467 / 586
16歳
436 バチバチ
しおりを挟む
ジェフリーの突然の行動に、俺はびっくりして固まってしまう。なんでキス? 考えるが、答えは出ない。けれども、俺は前にもジェフリーにキスされたことがある。前回も今回も、触れるだけの優しいキス。
そっとジェフリーの肩を押して、距離を取る。振り返らなくても、後ろでティアンが苛立っているのがわかる。わかったところで、どうしようもないけど。きっとジャンは普段以上に青い顔をしているに違いない。悲痛な表情の彼を想像して、今はそれどころではないと思い直す。
ジェフリーは悪びれることなく池を眺めている。もしかして今の出来事をなかったことにしようとしている? 疑いを抱く俺であったが、その心配は必要なかった。顔を上げて、俺の顔を覗き込んできたジェフリーが柔らかい笑みを浮かべる。
「僕、ルイス様のこと好きです」
真っ直ぐに告げられた言葉に、俺は戸惑ってしまう。その結果、たいした反論もせずにこくこくと頷く俺。しかし、それではいけないと気がついて、慌てて口を開く。
「あの、気持ちは嬉しいけどさ」
俺は一度ジェフリーのことを振っている。え、振ったよね? 記憶を引っ張り出してみるが、二年ほど前の俺はジェフリーのことを弟としてしか見ることができないときっぱり伝えたはずである。その後、おそらくそれが原因でジェフリーは俺のもとを去って行った。俺が振ったことで、きっと気まずい思いを抱え込んでしまったのだろうと随分心配した。
だから、俺の記憶には間違いはないはずである。だが、引っかかるのはあの時のジェフリーが十二歳だったという点である。おまけに彼の私生活は非常にややこしい事態となっており、あの頃のジェフリーは、俺に依存しているような状態だった。
もしかして、あの時の一件はなかったことにされているのだろうか。それとも、あれから時間が経ったことで、俺とジェフリーの関係にも変化が生じるはずだと、ジェフリーが考えているのかもしれない。
もう一回きっぱり伝えた方がいいのだろうかと迷っているうちに、ジェフリーが静かに小首を傾げた。その目は、なにかの拍子に涙が溢れてしまいそうだった以前の瞳とは違う。なにやら力強さを感じる瞳が、俺のことを捉える。
「もう一度、チャンスをください」
「え?」
「僕、ルイス様のこと忘れたことはありません。あの時は、ちょっと色々あって僕も余裕がなかったといいますか」
「うん」
以前のジェフリーに、余裕がなかったのは事実だ。家庭環境が大きく変わった時期だった。仕方がない。
そっと、俺の手に触れてくるジェフリーと、いつものように手を繋ぐ。繋いでから、やめておくべきだったかもと一瞬の後悔が頭をよぎった。
「ルイス様に、今の僕を見てほしい。そう思うのは、迷惑ですか?」
上目遣いで問われれば、迷惑とは言えなかった。というか、ジェフリーに懐かれて悪い気はしない。でも、俺はやっぱりジェフリーのことを弟のように思っていて、ジェフリーの期待するような関係になれるとは思えない。
だが、それは俺の記憶の中のジェフリーに関してだ。
ジェフリーの言う通り、この二年ほどで彼は変わった。変わった自分を見てほしいと、ジェフリーは言う。
その言い分はよくわかる。ジェフリーは、なにかと自分を見てほしいと口にする。その原因は、俺にもあると思う。俺がジェフリーのことをティアンと間違えたのが原因だ。
そういうことも思い出した俺は、ジェフリーの手を振り払うことができない。迷った末に、黙ったまま池を眺める。
「……」
ジェフリーは、別に今すぐ答えを求めているわけではなさそうだ。それに甘える形で、俺は答えを有耶無耶にしてしまう。
「エサをあげると寄ってきますよ」
池の魚に目を遣りながら、ジェフリーが教えてくれる。
「俺もエサあげたい」
「持ってきます」
ちょっと待っていてくださいと微笑み残して去って行くジェフリー。その背中が見えなくなった瞬間、ティアンが入れ替わりで寄ってくる。
「なんですか、今の」
「なんですかって言われても」
俺にもよく分からない。
確実に苛立ちを抱えているティアンは、どこからか取り出したハンカチで雑に俺の唇を拭ってくる。突然の暴挙に、俺は抗議する間もなくされるがまま。
「やめて」
ようやくティアンの手を振り払えば、ムスッとした顔のティアンが立っている。
「なんでティアンが怒ってんの?」
「それ答えなきゃダメですか」
先程までジェフリーが居た場所を陣取っているティアンは、今度は俺の肩を払ってくる。その真面目な顔がおかしくて、くすくす笑いを堪えていれば「笑わないでくださいよ」との拗ねた声が返ってくる。
「なんというか、アロン殿が言ってたんですよね」
「なにを?」
「ジェフリー様ですよ。気をつけた方がいいって」
「アロンめ」
アロンは、前々からジェフリーのことが嫌いである。まぁ、アロンは自分以外の人間全員嫌いみたいなところがあるから。
きっと色々とジェフリーの悪口をティアンに吹き込んだに違いない。
「ジェフリーは良い子だもん」
「そうですか?」
なぜそこで首を傾げる。
そっとジェフリーの肩を押して、距離を取る。振り返らなくても、後ろでティアンが苛立っているのがわかる。わかったところで、どうしようもないけど。きっとジャンは普段以上に青い顔をしているに違いない。悲痛な表情の彼を想像して、今はそれどころではないと思い直す。
ジェフリーは悪びれることなく池を眺めている。もしかして今の出来事をなかったことにしようとしている? 疑いを抱く俺であったが、その心配は必要なかった。顔を上げて、俺の顔を覗き込んできたジェフリーが柔らかい笑みを浮かべる。
「僕、ルイス様のこと好きです」
真っ直ぐに告げられた言葉に、俺は戸惑ってしまう。その結果、たいした反論もせずにこくこくと頷く俺。しかし、それではいけないと気がついて、慌てて口を開く。
「あの、気持ちは嬉しいけどさ」
俺は一度ジェフリーのことを振っている。え、振ったよね? 記憶を引っ張り出してみるが、二年ほど前の俺はジェフリーのことを弟としてしか見ることができないときっぱり伝えたはずである。その後、おそらくそれが原因でジェフリーは俺のもとを去って行った。俺が振ったことで、きっと気まずい思いを抱え込んでしまったのだろうと随分心配した。
だから、俺の記憶には間違いはないはずである。だが、引っかかるのはあの時のジェフリーが十二歳だったという点である。おまけに彼の私生活は非常にややこしい事態となっており、あの頃のジェフリーは、俺に依存しているような状態だった。
