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15歳
閑話17 いいもの
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「ティアン。いいもの見せてあげる」
「いいもの?」
疑問を浮かべるティアンを引き連れて、自室を出る。ジャンは犬と猫と一緒にお留守番。『オレも行く!』と騒ぐ綿毛ちゃんを撒くのは大変だった。
ティアンの手を引いて、俺は屋敷の二階にあがる。目指すはオーガス兄様の部屋だ。
「兄様!」
ノックもそこそこに飛び込めば、執務机でうたた寝していたらしい兄様が、ビクッと肩を揺らした。
「びっくりした。ルイスか」
「オーガス兄様! 今ひま?」
「暇じゃないよ。仕事中だよ」
「でも寝てたじゃん」
寝てないよ、と慌てるオーガス兄様は、確実に寝ていた。俺はこの目でしっかりみた。
オーガス兄様の部屋に立ち入ることを少し躊躇したティアンであるが、結局は入室してくる。さっと周囲を見渡したティアンは、ニックが居ないことを確認しているらしい。ニックは、どうせセドリックの追っかけにでも行ったのだろう。いつものことだ。
ニックのことはどうでもいい。暇そうなオーガス兄様に、右手を差し出す。
「あれ貸して」
「あれ? どれ?」
首を捻るオーガス兄様に「この間、兄様が見せてくれたやつ」と説明する。兄様は、結構珍しいものを所持している。屋敷を訪れる商人とかラッセル経由で入手した珍しいものだ。
魔法関連のものが手に入ると、ユリスにあげている。俺にも、猫のおもちゃとかくれる。
そんなオーガス兄様が、先日俺に見せてくれたものがある。それを貸してとお願いすれば、兄様は「いいけど」と、机の引き出しをごそごそし始める。
「えっと。あれ? どこにやったかな」
「なくしたの?」
「いや、そんなはずは」
ついには立ち上がって探し始めるオーガス兄様は、なんとも頼りない顔をしていた。なくしたのか?
ティアンを振り返って、「ちょっと待ってね」と言っておく。俺も探すのを手伝う。オーガス兄様の部屋は、片付いてはいるが物が多い。こういうところはユリスの部屋そっくりだ。コレクションが多い。
「あ、あった! あったよ」
やがて戸棚をあさっていた兄様が、お目当ての物を掲げた。
「それは?」
「これね。暗いところで光るの」
ティアンに説明すれば、彼は「へぇ」と感心したように唸っている。
オーガス兄様がどこかから仕入れてきた小さな石は、暗闇で光るという代物である。淡く発光する程度で、それ以上のことは起こらないが、ここらでは滅多に入手できない代物だ。「気に入ったの?」と問いかけてくるオーガス兄様に、俺は大きく頷いておく。ユリスにも見せたみたいだが、彼は「そんなおもちゃ」と鼻で笑うだけで、欲しいとは言わなかったらしい。
「気に入ったんなら、あげるよ」
「いいの?」
「うん。僕は持っていても使わないからね」
「ありがとう!」
思いがけずいい物をゲットした俺は、早速ティアンの手を引いて廊下に出る。
これが光るところを見るには、暗いところへ行かなければならない。太陽が高い位置にある時間だが、俺にはひとつ心当たりがあった。
「ここは真っ暗だよ」
「はぁ」
一階にある小さな物置。
掃除道具とか普段は使わない物が収納されている小さなスペース。窓がないので、中に入ってドアを閉めれば、昼間でも真っ暗だ。
「入って」
「僕がですか?」
ちょっと嫌そうな顔をするティアンの背中を押して、中に入るよう促す。
「夜になるのを待つのではダメですか」
「ダメ。今見たい」
「えー」
