上 下
448 / 586
15歳

420 誘えばよかったね

しおりを挟む
 せっかく街に来たのに、アロンはなんとなく不機嫌だ。

 というか、少し前のアロンは余裕があったはずである。大人ぶった振る舞いはもうやめたのだろうか。いつからだろうかと考えて、ティアンに視線が向く。

 多分だけど、アロンが妙に焦っているのはティアンのせいだと思う。アロンが焦って不機嫌になっていることは、俺でもわかる。というか俺のせいだ。

 ここまで適当に流してきたが、アロンは俺のことが好きらしい。好きの意味が、どういう意味なのかは正確にはわからないが、きっと本当に好きなんだろう。だってあのアロンが、女遊びをやめたと宣言したのだ。ここまでが、はっきりしていること。問題はその先である。

 はやく答えを出さなければと何度も考えた。アロンも時折、俺を急かすような言動をする。考えた結果、俺はまだ結論を出せずにいる。だって俺は十五歳で、結婚とかそういうのとはまだ無縁。別に付き合うイコール結婚というわけではないだろうけど、多分アロンはそういう軽い遊びのようなお付き合いは望んでいない気がする。

 俺は一体どうするべきなのか。

 アロンのことは好き。でもそれが恋愛的な意味の好きか判断できない。

 俺としては、今の曖昧さがちょうどいいと思ってしまう。これって絶対に答えを出さなければならない問題なのだろうか。せめて、もう少し先延ばしにできないだろうか。

「坊ちゃん? どしたの。黙り込んじゃって」

 軽く背中を叩かれて、顔を上げる。人間姿の綿毛ちゃんが、「ん?」と俺に問いかけるような視線を投げてくる。

「なんでもない」

 首を振って、気持ちを切り替える。
 今はお出かけを楽しもうと思う。難しいことを考えるのは、帰ってからでもいいや。

 とりあえずお腹すいたとティアンの袖を引けば、「なにか食べますか」との苦笑。アロンは、ちらちらと背後の俺らを気にしながら先頭を歩く。目立たないように地味な服に着替えてきたのだが、背の高いアロンと綿毛ちゃんは、どうにも人目を集めてしまう。

「久しぶりですね。こうやって出かけるの」

 そんな中、ティアンが懐かしむようにこぼした。そうだ。前にもアロンとティアンを引き連れて、ここに来たことがある。俺が十歳の時。確かあの時は、セドリックも一緒だった。それで迷子になった俺は、フランシスとベネットに出会ったのだ。

 すごく懐かしい。あの時は、まだオーガス兄様の顔も知らないような状態だった。そこから考えれば、俺もだいぶヴィアン家に馴染んでしまった。

「ユリスも連れてくればよかったかも」

 行かないと言い張っていた彼だが、連れてくればよかったと後悔。だってそっちの方が楽しそう。みんなでわいわいするのが、俺は好き。

 ティアンは、ユリスとあまり仲良くない。というか、ユリスの方がティアンと仲良くしようとしない。まぁ、ユリスは誰に対してもそんな感じだからいいけど。

 だらだらと意味のない会話をしながら歩いていると、誰かが後ろから走ってくる足音が聞こえた。なんだろうと振り返る前に「ルイス様!」というちょっと遠慮がちな声が背中に投げかけられた。

 足を止める俺らに寄ってきた人物を見て、俺は面食らう。

「アリア?」

 親しげに綿毛ちゃんの背中を叩いて笑う人物は、おそらくアロンの妹にしてブルース兄様の結婚相手でもあるアリアだ。

 おそらくというのは、アリアが男装していたからである。髪はお団子にして、ラフな格好だ。

「なにしてんの、こんなところで」

 びっくりして問いかければ、アリアは「いやぁ」と首に手を添える。どうやら、俺たちがお出かけすると聞いて追いかけてきたらしい。気まずそうに苦笑するアリアは、どう見てもお兄さんにしか見えない。

「一緒に来たかったの? 誘えばよかったね」

 ごめんねと謝れば、「私が勝手についてきただけなんで」と笑うアリア。彼女は、どう見てもひとりであった。お供はどうしたのかと思案するが、きっと誰にも告げずにひとりで出てきたのだろう。アリアは、そういうところが兄に似ている。

 突然の出来事に、アロンが「おい」と低い声を出す。

「帰れよ」
「そんな冷たいこと言わないでよ。邪魔しないからさ」
「存在がすでに邪魔」
「ひっど。それが可愛い妹にかける言葉?」
「可愛くないだろ」
「ひどーい。聞きました、ルイス様?」

 けらけら笑うアリアは、兄の暴言をたいして気にしていないらしい。怯む様子のないアリアに、アロンが舌打ちした。一方、話を向けられた俺は曖昧に笑って誤魔化すしかない。

 綿毛ちゃんとティアンも困惑しているのがわかる。ふたりとも、アリアとはあんまり仲良くない。綿毛ちゃんは、犬姿の時はアリアと遊んだことがあるはずだ。一方的にアリアがよく綿毛ちゃんを撫でまわしている。

「アリア。どこ行きたい?」

 アリアとアロンが言い争いをしているが、待っている時間が惜しい。俺ははやく遊びたい。会話に割り込めば、アロンが「なんでこいつに訊くんですか」と詰め寄ってくる。

 なんでって言われても。目に入ったから話を向けただけだ。そんな深い意味はないんだけどな。
しおりを挟む
感想 424

あなたにおすすめの小説

彼の至宝

まめ
BL
十五歳の誕生日を迎えた主人公が、突如として思い出した前世の記憶を、本当にこれって前世なの、どうなのとあれこれ悩みながら、自分の中で色々と折り合いをつけ、それぞれの幸せを見つける話。

妹を侮辱した馬鹿の兄を嫁に貰います

ひづき
BL
妹のべルティシアが馬鹿王子ラグナルに婚約破棄を言い渡された。 フェルベードが怒りを露わにすると、馬鹿王子の兄アンセルが命を持って償うと言う。 「よし。お前が俺に嫁げ」

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい

オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。 今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時――― 「ちょっと待ったー!」 乱入者の声が響き渡った。 これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、 白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい そんなお話 ※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り) ※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります ※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください ※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています ※小説家になろうさんでも同時公開中

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

処理中です...