冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話

岩永みやび

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15歳

394 変な対応

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 突然やって来たエリックは、我が物顔で屋敷に入る。迷うことのない足取りで二階へと向かうエリックは、オーガス兄様の部屋を目指していた。

 大股で進む彼の隣に並ぼうとするのだが、アロンが微妙に邪魔をしてくる。何食わぬ顔で俺とエリックの間を占領するアロンは、絶対にわざと邪魔をしている。器の小さい大人だな。

 エリックに気が付かれないようにアロンの背中を小突いてみるが、彼は涼しい顔で俺を一瞥するだけ。なんだその顔は。

 仕方がないので、アロン越しにエリックに語りかける。

「なにしに来たの?」
「ん? だからオーガスに挨拶でもしようかと。それにしてもオーガスは相変わらずだな。私が来たというのに出迎えもしないとは」
「オーガス兄様はエリックのこと苦手だから」
「嫌われるようなことをした覚えはないのだがな」

 豪快に笑うエリックに、前を歩いていたブルース兄様が振り返る。そしてなぜか俺を睨みつけてくる兄様は、余計なことを言うなと伝えたいらしい。わかったという返事の代わりに、軽く肩をすくめておく。

 俺とエリックが会話をしているというのに、アロンが場所を譲る気配はない。『そこ邪魔だよぉ?』と、綿毛ちゃんがナイスな発言をしているが、アロンはガン無視である。綿毛ちゃんとアロンが仲良く会話する場面はあまり見ない。アロンは、いつも綿毛ちゃんを単なるペット扱いしている。

 意地でも場所を譲らないアロンを見て、エリックがニヤリと口角を持ち上げる。言葉にはしないが、アロンの行動を面白がっていることがわかる。エリックは、なんでも楽しむ前向きな性格だ。そういう性格だから、オーガス兄様に避けられているのだ。

「ユリス連れてこようか?」
「気にしなくていい」
「ふーん?」

 ユリスは、エリックとあんまり仲良くないと思う。会話をしないのだ。言葉を交わすとしても、互いにひと言くらい。マーティーとは結構お喋りするのに。

 オーガス兄様に会いたいというエリックを、ブルース兄様が渋々先導する。ブルース兄様は、目上の人を敬うのが好きなのだが、エリック相手だと少し棘のある態度を取る。

 従兄弟だから遠慮しないのだろう。それにエリックは、これまで散々ブルース兄様に迷惑をかけている。

「来るなら来るって先に言わないと」

 こっちは準備があるんだぞとエリックに伝えれば、彼は「それもそうだな。悪いことをしたな」とにこりと笑顔を作る。

 そうしてオーガス兄様と話があるというエリックと一旦別れて、俺は再びユリスの部屋へと足を向けた。

「誰だった?」

 部屋に入るなり、ユリスがちらりと視線を投げてくる。興味なさそうな感じだったくせに。結局気になるのかよ。

「エリックだった」

 お供として王立騎士団の騎士たちをたくさん引き連れていたと教えてあげれば、黙って聞いていたタイラーが「え!」と驚きの声をあげる。

「殿下ですか? 相変わらず突然ですね」
「エリックだからね」

 エリックは、悪戯好きとしても有名である。ちょっと驚かせてやろうという思い付きから、アポなし訪問をやってのけてもおかしくはない人物である。

「はー、殿下がね。面倒だから部屋に引っ込んでいましょうよ」

 悪い提案をしてくるレナルドは、エリックの前に出るのが嫌なのだろう。王太子殿下の前とあれば、いくらレナルドでもきちんとした振る舞いをしないといけないからな。まぁ、アロンみたいに変な対応をする奴もいるけど。そのアロンは、しれっとエリックについて行ってしまった。どうやらエリックから目を離したくないらしい。

 ジャンを確認すれば、壁際で沈黙を貫きつつも露骨に表情が強張っていた。エリックの名前を聞いて緊張しているらしい。ジャンの気弱な性格は相変わらずだな。

「ユリスは? エリックに挨拶しないの?」
「必要ないだろ。会っても特に話すことがない」
「研究所のこととか。いいの?」

 エリックに頼み込んで作ってもらった魔法研究所。それについての報告とかお礼とかいいのか?

「必要ない。それはすでに済ませている」
「そうなの?」

 よくわからないが、ユリスがそう言うのなら大丈夫なのだろう。そうして誰もエリックに会いに行こうと言わないので、俺は手持ち無沙汰に綿毛ちゃんとエリスちゃんを撫でまわす。

 エリックともうちょっとお話したいけど。今はオーガス兄様に用事があるらしいから我慢する。オーガス兄様は、きっとげんなりした顔でエリックを出迎えるのだろう。それを見逃さないエリックは、ニヤニヤとオーガス兄様を揶揄うのだ。もはやお決まりのやり取りである。ブルース兄様は今頃、盛大に頭を抱えているに違いない。

「エリックに綿毛ちゃんをもっと見せてあげる」
『オレはもういいかなぁ』
「なんで?」
『なんか疲れるぅ』
「レナルドみたいなことを言うんじゃない!」

 綿毛ちゃんを勢いよく撫でれば、レナルドが「え? 俺ってそんなこと言ってますっけ?」としきりに首を傾げている。よくそんな心当たりない的な態度が取れるな。いつも腰が痛いと言ってなんでもおサボりしようとしているだろうが。
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