418 / 656
15歳
394 変な対応
しおりを挟む
突然やって来たエリックは、我が物顔で屋敷に入る。迷うことのない足取りで二階へと向かうエリックは、オーガス兄様の部屋を目指していた。
大股で進む彼の隣に並ぼうとするのだが、アロンが微妙に邪魔をしてくる。何食わぬ顔で俺とエリックの間を占領するアロンは、絶対にわざと邪魔をしている。器の小さい大人だな。
エリックに気が付かれないようにアロンの背中を小突いてみるが、彼は涼しい顔で俺を一瞥するだけ。なんだその顔は。
仕方がないので、アロン越しにエリックに語りかける。
「なにしに来たの?」
「ん? だからオーガスに挨拶でもしようかと。それにしてもオーガスは相変わらずだな。私が来たというのに出迎えもしないとは」
「オーガス兄様はエリックのこと苦手だから」
「嫌われるようなことをした覚えはないのだがな」
豪快に笑うエリックに、前を歩いていたブルース兄様が振り返る。そしてなぜか俺を睨みつけてくる兄様は、余計なことを言うなと伝えたいらしい。わかったという返事の代わりに、軽く肩をすくめておく。
俺とエリックが会話をしているというのに、アロンが場所を譲る気配はない。『そこ邪魔だよぉ?』と、綿毛ちゃんがナイスな発言をしているが、アロンはガン無視である。綿毛ちゃんとアロンが仲良く会話する場面はあまり見ない。アロンは、いつも綿毛ちゃんを単なるペット扱いしている。
意地でも場所を譲らないアロンを見て、エリックがニヤリと口角を持ち上げる。言葉にはしないが、アロンの行動を面白がっていることがわかる。エリックは、なんでも楽しむ前向きな性格だ。そういう性格だから、オーガス兄様に避けられているのだ。
「ユリス連れてこようか?」
「気にしなくていい」
「ふーん?」
ユリスは、エリックとあんまり仲良くないと思う。会話をしないのだ。言葉を交わすとしても、互いにひと言くらい。マーティーとは結構お喋りするのに。
オーガス兄様に会いたいというエリックを、ブルース兄様が渋々先導する。ブルース兄様は、目上の人を敬うのが好きなのだが、エリック相手だと少し棘のある態度を取る。
従兄弟だから遠慮しないのだろう。それにエリックは、これまで散々ブルース兄様に迷惑をかけている。
「来るなら来るって先に言わないと」
こっちは準備があるんだぞとエリックに伝えれば、彼は「それもそうだな。悪いことをしたな」とにこりと笑顔を作る。
そうしてオーガス兄様と話があるというエリックと一旦別れて、俺は再びユリスの部屋へと足を向けた。
「誰だった?」
部屋に入るなり、ユリスがちらりと視線を投げてくる。興味なさそうな感じだったくせに。結局気になるのかよ。
「エリックだった」
お供として王立騎士団の騎士たちをたくさん引き連れていたと教えてあげれば、黙って聞いていたタイラーが「え!」と驚きの声をあげる。
「殿下ですか? 相変わらず突然ですね」
「エリックだからね」
エリックは、悪戯好きとしても有名である。ちょっと驚かせてやろうという思い付きから、アポなし訪問をやってのけてもおかしくはない人物である。
「はー、殿下がね。面倒だから部屋に引っ込んでいましょうよ」
悪い提案をしてくるレナルドは、エリックの前に出るのが嫌なのだろう。王太子殿下の前とあれば、いくらレナルドでもきちんとした振る舞いをしないといけないからな。まぁ、アロンみたいに変な対応をする奴もいるけど。そのアロンは、しれっとエリックについて行ってしまった。どうやらエリックから目を離したくないらしい。
ジャンを確認すれば、壁際で沈黙を貫きつつも露骨に表情が強張っていた。エリックの名前を聞いて緊張しているらしい。ジャンの気弱な性格は相変わらずだな。
「ユリスは? エリックに挨拶しないの?」
「必要ないだろ。会っても特に話すことがない」
「研究所のこととか。いいの?」
エリックに頼み込んで作ってもらった魔法研究所。それについての報告とかお礼とかいいのか?
