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16歳
443 変化
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「ジェフリー! いらっしゃい!」
「ルイス様! また会えて嬉しいです」
にこにこするジェフリーを出迎える。前回会ってからそんなに日は経っていないが、嬉しいのは事実だ。思えば、ティアンは俺の隣に戻ってきてくれたけど、以前とは関係性がちょっぴり変わってしまった。
昔は俺の遊び相手という役割だったから、堂々とティアンと遊べた。しかし、現在のティアンは俺の護衛。なんとなく距離が開いてしまったような気がする。だって昔のティアンだったら、俺の部屋にお泊まりとか平気でしていた。けれども、今のティアンを誘っても彼は断るだろうと予想できる。俺もティアンも成長したから、仕方がないと言えばそうなのだが、やっぱり寂しい。
「僕はユリスと居るから。邪魔しないでよね!」
「しないよ」
なにもしていないのに噛みついてくるデニスに、苦笑がこぼれる。早速ユリスの腕をとって、意気揚々とユリスの部屋に向かっていく。
その愉快な背中を見送って、一瞬だけ庭先に沈黙がおりる。デニスがいなくなると、途端に賑やかさがなくなってしまう。
「……噴水みる?」
ちらっと噴水の方角に目を遣りながら尋ねてみる。馬車の周りで忙しそうに動いているアーキア公爵家の使用人たちを確認してから、ジェフリーが控えめに頷く。
さっとジェフリーの手を握って、噴水に向かう。俺の後ろに控えていたティアンとジャンも無言でついてくる。
「ねぇ、魚は?」
「え?」
ふと思い出して尋ねるが、ジェフリーは目を瞬いてしまう。池で泳いでいた魚。どうやら持ってきてくれなかったらしい。少しがっかりしていると、ジェフリーが「すみません。そこまで気が回らなくて」と眉尻を下げてしまう。
到着した噴水は、いつものように豪快に水音をたてている。
「楽しい?」
くるっとジェフリーを確認すれば、彼は「はい。楽しいです」とのんびり頷く。本当に楽しいのか? なんでそんなに静かなんだ。お子様は噴水好きだろ。
「いつもここで犬を洗っている」
「犬を?」
「うん。見せてあげる。部屋にいるよ」
「はい」
噴水の水を触ってみれば、ジェフリーも真似をしてくる。ティアンは少し離れたところで黙ったまま。
アロンはブルース兄様のところに居る。本当は俺の側に居たかったらしいが、それだとブルース兄様が可哀想だ。まぁ、とはいえアロンのことだ。どうせ仕事を抜け出してくるに違いない。
「バケツでも持ってきましょうか?」
「びっくりしたぁ!」
そんなことを考えていたら、すぐ背後からアロンの声が聞こえてきた。驚きすぎて心臓止まるかと思った。バッと勢いよく振り返った俺。アロンがしれっとした表情で佇んでいた。仕事抜け出してくるのはやいな。
驚いたのは、ジェフリーも一緒だったらしい。目を見開いて、アロンを凝視している。
「仕事は?」
一応訊いてみると、「ありません」という豪快な嘘が返ってきた。ないわけないだろ。これにはティアンも呆れた表情をみせている。
「俺が一緒だと迷惑ですか?」
「え?」
なぜか俺ではなくジェフリーに詰め寄るアロンは、ちょっと卑怯だと思う。案の定、ジェフリーは「迷惑じゃないです」と言った。そりゃそうだろう。ここで面と向かって迷惑と言える人はそう居ない。「やめなよ。ジェフリー困ってるよ」と手を伸ばすが、アロンは勝ち誇った表情だ。相変わらず大人気ない。あとでブルース兄様に怒られるぞ。
ジェフリーも噴水に飽きたみたいなので、部屋に戻ることにする。
綿毛ちゃんを紹介すれば、ジェフリーはにこっと笑顔になる。前にも一度綿毛ちゃんをみせたことがあった。前回同様、角はジャンがうまいこと隠してくれた。頭の毛がぴょんぴょん跳ねている綿毛ちゃんは、ちょっと面白い。
すっと立ち上がって、ジェフリーの周りをぐるぐる歩く綿毛ちゃんはうっかり言葉を発しないようにと頑張っている。ぎゅっと顔に皺が寄っている。
綿毛ちゃんを撫でるジェフリーは、「可愛いですね」と楽しそうだ。噴水よりも楽しそうな態度だ。ジェフリーは、噴水よりも綿毛ちゃん派か。
ジェフリーを差し置いて、椅子を占領するアロンは「いつまで居るんですか? 帰りはいつ?」と、急かすような質問をする。ジェフリーが「えっと。帰りは兄に合わせるので」と困惑している。
どうやら本気でジェフリーを追い返そうという雰囲気を感じて、俺はやれやれと肩をすくめる。
「アロン。ジェフリーは俺が呼んだの」
だからやめてと伝えれば、アロンが腕を組んでそっぽを向いてしまう。なんだその顔は。
気まずい空気になる中、綿毛ちゃんが俺に寄ってくる。そうしてジェフリーに聞こえない小声で『修羅場かな? 修羅場ってやつ?』と、鼻息荒く尻尾を振っている。なんでそんなに楽しそうなのか。前々から思っていたのだが、綿毛ちゃんはこういうピリピリが好きみたい。たぶん好奇心だと思う。
