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15歳
429 いつ仲直り?
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俺もちょっと意地を張り過ぎていたのかもしれない。
やっぱりいつもの軽口を叩ける気安い関係の方が断然いい。もともと俺は、アロンのこういう遠慮しない性格を気に入っていたはずだ。今までだって何度も喧嘩のようなことをしてきたが、最終的にはあっさり仲直りできた。自分の気持ちを互いに遠慮なく伝えられて、それを受け入れる受け入れないに関わらず、変わらない関係性を維持できるのがアロンの良いところだった。
だから、今回もそうする。それが一番いい気がする。だって気まずい関係を続けていたっていい事ない。
「綿毛ちゃん貸してあげる」
仲直りできたので、綿毛ちゃんを押し付けておく。
別になにか真摯な謝罪があったわけではないけど、先程の「すみません」というひと言で十分だった。兄様たちは不思議そうにしているが、俺とアロンとの間では、あれできちんと通じた。アロンがこの間の件を後悔していることも、俺と仲直りしたいと思っていることも、全部わかった。アロンにだって悪気があったわけじゃないのだ。
綿毛ちゃんを避けるように一歩下がるアロンは、眉を顰めている。受け取ってもらえない毛玉が、悲しい顔をしている。
「いらないです」
「なんで。すごくもふもふだよ」
「毛がつくから嫌です」
『ひどいね』
突然の悪口に、綿毛ちゃんがびっくりしている。仲良く会話を始めた俺とアロンに、オーガス兄様が「え? もう喧嘩終わったの? いつ? いつ終わったの?」と、オロオロしている。もう終わったから大丈夫。
心配かけてしまったので、兄様にも綿毛ちゃんを差し出しておく。すかさず綿毛ちゃんの角を触るオーガス兄様に、綿毛ちゃんが再び震えている。角を抜かれるんじゃないかとビビっているらしい。
「オーガス兄様。ケイシーは?」
「寝てるよ」
生まれたばかりのケイシーは、寝てばかりだ。もっと遊びたいのだが、オーガス兄様は「ケイシーがもう少し大きくなったらね」と、やんわりお断りしてくる。もう少しってどれくらいだろうか。俺はケイシーが生まれた瞬間からずっと待っている。だが、キャンベルに迷惑をかけるわけにもいかないので、俺は待てと言われれば即座に頷いている。
最近は、オーガス兄様も前にも増して忙しそうにしている。頻繁にキャンベルの部屋に足を運んでケイシーを見たり、お父様の手伝いをしたりしているらしい。
お父様は、はやくオーガス兄様に席を譲って引退したいらしいが、兄でもある国王陛下が難色を示しているらしく、いつまで経っても引退できないと嘆いている。お父様が引退しないことに、一番胸を撫で下ろしているのはオーガス兄様だろう。まだ跡を継いでもいないのに、連日「もう引退したい」と情けなく項垂れている姿を頻繁に目にする。そういう時、俺は見なかったことにしてあげている。優しい弟なので。
「アロン。俺の部屋くる?」
暇なら一緒に遊んでと誘えば、アロンは「いいですよ」と、あっさり笑う。「意味わかんないですね」と困惑するニックは、オーガス兄様が俺とアロンに気を取られている隙に、さっさと一階へとおりていってしまった。どうせセドリックの所に行くのだろう。ニックに逃げられたと気がついたオーガス兄様が頭を抱えている。
アロンを連れて部屋に戻れば、ジャンとティアンがいた。アロンを目にするなり、露骨に嫌そうな顔をするティアンは「喧嘩中だったのでは?」と挑発的に腕を組む。
「喧嘩? なんのことだか」
勝ち誇った笑みを浮かべるアロンは、勝手に椅子を占領してふんぞり返っている。
口角を持ち上げるアロンであったが、テーブルの上に置きっぱなしになっていたペンを発見して、すんっと真顔に戻ってしまう。
そのペンは、アロンが俺の誕生日にくれたものだ。
「まだ使ってくれているんですか?」
「うん? 使うけど」
まだってなんだよ。変な質問をしてきたアロンは「てっきりすぐに飽きるのかと」と、照れたように目を伏せた。
そんなに飽きっぽい性格だと思われているのか?