不満を隠しもしないティアンは、渋々といった様子で物置の中に顔を突っ込む。
「いや狭いですって」
「頑張って!」
「無理ですよ」
狭くて入れないと言うティアン。確かに、物も多いのでティアンが入れるスペースはない。
「綿毛ちゃんは入れたのに」
「綿毛ちゃんは小さいでしょ」
前に一度、綿毛ちゃんをここに入れたことがある。そうか。ティアンはでかいから入れないのか。
肩を落とす俺に、「夜まで待てばいいですよ」とティアンが提案してくる。そうだな。オーガス兄様も俺にあげるって言ったし。そんなに急ぐ必要もない。
しかし、なんだかもやもやとした気分になる俺は、それならばここに入る綿毛ちゃんを連れてくればいいのでは? と思いつく。ティアンには後で見せてあげるとして、とりあえず今は綿毛ちゃんに見せてあげよう。
急いで部屋に戻った俺は、『おかえり』と呑気にへらへらしている綿毛ちゃんを持ち上げた。
そうして再び物置に向かえば、綿毛ちゃんが『ちょっと待って。なんで物置』とバタバタ暴れ始める。
賑やかな綿毛ちゃんを物置に押し込める。『ひどい。ティアンさん、助けてぇ』とうるさい綿毛ちゃんは、小さいのですんなり物置に入った。
「見てこれ。光る」
物置の中にお座りする綿毛ちゃんの前に石を置いて、ドアを閉める。『え』という短い声が聞こえてきたが、気にしない。
「光ってる!?」
外から問いかければ、綿毛ちゃんが『あんまり』と言う。
「光ってないの!?」
『うん。あんまり』
なんでだろう。首を捻る俺に、ティアンが「戸棚の中に仕舞っていたからでは?」と口を出してくる。確かこれは、日中に光をため込むタイプのものだ。なるほど。暗い戸棚の中で保管していたから、光らないのか。
「オーガス兄様ひどい」
なんでそんなところで保管していたのか。悔しい思いをする俺だが、「また光をあてれば大丈夫ですよ」とのティアンの言葉に頷いておく。
『あのぉ。そろそろ出してくれませんかぁ』
物置の中からか細い声が聞こえてきて、慌ててドアを開けた。
「いいもの?」
疑問を浮かべるティアンを引き連れて、自室を出る。ジャンは犬と猫と一緒にお留守番。『オレも行く!』と騒ぐ綿毛ちゃんを撒くのは大変だった。
ティアンの手を引いて、俺は屋敷の二階にあがる。目指すはオーガス兄様の部屋だ。
「兄様!」
ノックもそこそこに飛び込めば、執務机でうたた寝していたらしい兄様が、ビクッと肩を揺らした。
「びっくりした。ルイスか」
「オーガス兄様! 今ひま?」
「暇じゃないよ。仕事中だよ」
「でも寝てたじゃん」
寝てないよ、と慌てるオーガス兄様は、確実に寝ていた。俺はこの目でしっかりみた。
オーガス兄様の部屋に立ち入ることを少し躊躇したティアンであるが、結局は入室してくる。さっと周囲を見渡したティアンは、ニックが居ないことを確認しているらしい。ニックは、どうせセドリックの追っかけにでも行ったのだろう。いつものことだ。
ニックのことはどうでもいい。暇そうなオーガス兄様に、右手を差し出す。
「あれ貸して」
「あれ? どれ?」
首を捻るオーガス兄様に「この間、兄様が見せてくれたやつ」と説明する。兄様は、結構珍しいものを所持している。屋敷を訪れる商人とかラッセル経由で入手した珍しいものだ。
魔法関連のものが手に入ると、ユリスにあげている。俺にも、猫のおもちゃとかくれる。
そんなオーガス兄様が、先日俺に見せてくれたものがある。それを貸してとお願いすれば、兄様は「いいけど」と、机の引き出しをごそごそし始める。
「えっと。あれ? どこにやったかな」
「なくしたの?」
「いや、そんなはずは」
ついには立ち上がって探し始めるオーガス兄様は、なんとも頼りない顔をしていた。なくしたのか?
