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15歳
397 寂しがり
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「綿毛ちゃん。ちゃんと俺の言うこときいて。俺はお兄ちゃんになったんだからな」
『はいはい。よかったねぇ』
適当に返事をしてくる毛玉は、『オレ眠い』と床に倒れようとしている。すかさず抱き上げれば、『寝かせてぇ?』とやんわり抗議されてしまった。まだ夜じゃないのに、なんで寝るんだ。
キャンベルの子供が無事に生まれたのが先日のこと。俺はついにお兄ちゃんになった。キャンベルは疲れているから今はそっとしておいてあげてねと、オーガス兄様から言われたので、俺は言いつけ通りに大人しくしている。だからまだキャンベルには会えていないのだが、赤ちゃんはちょっとだけ見せてもらえた。すごく小さかった。抱っこはさせてもらえなかったけど、可愛いと思う。元気な男の子だ。
「俺の弟!」
「だから。おまえの弟ではない」
いちいち訂正を挟んでくるユリスも、この日ばかりはいそいそと赤ちゃんを見に来た。こいつも赤ちゃんに興味あるんだな。いつものように、くだらないと吐き捨てるつもりかと。
男の子が生まれて一番安堵しているのはキャンベルかもしれない。お母様は「まぁまぁ、可愛らしい」と微笑んでいたのだが、キャンベルがいないところで「また男の子。つくづく女の子に縁がないわね。うちは」と少しだけ愚痴っていた。
「ケイシーの部屋は俺の隣にしてね」
「ケイシーがもうちょっと大きくなったらね」
苦笑するオーガス兄様は、なんだかやつれた顔をしていた。キャンベルの出産を間近に控えて、オーガス兄様は心配でろくに眠れなかったらしい。頼りにならない兄様だな。キャンベルの方がよっぽどしっかりしていた。
俺の甥っ子の名前はケイシーに決まった。キャンベルが考えたらしい。
連日ケイシーに会いたくてそわそわする俺だが、「まだ小さいから」とか言って、オーガス兄様はなかなかケイシーに会わせてくれない。「おまえが赤ん坊を叩かないか心配なんだろう」と意地悪なことを言うユリス。おまえもケイシーに会わせてもらえていないだろうが。
代わりに、猫と犬のお世話をしておく。
白猫エリスちゃんは凶暴なので、よく綿毛ちゃんを追いかけている。猫の水飲み場に犬が近寄ると、腹を立てるのだ。『助けてぇ』と逃げまわる綿毛ちゃんは情けない。というか、追いかけられるのが嫌なのであれば、猫の水飲み場に近寄らなければいいのに。
本日も、朝一番にケイシーの確認に行って、早々にオーガス兄様に追い出されてしまった。
暇を持て余した俺は、自室で猫のブラッシングをする。いつもはジャンがやっているのだが、俺はもうお兄ちゃんなので。お世話は得意。
ふにゃふにゃ動く猫相手に、頑張って毛並みを整えてあげる。
「レナルド! 見てないで手伝って!」
「はいはい。承知しました」
ジャンが水を汲みに行っている間に、レナルドに猫を押さえておくよう頼んでおく。「押さえる必要はないのでは?」と渋るレナルドに、俺は首を左右に振る。猫は、ちょっと油断すると綿毛ちゃんに襲いかかるのだ。
『オレは大丈夫だよ』
「綿毛ちゃんは弱いから」
『弱くないよぉ』
「うるさい!」
『ひどい。横暴だぁ』
綿毛ちゃんのために気を使っているのに、文句を言ってくる毛玉を追いかける。それに触発された猫が、ムクッと体を起こす。
『ぎゃあ! 猫ちゃんが追いかけてきた!』
「待てぇ!」
『やめて! わかったから。みんな一旦止まろうよ! ね!?』
猫を離してしまったレナルドが、「あらま」と雑に頭を掻いている。
そうして散々走りまわっていれば、「うるさい!」とユリスが怒鳴り込んできた。本を携えているユリスは、「室内を走りまわるな」ともっともな発言をしてから椅子に座る。
「僕の邪魔をするんじゃない」
「じゃあ自分の部屋で読めばいいじゃん」
なんでわざわざ俺の部屋に突入してくるのか。勝手に来て居座って、挙句にうるさいと文句を言ってくる勝手極まりないユリスに、俺は軽く肩をすくめる。
「ひとりで部屋にいるのが寂しいのかな?」
タイラーは、本日お休みである。
ブルース兄様が代わりの護衛をつけようとしていたが、ユリスはそれをきっぱりと断っていた。だから本日のユリスはひとりなのだ。
床にしゃがんで、綿毛ちゃんにこそっと耳打ちすれば、綿毛ちゃんもニヤニヤと悪い顔をする。
『ユリス坊ちゃんも意外と可愛いところあるねぇ』
「仕方ないから、今日はユリスと一緒に遊んでやろうかな」
『それがいいよぉ』
綿毛ちゃんが間の抜けた声を発した瞬間、ユリスが盛大な音を立ててこちらを振り返った。眼光鋭く、俺と綿毛ちゃんを睨みつけてくるユリスに、綿毛ちゃんがビビっている。ふるふる震える毛玉を勢いよく撫でていれば、ユリスが腕を組んで低い声を出した。
「全部聞こえている。いいか。僕はルイスが余計なことをしないように見張りに来たのであって、ひとりが寂しいとか、そういうわけでは決してない」
「ふーん?」
「そもそも! いつもは勝手に僕の部屋に来るだろうが。なんで今日は来ない」