もしかして、あの時の一件はなかったことにされているのだろうか。それとも、あれから時間が経ったことで、俺とジェフリーの関係にも変化が生じるはずだと、ジェフリーが考えているのかもしれない。
もう一回きっぱり伝えた方がいいのだろうかと迷っているうちに、ジェフリーが静かに小首を傾げた。その目は、なにかの拍子に涙が溢れてしまいそうだった以前の瞳とは違う。なにやら力強さを感じる瞳が、俺のことを捉える。
「もう一度、チャンスをください」
「え?」
「僕、ルイス様のこと忘れたことはありません。あの時は、ちょっと色々あって僕も余裕がなかったといいますか」
「うん」
以前のジェフリーに、余裕がなかったのは事実だ。家庭環境が大きく変わった時期だった。仕方がない。
そっと、俺の手に触れてくるジェフリーと、いつものように手を繋ぐ。繋いでから、やめておくべきだったかもと一瞬の後悔が頭をよぎった。
「ルイス様に、今の僕を見てほしい。そう思うのは、迷惑ですか?」
上目遣いで問われれば、迷惑とは言えなかった。というか、ジェフリーに懐かれて悪い気はしない。でも、俺はやっぱりジェフリーのことを弟のように思っていて、ジェフリーの期待するような関係になれるとは思えない。
だが、それは俺の記憶の中のジェフリーに関してだ。
ジェフリーの言う通り、この二年ほどで彼は変わった。変わった自分を見てほしいと、ジェフリーは言う。
その言い分はよくわかる。ジェフリーは、なにかと自分を見てほしいと口にする。その原因は、俺にもあると思う。俺がジェフリーのことをティアンと間違えたのが原因だ。
そういうことも思い出した俺は、ジェフリーの手を振り払うことができない。迷った末に、黙ったまま池を眺める。
「……」
ジェフリーは、別に今すぐ答えを求めているわけではなさそうだ。それに甘える形で、俺は答えを有耶無耶にしてしまう。
「エサをあげると寄ってきますよ」
池の魚に目を遣りながら、ジェフリーが教えてくれる。
「俺もエサあげたい」
「持ってきます」
ちょっと待っていてくださいと微笑み残して去って行くジェフリー。その背中が見えなくなった瞬間、ティアンが入れ替わりで寄ってくる。
「なんですか、今の」
「なんですかって言われても」
俺にもよく分からない。
確実に苛立ちを抱えているティアンは、どこからか取り出したハンカチで雑に俺の唇を拭ってくる。突然の暴挙に、俺は抗議する間もなくされるがまま。
「やめて」
ようやくティアンの手を振り払えば、ムスッとした顔のティアンが立っている。
「なんでティアンが怒ってんの?」
「それ答えなきゃダメですか」
先程までジェフリーが居た場所を陣取っているティアンは、今度は俺の肩を払ってくる。その真面目な顔がおかしくて、くすくす笑いを堪えていれば「笑わないでくださいよ」との拗ねた声が返ってくる。
「なんというか、アロン殿が言ってたんですよね」
「なにを?」
「ジェフリー様ですよ。気をつけた方がいいって」
「アロンめ」
アロンは、前々からジェフリーのことが嫌いである。まぁ、アロンは自分以外の人間全員嫌いみたいなところがあるから。
きっと色々とジェフリーの悪口をティアンに吹き込んだに違いない。
「ジェフリーは良い子だもん」
「そうですか?」
なぜそこで首を傾げる。
1,116
お気に入りに追加
3,020
あなたにおすすめの小説
彼の至宝
まめ
BL
十五歳の誕生日を迎えた主人公が、突如として思い出した前世の記憶を、本当にこれって前世なの、どうなのとあれこれ悩みながら、自分の中で色々と折り合いをつけ、それぞれの幸せを見つける話。
妹を侮辱した馬鹿の兄を嫁に貰います
ひづき
BL
妹のべルティシアが馬鹿王子ラグナルに婚約破棄を言い渡された。
フェルベードが怒りを露わにすると、馬鹿王子の兄アンセルが命を持って償うと言う。
「よし。お前が俺に嫁げ」
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない
豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。
とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ!
神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。
そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。
□チャラ王子攻め
□天然おとぼけ受け
□ほのぼのスクールBL
タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。
◆…葛西視点
◇…てっちゃん視点
pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。
所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。
学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】
結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい
オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。
今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時―――
「ちょっと待ったー!」
乱入者の声が響き渡った。
これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、
白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい
そんなお話
※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り)
※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります
※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください
※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています
※小説家になろうさんでも同時公開中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる