上 下
443 / 577
15歳

閑話17 いいもの

しおりを挟む
「ティアン。いいもの見せてあげる」
「いいもの?」

 疑問を浮かべるティアンを引き連れて、自室を出る。ジャンは犬と猫と一緒にお留守番。『オレも行く!』と騒ぐ綿毛ちゃんを撒くのは大変だった。

 ティアンの手を引いて、俺は屋敷の二階にあがる。目指すはオーガス兄様の部屋だ。

「兄様!」

 ノックもそこそこに飛び込めば、執務机でうたた寝していたらしい兄様が、ビクッと肩を揺らした。

「びっくりした。ルイスか」
「オーガス兄様! 今ひま?」
「暇じゃないよ。仕事中だよ」
「でも寝てたじゃん」

 寝てないよ、と慌てるオーガス兄様は、確実に寝ていた。俺はこの目でしっかりみた。

 オーガス兄様の部屋に立ち入ることを少し躊躇したティアンであるが、結局は入室してくる。さっと周囲を見渡したティアンは、ニックが居ないことを確認しているらしい。ニックは、どうせセドリックの追っかけにでも行ったのだろう。いつものことだ。

 ニックのことはどうでもいい。暇そうなオーガス兄様に、右手を差し出す。

「あれ貸して」
「あれ? どれ?」

 首を捻るオーガス兄様に「この間、兄様が見せてくれたやつ」と説明する。兄様は、結構珍しいものを所持している。屋敷を訪れる商人とかラッセル経由で入手した珍しいものだ。

 魔法関連のものが手に入ると、ユリスにあげている。俺にも、猫のおもちゃとかくれる。

 そんなオーガス兄様が、先日俺に見せてくれたものがある。それを貸してとお願いすれば、兄様は「いいけど」と、机の引き出しをごそごそし始める。

「えっと。あれ? どこにやったかな」
「なくしたの?」
「いや、そんなはずは」

 ついには立ち上がって探し始めるオーガス兄様は、なんとも頼りない顔をしていた。なくしたのか?

 ティアンを振り返って、「ちょっと待ってね」と言っておく。俺も探すのを手伝う。オーガス兄様の部屋は、片付いてはいるが物が多い。こういうところはユリスの部屋そっくりだ。コレクションが多い。

「あ、あった! あったよ」

 やがて戸棚をあさっていた兄様が、お目当ての物を掲げた。

「それは?」
「これね。暗いところで光るの」

 ティアンに説明すれば、彼は「へぇ」と感心したように唸っている。

 オーガス兄様がどこかから仕入れてきた小さな石は、暗闇で光るという代物である。淡く発光する程度で、それ以上のことは起こらないが、ここらでは滅多に入手できない代物だ。「気に入ったの?」と問いかけてくるオーガス兄様に、俺は大きく頷いておく。ユリスにも見せたみたいだが、彼は「そんなおもちゃ」と鼻で笑うだけで、欲しいとは言わなかったらしい。

「気に入ったんなら、あげるよ」
「いいの?」
「うん。僕は持っていても使わないからね」
「ありがとう!」

 思いがけずいい物をゲットした俺は、早速ティアンの手を引いて廊下に出る。

 これが光るところを見るには、暗いところへ行かなければならない。太陽が高い位置にある時間だが、俺にはひとつ心当たりがあった。

「ここは真っ暗だよ」
「はぁ」

 一階にある小さな物置。
 掃除道具とか普段は使わない物が収納されている小さなスペース。窓がないので、中に入ってドアを閉めれば、昼間でも真っ暗だ。

「入って」
「僕がですか?」

 ちょっと嫌そうな顔をするティアンの背中を押して、中に入るよう促す。

「夜になるのを待つのではダメですか」
「ダメ。今見たい」
「えー」

 不満を隠しもしないティアンは、渋々といった様子で物置の中に顔を突っ込む。

「いや狭いですって」
「頑張って!」
「無理ですよ」

 狭くて入れないと言うティアン。確かに、物も多いのでティアンが入れるスペースはない。

「綿毛ちゃんは入れたのに」
「綿毛ちゃんは小さいでしょ」

 前に一度、綿毛ちゃんをここに入れたことがある。そうか。ティアンはでかいから入れないのか。

 肩を落とす俺に、「夜まで待てばいいですよ」とティアンが提案してくる。そうだな。オーガス兄様も俺にあげるって言ったし。そんなに急ぐ必要もない。

 しかし、なんだかもやもやとした気分になる俺は、それならばここに入る綿毛ちゃんを連れてくればいいのでは? と思いつく。ティアンには後で見せてあげるとして、とりあえず今は綿毛ちゃんに見せてあげよう。

 急いで部屋に戻った俺は、『おかえり』と呑気にへらへらしている綿毛ちゃんを持ち上げた。

 そうして再び物置に向かえば、綿毛ちゃんが『ちょっと待って。なんで物置』とバタバタ暴れ始める。

 賑やかな綿毛ちゃんを物置に押し込める。『ひどい。ティアンさん、助けてぇ』とうるさい綿毛ちゃんは、小さいのですんなり物置に入った。

「見てこれ。光る」

 物置の中にお座りする綿毛ちゃんの前に石を置いて、ドアを閉める。『え』という短い声が聞こえてきたが、気にしない。

「光ってる!?」

 外から問いかければ、綿毛ちゃんが『あんまり』と言う。

「光ってないの!?」
『うん。あんまり』

 なんでだろう。首を捻る俺に、ティアンが「戸棚の中に仕舞っていたからでは?」と口を出してくる。確かこれは、日中に光をため込むタイプのものだ。なるほど。暗い戸棚の中で保管していたから、光らないのか。

「オーガス兄様ひどい」

 なんでそんなところで保管していたのか。悔しい思いをする俺だが、「また光をあてれば大丈夫ですよ」とのティアンの言葉に頷いておく。

『あのぉ。そろそろ出してくれませんかぁ』

 物置の中からか細い声が聞こえてきて、慌ててドアを開けた。
しおりを挟む
感想 415

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

氷の華を溶かしたら

こむぎダック
BL
ラリス王国。 男女問わず、子供を産む事ができる世界。 前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。 ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。 そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。 その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。 初恋を拗らせたカリストとシェルビー。 キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

総長の彼氏が俺にだけ優しい

桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、 関東で最強の暴走族の総長。 みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。 そんな日常を描いた話である。

なんで俺の周りはイケメン高身長が多いんだ!!!!

柑橘
BL
王道詰め合わせ。 ジャンルをお確かめの上お進み下さい。 7/7以降、サブストーリー(土谷虹の隣は決まってる!!!!)を公開しました!!読んでいただけると嬉しいです! ※目線が度々変わります。 ※登場人物の紹介が途中から増えるかもです。 ※火曜日20:00  金曜日19:00  日曜日17:00更新

処理中です...