「必要ない。それはすでに済ませている」
「そうなの?」
よくわからないが、ユリスがそう言うのなら大丈夫なのだろう。そうして誰もエリックに会いに行こうと言わないので、俺は手持ち無沙汰に綿毛ちゃんとエリスちゃんを撫でまわす。
エリックともうちょっとお話したいけど。今はオーガス兄様に用事があるらしいから我慢する。オーガス兄様は、きっとげんなりした顔でエリックを出迎えるのだろう。それを見逃さないエリックは、ニヤニヤとオーガス兄様を揶揄うのだ。もはやお決まりのやり取りである。ブルース兄様は今頃、盛大に頭を抱えているに違いない。
「エリックに綿毛ちゃんをもっと見せてあげる」
『オレはもういいかなぁ』
「なんで?」
『なんか疲れるぅ』
「レナルドみたいなことを言うんじゃない!」
綿毛ちゃんを勢いよく撫でれば、レナルドが「え? 俺ってそんなこと言ってますっけ?」としきりに首を傾げている。よくそんな心当たりない的な態度が取れるな。いつも腰が痛いと言ってなんでもおサボりしようとしているだろうが。
大股で進む彼の隣に並ぼうとするのだが、アロンが微妙に邪魔をしてくる。何食わぬ顔で俺とエリックの間を占領するアロンは、絶対にわざと邪魔をしている。器の小さい大人だな。
エリックに気が付かれないようにアロンの背中を小突いてみるが、彼は涼しい顔で俺を一瞥するだけ。なんだその顔は。
仕方がないので、アロン越しにエリックに語りかける。
「なにしに来たの?」
「ん? だからオーガスに挨拶でもしようかと。それにしてもオーガスは相変わらずだな。私が来たというのに出迎えもしないとは」
「オーガス兄様はエリックのこと苦手だから」
「嫌われるようなことをした覚えはないのだがな」
豪快に笑うエリックに、前を歩いていたブルース兄様が振り返る。そしてなぜか俺を睨みつけてくる兄様は、余計なことを言うなと伝えたいらしい。わかったという返事の代わりに、軽く肩をすくめておく。
俺とエリックが会話をしているというのに、アロンが場所を譲る気配はない。『そこ邪魔だよぉ?』と、綿毛ちゃんがナイスな発言をしているが、アロンはガン無視である。綿毛ちゃんとアロンが仲良く会話する場面はあまり見ない。アロンは、いつも綿毛ちゃんを単なるペット扱いしている。
意地でも場所を譲らないアロンを見て、エリックがニヤリと口角を持ち上げる。言葉にはしないが、アロンの行動を面白がっていることがわかる。エリックは、なんでも楽しむ前向きな性格だ。そういう性格だから、オーガス兄様に避けられているのだ。
「ユリス連れてこようか?」
「気にしなくていい」
「ふーん?」
ユリスは、エリックとあんまり仲良くないと思う。会話をしないのだ。言葉を交わすとしても、互いにひと言くらい。マーティーとは結構お喋りするのに。
オーガス兄様に会いたいというエリックを、ブルース兄様が渋々先導する。ブルース兄様は、目上の人を敬うのが好きなのだが、エリック相手だと少し棘のある態度を取る。
従兄弟だから遠慮しないのだろう。それにエリックは、これまで散々ブルース兄様に迷惑をかけている。
「来るなら来るって先に言わないと」
こっちは準備があるんだぞとエリックに伝えれば、彼は「それもそうだな。悪いことをしたな」とにこりと笑顔を作る。
そうしてオーガス兄様と話があるというエリックと一旦別れて、俺は再びユリスの部屋へと足を向けた。
「誰だった?」
部屋に入るなり、ユリスがちらりと視線を投げてくる。興味なさそうな感じだったくせに。結局気になるのかよ。
「エリックだった」
お供として王立騎士団の騎士たちをたくさん引き連れていたと教えてあげれば、黙って聞いていたタイラーが「え!」と驚きの声をあげる。
「殿下ですか? 相変わらず突然ですね」
「エリックだからね」
エリックは、悪戯好きとしても有名である。ちょっと驚かせてやろうという思い付きから、アポなし訪問をやってのけてもおかしくはない人物である。
「はー、殿下がね。面倒だから部屋に引っ込んでいましょうよ」
悪い提案をしてくるレナルドは、エリックの前に出るのが嫌なのだろう。王太子殿下の前とあれば、いくらレナルドでもきちんとした振る舞いをしないといけないからな。まぁ、アロンみたいに変な対応をする奴もいるけど。そのアロンは、しれっとエリックについて行ってしまった。どうやらエリックから目を離したくないらしい。
ジャンを確認すれば、壁際で沈黙を貫きつつも露骨に表情が強張っていた。エリックの名前を聞いて緊張しているらしい。ジャンの気弱な性格は相変わらずだな。
「ユリスは? エリックに挨拶しないの?」
「必要ないだろ。会っても特に話すことがない」
「研究所のこととか。いいの?」
エリックに頼み込んで作ってもらった魔法研究所。それについての報告とかお礼とかいいのか?
