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15歳
412 遊びに来た
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「お客さんが来るんだって」
「それはさっきも聞いた。何度同じ話をすれば気が済むんだ」
欠伸をするユリスは、心底どうでもいいと吐き捨てる。犬と猫がご飯食べたことを確認した俺は、再びユリスの部屋に戻って来ていた。
『お客さん来るの?』
「うん。みんなが忙しそうに準備してる」
『へー。オレもお出迎えするぅ』
「綿毛ちゃんはダメ。喋る犬は大人しくしといて」
『ひどいぃ』
酷くない。
お喋り犬がいるとバレたら大変なことになる。綿毛ちゃんはお喋りな性格だから。ついうっかりでお喋りできることがバレてしまう可能性がある。
綿毛ちゃんには、部屋で大人しくしていてもらいたい。
そわそわする俺とは対照的に、ユリスはどこまでも無関心だ。むしろ屋敷がうるさくなると嫌そうな顔をしている。
「どうせマーティーだろ」
「マーティー?」
久しぶりに聞く名前に、ぴたりと動きを止める。
「この間。マーティーがうちに来ると言っていたからそれだろう」
「そうなの?」
ユリスは、たまに王宮へと足を伸ばしている。魔法研究施設に関することで、たびたびエリックにお願いへと行っているらしい。ユリスは、魔法が関わると突然積極的になる。エリックとあまり仲良くないのに、魔法が絡むとぐいぐい行くのだ。その時に、ちらっとマーティーと会話したらしい。
「マーティー、いま何歳?」
「十五だろ」
十五歳のマーティー。ちょっと想像できない。
しかし、お客さんがマーティーだったら綿毛ちゃんを見せてあげてもいいかもしれない。マーティーは、ユリスが黒猫から人間になる瞬間を目撃している。お喋りする犬を見ても、受け入れてもらえるだろう。
「綿毛ちゃん!」
『なに?』
不機嫌毛玉は、ムスッとした顔で会話に耳を傾けている。
「マーティーだったら綿毛ちゃんもお出迎えしていいよ」
『本当?』
途端に元気になった綿毛ちゃんは、『わーい』と駆け回っている。そんなにお出迎えしたいのか?
※※※
「なにしに来た! マーティー!」
「別になんだっていいだろ」
ユリスの言う通り、やって来たのはマーティーだった。エリックそっくりの金髪。なんだか大きくなったマーティーは、偉そうに俺を眺めてくる。
「マーティー。何歳?」
「おまえと一緒だ」
「ふーん?」
ちょっと大人っぽくなっている。あの泣き虫マーティーが。
「ルイスも成長するんだな。まぁ、身長だけ伸びても中身が伴わないと意味がないけどな」
「偉そうだな」
「偉いからな」
真顔で返してくるマーティーは、相変わらずであった。そういえば、マーティーはいつもちょっぴり偉そうだった。まぁ、こいつはこう見えて王子だからな。
マーティーは、特にこれといった用事があるわけでもないらしい。最近会っていないので、俺らの顔を見に来てやったと偉そうに言っていた。
そんなマーティーを、ユリスは鼻で笑っている。
俺につっかかってくるマーティーは、けれどもユリスを相手にすると妙に大人しくなる。今でもユリスのことが怖いのだろうか。弱虫なところは変わっていない。
オーガス兄様とブルース兄様に挨拶したマーティーは、当然のような顔で俺とユリスについてくる。
「なんでついてくるの」
「僕は王子だぞ。僕のことをもてなせ」
「面倒くさいな」
「なんだと」
俺には強気に言い返してくるマーティー。だが、ユリスが小さく舌打ちした瞬間、静かになった。マーティーが、俺をなめている。それはもう、すごく露骨に。
腹の立った俺は、ユリスの部屋を飛び出した。「おい! どこへ行く」とマーティーの焦ったような声が追いかけてくるが、気にしない。あいつは、俺の居ない空間でユリスと一緒になるのが嫌なのだ。弱虫め。
「綿毛ちゃん!」
自室に飛び込んだ俺は、床で猫と地味に格闘していた綿毛ちゃんを抱え上げる。猫パンチを繰り出すエリスちゃんに、綿毛ちゃんがビビりながら『仲良くしようよぉ』と近付いているところであった。
「マーティーに犬パンチしてやれ!」
『なにそれ』
綿毛ちゃんを抱えてユリスの部屋に戻る。「マーティー!」と、勢いよく駆け込めば、なんだか弱そうな顔でユリスと向き合っていたマーティーが、こちらを振り返った。その顔に、わかりやすく安堵が浮かぶ。
「なんだそれは」
「犬!」
いいだろと自慢すれば、マーティーが「触ってもいいか」と食いついてくる。マーティーは、たしか猫のことも好きだった。もふもふの犬も好きに違いない。
「触りたいのか? 名前は綿毛ちゃん」
「変な名前だな」
「なんだと!」
俺のセンスにケチをつけてくるお子様に、蹴りをお見舞いしてやる。「やめろ」と眉を寄せるマーティーは、ちらちら綿毛ちゃんを見遣っている。
「触らせてあげないもんね」
綿毛ちゃんをぎゅっと抱いてマーティーから距離を取れば、「なんでだ」と不満そうに腕を組むマーティー。「こら! 意地悪しない!」と叱りつけてくるタイラーからも距離をとって、俺は綿毛ちゃんを高く掲げる。
「もふもふに触りたければ俺に謝れ!」
