれたように顔を上げたジェフリーは、俺の抱える綿毛ちゃんに手を伸ばす。そうしてゆっくり背中を撫でる彼は、綿毛ちゃんが振り向くたびにビクッと手を離している。

 そうしてしばらくは犬を撫でて遊んでいたのだが、ジェフリーが飽きてきたようなので綿毛ちゃんを解放してやる。あと、あんまり触らせると角がバレてしまう。とはいえ、ジェフリーは結構なんでも受け入れそうな性格なので、綿毛ちゃんの角がバレてもそんなに騒がれないような気もする。

 本当はこのままお菓子パーティーでもやったら楽しいのに、ティアンに怒られそうなので諦めた。何度かこっそり厨房に行こうとしたのに、ことごとく邪魔されたのだ。

 なにかジェフリーが興味を持ちそうなものはないかと視線を走らせるが、特に目新しいものはない。ジェフリーは読書好きだが、今から読書するのは楽しくない。一緒に遊べるものがいい。

 戸棚を確認するが、やはり面白い物はない。ユリスの部屋には、見たこともないような変な物が転がっている。魔法に関連する物もあれば、魔法とはまったく関係のない物もある。昔からユリスには変な収集癖がある。だからユリスの部屋に行けば面白い物があるだろうけど、今はデニスがいる。俺が訪れれば、邪険にされるのが目に見えている。

「ジェフリー。なにしたい?」

 結局ジェフリーに質問すれば、彼は「なんでも」と曖昧に言葉を濁す。

「僕は、ルイス様と一緒に居られればなんでもいいです」
「そう?」

 なんだか照れるな。
 首に手をやって、へへっと笑う。

「じゃあ、お喋りでもする?」

 もう遅い時間だ。無理に遊ぶ必要はないな。
 ジェフリーの手を引いて、ベッドに腰掛ける。すかさず綿毛ちゃんと猫も駆け寄ってきた。
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