「必要ない。それはすでに済ませている」
「そうなの?」
よくわからないが、ユリスがそう言うのなら大丈夫なのだろう。そうして誰もエリックに会いに行こうと言わないので、俺は手持ち無沙汰に綿毛ちゃんとエリスちゃんを撫でまわす。
エリックともうちょっとお話したいけど。今はオーガス兄様に用事があるらしいから我慢する。オーガス兄様は、きっとげんなりした顔でエリックを出迎えるのだろう。それを見逃さないエリックは、ニヤニヤとオーガス兄様を揶揄うのだ。もはやお決まりのやり取りである。ブルース兄様は今頃、盛大に頭を抱えているに違いない。
「エリックに綿毛ちゃんをもっと見せてあげる」
『オレはもういいかなぁ』
「なんで?」
『なんか疲れるぅ』
「レナルドみたいなことを言うんじゃない!」
綿毛ちゃんを勢いよく撫でれば、レナルドが「え? 俺ってそんなこと言ってますっけ?」としきりに首を傾げている。よくそんな心当たりない的な態度が取れるな。いつも腰が痛いと言ってなんでもおサボりしようとしているだろうが。
1,354
お気に入りに追加
3,165
あなたにおすすめの小説
とある文官のひとりごと
きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。
アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。
基本コメディで、少しだけシリアス?
エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座)
ムーンライト様でも公開しております。

十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います
塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?
なり代わり貴妃は皇弟の溺愛から逃げられません
めがねあざらし
BL
貴妃・蘇璃月が後宮から忽然と姿を消した。
家門の名誉を守るため、璃月の双子の弟・煌星は、彼女の身代わりとして後宮へ送り込まれる。
しかし、偽りの貴妃として過ごすにはあまりにも危険が多すぎた。
調香師としての鋭い嗅覚を武器に、後宮に渦巻く陰謀を暴き、皇帝・景耀を狙う者を探り出せ――。
だが、皇帝の影に潜む男・景翊の真意は未だ知れず。
煌星は龍の寝所で生き延びることができるのか、それとも――!?
///////////////////////////////
※以前に掲載していた「成り代わり貴妃は龍を守る香」を加筆修正したものです。
///////////////////////////////
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

神獣様の森にて。
しゅ
BL
どこ、ここ.......?
俺は橋本 俊。
残業終わり、会社のエレベーターに乗ったはずだった。
そう。そのはずである。
いつもの日常から、急に非日常になり、日常に変わる、そんなお話。
7話完結。完結後、別のペアの話を更新致します。
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま

囚われた元王は逃げ出せない
スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた
そうあの日までは
忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに
なんで俺にこんな事を
「国王でないならもう俺のものだ」
「僕をあなたの側にずっといさせて」
「君のいない人生は生きられない」
「私の国の王妃にならないか」
いやいや、みんな何いってんの?

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど
野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。
愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。
それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。
ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。
イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?!
□■
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
□■
第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる