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15歳
410 静かな争い
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「ティアンと遊んで楽しいですか?」
「楽しいよ」
「俺と遊ぶよりも?」
「うーん」
なにその質問。
出会い頭に面倒な問いかけをしてきたアロンは、わかりやすくムスッとしている。不機嫌アロンだ。アロンは、たまに理由もなく不機嫌になる。
ひとりで廊下を歩いていたところ、狙ったようにアロンが姿を現した。自室への道を辿る俺の隣に、アロンはしれっと並んでくる。
どっちも楽しいけどな。けれども、アロンはそれじゃあ納得しない。よくわからないが、アロンは最近ティアンと張り合っている。すれ違い様に睨み合いしていることを、俺は知っている。だいたいはティアンのほうが静かに視線を逸らして終了するけど。
そうして自室に戻れば、アロンは当然のような顔で続いてくる。部屋で待機していたジャンとティアンが、ちらりと視線を向けてくる。
「で? なんの用」
床に落ちていた綿毛ちゃんを拾ってテーブルの上に乗せる。寝ていたらしい綿毛ちゃんは、『びっくりしたぁ』と呑気に欠伸をしている。この毛玉は、目を離すとすぐにお昼寝してしまう。
「別になにか用ってわけじゃないですけど」
「ふーん」
勧められてもいないのに、俺の向かいに座ったアロンは、偉そうに足を組んでいる。
「ルイス様の護衛、俺やりたいです」
「そんなこと言われても。ブルース兄様に言いなよ」
アロンの我儘に、ティアンがちょっとだけ嫌そうな顔をしている。だが、口出しはしないで黙り込んでいる。猫を撫でているティアンを横目で確認して、俺も綿毛ちゃんを撫でる。そのうち撫でるのにも飽きてきて、テーブル上の綿毛ちゃんに顔を埋める。
「もふもふだぁ」
『重いんですけどぉ』
綿毛ちゃんを枕にして、目を閉じる。もふもふで心地よい。そのままうっかり寝てしまいそうになるが、アロンの存在を思い出して顔を上げる。
「で? なに」
「だから。なにも」
素っ気なく答えるアロンは「用がないと会いにきたらダメですか?」と、なぜかティアンを睨みつけている。
「ダメじゃないけど」
「じゃあいいじゃないですか」
そう?
しかし、じっと見つめられると居心地が悪い。俺の部屋に居座るのは別に構わないから。俺を凝視するのはやめてくれないかな。
「ティアン」
「なんですか」
「アロンどうにかして」
どうにかってなんですか、と腰に手をあてるティアンは、「ほら、ルイス様が困っているじゃないですか」とアロンを追い返しにかかってくれる。
だが、アロンはどこ吹く風。我が物顔で椅子を占領して動く気配がない。図々しい奴だな。
「そんなことより、ルイス様」
しまいには話題を逸らして微笑むアロン。その鋭い目は、戸棚へと向けられている。
「俺があげた指輪、どこにやったんですか」
「そこ」
ちょうどアロンが目をやっている戸棚を指差せば、ティアンが「指輪?」と片眉を持ち上げる。
そういえば、俺がアロンに指輪をもらった時、ティアンはすでにヴィアン家には居なかった。だから知らなくて当然だ。椅子からおりて、指輪を引っ張り出す。戸棚の奥に隠してあった指輪は、久しぶりに俺の手におさまる。
「見て、ティアン。アロンにもらったの」
十三歳の時の誕生日プレゼントだと説明するが、ティアンは目を見開いて小さく震えている。なにその反応。羨ましいのか?
よく見せてやろうとティアンに駆け寄ったその時。ティアンが「はぁ!?」と大声を出したので、俺はすごくびっくりした。ジャンと綿毛ちゃんも驚いたらしい。部屋がしんと静まり返る。
「急に大声出さないで」
「なんで指輪なんて!」
なんでって言われても。
困惑する俺とは対照的に、アロンはすごくニヤニヤしていた。悪い笑みだ。
こほんとわざとらしい咳払いでティアンの気をひいたアロンは、己の懐から俺とお揃いの指輪を取り出してみせた。以前、俺に預けていた例の指輪だ。
それを見たティアンが「露骨にアピールしてくる」と苦い顔をしている。そうだな。アロンが大人気ないのは昔からだ。今も、頑張ってティアン相手にマウント取っている。
「ルイス様とお揃いですもんね」
「うん」
お揃いといっても、アロンが勝手にお揃いにしただけだけど。だが、ティアンはちょっと悔しそうに拳を握っている。『バチバチだぁ。修羅場ってやつ?』と、綿毛ちゃんが興味津々に首を突っ込もうとしている。
そんな毛玉の頭を掴んで、騒動から引き離す。巻き込まれても、良いことはないと思うぞ。
得意気なアロンと、悔しそうなティアンを見比べる。どうやらアロンが優勢らしい。よくわかんないけど。
壁際で必死に存在感を消しているジャンに、猫のことをお任せする。ふにゃふにゃ寝ているエリスちゃんは、なにも気にせずのんびりしている。綿毛ちゃんを抱き上げて、俺もこっそり拳を握る。巻き込まれないように、十分に距離をとってからふたりを見守る。
「どっちも頑張れ!」
『なんで焚き付けるの? 止めたほうがいいと思うよぉ?』