ティアンを振り返って、「ちょっと待ってね」と言っておく。俺も探すのを手伝う。オーガス兄様の部屋は、片付いてはいるが物が多い。こういうところはユリスの部屋そっくりだ。コレクションが多い。
「あ、あった! あったよ」
やがて戸棚をあさっていた兄様が、お目当ての物を掲げた。
「それは?」
「これね。暗いところで光るの」
ティアンに説明すれば、彼は「へぇ」と感心したように唸っている。
オーガス兄様がどこかから仕入れてきた小さな石は、暗闇で光るという代物である。淡く発光する程度で、それ以上のことは起こらないが、ここらでは滅多に入手できない代物だ。「気に入ったの?」と問いかけてくるオーガス兄様に、俺は大きく頷いておく。ユリスにも見せたみたいだが、彼は「そんなおもちゃ」と鼻で笑うだけで、欲しいとは言わなかったらしい。
「気に入ったんなら、あげるよ」
「いいの?」
「うん。僕は持っていても使わないからね」
「ありがとう!」
思いがけずいい物をゲットした俺は、早速ティアンの手を引いて廊下に出る。
これが光るところを見るには、暗いところへ行かなければならない。太陽が高い位置にある時間だが、俺にはひとつ心当たりがあった。
「ここは真っ暗だよ」
「はぁ」
一階にある小さな物置。
掃除道具とか普段は使わない物が収納されている小さなスペース。窓がないので、中に入ってドアを閉めれば、昼間でも真っ暗だ。
「入って」
「僕がですか?」
ちょっと嫌そうな顔をするティアンの背中を押して、中に入るよう促す。
「夜になるのを待つのではダメですか」
「ダメ。今見たい」
「えー」
不満を隠しもしないティアンは、渋々といった様子で物置の中に顔を突っ込む。
「いや狭いですって」
「頑張って!」
「無理ですよ」
狭くて入れないと言うティアン。確かに、物も多いのでティアンが入れるスペースはない。
「綿毛ちゃんは入れたのに」
「綿毛ちゃんは小さいでしょ」
前に一度、綿毛ちゃんをここに入れたことがある。そうか。ティアンはでかいから入れないのか。
肩を落とす俺に、「夜まで待てばいいですよ」とティアンが提案してくる。そうだな。オーガス兄様も俺にあげるって言ったし。そんなに急ぐ必要もない。
しかし、なんだかもやもやとした気分になる俺は、それならばここに入る綿毛ちゃんを連れてくればいいのでは? と思いつく。ティアンには後で見せてあげるとして、とりあえず今は綿毛ちゃんに見せてあげよう。
急いで部屋に戻った俺は、『おかえり』と呑気にへらへらしている綿毛ちゃんを持ち上げた。
そうして再び物置に向かえば、綿毛ちゃんが『ちょっと待って。なんで物置』とバタバタ暴れ始める。
賑やかな綿毛ちゃんを物置に押し込める。『ひどい。ティアンさん、助けてぇ』とうるさい綿毛ちゃんは、小さいのですんなり物置に入った。
「見てこれ。光る」
物置の中にお座りする綿毛ちゃんの前に石を置いて、ドアを閉める。『え』という短い声が聞こえてきたが、気にしない。
「光ってる!?」
外から問いかければ、綿毛ちゃんが『あんまり』と言う。
「光ってないの!?」
『うん。あんまり』
なんでだろう。首を捻る俺に、ティアンが「戸棚の中に仕舞っていたからでは?」と口を出してくる。確かこれは、日中に光をため込むタイプのものだ。なるほど。暗い戸棚の中で保管していたから、光らないのか。
「オーガス兄様ひどい」
なんでそんなところで保管していたのか。悔しい思いをする俺だが、「また光をあてれば大丈夫ですよ」とのティアンの言葉に頷いておく。
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