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15歳
411 お楽しみ
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今日は朝から来客があるらしい。
慌ただしく準備に走る使用人たちを横目に、俺はユリスの部屋に突撃した。
なんだか眠そうな顔のユリスは「朝からうるさい」と、俺に文句を言ってくる。屋敷内がざわついていることを、なぜか俺のせいにしてくる。濡れ衣を着せられるのはごめんなので、お客さんが来るらしいことを教えてあげれば、「そうか」という素っ気ない言葉が返ってくる。
「誰だか気にならないの?」
「僕には関係ないだろ」
「あるかもしれないじゃん」
ね? とタイラーに同意を求めれば、「お客さんもいいですけど。はやく着替えてくださいよ」との文句が聞こえてきた。よく見れば、ユリスはまだ寝巻き姿であった。
「あ!」
ふと思い出して大声を出す俺に、ユリスが「なんだ」と責めるような視線を向けてくる。俺の大声にびっくりしたらしい。
「綿毛ちゃんとエリスちゃんにご飯あげてない!」
「どうでもいいだろ」
「よくないよ」
こりゃ大変だ。
急いで自室に駆け戻ると、待っていましたとばかりにエリスちゃんが足に戯れてくる。それを引き剥がして、ご飯を準備する。猫はお腹が空いたみたいで、急かすように俺の周りをぐるぐるしている。
そうして猫にご飯をあげて、綿毛ちゃんを探す。
「綿毛ちゃん?」
お喋りな綿毛ちゃんがいない。そういえば、ティアンもジャンもいない。みんなどこに行ったんだ。ぽつんと部屋の中央で立ち尽くす。ご飯にがっつく猫をぼんやり眺めていれば、開け放していたドアからティアンが入ってきた。
「あ!」
俺と猫を見るなり、ティアンはしまったという顔をする。そのまま大股で寄ってきたティアンは、猫が顔を突っ込んでいる皿を取り上げてしまう。なにその暴挙。
「なにするんだ!」
俺の猫をいじめるな! とティアンから皿を奪い返そうとするが、ティアンのほうが背が高い。手の届かない俺は、猫をいじめるなと精一杯抗議しておく。だが、ティアンが皿を返す素振りはない。それどころか、俺に困ったような視線を向けてくる。なんだその俺が悪いみたいな顔は。
「もうあげましたよ」
やれやれみたいな雰囲気で告げられた言葉に、俺はティアンに掴みかかろうと伸ばしていた手をおろした。
「あげたの?」
「はい。先程、僕がもうあげました」
何食わぬ顔でにゃあにゃあ言っている猫を見下ろしてみる。ご飯よこせと主張するエリスちゃんは、しれっと二度目の朝ごはんを要求しているらしい。
「エリスちゃん。朝ごはんは一日一回だぞ」
にゃあにゃあうるさいエリスちゃんは、ティアンの手にある皿に釘付けだ。なんて食いしん坊なんだ。危うく騙されるところだった。
ティアンの行動の理由はわかった。
だが、俺にはひとつ納得いかないことがある。
「なんで勝手にご飯あげちゃうの! 俺があげるのに!」
猫と犬のお世話の中で、ご飯あげるのが一番楽しいのに。良いところをさらっと奪われた俺は、少しだけ腹を立てる。「勝手にあげないで!」と抗議すれば、ティアンが「すみません」と頭を掻く。
「綿毛ちゃんがお腹空いたってうるさかったので」
「なんだと」
ティアンいわく、俺が部屋を出て行ってすぐに、綿毛ちゃんが『お腹空きましたぁ。オレのご飯はまだですかぁ。か弱い毛玉は空腹で倒れそうでーす』とうるさかったらしい。あの食いしん坊め。
ところでその綿毛ちゃんはどこに行ったのか。
「あれ? 部屋に居ませんか?」
「居ない」
綿毛ちゃんはお喋り大好きな犬だ。ひとりでもずっと何かを喋っている。しかし、綿毛ちゃんの声は聞こえない。だから部屋には居ないと考えた俺だが、ハッと思いつく。
「綿毛ちゃん!」
慌てて続きになっている寝室へと駆け込めば、思った通りベッドの上ですやすやと寝息を立てる綿毛ちゃんがいた。
「寝るな! もう朝だぞ! 犬!」
『やめて、びっくりするから』
ベッドに乗って、寝ていた綿毛ちゃんを持ち上げる。そのまま起きろと言えば、綿毛ちゃんが目を開けた。
「なんで二度寝するの」
『いいじゃん、たまには。オレも疲れてるんです』
「綿毛ちゃんは毎日お気楽なのに?」
『お気楽ではないよ? 坊ちゃんの面倒見るのは大変なんだけど』
なにを言うのか。俺が綿毛ちゃんの面倒を見ているのだ。毎日ご飯あげて散歩にも連れて行ってあげている。
眠そうにふにゃふにゃ欠伸する綿毛ちゃんを寝室から引っ張り出す。このままベッドに置いておくと、またすぐにでも寝てしまいそうな雰囲気だったので。
「綿毛ちゃん。もうご飯食べた?」
『食べたよ。ティアンさんにもらった』
どうやらティアンの話は本当らしい。勝手にご飯をあげたことはちょっと嫌だが、忘れていた俺も悪いような気がする。
「ティアン。ありがとう」
お礼を言えば、ティアンがにこっと笑う。
「どういたしまして」
その後、ジャンも戻ってきていつも通りの賑やかさになる。ジャンは、毎朝バタバタしている。俺の着替えを用意したり、洗濯物を回収したりとすごく忙しそうだ。レナルドはあまりジャンの手伝いをしていなかったが、ロニーはよくジャンと一緒になって細々としたことをやっていた。
俺の髪を整えるティアンも、ロニーと同じくジャンの仕事を手伝うタイプらしい。
「ねぇ、お客さんって誰」
ずっと気になっていたことを質問すれば、ティアンは「さぁ。どなたでしょうね」とくすくす笑う。その含み笑いは、絶対に誰が来るのか知っている感じであった。教えてと頼んでみるが、ティアンは口を割らない。「会ってからのお楽しみですよ」と、俺の頭を軽く撫でてくるティアンは、なんだか楽しそうであった。
慌ただしく準備に走る使用人たちを横目に、俺はユリスの部屋に突撃した。
なんだか眠そうな顔のユリスは「朝からうるさい」と、俺に文句を言ってくる。屋敷内がざわついていることを、なぜか俺のせいにしてくる。濡れ衣を着せられるのはごめんなので、お客さんが来るらしいことを教えてあげれば、「そうか」という素っ気ない言葉が返ってくる。
「誰だか気にならないの?」
「僕には関係ないだろ」
「あるかもしれないじゃん」
ね? とタイラーに同意を求めれば、「お客さんもいいですけど。はやく着替えてくださいよ」との文句が聞こえてきた。よく見れば、ユリスはまだ寝巻き姿であった。
「あ!」
ふと思い出して大声を出す俺に、ユリスが「なんだ」と責めるような視線を向けてくる。俺の大声にびっくりしたらしい。
「綿毛ちゃんとエリスちゃんにご飯あげてない!」
「どうでもいいだろ」
「よくないよ」
こりゃ大変だ。
急いで自室に駆け戻ると、待っていましたとばかりにエリスちゃんが足に戯れてくる。それを引き剥がして、ご飯を準備する。猫はお腹が空いたみたいで、急かすように俺の周りをぐるぐるしている。
そうして猫にご飯をあげて、綿毛ちゃんを探す。
「綿毛ちゃん?」
お喋りな綿毛ちゃんがいない。そういえば、ティアンもジャンもいない。みんなどこに行ったんだ。ぽつんと部屋の中央で立ち尽くす。ご飯にがっつく猫をぼんやり眺めていれば、開け放していたドアからティアンが入ってきた。
「あ!」
俺と猫を見るなり、ティアンはしまったという顔をする。そのまま大股で寄ってきたティアンは、猫が顔を突っ込んでいる皿を取り上げてしまう。なにその暴挙。
「なにするんだ!」