ぶんぶん尻尾を振る綿毛ちゃんを抱き上げて、「静かにして」と注意しておく。万が一、ジェフリーに聞かれたら大変だ。うんと頷く綿毛ちゃんは、へらっと呑気に笑っていた。
「ルイス様! また会えて嬉しいです」
にこにこするジェフリーを出迎える。前回会ってからそんなに日は経っていないが、嬉しいのは事実だ。思えば、ティアンは俺の隣に戻ってきてくれたけど、以前とは関係性がちょっぴり変わってしまった。
昔は俺の遊び相手という役割だったから、堂々とティアンと遊べた。しかし、現在のティアンは俺の護衛。なんとなく距離が開いてしまったような気がする。だって昔のティアンだったら、俺の部屋にお泊まりとか平気でしていた。けれども、今のティアンを誘っても彼は断るだろうと予想できる。俺もティアンも成長したから、仕方がないと言えばそうなのだが、やっぱり寂しい。
「僕はユリスと居るから。邪魔しないでよね!」
「しないよ」
なにもしていないのに噛みついてくるデニスに、苦笑がこぼれる。早速ユリスの腕をとって、意気揚々とユリスの部屋に向かっていく。
その愉快な背中を見送って、一瞬だけ庭先に沈黙がおりる。デニスがいなくなると、途端に賑やかさがなくなってしまう。
「……噴水みる?」
ちらっと噴水の方角に目を遣りながら尋ねてみる。馬車の周りで忙しそうに動いているアーキア公爵家の使用人たちを確認してから、ジェフリーが控えめに頷く。
さっとジェフリーの手を握って、噴水に向かう。俺の後ろに控えていたティアンとジャンも無言でついてくる。
「ねぇ、魚は?」
「え?」
ふと思い出して尋ねるが、ジェフリーは目を瞬いてしまう。池で泳いでいた魚。どうやら持ってきてくれなかったらしい。少しがっかりしていると、ジェフリーが「すみません。そこまで気が回らなくて」と眉尻を下げてしまう。
到着した噴水は、いつものように豪快に水音をたてている。
「楽しい?」
くるっとジェフリーを確認すれば、彼は「はい。楽しいです」とのんびり頷く。本当に楽しいのか? なんでそんなに静かなんだ。お子様は噴水好きだろ。
「いつもここで犬を洗っている」
「犬を?」
「うん。見せてあげる。部屋にいるよ」
「はい」
噴水の水を触ってみれば、ジェフリーも真似をしてくる。ティアンは少し離れたところで黙ったまま。
アロンはブルース兄様のところに居る。本当は俺の側に居たかったらしいが、それだとブルース兄様が可哀想だ。まぁ、とはいえアロンのことだ。どうせ仕事を抜け出してくるに違いない。
「バケツでも持ってきましょうか?」
「びっくりしたぁ!」
そんなことを考えていたら、すぐ背後からアロンの声が聞こえてきた。驚きすぎて心臓止まるかと思った。バッと勢いよく振り返った俺。アロンがしれっとした表情で佇んでいた。仕事抜け出してくるのはやいな。
驚いたのは、ジェフリーも一緒だったらしい。目を見開いて、アロンを凝視している。
「仕事は?」
一応訊いてみると、「ありません」という豪快な嘘が返ってきた。ないわけないだろ。これにはティアンも呆れた表情をみせている。
「俺が一緒だと迷惑ですか?」
「え?」
なぜか俺ではなくジェフリーに詰め寄るアロンは、ちょっと卑怯だと思う。案の定、ジェフリーは「迷惑じゃないです」と言った。そりゃそうだろう。ここで面と向かって迷惑と言える人はそう居ない。「やめなよ。ジェフリー困ってるよ」と手を伸ばすが、アロンは勝ち誇った表情だ。相変わらず大人気ない。あとでブルース兄様に怒られるぞ。
ジェフリーも噴水に飽きたみたいなので、部屋に戻ることにする。
綿毛ちゃんを紹介すれば、ジェフリーはにこっと笑顔になる。前にも一度綿毛ちゃんをみせたことがあった。前回同様、角はジャンがうまいこと隠してくれた。頭の毛がぴょんぴょん跳ねている綿毛ちゃんは、ちょっと面白い。
すっと立ち上がって、ジェフリーの周りをぐるぐる歩く綿毛ちゃんはうっかり言葉を発しないようにと頑張っている。ぎゅっと顔に皺が寄っている。
綿毛ちゃんを撫でるジェフリーは、「可愛いですね」と楽しそうだ。噴水よりも楽しそうな態度だ。ジェフリーは、噴水よりも綿毛ちゃん派か。
ジェフリーを差し置いて、椅子を占領するアロンは「いつまで居るんですか? 帰りはいつ?」と、急かすような質問をする。ジェフリーが「えっと。帰りは兄に合わせるので」と困惑している。
どうやら本気でジェフリーを追い返そうという雰囲気を感じて、俺はやれやれと肩をすくめる。
「アロン。ジェフリーは俺が呼んだの」
だからやめてと伝えれば、アロンが腕を組んでそっぽを向いてしまう。なんだその顔は。
気まずい空気になる中、綿毛ちゃんが俺に寄ってくる。そうしてジェフリーに聞こえない小声で『修羅場かな? 修羅場ってやつ?』と、鼻息荒く尻尾を振っている。なんでそんなに楽しそうなのか。前々から思っていたのだが、綿毛ちゃんはこういうピリピリが好きみたい。たぶん好奇心だと思う。
ぶんぶん尻尾を振る綿毛ちゃんを抱き上げて、「静かにして」と注意しておく。万が一、ジェフリーに聞かれたら大変だ。うんと頷く綿毛ちゃんは、へらっと呑気に笑っていた。
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