若干引いている綿毛ちゃん。なんでって言われても。なんかバチバチしているから。とりあえず応援しておこうと思っただけだ。
「楽しいよ」
「俺と遊ぶよりも?」
「うーん」
なにその質問。
出会い頭に面倒な問いかけをしてきたアロンは、わかりやすくムスッとしている。不機嫌アロンだ。アロンは、たまに理由もなく不機嫌になる。
ひとりで廊下を歩いていたところ、狙ったようにアロンが姿を現した。自室への道を辿る俺の隣に、アロンはしれっと並んでくる。
どっちも楽しいけどな。けれども、アロンはそれじゃあ納得しない。よくわからないが、アロンは最近ティアンと張り合っている。すれ違い様に睨み合いしていることを、俺は知っている。だいたいはティアンのほうが静かに視線を逸らして終了するけど。
そうして自室に戻れば、アロンは当然のような顔で続いてくる。部屋で待機していたジャンとティアンが、ちらりと視線を向けてくる。
「で? なんの用」
床に落ちていた綿毛ちゃんを拾ってテーブルの上に乗せる。寝ていたらしい綿毛ちゃんは、『びっくりしたぁ』と呑気に欠伸をしている。この毛玉は、目を離すとすぐにお昼寝してしまう。
「別になにか用ってわけじゃないですけど」
「ふーん」
勧められてもいないのに、俺の向かいに座ったアロンは、偉そうに足を組んでいる。
「ルイス様の護衛、俺やりたいです」
「そんなこと言われても。ブルース兄様に言いなよ」
アロンの我儘に、ティアンがちょっとだけ嫌そうな顔をしている。だが、口出しはしないで黙り込んでいる。猫を撫でているティアンを横目で確認して、俺も綿毛ちゃんを撫でる。そのうち撫でるのにも飽きてきて、テーブル上の綿毛ちゃんに顔を埋める。
「もふもふだぁ」
『重いんですけどぉ』
綿毛ちゃんを枕にして、目を閉じる。もふもふで心地よい。そのままうっかり寝てしまいそうになるが、アロンの存在を思い出して顔を上げる。
「で? なに」
「だから。なにも」
素っ気なく答えるアロンは「用がないと会いにきたらダメですか?」と、なぜかティアンを睨みつけている。
「ダメじゃないけど」
「じゃあいいじゃないですか」
そう?
しかし、じっと見つめられると居心地が悪い。俺の部屋に居座るのは別に構わないから。俺を凝視するのはやめてくれないかな。
「ティアン」
「なんですか」
「アロンどうにかして」
どうにかってなんですか、と腰に手をあてるティアンは、「ほら、ルイス様が困っているじゃないですか」とアロンを追い返しにかかってくれる。
だが、アロンはどこ吹く風。我が物顔で椅子を占領して動く気配がない。図々しい奴だな。
「そんなことより、ルイス様」
しまいには話題を逸らして微笑むアロン。その鋭い目は、戸棚へと向けられている。
「俺があげた指輪、どこにやったんですか」
「そこ」
ちょうどアロンが目をやっている戸棚を指差せば、ティアンが「指輪?」と片眉を持ち上げる。
そういえば、俺がアロンに指輪をもらった時、ティアンはすでにヴィアン家には居なかった。だから知らなくて当然だ。椅子からおりて、指輪を引っ張り出す。戸棚の奥に隠してあった指輪は、久しぶりに俺の手におさまる。
「見て、ティアン。アロンにもらったの」
十三歳の時の誕生日プレゼントだと説明するが、ティアンは目を見開いて小さく震えている。なにその反応。羨ましいのか?
よく見せてやろうとティアンに駆け寄ったその時。ティアンが「はぁ!?」と大声を出したので、俺はすごくびっくりした。ジャンと綿毛ちゃんも驚いたらしい。部屋がしんと静まり返る。
「急に大声出さないで」
「なんで指輪なんて!」
なんでって言われても。
困惑する俺とは対照的に、アロンはすごくニヤニヤしていた。悪い笑みだ。
こほんとわざとらしい咳払いでティアンの気をひいたアロンは、己の懐から俺とお揃いの指輪を取り出してみせた。以前、俺に預けていた例の指輪だ。
それを見たティアンが「露骨にアピールしてくる」と苦い顔をしている。そうだな。アロンが大人気ないのは昔からだ。今も、頑張ってティアン相手にマウント取っている。
「ルイス様とお揃いですもんね」
「うん」
お揃いといっても、アロンが勝手にお揃いにしただけだけど。だが、ティアンはちょっと悔しそうに拳を握っている。『バチバチだぁ。修羅場ってやつ?』と、綿毛ちゃんが興味津々に首を突っ込もうとしている。
そんな毛玉の頭を掴んで、騒動から引き離す。巻き込まれても、良いことはないと思うぞ。
得意気なアロンと、悔しそうなティアンを見比べる。どうやらアロンが優勢らしい。よくわかんないけど。
壁際で必死に存在感を消しているジャンに、猫のことをお任せする。ふにゃふにゃ寝ているエリスちゃんは、なにも気にせずのんびりしている。綿毛ちゃんを抱き上げて、俺もこっそり拳を握る。巻き込まれないように、十分に距離をとってからふたりを見守る。
「どっちも頑張れ!」
『なんで焚き付けるの? 止めたほうがいいと思うよぉ?』
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