不思議に思いつつ、ペンを手に取る。もらった当初は綺麗だったのに、ほぼ毎日のように使っているから細かい傷ができてしまった。なんとなく眺めていると、アロンが手を伸ばしてくるので渡してあげる。
しげしげとペンを観察したアロンは、満足そうにペンを回す。そしてなぜか、ティアンに向かって得意な笑みを浮かべている。
『オレにも見せてぇ』
アロンとティアンがバチバチし始めると、綿毛ちゃんがふんふんと気合いたっぷりに割り込みに行く。この犬はどういうつもりなのだろうか。もしや揉め事大好きなタイプか? ユリスそっくりだな。
「やめなよ。毛玉は大人しくしてて」
急いで綿毛ちゃんを掴んで引き止める。
尻尾を振りまわす綿毛ちゃんは、『オレにも見せてぇ』と、ひたすら繰り返している。俺のペンなんて見ても楽しくないだろ。「うるさいぞ!」と綿毛ちゃんを持ち上げて、アロンから引き離す。
綿毛ちゃんの乱入によって緩んだ空気に、アロンがやれやれと肩をすくめていた。
やっぱりいつもの軽口を叩ける気安い関係の方が断然いい。もともと俺は、アロンのこういう遠慮しない性格を気に入っていたはずだ。今までだって何度も喧嘩のようなことをしてきたが、最終的にはあっさり仲直りできた。自分の気持ちを互いに遠慮なく伝えられて、それを受け入れる受け入れないに関わらず、変わらない関係性を維持できるのがアロンの良いところだった。
だから、今回もそうする。それが一番いい気がする。だって気まずい関係を続けていたっていい事ない。
「綿毛ちゃん貸してあげる」
仲直りできたので、綿毛ちゃんを押し付けておく。
別になにか真摯な謝罪があったわけではないけど、先程の「すみません」というひと言で十分だった。兄様たちは不思議そうにしているが、俺とアロンとの間では、あれできちんと通じた。アロンがこの間の件を後悔していることも、俺と仲直りしたいと思っていることも、全部わかった。アロンにだって悪気があったわけじゃないのだ。
綿毛ちゃんを避けるように一歩下がるアロンは、眉を顰めている。受け取ってもらえない毛玉が、悲しい顔をしている。
「いらないです」
「なんで。すごくもふもふだよ」
「毛がつくから嫌です」
『ひどいね』
突然の悪口に、綿毛ちゃんがびっくりしている。仲良く会話を始めた俺とアロンに、オーガス兄様が「え? もう喧嘩終わったの? いつ? いつ終わったの?」と、オロオロしている。もう終わったから大丈夫。
心配かけてしまったので、兄様にも綿毛ちゃんを差し出しておく。すかさず綿毛ちゃんの角を触るオーガス兄様に、綿毛ちゃんが再び震えている。角を抜かれるんじゃないかとビビっているらしい。
「オーガス兄様。ケイシーは?」
「寝てるよ」
生まれたばかりのケイシーは、寝てばかりだ。もっと遊びたいのだが、オーガス兄様は「ケイシーがもう少し大きくなったらね」と、やんわりお断りしてくる。もう少しってどれくらいだろうか。俺はケイシーが生まれた瞬間からずっと待っている。だが、キャンベルに迷惑をかけるわけにもいかないので、俺は待てと言われれば即座に頷いている。
最近は、オーガス兄様も前にも増して忙しそうにしている。頻繁にキャンベルの部屋に足を運んでケイシーを見たり、お父様の手伝いをしたりしているらしい。
お父様は、はやくオーガス兄様に席を譲って引退したいらしいが、兄でもある国王陛下が難色を示しているらしく、いつまで経っても引退できないと嘆いている。お父様が引退しないことに、一番胸を撫で下ろしているのはオーガス兄様だろう。まだ跡を継いでもいないのに、連日「もう引退したい」と情けなく項垂れている姿を頻繁に目にする。そういう時、俺は見なかったことにしてあげている。優しい弟なので。
「アロン。俺の部屋くる?」
暇なら一緒に遊んでと誘えば、アロンは「いいですよ」と、あっさり笑う。「意味わかんないですね」と困惑するニックは、オーガス兄様が俺とアロンに気を取られている隙に、さっさと一階へとおりていってしまった。どうせセドリックの所に行くのだろう。ニックに逃げられたと気がついたオーガス兄様が頭を抱えている。
アロンを連れて部屋に戻れば、ジャンとティアンがいた。アロンを目にするなり、露骨に嫌そうな顔をするティアンは「喧嘩中だったのでは?」と挑発的に腕を組む。
「喧嘩? なんのことだか」
勝ち誇った笑みを浮かべるアロンは、勝手に椅子を占領してふんぞり返っている。
口角を持ち上げるアロンであったが、テーブルの上に置きっぱなしになっていたペンを発見して、すんっと真顔に戻ってしまう。
そのペンは、アロンが俺の誕生日にくれたものだ。
「まだ使ってくれているんですか?」
「うん? 使うけど」
まだってなんだよ。変な質問をしてきたアロンは「てっきりすぐに飽きるのかと」と、照れたように目を伏せた。
そんなに飽きっぽい性格だと思われているのか?
不思議に思いつつ、ペンを手に取る。もらった当初は綺麗だったのに、ほぼ毎日のように使っているから細かい傷ができてしまった。なんとなく眺めていると、アロンが手を伸ばしてくるので渡してあげる。
しげしげとペンを観察したアロンは、満足そうにペンを回す。そしてなぜか、ティアンに向かって得意な笑みを浮かべている。
『オレにも見せてぇ』
アロンとティアンがバチバチし始めると、綿毛ちゃんがふんふんと気合いたっぷりに割り込みに行く。この犬はどういうつもりなのだろうか。もしや揉め事大好きなタイプか? ユリスそっくりだな。
「やめなよ。毛玉は大人しくしてて」
急いで綿毛ちゃんを掴んで引き止める。
尻尾を振りまわす綿毛ちゃんは、『オレにも見せてぇ』と、ひたすら繰り返している。俺のペンなんて見ても楽しくないだろ。「うるさいぞ!」と綿毛ちゃんを持ち上げて、アロンから引き離す。
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