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16歳
453 不満な綿毛ちゃん
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その後も変な空気がしばらく続いたが、アロンの不在に気がついたブルース兄様の突入により終わりを迎えた。
「なんなんだ、おまえは。毎度仕事を抜け出して」
「毎度ってほどでもないですよ」
明らかに怒っているブルース兄様相手に、アロンは悪びれもせずにへらへらと笑っている。その足元では、綿毛ちゃんもなぜかへらへらしている。この毛玉は、たぶん場の雰囲気で笑っている。
眉間に皺を寄せる兄様は、腕を組んで難しい顔。どうでもいいけど、自分たちの部屋でやってくれないかな。なんで俺の部屋で喧嘩するんだろうか。ジャンが青い顔してるじゃないか。
「俺にはルイス様を見守るという大事な仕事があるので」
「それはティアンとジャンの仕事だろ」
「今日から俺の仕事ってことにしてもいいですか」
「いいわけないだろ」
苛々しているブルース兄様は、アロンのことを睨みつけている。俺の背中に隠れるジェフリーは、ブルース兄様の迫力にビビっているのだ。ブルース兄様は顔が怖いもんね。昔はよくキャンベルにも怖がられていた。だが、当の兄様には自分の顔が怖いという自覚があまりないようでひたすら困惑していた。
だが最近ではようやく慣れたらしく、ブルース兄様と鉢合わせしても平気な顔をしている。キャンベルは、ケイシーが生まれてからちょっと強くなった。オーガス兄様に面と向かって色々文句を言っている場面もたまに目撃する。オーガス兄様は、相変わらず頼りないパパをやっている。しゅんと肩を落としている姿をよくみる。一方のブルース兄様は、キャンベルが強気になったことを喜んでいる。ブルース兄様は、もともとキャンベルの気弱な性格を随分と心配していたから。
ジェフリーはまだブルース兄様のことが怖いらしいので、俺が守ってやろうと思う。俺の背中に遠慮がちに手を添えているジェフリーは、ちらちらとブルース兄様を確認している。気持ちはわかる。眉間に皺の寄った兄様は、近寄り難い雰囲気だもん。俺も兄様のことをよく知らなければ、怖い人だなと思ってしまうだろう。
「ブルース兄様。ジェフリーがビビってるから帰って。自分の部屋でやりなよ」
「はぁ?」
ジェフリーを守るべく声を上げる。怪訝な顔をしたブルース兄様であったが、俺の背後でビクッと肩を揺らすジェフリーを見て露骨に頬を引き攣らせた。ジェフリーに怖がられていることがショックなのだろう。そのまま小さく「そ、そうか」とあっさり引き下がってしまった。
ぶつぶつ文句を言っているアロンを引き連れて、ブルース兄様が退出する。パタンと閉じたドアを眺めて、ようやくジェフリーが俺の背中から離れた。
「ごめんね。ブルース兄様の顔が怖いばかりに」
「い、いえ」
ふるふると首を左右に振るジェフリーは、「あの」とか細い声を出す。
「もしかして、僕。アロンさんに嫌われてます?」
「あー。えっと、それはね」
なんて答えよう。たぶん、ジェフリーの感じている通りだと思う。だが、これはジェフリーが悪いわけではない。アロンは、基本的にみんなのことが嫌いなのだ。そういう人間なのだ。だからジェフリーが気にしても無駄だろう。
「アロンのことは気にしなくていいよ。いつもあんな感じだから」
ひらひらと手を振って大丈夫と伝えてみるが、ジェフリーは「そうですか?」とアロンが気になる様子だ。まぁ、見知らぬ大人から露骨に敵意を向けられたら普通は気にしちゃうよね。大丈夫だよね? とティアンの意見も聞いてみれば、彼は「大丈夫ですよ、放っておいて」と俺と同意見。だよね。ジャンも控えめに頷いている。
「あの、ルイス様」
「どうしたの?」
変な顔をしている綿毛ちゃんの頭を撫でていれば、ジェフリーが自信なさそうに俺の袖を引いた。
「今日、泊まってもいいですか」
「いいよ」
即答すれば、ジェフリーが安堵をみせる。断る理由もないからな。だが、綿毛ちゃんが不満そうな顔をした。
『わん! わんわーん!』
ものすごくわざとらしい鳴き真似をしてみせる綿毛ちゃんに、俺は慌てる。どう聞いても犬っぽくない。人間が喋っているみたいな声である。「静かにして!」と口を塞ぐが、綿毛ちゃんはしつこい。俺振り払って、再びわんわん言い始める。
「変な鳴き方するの、この犬」
ジェフリーに言い訳すれば、彼はきょとんとした顔である。
『わんわん!』
「うるさい!」
綿毛ちゃんの頭をぺしっと叩いてやるが、毛玉は黙らない。ティアンも横から手を伸ばして、綿毛ちゃんの説得にかかるが、無意味である。
焦れた俺は、綿毛ちゃんをジャンに押し付けた。押し付けられたジャンが、大慌てで部屋を出ていく。
「あれは変な犬なの。気にしないで」
「はい」
案外物分かりのいいジェフリーは、「わかりました」と言ったきり綿毛ちゃんの件には触れない。助かった。
