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15歳
421 実際に
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「なんかすみません。うちの兄が」
不機嫌アロンを見て、アリアが困ったように小声で謝ってくる。アリアが謝る必要はないのに。
アリアはアロンの妹だけど、アロンよりしっかりしている。今日だって、最近不機嫌なアロンを心配して追いかけてきてくれたのだろう。
「アロンさんは、あれだね。坊ちゃんのこと気に入ってるんだろうねぇ」
のんびり呟く綿毛ちゃんは髪型が気に食わないのか。何度も髪紐を触っている。
大股で前を行くアロンの背中は、やっぱり不機嫌そうに見えてしまう。一番後ろを歩くティアンが、その背中をじっと不満そうに見つめている。
ギスギスした空気をどうにかしようと、アリアは普段よりも明るい声を出す。気を遣わせてしまっているようで申し訳ない。
「ロニーがね、たまにパン買ってきてくれる」
俺の好きそうな甘いやつばかり。通りに並ぶ店を眺めながら、ふと思い出したことを口からこぼした。ロニーは相変わらず優しいけど、副団長になってから会う機会が減ってしまった。俺の護衛から外れたレナルドとも、ほとんど会う機会がなくなった。だが、レナルドは特段変わらず過ごしているらしい。アロンの口から、彼の話題がしょっちゅう出てくる。
「ロニーさんは優しいねぇ」
目を細める綿毛ちゃんは、俺の目を盗んでロニーと会っている。主に俺がカル先生と勉強している時だ。別にいいんだけど、俺だけ仲間外れにされているみたいで、少しもやもやする。
「なんでロニーさんが副団長になったんですか?」
一番後ろのティアンが、口を挟んでくる。
そういえば、ティアンはその時ヴィアン家には居なかった。俺も正確には知らないけど、もとはクレイグ団長が騎士団を辞めたことだ。セドリックが団長になり、空いた副団長の席にロニーがおさまった。
「最初はレナルドが候補にあがったんだけど。あいつが辞退したから」
前を向いたままアロンが答える。不機嫌そうなオーラを出しつつも話は聞いていたらしい。騎士団でのやり取りは、俺にはわからない。しかし、あの時はブルース兄様がひどく悩んでいたことは知っている。
当時の状況についてポツポツ語るアロンの背中を追いかけながら、俺はふむふむと頷く。
ロニーがたまに買ってきてくれるパンは、どこの店だろうかと視線を走らせつつ人の流れにそって進んでいた時である。
前方から大きく手を振りながら、こちらへと駆け寄ってくる人影を視界に捉えた。知らない女の人だ。たぶん、ここら辺に住んでいるのだろう。二十代前半くらいの綺麗な人である。
「久しぶりに見た。今までなにしてたの?」
「あ?」
迷いなくアロンへと寄っていく彼女は、満面の笑みで話しかけている。さりげなくアロンの腕をとってみせる彼女に、俺はぴたりと足を止めた。横では、ティアンが「クソが」と口汚く吐き捨てている。
なんだか仲良しな雰囲気だ。そっと後ろに下がる。綿毛ちゃんが「うわぁ。なんか、うん。あれだね」と意味不明なことを口走っている。
俺のことを振り返るアロンと、一瞬だけ視線が合う。けれどもすぐに隣の女性へと顔を戻したアロンは「離れてくれない?」と冷たく突き放そうとしている。
綿毛ちゃんの手をとって、俺はアロンから距離を取る。ティアンは、俺とアロンの間で忙しなく視線を動かしている。
「アロンって、やっぱりモテるんだね」
ぼそっと呟けば、ティアンが「そりゃそうですよ」と面白くなさそうな顔をする。
やがてアロンが「ちょっと待っててください」と言い置いて、女性とふたりでどこかへ行ってしまう。待っておけと言われた俺は、道の端っこに寄ってぼんやり突っ立つ。綿毛ちゃんとティアンの視線が突き刺さる。静観しているアリアは、この場で誰よりも気まずそうな顔をしていた。
アロンがモテるのは知っていた。以前のアロンは、時折甘ったるい香水の残り香を纏っていた。アロンが俺の知らない女の人と仲良くしていることも知っていた。知っていたのに。
綿毛ちゃんの手を強く握れば、綿毛ちゃんは黙って握り返してくれる。
知っているのと実際に目撃するのとでは違うらしい。
知らない女の人とべたべたするアロンを見て、俺はなんだか変な気分になる。心は落ち着いているようで、妙にざわざわしている。ぼんやりと立ち尽くすことしかできない状況に、俺はどうすればいいのかわからなくなる。
「ルイス様が気にする必要はないですよ。放っておきましょうよ、あんな人」
肩に置かれた手。つられるように顔を上げると、拗ねたような顔をするティアンがいた。なんでティアンがそんな顔をするんだ。
口を開こうとするが、肝心の言葉が見つからない。口を開いて、俺はなにを言うつもりなのか。ティアンに向けた言葉なのか、アロンに向けた言葉なのか。それすらもわからない。
「美味しい物でも食べる? オレ、ロニーさんがいつもパン買ってる店知ってるよ」
呑気な綿毛ちゃんは、「オレ、ロニーさんと来たことある」と聞き捨てならないセリフを吐く。この毛玉、やっぱり俺のいないところでロニーと仲良くしているらしい。ちょっぴり許せない。
