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16歳
431 成長している
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「最近ちょっと暑いね」
「そうですね。噴水でも見に行きますか?」
予想外の提案に、面食らう。
そろそろ本格的な夏が近付いてきた。窓を全開にして涼んでいた俺の独り言のような呟きに、ティアンが生真面目に返答してくる。それ自体はありがたいのだが、ティアンの言動がやや引っかかる。
「噴水見てどうするの?」
どうにもならないだろうと肩をすくめると、今度はティアンが面食らったような表情をする。
ティアンは、俺のことを一体何歳だと思っているのだろうか。ティアンに比べたら、俺はそんなに成長していないのかもしれない。それでも、俺はもう十六歳だ。いつまでも十歳の頃と同じわけがない。
そう何度も説明する度に、ティアンは妙な顔をする。おそらく、ティアンの中では俺のイメージが十歳の頃で止まっているのだろう。そこから長らく顔を合わせていなかったから仕方がないけど。なんだか子供扱いされているようでモヤモヤする。
十六歳になった俺は、相変わらずヴィアン家の屋敷で呑気に暮らしている。ユリスは以前にも増して魔法の研究に没頭しているらしい。最近では家をあけることが増えた。だが、俺も屋敷で暇を持て余しているわけではない。
「そろそろカル先生くるから」
「あぁ、はい。じゃあ僕は自室に居ますから」
「うん」
ジャンと共に部屋を出て行くティアン。床で伏せていた綿毛ちゃんが顔を上げる。どうやら寝ていたらしい。毛がボサボサだ。なんだか哀れなので、ブラッシングしてあげる。『痛いでーす』と、うるさい毛玉を押さえつけて必死に毛並みを整える。
ついでに猫のエリスちゃんもブラッシングしてあげる。綿毛ちゃんの方が毛が長いのか、すぐにボサボサになってしまう。
そうして犬猫と格闘していれば、カル先生がやって来た。時間に正確な先生は、本日も隙がない。
ユリスが魔法に熱心な一方で、俺は勉強に熱心だった。先生になりたいという夢は変わっていない。そのために、こうやって毎日勉強している。
俺が勉強していると、いまだにティアンは変な顔をする。ティアンは、俺が十歳の時と色々変わったことが不満だったりするのだろうか。先程だって、俺が噴水に食いつかないことに首を捻っていた。
俺もティアンが帰ってきた際に、変わってしまったティアンのことをすぐには受け入れることができなかった。だからティアンの態度に文句を言うつもりはないし、そもそも文句を言えるものではない。
「カル先生。マーティーのところにはまだ行ってる?」
同い年の従兄弟であるマーティーも、確かカル先生に教わっていたはずだ。
「はい。マーティー様も頑張っておられますよ」
「ふーん」
綿毛ちゃんを椅子に座らせて、俺も隣を陣取る。チラッと綿毛ちゃんに視線を注ぐカル先生は、毛玉が授業の邪魔をしないか心配しているのだ。
「綿毛ちゃんは静かだから大丈夫」
わしゃわしゃ頭を撫でれば、綿毛ちゃんが大きく頷く。カル先生の前だから、お喋りは控えているのだ。うるさくすると追い出されてしまうからな。
カル先生は、俺の夢を知っている唯一の人物だ。先生は口が堅いので、ちゃんと内緒にしてくれている。
まだ具体的には決めていないが、ぼんやりと将来のことも考えつつある。というか、考えなければならない時期になりつつあるというのが正しい。だってもう十六歳だしな。ユリスが研究所に通い詰めているから、余計にそう思うのかもしれない。双子である俺らだ。なにかと比較されてしまう。一歩踏み出すユリスに対して、俺はまだ足踏みしているような状態だ。
幸い兄様やお母様はなにも言わないけど。なんというか、研究所に通うユリスの姿を見る度に、焦りが生じるのだ。俺にだって将来やりたいことはあるのだが、ユリスみたいに今すぐ実現できるだけの実力が俺にはない。まだ十六歳だから大丈夫という態度を周囲はとってくれるけど、俺はそう呑気に構えていられない。
「綿毛ちゃんは将来どうするの?」
ふと尋ねれば、綿毛ちゃんが『将来?』と不思議そうに首を捻る。
『オレは魔導書を守るっていう役目があるからねぇ』
その魔導書は、今もユリスの手元にある。下手に使わなければ、綿毛ちゃんとしては満足らしい。最近では魔導書返せという言葉も聞かない。
綿毛ちゃんは長生きだから、きっと俺よりも長く生きるような気がする。そうなったら、綿毛ちゃんはどうするのだろうか。またひとりで魔導書守る生活に戻るのかな。それはちょっと寂しいような気がする。
色々と考えなければならないことがたくさんある。しかし、焦ったところでどうにもならないとカル先生は言う。
「ゆっくりでいいですよ。焦っても良いことないですからね」
先生っぽいことを述べるカル先生であるが、授業中はしきりに時計を気にしていることを俺は知っている。カル先生は、絶対に残業をしない主義の人だ。それは出会った時からずっと変わらない。その徹底した態度に、思わず笑いが込み上げてくる。綿毛ちゃんもくすくす笑っている。いつ見ても楽しそうな毛玉だな。
