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15歳
420 誘えばよかったね
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せっかく街に来たのに、アロンはなんとなく不機嫌だ。
というか、少し前のアロンは余裕があったはずである。大人ぶった振る舞いはもうやめたのだろうか。いつからだろうかと考えて、ティアンに視線が向く。
多分だけど、アロンが妙に焦っているのはティアンのせいだと思う。アロンが焦って不機嫌になっていることは、俺でもわかる。というか俺のせいだ。
ここまで適当に流してきたが、アロンは俺のことが好きらしい。好きの意味が、どういう意味なのかは正確にはわからないが、きっと本当に好きなんだろう。だってあのアロンが、女遊びをやめたと宣言したのだ。ここまでが、はっきりしていること。問題はその先である。
はやく答えを出さなければと何度も考えた。アロンも時折、俺を急かすような言動をする。考えた結果、俺はまだ結論を出せずにいる。だって俺は十五歳で、結婚とかそういうのとはまだ無縁。別に付き合うイコール結婚というわけではないだろうけど、多分アロンはそういう軽い遊びのようなお付き合いは望んでいない気がする。
俺は一体どうするべきなのか。
アロンのことは好き。でもそれが恋愛的な意味の好きか判断できない。
俺としては、今の曖昧さがちょうどいいと思ってしまう。これって絶対に答えを出さなければならない問題なのだろうか。せめて、もう少し先延ばしにできないだろうか。
「坊ちゃん? どしたの。黙り込んじゃって」
軽く背中を叩かれて、顔を上げる。人間姿の綿毛ちゃんが、「ん?」と俺に問いかけるような視線を投げてくる。
「なんでもない」
首を振って、気持ちを切り替える。
今はお出かけを楽しもうと思う。難しいことを考えるのは、帰ってからでもいいや。
とりあえずお腹すいたとティアンの袖を引けば、「なにか食べますか」との苦笑。アロンは、ちらちらと背後の俺らを気にしながら先頭を歩く。目立たないように地味な服に着替えてきたのだが、背の高いアロンと綿毛ちゃんは、どうにも人目を集めてしまう。
「久しぶりですね。こうやって出かけるの」
そんな中、ティアンが懐かしむようにこぼした。そうだ。前にもアロンとティアンを引き連れて、ここに来たことがある。俺が十歳の時。確かあの時は、セドリックも一緒だった。それで迷子になった俺は、フランシスとベネットに出会ったのだ。
すごく懐かしい。あの時は、まだオーガス兄様の顔も知らないような状態だった。そこから考えれば、俺もだいぶヴィアン家に馴染んでしまった。
「ユリスも連れてくればよかったかも」
行かないと言い張っていた彼だが、連れてくればよかったと後悔。だってそっちの方が楽しそう。みんなでわいわいするのが、俺は好き。
ティアンは、ユリスとあまり仲良くない。というか、ユリスの方がティアンと仲良くしようとしない。まぁ、ユリスは誰に対してもそんな感じだからいいけど。
だらだらと意味のない会話をしながら歩いていると、誰かが後ろから走ってくる足音が聞こえた。なんだろうと振り返る前に「ルイス様!」というちょっと遠慮がちな声が背中に投げかけられた。
足を止める俺らに寄ってきた人物を見て、俺は面食らう。
「アリア?」
親しげに綿毛ちゃんの背中を叩いて笑う人物は、おそらくアロンの妹にしてブルース兄様の結婚相手でもあるアリアだ。
おそらくというのは、アリアが男装していたからである。髪はお団子にして、ラフな格好だ。
「なにしてんの、こんなところで」
びっくりして問いかければ、アリアは「いやぁ」と首に手を添える。どうやら、俺たちがお出かけすると聞いて追いかけてきたらしい。気まずそうに苦笑するアリアは、どう見てもお兄さんにしか見えない。
「一緒に来たかったの? 誘えばよかったね」
ごめんねと謝れば、「私が勝手についてきただけなんで」と笑うアリア。彼女は、どう見てもひとりであった。お供はどうしたのかと思案するが、きっと誰にも告げずにひとりで出てきたのだろう。アリアは、そういうところが兄に似ている。
突然の出来事に、アロンが「おい」と低い声を出す。
「帰れよ」
「そんな冷たいこと言わないでよ。邪魔しないからさ」
「存在がすでに邪魔」
「ひっど。それが可愛い妹にかける言葉?」
「可愛くないだろ」
「ひどーい。聞きました、ルイス様?」
けらけら笑うアリアは、兄の暴言をたいして気にしていないらしい。怯む様子のないアリアに、アロンが舌打ちした。一方、話を向けられた俺は曖昧に笑って誤魔化すしかない。
綿毛ちゃんとティアンも困惑しているのがわかる。ふたりとも、アリアとはあんまり仲良くない。綿毛ちゃんは、犬姿の時はアリアと遊んだことがあるはずだ。一方的にアリアがよく綿毛ちゃんを撫でまわしている。
「アリア。どこ行きたい?」
アリアとアロンが言い争いをしているが、待っている時間が惜しい。俺ははやく遊びたい。会話に割り込めば、アロンが「なんでこいつに訊くんですか」と詰め寄ってくる。