不機嫌アロンを見て、アリアが困ったように小声で謝ってくる。アリアが謝る必要はないのに。
アリアはアロンの妹だけど、アロンよりしっかりしている。今日だって、最近不機嫌なアロンを心配して追いかけてきてくれたのだろう。
「アロンさんは、あれだね。坊ちゃんのこと気に入ってるんだろうねぇ」
のんびり呟く綿毛ちゃんは髪型が気に食わないのか。何度も髪紐を触っている。
大股で前を行くアロンの背中は、やっぱり不機嫌そうに見えてしまう。一番後ろを歩くティアンが、その背中をじっと不満そうに見つめている。
ギスギスした空気をどうにかしようと、アリアは普段よりも明るい声を出す。気を遣わせてしまっているようで申し訳ない。
「ロニーがね、たまにパン買ってきてくれる」
俺の好きそうな甘いやつばかり。通りに並ぶ店を眺めながら、ふと思い出したことを口からこぼした。ロニーは相変わらず優しいけど、副団長になってから会う機会が減ってしまった。俺の護衛から外れたレナルドとも、ほとんど会う機会がなくなった。だが、レナルドは特段変わらず過ごしているらしい。アロンの口から、彼の話題がしょっちゅう出てくる。
「ロニーさんは優しいねぇ」
目を細める綿毛ちゃんは、俺の目を盗んでロニーと会っている。主に俺がカル先生と勉強している時だ。別にいいんだけど、俺だけ仲間外れにされているみたいで、少しもやもやする。
「なんでロニーさんが副団長になったんですか?」
一番後ろのティアンが、口を挟んでくる。
そういえば、ティアンはその時ヴィアン家には居なかった。俺も正確には知らないけど、もとはクレイグ団長が騎士団を辞めたことだ。セドリックが団長になり、空いた副団長の席にロニーがおさまった。
「最初はレナルドが候補にあがったんだけど。あいつが辞退したから」
前を向いたままアロンが答える。不機嫌そうなオーラを出しつつも話は聞いていたらしい。騎士団でのやり取りは、俺にはわからない。しかし、あの時はブルース兄様がひどく悩んでいたことは知っている。
当時の状況についてポツポツ語るアロンの背中を追いかけながら、俺はふむふむと頷く。
ロニーがたまに買ってきてくれるパンは、どこの店だろうかと視線を走らせつつ人の流れにそって進んでいた時である。
前方から大きく手を振りながら、こちらへと駆け寄ってくる人影を視界に捉えた。知らない女の人だ。たぶん、ここら辺に住んでいるのだろう。二十代前半くらいの綺麗な人である。
「久しぶりに見た。今までなにしてたの?」
「あ?」
迷いなくアロンへと寄っていく彼女は、満面の笑みで話しかけている。さりげなくアロンの腕をとってみせる彼女に、俺はぴたりと足を止めた。横では、ティアンが「クソが」と口汚く吐き捨てている。
なんだか仲良しな雰囲気だ。そっと後ろに下がる。綿毛ちゃんが「うわぁ。なんか、うん。あれだね」と意味不明なことを口走っている。
俺のことを振り返るアロンと、一瞬だけ視線が合う。けれどもすぐに隣の女性へと顔を戻したアロンは「離れてくれない?」と冷たく突き放そうとしている。
綿毛ちゃんの手をとって、俺はアロンから距離を取る。ティアンは、俺とアロンの間で忙しなく視線を動かしている。
「アロンって、やっぱりモテるんだね」
ぼそっと呟けば、ティアンが「そりゃそうですよ」と面白くなさそうな顔をする。
やがてアロンが「ちょっと待っててください」と言い置いて、女性とふたりでどこかへ行ってしまう。待っておけと言われた俺は、道の端っこに寄ってぼんやり突っ立つ。綿毛ちゃんとティアンの視線が突き刺さる。静観しているアリアは、この場で誰よりも気まずそうな顔をしていた。
アロンがモテるのは知っていた。以前のアロンは、時折甘ったるい香水の残り香を纏っていた。アロンが俺の知らない女の人と仲良くしていることも知っていた。知っていたのに。
綿毛ちゃんの手を強く握れば、綿毛ちゃんは黙って握り返してくれる。
知っているのと実際に目撃するのとでは違うらしい。
知らない女の人とべたべたするアロンを見て、俺はなんだか変な気分になる。心は落ち着いているようで、妙にざわざわしている。ぼんやりと立ち尽くすことしかできない状況に、俺はどうすればいいのかわからなくなる。
「ルイス様が気にする必要はないですよ。放っておきましょうよ、あんな人」
肩に置かれた手。つられるように顔を上げると、拗ねたような顔をするティアンがいた。なんでティアンがそんな顔をするんだ。
口を開こうとするが、肝心の言葉が見つからない。口を開いて、俺はなにを言うつもりなのか。ティアンに向けた言葉なのか、アロンに向けた言葉なのか。それすらもわからない。
「美味しい物でも食べる? オレ、ロニーさんがいつもパン買ってる店知ってるよ」
呑気な綿毛ちゃんは、「オレ、ロニーさんと来たことある」と聞き捨てならないセリフを吐く。この毛玉、やっぱり俺のいないところでロニーと仲良くしているらしい。ちょっぴり許せない。
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