俺の猫をいじめるな! とティアンから皿を奪い返そうとするが、ティアンのほうが背が高い。手の届かない俺は、猫をいじめるなと精一杯抗議しておく。だが、ティアンが皿を返す素振りはない。それどころか、俺に困ったような視線を向けてくる。なんだその俺が悪いみたいな顔は。
「もうあげましたよ」
やれやれみたいな雰囲気で告げられた言葉に、俺はティアンに掴みかかろうと伸ばしていた手をおろした。
「あげたの?」
「はい。先程、僕がもうあげました」
何食わぬ顔でにゃあにゃあ言っている猫を見下ろしてみる。ご飯よこせと主張するエリスちゃんは、しれっと二度目の朝ごはんを要求しているらしい。
「エリスちゃん。朝ごはんは一日一回だぞ」
にゃあにゃあうるさいエリスちゃんは、ティアンの手にある皿に釘付けだ。なんて食いしん坊なんだ。危うく騙されるところだった。
ティアンの行動の理由はわかった。
だが、俺にはひとつ納得いかないことがある。
「なんで勝手にご飯あげちゃうの! 俺があげるのに!」
猫と犬のお世話の中で、ご飯あげるのが一番楽しいのに。良いところをさらっと奪われた俺は、少しだけ腹を立てる。「勝手にあげないで!」と抗議すれば、ティアンが「すみません」と頭を掻く。
「綿毛ちゃんがお腹空いたってうるさかったので」
「なんだと」
ティアンいわく、俺が部屋を出て行ってすぐに、綿毛ちゃんが『お腹空きましたぁ。オレのご飯はまだですかぁ。か弱い毛玉は空腹で倒れそうでーす』とうるさかったらしい。あの食いしん坊め。
ところでその綿毛ちゃんはどこに行ったのか。
「あれ? 部屋に居ませんか?」
「居ない」
綿毛ちゃんはお喋り大好きな犬だ。ひとりでもずっと何かを喋っている。しかし、綿毛ちゃんの声は聞こえない。だから部屋には居ないと考えた俺だが、ハッと思いつく。
「綿毛ちゃん!」
慌てて続きになっている寝室へと駆け込めば、思った通りベッドの上ですやすやと寝息を立てる綿毛ちゃんがいた。
「寝るな! もう朝だぞ! 犬!」
『やめて、びっくりするから』
ベッドに乗って、寝ていた綿毛ちゃんを持ち上げる。そのまま起きろと言えば、綿毛ちゃんが目を開けた。
「なんで二度寝するの」
『いいじゃん、たまには。オレも疲れてるんです』
「綿毛ちゃんは毎日お気楽なのに?」
『お気楽ではないよ? 坊ちゃんの面倒見るのは大変なんだけど』
なにを言うのか。俺が綿毛ちゃんの面倒を見ているのだ。毎日ご飯あげて散歩にも連れて行ってあげている。
眠そうにふにゃふにゃ欠伸する綿毛ちゃんを寝室から引っ張り出す。このままベッドに置いておくと、またすぐにでも寝てしまいそうな雰囲気だったので。
「綿毛ちゃん。もうご飯食べた?」
『食べたよ。ティアンさんにもらった』
どうやらティアンの話は本当らしい。勝手にご飯をあげたことはちょっと嫌だが、忘れていた俺も悪いような気がする。
「ティアン。ありがとう」
お礼を言えば、ティアンがにこっと笑う。
「どういたしまして」
その後、ジャンも戻ってきていつも通りの賑やかさになる。ジャンは、毎朝バタバタしている。俺の着替えを用意したり、洗濯物を回収したりとすごく忙しそうだ。レナルドはあまりジャンの手伝いをしていなかったが、ロニーはよくジャンと一緒になって細々としたことをやっていた。
俺の髪を整えるティアンも、ロニーと同じくジャンの仕事を手伝うタイプらしい。
「ねぇ、お客さんって誰」
ずっと気になっていたことを質問すれば、ティアンは「さぁ。どなたでしょうね」とくすくす笑う。その含み笑いは、絶対に誰が来るのか知っている感じであった。教えてと頼んでみるが、ティアンは口を割らない。「会ってからのお楽しみですよ」と、俺の頭を軽く撫でてくるティアンは、なんだか楽しそうであった。
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