「そうですね。噴水でも見に行きますか?」
予想外の提案に、面食らう。
そろそろ本格的な夏が近付いてきた。窓を全開にして涼んでいた俺の独り言のような呟きに、ティアンが生真面目に返答してくる。それ自体はありがたいのだが、ティアンの言動がやや引っかかる。
「噴水見てどうするの?」
どうにもならないだろうと肩をすくめると、今度はティアンが面食らったような表情をする。
ティアンは、俺のことを一体何歳だと思っているのだろうか。ティアンに比べたら、俺はそんなに成長していないのかもしれない。それでも、俺はもう十六歳だ。いつまでも十歳の頃と同じわけがない。
そう何度も説明する度に、ティアンは妙な顔をする。おそらく、ティアンの中では俺のイメージが十歳の頃で止まっているのだろう。そこから長らく顔を合わせていなかったから仕方がないけど。なんだか子供扱いされているようでモヤモヤする。
十六歳になった俺は、相変わらずヴィアン家の屋敷で呑気に暮らしている。ユリスは以前にも増して魔法の研究に没頭しているらしい。最近では家をあけることが増えた。だが、俺も屋敷で暇を持て余しているわけではない。
「そろそろカル先生くるから」
「あぁ、はい。じゃあ僕は自室に居ますから」
「うん」
ジャンと共に部屋を出て行くティアン。床で伏せていた綿毛ちゃんが顔を上げる。どうやら寝ていたらしい。毛がボサボサだ。なんだか哀れなので、ブラッシングしてあげる。『痛いでーす』と、うるさい毛玉を押さえつけて必死に毛並みを整える。
ついでに猫のエリスちゃんもブラッシングしてあげる。綿毛ちゃんの方が毛が長いのか、すぐにボサボサになってしまう。
そうして犬猫と格闘していれば、カル先生がやって来た。時間に正確な先生は、本日も隙がない。
ユリスが魔法に熱心な一方で、俺は勉強に熱心だった。先生になりたいという夢は変わっていない。そのために、こうやって毎日勉強している。
俺が勉強していると、いまだにティアンは変な顔をする。ティアンは、俺が十歳の時と色々変わったことが不満だったりするのだろうか。先程だって、俺が噴水に食いつかないことに首を捻っていた。
俺もティアンが帰ってきた際に、変わってしまったティアンのことをすぐには受け入れることができなかった。だからティアンの態度に文句を言うつもりはないし、そもそも文句を言えるものではない。
「カル先生。マーティーのところにはまだ行ってる?」
同い年の従兄弟であるマーティーも、確かカル先生に教わっていたはずだ。
「はい。マーティー様も頑張っておられますよ」
「ふーん」
綿毛ちゃんを椅子に座らせて、俺も隣を陣取る。チラッと綿毛ちゃんに視線を注ぐカル先生は、毛玉が授業の邪魔をしないか心配しているのだ。
「綿毛ちゃんは静かだから大丈夫」
わしゃわしゃ頭を撫でれば、綿毛ちゃんが大きく頷く。カル先生の前だから、お喋りは控えているのだ。うるさくすると追い出されてしまうからな。
カル先生は、俺の夢を知っている唯一の人物だ。先生は口が堅いので、ちゃんと内緒にしてくれている。
まだ具体的には決めていないが、ぼんやりと将来のことも考えつつある。というか、考えなければならない時期になりつつあるというのが正しい。だってもう十六歳だしな。ユリスが研究所に通い詰めているから、余計にそう思うのかもしれない。双子である俺らだ。なにかと比較されてしまう。一歩踏み出すユリスに対して、俺はまだ足踏みしているような状態だ。
幸い兄様やお母様はなにも言わないけど。なんというか、研究所に通うユリスの姿を見る度に、焦りが生じるのだ。俺にだって将来やりたいことはあるのだが、ユリスみたいに今すぐ実現できるだけの実力が俺にはない。まだ十六歳だから大丈夫という態度を周囲はとってくれるけど、俺はそう呑気に構えていられない。
「綿毛ちゃんは将来どうするの?」
ふと尋ねれば、綿毛ちゃんが『将来?』と不思議そうに首を捻る。
『オレは魔導書を守るっていう役目があるからねぇ』
その魔導書は、今もユリスの手元にある。下手に使わなければ、綿毛ちゃんとしては満足らしい。最近では魔導書返せという言葉も聞かない。
綿毛ちゃんは長生きだから、きっと俺よりも長く生きるような気がする。そうなったら、綿毛ちゃんはどうするのだろうか。またひとりで魔導書守る生活に戻るのかな。それはちょっと寂しいような気がする。
色々と考えなければならないことがたくさんある。しかし、焦ったところでどうにもならないとカル先生は言う。
「ゆっくりでいいですよ。焦っても良いことないですからね」
先生っぽいことを述べるカル先生であるが、授業中はしきりに時計を気にしていることを俺は知っている。カル先生は、絶対に残業をしない主義の人だ。それは出会った時からずっと変わらない。その徹底した態度に、思わず笑いが込み上げてくる。綿毛ちゃんもくすくす笑っている。いつ見ても楽しそうな毛玉だな。
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