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15歳

404 交換して

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「おはようございます、ルイス様」
「……」

 朝。
 ベッドから飛び起きるなり、犬と猫を窓際に並べて日光を浴びせていた時である。『眩しいんですけど』とむにゃむにゃする綿毛ちゃんを叩いて起こす俺の背中に、爽やかに声をかけてくる人影。

 ビクッと肩を揺らして振り返れば、そこには黒い騎士服に身を包むティアンがいた。

「レナルドは?」

 いつもなら「あー、腰が痛い」とか言いながらレナルドが入ってくる場面である。彼を探して視線を動かせば、「ルイス様の護衛は、僕が担当することになったので」との返事。そんなの聞いていない。

「よろしくお願いしますね」

 綿毛ちゃんを掴んで、一歩後ろに下がる。それに、ティアンがわかりやすく半眼となる。

「……」
「……」

 そのまま無言で睨み合い。
 先に折れたのはティアンだった。

「あの、ルイス様」
「……なに」

 ジャンの姿がない。ティアンが追い出したのだろうか。

 ちょっと緊張が走る室内に、ティアンの足音が響く。こちらへと近寄ってくるティアンに、俺は身を固くする。

 咄嗟に綿毛ちゃんを前に突き出して盾にすれば、ティアンがぎゅっと眉間に皺を寄せた。

「この変な距離はなんですか」
「……」
「なんで僕を避けるんですか」

 もふもふ毛玉を顔の前に持ち上げて、ティアンの視線を遮る。ぽふぽふと、綿毛ちゃんの尻尾が俺の顔に当たるが気にしない。

 じりじりと、ティアンから距離を取る。

「勝手に護衛変えないで。レナルドがいい」
「はぁ?」

 ぴくりと口元を引き攣らせるティアンは、すごくなにかを堪えるような表情を見せる。お子様ティアンであれば「なんでですか!」と声を荒げる場面である。ティアンが大人しくなっている。

 ティアンが突然帰ってきたのが昨日のこと。

 一旦は逃げた俺だが、その後ロニーと一緒にティアンにおかえりと伝えた。そこまではよかったのだが、問題はそのあとだ。

 大きくなったなとみんなに囲まれるティアンは、堂々とした佇まいであった。ブルース兄様は「こんなに大きくなるなんてな」と目を丸くしていた。

 ティアンは身長が伸びたらしい。もとから俺より背が高かったけど。ちらりと顔を合わせたアロンが「うわぁ。もう成長止まった? それ以上大きくなる必要はないと思うよ」と、わけのわからんことを口走っていた。どうやらティアンに身長で負けるのが嫌みたいだ。相変わらず器の小さい男である。

 そのまま様々な人に囲まれたティアンは、昨日一日忙しかったらしい。あれからまともに顔を合わせていなかった。

 どうやら真っ先に俺に会いに来たというのも本当らしく、ひと通り挨拶を済ませたティアンは、父親であるクレイグ団長に会いに行ったらしい。だから、あの立てこもり騒動から俺とティアンがまともに顔を合わせるのは、これが初めてだ。

 あの時は、ロニーも一緒だったから素直に会話できたけど。一晩たって冷静になると、やっぱり接し方がわからない。

 綿毛ちゃんを盾にして、くるくる部屋の中を逃げまわる俺。ティアンが今にも舌打ちしそうな顔をしている。

「犬、飼い始めたんですか? 猫が好きなのでは?」
「……綿毛ちゃんはふわふわだからいいの」
「綿毛ちゃんっていうんですか? 触ってもいいですか」
「だめ」

 さっと綿毛ちゃんをティアンから遠ざける。
 俺の犬だから。勝手に触らないで。

 綿毛ちゃんをぎゅっと抱きしめれば、毛玉がふるふる震える。「なんでダメなんですか」と食い下がってくるティアンから必死に逃げる。

「なんで逃げるんですか」
「……レナルドがいい! レナルドに戻して!」

 綿毛ちゃんをわーっと振りまわして抗議すれば、ティアンの眉間に皺が寄る。

『やめてぇ。目がまわるぅ』
「は?」

 ふにゃふにゃ文句を垂れる綿毛ちゃんであったが、ティアンの間抜けな声を聞いた瞬間、ハッと目を見開いた。

 あ、綿毛ちゃん。勝手にお喋りしたな。

 慌てて綿毛ちゃんの口を塞ぐ。

「え。今、その犬。喋りました?」
「……ううん。これは普通の犬」

 ね? と腕の中にいる毛玉を見下ろせば『そうだよ。普通の犬だよぉ。わんわん!』というわざとらしい鳴き真似が聞こえてくる。

 その瞬間、ティアンが悲鳴を上げた。

 あまりの声量に驚いた俺は、綿毛ちゃんを抱えたまま廊下へと飛び出した。そのまま一目散にユリスの自室へと駆け込んで、眠そうな目をしている彼に飛びついた。

「う、わ。なんだ突然」
「ユリス! どうにかして!」

 綿毛ちゃん貸してあげるからぁ! と、立ち尽くすユリスの胸に綿毛ちゃんを押し付ける。

 反射的に受け取ったユリスは、「意味がわからない」と綿毛ちゃんを床に置いてしまう。せっかくのもふもふ。触らないのか?

「なんの話だ」
「ティアン! どうにかして! 勝手に俺の護衛にしないで」
「それは僕じゃなくてブルースに言え」

 冷たいユリスに、再度綿毛ちゃんをぐいぐい押し付ける。頑なに受け取らないユリス。「綿毛ちゃんが可哀想だろ!」と諦めずに押し付けるのだが、やっぱりユリスは受け取らない。

「タイラーと交換して」
「なぜ」
「前は代わってくれるって言った!」
「いつの話だ」

 素っ気ないユリスは欠伸をすると、タイラーの手を借りて着替え始める。

「タイラー! ティアンどうにかして」
「仲良かったじゃないですか。どうしたんですか?」

 不思議そうにするタイラーは、なにもわかっていない。確かに昔は仲良しだったけど。今のティアンは昔のティアンじゃないから困っているのだ。

「綿毛ちゃんも勝手に喋っちゃうし! 全部台無し。もう嫌だ!」
『ご、ごめん。でもあれはオレを揺らした坊ちゃんも悪いと思うよ?』

 ムスッとユリスのベッドに飛び乗れば、タイラーが「こら」と叱りつけてくる。それを無視してバタバタしてやる。ままならない状況に、どうしようもなく苛々してしまった。
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