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16歳

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 とりあえず、ジェフリーの発言は一旦忘れることにする。「仕事に戻りなよ」とアロンの肩を強めに押すが、彼はムスッと押し黙っていて動く気配がない。その目は、ジェフリーのことを鋭く睨みつけている。

 ジェフリーもジェフリーで、唇を噛みしめて悔しそうな顔をしている。どうやら先程の「両想いなので!」発言を真に受けているらしい。ここもはやく訂正しないと。

 あれこれ考えて余裕のない俺は、ジャンから綿毛ちゃんを受け取ってぎゅっと抱きしめる。温かいもふもふをぎゅっとすると、気持ちが落ち着くような気がする。

 ジェフリーは、なんで突然あんなことを言ったのだろうか。確かに、俺はジェフリーに何度か告白されている。一度はきっぱり断ったのだが、ここにきてまた蒸し返されている。

 思えば、ジェフリーは前々から唐突だった。初めて彼に好きと言われた時も、結構急だった。キスも突然だった。おそらく、ジェフリーの中では色々な葛藤があって、ここぞという場面で行動を起こしているのだろう。しかし、その葛藤が外からは見えないので、非常に唐突に感じてしまう。

 今回だって、よくわからないがジェフリーなりに考えた結果なのだろう。そしてこれは俺の予想なのだが、ジェフリーはティアンを意識して先程の好き発言をしたと思うのだ。ジェフリーは、以前からティアンのことを気にしていたから。

 なのに、予想に反してアロンが勢いよく食いついた。これにはジェフリーも驚いたに違いない。ここに関しては、なんか可哀想。

 アロンとジェフリーをこっそりと見比べる。目に見えて不機嫌なアロンは、どうやら最後まで居座るつもりらしい。対するジェフリーは、なんだか泣きそうな顔になっている。やはりアロンにビビっていたらしい。アロンは、もう少し大人になるべきだと思う。なんで十四歳相手にムキになっているのか。

 気まずい空気が流れる空間で、ティアンは無言を貫いている。微かに視線が彷徨ってはいるが、なんだか無関係を装っているような気がする。その冷たくみえる態度にも、俺はちょっぴり憂鬱な気分になる。

 なにこの空間。あまり楽しくない空気に、助けを求めて綿毛ちゃんを見下ろすが、お喋り犬は当然のように口を閉ざしている。ジェフリーが居るからね。

 俺としては、とりあえずジェフリーを慰めるなりしたいのだが、アロンが退出してくれないので迂闊なことを言えない。アロンに「仕事は? 戻りなよ」と声をかけるが、アロンは無視してくる。だから話が進まない。

 思わずため息がこぼれる。

 俺はどうすればいいのか。なんでこんなことになったのか。

「ねぇ、アロン」

 誰も言葉を発しない空間で、俺だけが声をあげている。思うように進まない展開に、俺のほうもなんだか泣きたくなってくる。

 俺が悪いのか?

 確かに色々と曖昧に濁してきたのは俺だけどさ。
 いろんな思いが込み上げてきて、綿毛ちゃんの背中に顔を埋める。そうしてみんなの視線を遮って、どうしようもなく嫌になった俺は、綿毛ちゃんを抱えたまま部屋を飛び出した。


※※※


 部屋を飛び出したはいいが、行くあてがない。ユリスの部屋にはデニスが居るから行きたくない。なんとなく兄様たちの部屋にも足が向かない。

 綿毛ちゃんを抱えたまま、屋敷の中をうろうろする。飛び出す瞬間、ジャンが「あ」と声を上げたが、俺は足を止めることをしなかった。

『元気だしてぇ。もう一回噴水見に行く?』
「行かない」

 とぼとぼ歩く俺は、先程から何度もため息をついている。アロンの大人気ない態度はいつものことだ。ジェフリーが俺を慕ってくれるのもいつものこと。ティアンが一歩引いた位置に居るようになったのは最近のこと。

「俺はどうすればいいと思う?」
『うーん』

 困ったように唸る綿毛ちゃんは、『オレもわかんない』と耳を伏せる。

 俺を慕ってくれるのは嬉しいけど、それが原因で言い争いが起こるのは嫌。今回は、アロンが大人の対応でジェフリーの言葉を聞き流せばよかったのにと思うのは間違いだろうか。アロンにそれを期待するのは間違っていたのだろうか。

 なんでアロンは、と考えて肩を落とす。そもそもは、アロンの告白をずっと曖昧にしてきた俺が悪いのかもしれない。でも、俺はずっとアロンにお付き合いはできないと言っていたと思うのだが、それではダメだったのだろうか。はっきりと振った覚えはない。アロンが気軽に俺のことを好きと言うから、俺も軽い気持ちで「嫌」と言っている。これは単なる言葉遊びなのだろうか。なんできっぱり断らなかったのか。ジェフリーのことは、一度きっぱり振ったのに。

「俺、アロンのこと好きなのかな?」
『え? 好きなの?』

 きょとんとする綿毛ちゃんに、はっきりとした答えを返せない。どうなんだろうか。嫌いではないけど。

 多分、みんな俺にはっきりしてほしいと思っている。でも、俺は好きな人をひとり選ぶことができないでいる。

「好きな人はたくさんいるんだけどね。ひとり選べない」
『わかるよぉ、その気持ち』

 うんうん頷く綿毛ちゃんは、多分適当なことを言っている。

「綿毛ちゃんは犬だから、わからないでしょ」
『ひどい。犬じゃないもん』

 行くところがないので、目についた階段に腰掛けておく。なんかティアンが追いかけてくるような気がした。ここで待っていれば、多分だけどティアンが迎えに来てくれるような気がしたのだ。
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