なんでって言われても。
俺がどこに居ようが俺の勝手だろうが。
俺が部屋に来ないことを責めてくるユリスは、無駄に偉そうな態度であった。
『はいはい。よかったねぇ』
適当に返事をしてくる毛玉は、『オレ眠い』と床に倒れようとしている。すかさず抱き上げれば、『寝かせてぇ?』とやんわり抗議されてしまった。まだ夜じゃないのに、なんで寝るんだ。
キャンベルの子供が無事に生まれたのが先日のこと。俺はついにお兄ちゃんになった。キャンベルは疲れているから今はそっとしておいてあげてねと、オーガス兄様から言われたので、俺は言いつけ通りに大人しくしている。だからまだキャンベルには会えていないのだが、赤ちゃんはちょっとだけ見せてもらえた。すごく小さかった。抱っこはさせてもらえなかったけど、可愛いと思う。元気な男の子だ。
「俺の弟!」
「だから。おまえの弟ではない」
いちいち訂正を挟んでくるユリスも、この日ばかりはいそいそと赤ちゃんを見に来た。こいつも赤ちゃんに興味あるんだな。いつものように、くだらないと吐き捨てるつもりかと。
男の子が生まれて一番安堵しているのはキャンベルかもしれない。お母様は「まぁまぁ、可愛らしい」と微笑んでいたのだが、キャンベルがいないところで「また男の子。つくづく女の子に縁がないわね。うちは」と少しだけ愚痴っていた。
「ケイシーの部屋は俺の隣にしてね」
「ケイシーがもうちょっと大きくなったらね」
苦笑するオーガス兄様は、なんだかやつれた顔をしていた。キャンベルの出産を間近に控えて、オーガス兄様は心配でろくに眠れなかったらしい。頼りにならない兄様だな。キャンベルの方がよっぽどしっかりしていた。
俺の甥っ子の名前はケイシーに決まった。キャンベルが考えたらしい。
連日ケイシーに会いたくてそわそわする俺だが、「まだ小さいから」とか言って、オーガス兄様はなかなかケイシーに会わせてくれない。「おまえが赤ん坊を叩かないか心配なんだろう」と意地悪なことを言うユリス。おまえもケイシーに会わせてもらえていないだろうが。
代わりに、猫と犬のお世話をしておく。
白猫エリスちゃんは凶暴なので、よく綿毛ちゃんを追いかけている。猫の水飲み場に犬が近寄ると、腹を立てるのだ。『助けてぇ』と逃げまわる綿毛ちゃんは情けない。というか、追いかけられるのが嫌なのであれば、猫の水飲み場に近寄らなければいいのに。
本日も、朝一番にケイシーの確認に行って、早々にオーガス兄様に追い出されてしまった。
暇を持て余した俺は、自室で猫のブラッシングをする。いつもはジャンがやっているのだが、俺はもうお兄ちゃんなので。お世話は得意。
ふにゃふにゃ動く猫相手に、頑張って毛並みを整えてあげる。
「レナルド! 見てないで手伝って!」
「はいはい。承知しました」
ジャンが水を汲みに行っている間に、レナルドに猫を押さえておくよう頼んでおく。「押さえる必要はないのでは?」と渋るレナルドに、俺は首を左右に振る。猫は、ちょっと油断すると綿毛ちゃんに襲いかかるのだ。
『オレは大丈夫だよ』
「綿毛ちゃんは弱いから」
『弱くないよぉ』
「うるさい!」
『ひどい。横暴だぁ』
綿毛ちゃんのために気を使っているのに、文句を言ってくる毛玉を追いかける。それに触発された猫が、ムクッと体を起こす。
『ぎゃあ! 猫ちゃんが追いかけてきた!』
「待てぇ!」
『やめて! わかったから。みんな一旦止まろうよ! ね!?』
猫を離してしまったレナルドが、「あらま」と雑に頭を掻いている。
そうして散々走りまわっていれば、「うるさい!」とユリスが怒鳴り込んできた。本を携えているユリスは、「室内を走りまわるな」ともっともな発言をしてから椅子に座る。
「僕の邪魔をするんじゃない」
「じゃあ自分の部屋で読めばいいじゃん」
なんでわざわざ俺の部屋に突入してくるのか。勝手に来て居座って、挙句にうるさいと文句を言ってくる勝手極まりないユリスに、俺は軽く肩をすくめる。
「ひとりで部屋にいるのが寂しいのかな?」
タイラーは、本日お休みである。
ブルース兄様が代わりの護衛をつけようとしていたが、ユリスはそれをきっぱりと断っていた。だから本日のユリスはひとりなのだ。
床にしゃがんで、綿毛ちゃんにこそっと耳打ちすれば、綿毛ちゃんもニヤニヤと悪い顔をする。
『ユリス坊ちゃんも意外と可愛いところあるねぇ』
「仕方ないから、今日はユリスと一緒に遊んでやろうかな」
『それがいいよぉ』
綿毛ちゃんが間の抜けた声を発した瞬間、ユリスが盛大な音を立ててこちらを振り返った。眼光鋭く、俺と綿毛ちゃんを睨みつけてくるユリスに、綿毛ちゃんがビビっている。ふるふる震える毛玉を勢いよく撫でていれば、ユリスが腕を組んで低い声を出した。
「全部聞こえている。いいか。僕はルイスが余計なことをしないように見張りに来たのであって、ひとりが寂しいとか、そういうわけでは決してない」
「ふーん?」
「そもそも! いつもは勝手に僕の部屋に来るだろうが。なんで今日は来ない」
なんでって言われても。
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