おそらく、綿毛ちゃんはジェフリーがうちにお泊まりするのが嫌なのだ。お喋り好きの犬である。夜まで黙っておくのが耐えられないのだろう。悪いとは思うけど、綿毛ちゃんは俺のペットだし。一日くらい我慢してほしい。
「なんなんだ、おまえは。毎度仕事を抜け出して」
「毎度ってほどでもないですよ」
明らかに怒っているブルース兄様相手に、アロンは悪びれもせずにへらへらと笑っている。その足元では、綿毛ちゃんもなぜかへらへらしている。この毛玉は、たぶん場の雰囲気で笑っている。
眉間に皺を寄せる兄様は、腕を組んで難しい顔。どうでもいいけど、自分たちの部屋でやってくれないかな。なんで俺の部屋で喧嘩するんだろうか。ジャンが青い顔してるじゃないか。
「俺にはルイス様を見守るという大事な仕事があるので」
「それはティアンとジャンの仕事だろ」
「今日から俺の仕事ってことにしてもいいですか」
「いいわけないだろ」
苛々しているブルース兄様は、アロンのことを睨みつけている。俺の背中に隠れるジェフリーは、ブルース兄様の迫力にビビっているのだ。ブルース兄様は顔が怖いもんね。昔はよくキャンベルにも怖がられていた。だが、当の兄様には自分の顔が怖いという自覚があまりないようでひたすら困惑していた。
だが最近ではようやく慣れたらしく、ブルース兄様と鉢合わせしても平気な顔をしている。キャンベルは、ケイシーが生まれてからちょっと強くなった。オーガス兄様に面と向かって色々文句を言っている場面もたまに目撃する。オーガス兄様は、相変わらず頼りないパパをやっている。しゅんと肩を落としている姿をよくみる。一方のブルース兄様は、キャンベルが強気になったことを喜んでいる。ブルース兄様は、もともとキャンベルの気弱な性格を随分と心配していたから。
ジェフリーはまだブルース兄様のことが怖いらしいので、俺が守ってやろうと思う。俺の背中に遠慮がちに手を添えているジェフリーは、ちらちらとブルース兄様を確認している。気持ちはわかる。眉間に皺の寄った兄様は、近寄り難い雰囲気だもん。俺も兄様のことをよく知らなければ、怖い人だなと思ってしまうだろう。
「ブルース兄様。ジェフリーがビビってるから帰って。自分の部屋でやりなよ」
「はぁ?」
ジェフリーを守るべく声を上げる。怪訝な顔をしたブルース兄様であったが、俺の背後でビクッと肩を揺らすジェフリーを見て露骨に頬を引き攣らせた。ジェフリーに怖がられていることがショックなのだろう。そのまま小さく「そ、そうか」とあっさり引き下がってしまった。
ぶつぶつ文句を言っているアロンを引き連れて、ブルース兄様が退出する。パタンと閉じたドアを眺めて、ようやくジェフリーが俺の背中から離れた。
「ごめんね。ブルース兄様の顔が怖いばかりに」
「い、いえ」
ふるふると首を左右に振るジェフリーは、「あの」とか細い声を出す。
「もしかして、僕。アロンさんに嫌われてます?」
「あー。えっと、それはね」
なんて答えよう。たぶん、ジェフリーの感じている通りだと思う。だが、これはジェフリーが悪いわけではない。アロンは、基本的にみんなのことが嫌いなのだ。そういう人間なのだ。だからジェフリーが気にしても無駄だろう。
「アロンのことは気にしなくていいよ。いつもあんな感じだから」
ひらひらと手を振って大丈夫と伝えてみるが、ジェフリーは「そうですか?」とアロンが気になる様子だ。まぁ、見知らぬ大人から露骨に敵意を向けられたら普通は気にしちゃうよね。大丈夫だよね? とティアンの意見も聞いてみれば、彼は「大丈夫ですよ、放っておいて」と俺と同意見。だよね。ジャンも控えめに頷いている。
「あの、ルイス様」
「どうしたの?」
変な顔をしている綿毛ちゃんの頭を撫でていれば、ジェフリーが自信なさそうに俺の袖を引いた。
「今日、泊まってもいいですか」
「いいよ」
即答すれば、ジェフリーが安堵をみせる。断る理由もないからな。だが、綿毛ちゃんが不満そうな顔をした。
『わん! わんわーん!』
ものすごくわざとらしい鳴き真似をしてみせる綿毛ちゃんに、俺は慌てる。どう聞いても犬っぽくない。人間が喋っているみたいな声である。「静かにして!」と口を塞ぐが、綿毛ちゃんはしつこい。俺振り払って、再びわんわん言い始める。
「変な鳴き方するの、この犬」
ジェフリーに言い訳すれば、彼はきょとんとした顔である。
『わんわん!』
「うるさい!」
綿毛ちゃんの頭をぺしっと叩いてやるが、毛玉は黙らない。ティアンも横から手を伸ばして、綿毛ちゃんの説得にかかるが、無意味である。
焦れた俺は、綿毛ちゃんをジャンに押し付けた。押し付けられたジャンが、大慌てで部屋を出ていく。
「あれは変な犬なの。気にしないで」
「はい」
案外物分かりのいいジェフリーは、「わかりました」と言ったきり綿毛ちゃんの件には触れない。助かった。
おそらく、綿毛ちゃんはジェフリーがうちにお泊まりするのが嫌なのだ。お喋り好きの犬である。夜まで黙っておくのが耐えられないのだろう。悪いとは思うけど、綿毛ちゃんは俺のペットだし。一日くらい我慢してほしい。
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