「意味がわからない」
真顔になるマーティーの横で、ユリスがにやにやと口角を持ち上げていた。
「それはさっきも聞いた。何度同じ話をすれば気が済むんだ」
欠伸をするユリスは、心底どうでもいいと吐き捨てる。犬と猫がご飯食べたことを確認した俺は、再びユリスの部屋に戻って来ていた。
『お客さん来るの?』
「うん。みんなが忙しそうに準備してる」
『へー。オレもお出迎えするぅ』
「綿毛ちゃんはダメ。喋る犬は大人しくしといて」
『ひどいぃ』
酷くない。
お喋り犬がいるとバレたら大変なことになる。綿毛ちゃんはお喋りな性格だから。ついうっかりでお喋りできることがバレてしまう可能性がある。
綿毛ちゃんには、部屋で大人しくしていてもらいたい。
そわそわする俺とは対照的に、ユリスはどこまでも無関心だ。むしろ屋敷がうるさくなると嫌そうな顔をしている。
「どうせマーティーだろ」
「マーティー?」
久しぶりに聞く名前に、ぴたりと動きを止める。
「この間。マーティーがうちに来ると言っていたからそれだろう」
「そうなの?」
ユリスは、たまに王宮へと足を伸ばしている。魔法研究施設に関することで、たびたびエリックにお願いへと行っているらしい。ユリスは、魔法が関わると突然積極的になる。エリックとあまり仲良くないのに、魔法が絡むとぐいぐい行くのだ。その時に、ちらっとマーティーと会話したらしい。
「マーティー、いま何歳?」
「十五だろ」
十五歳のマーティー。ちょっと想像できない。
しかし、お客さんがマーティーだったら綿毛ちゃんを見せてあげてもいいかもしれない。マーティーは、ユリスが黒猫から人間になる瞬間を目撃している。お喋りする犬を見ても、受け入れてもらえるだろう。
「綿毛ちゃん!」
『なに?』
不機嫌毛玉は、ムスッとした顔で会話に耳を傾けている。
「マーティーだったら綿毛ちゃんもお出迎えしていいよ」
『本当?』
途端に元気になった綿毛ちゃんは、『わーい』と駆け回っている。そんなにお出迎えしたいのか?
※※※
「なにしに来た! マーティー!」
「別になんだっていいだろ」
ユリスの言う通り、やって来たのはマーティーだった。エリックそっくりの金髪。なんだか大きくなったマーティーは、偉そうに俺を眺めてくる。
「マーティー。何歳?」
「おまえと一緒だ」
「ふーん?」
ちょっと大人っぽくなっている。あの泣き虫マーティーが。
「ルイスも成長するんだな。まぁ、身長だけ伸びても中身が伴わないと意味がないけどな」
「偉そうだな」
「偉いからな」
真顔で返してくるマーティーは、相変わらずであった。そういえば、マーティーはいつもちょっぴり偉そうだった。まぁ、こいつはこう見えて王子だからな。
マーティーは、特にこれといった用事があるわけでもないらしい。最近会っていないので、俺らの顔を見に来てやったと偉そうに言っていた。
そんなマーティーを、ユリスは鼻で笑っている。
俺につっかかってくるマーティーは、けれどもユリスを相手にすると妙に大人しくなる。今でもユリスのことが怖いのだろうか。弱虫なところは変わっていない。
オーガス兄様とブルース兄様に挨拶したマーティーは、当然のような顔で俺とユリスについてくる。
「なんでついてくるの」
「僕は王子だぞ。僕のことをもてなせ」
「面倒くさいな」
「なんだと」
俺には強気に言い返してくるマーティー。だが、ユリスが小さく舌打ちした瞬間、静かになった。マーティーが、俺をなめている。それはもう、すごく露骨に。
腹の立った俺は、ユリスの部屋を飛び出した。「おい! どこへ行く」とマーティーの焦ったような声が追いかけてくるが、気にしない。あいつは、俺の居ない空間でユリスと一緒になるのが嫌なのだ。弱虫め。
「綿毛ちゃん!」
自室に飛び込んだ俺は、床で猫と地味に格闘していた綿毛ちゃんを抱え上げる。猫パンチを繰り出すエリスちゃんに、綿毛ちゃんがビビりながら『仲良くしようよぉ』と近付いているところであった。
「マーティーに犬パンチしてやれ!」
『なにそれ』
綿毛ちゃんを抱えてユリスの部屋に戻る。「マーティー!」と、勢いよく駆け込めば、なんだか弱そうな顔でユリスと向き合っていたマーティーが、こちらを振り返った。その顔に、わかりやすく安堵が浮かぶ。
「なんだそれは」
「犬!」
いいだろと自慢すれば、マーティーが「触ってもいいか」と食いついてくる。マーティーは、たしか猫のことも好きだった。もふもふの犬も好きに違いない。
「触りたいのか? 名前は綿毛ちゃん」
「変な名前だな」
「なんだと!」
俺のセンスにケチをつけてくるお子様に、蹴りをお見舞いしてやる。「やめろ」と眉を寄せるマーティーは、ちらちら綿毛ちゃんを見遣っている。
「触らせてあげないもんね」
綿毛ちゃんをぎゅっと抱いてマーティーから距離を取れば、「なんでだ」と不満そうに腕を組むマーティー。「こら! 意地悪しない!」と叱りつけてくるタイラーからも距離をとって、俺は綿毛ちゃんを高く掲げる。
「もふもふに触りたければ俺に謝れ!」
「意味がわからない」
真顔になるマーティーの横で、ユリスがにやにやと口角を持ち上げていた。
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