なんでって言われても。目に入ったから話を向けただけだ。そんな深い意味はないんだけどな。
というか、少し前のアロンは余裕があったはずである。大人ぶった振る舞いはもうやめたのだろうか。いつからだろうかと考えて、ティアンに視線が向く。
多分だけど、アロンが妙に焦っているのはティアンのせいだと思う。アロンが焦って不機嫌になっていることは、俺でもわかる。というか俺のせいだ。
ここまで適当に流してきたが、アロンは俺のことが好きらしい。好きの意味が、どういう意味なのかは正確にはわからないが、きっと本当に好きなんだろう。だってあのアロンが、女遊びをやめたと宣言したのだ。ここまでが、はっきりしていること。問題はその先である。
はやく答えを出さなければと何度も考えた。アロンも時折、俺を急かすような言動をする。考えた結果、俺はまだ結論を出せずにいる。だって俺は十五歳で、結婚とかそういうのとはまだ無縁。別に付き合うイコール結婚というわけではないだろうけど、多分アロンはそういう軽い遊びのようなお付き合いは望んでいない気がする。
俺は一体どうするべきなのか。
アロンのことは好き。でもそれが恋愛的な意味の好きか判断できない。
俺としては、今の曖昧さがちょうどいいと思ってしまう。これって絶対に答えを出さなければならない問題なのだろうか。せめて、もう少し先延ばしにできないだろうか。
「坊ちゃん? どしたの。黙り込んじゃって」
軽く背中を叩かれて、顔を上げる。人間姿の綿毛ちゃんが、「ん?」と俺に問いかけるような視線を投げてくる。
「なんでもない」
首を振って、気持ちを切り替える。
今はお出かけを楽しもうと思う。難しいことを考えるのは、帰ってからでもいいや。
とりあえずお腹すいたとティアンの袖を引けば、「なにか食べますか」との苦笑。アロンは、ちらちらと背後の俺らを気にしながら先頭を歩く。目立たないように地味な服に着替えてきたのだが、背の高いアロンと綿毛ちゃんは、どうにも人目を集めてしまう。
「久しぶりですね。こうやって出かけるの」
そんな中、ティアンが懐かしむようにこぼした。そうだ。前にもアロンとティアンを引き連れて、ここに来たことがある。俺が十歳の時。確かあの時は、セドリックも一緒だった。それで迷子になった俺は、フランシスとベネットに出会ったのだ。
すごく懐かしい。あの時は、まだオーガス兄様の顔も知らないような状態だった。そこから考えれば、俺もだいぶヴィアン家に馴染んでしまった。
「ユリスも連れてくればよかったかも」
行かないと言い張っていた彼だが、連れてくればよかったと後悔。だってそっちの方が楽しそう。みんなでわいわいするのが、俺は好き。
ティアンは、ユリスとあまり仲良くない。というか、ユリスの方がティアンと仲良くしようとしない。まぁ、ユリスは誰に対してもそんな感じだからいいけど。
だらだらと意味のない会話をしながら歩いていると、誰かが後ろから走ってくる足音が聞こえた。なんだろうと振り返る前に「ルイス様!」というちょっと遠慮がちな声が背中に投げかけられた。
足を止める俺らに寄ってきた人物を見て、俺は面食らう。
「アリア?」
親しげに綿毛ちゃんの背中を叩いて笑う人物は、おそらくアロンの妹にしてブルース兄様の結婚相手でもあるアリアだ。
おそらくというのは、アリアが男装していたからである。髪はお団子にして、ラフな格好だ。
「なにしてんの、こんなところで」
びっくりして問いかければ、アリアは「いやぁ」と首に手を添える。どうやら、俺たちがお出かけすると聞いて追いかけてきたらしい。気まずそうに苦笑するアリアは、どう見てもお兄さんにしか見えない。
「一緒に来たかったの? 誘えばよかったね」
ごめんねと謝れば、「私が勝手についてきただけなんで」と笑うアリア。彼女は、どう見てもひとりであった。お供はどうしたのかと思案するが、きっと誰にも告げずにひとりで出てきたのだろう。アリアは、そういうところが兄に似ている。
突然の出来事に、アロンが「おい」と低い声を出す。
「帰れよ」
「そんな冷たいこと言わないでよ。邪魔しないからさ」
「存在がすでに邪魔」
「ひっど。それが可愛い妹にかける言葉?」
「可愛くないだろ」
「ひどーい。聞きました、ルイス様?」
けらけら笑うアリアは、兄の暴言をたいして気にしていないらしい。怯む様子のないアリアに、アロンが舌打ちした。一方、話を向けられた俺は曖昧に笑って誤魔化すしかない。
綿毛ちゃんとティアンも困惑しているのがわかる。ふたりとも、アリアとはあんまり仲良くない。綿毛ちゃんは、犬姿の時はアリアと遊んだことがあるはずだ。一方的にアリアがよく綿毛ちゃんを撫でまわしている。
「アリア。どこ行きたい?」
アリアとアロンが言い争いをしているが、待っている時間が惜しい。俺ははやく遊びたい。会話に割り込めば、アロンが「なんでこいつに訊くんですか」と詰め寄ってくる。
なんでって言われても。目に入ったから話を向けただけだ。そんな深い意味はないんだけどな。
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