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15歳
綿毛ちゃんの日常7
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「綿毛ちゃん、ちょっと大きくなって」
『大きく?』
ルイス坊ちゃんの部屋でのんびり寝転んでいた時である。椅子に座って、なにやら真剣に本を読んでいた坊ちゃんが突然オレのもとへと駆け寄ってきた。いつも通り、「寝るな、犬!」とか言って勢いよく叩かれそうな予感のしたオレは、慌ててシャキッと身を起こす。
坊ちゃんは、割とすぐに手が出る。ユリス坊ちゃん相手にも、遠慮なく頭を叩いてよく激怒させている。そこから掴み合いの喧嘩に発展することもしばしば。そうなると、オレは坊ちゃんたちの足元で『やめなよぉ』と声をかけることしかできない。間に割って入るなんて絶対に無理。
そんな無理なことを平然とやってのけるタイラーさんはすごい。タイラーさんは、物怖じしない性格らしい。坊ちゃんたちが我儘言っても平気な顔で突っぱねるし、ダメなことはダメと言う。ユリス坊ちゃんに睨まれても涼しい顔をしている。その怖いもの知らずな性格はちょっと羨ましい。
オレの前までやって来た坊ちゃんは、けれども予想に反してオレが寝ていたことには少しも触れずに、「大きくなって!」とひたすら繰り返す。
なに? どういうこと? それは初めてのお願いだね。
『人間になれってこと? 疲れるから嫌だぁ』
オレなりに言葉の意味を理解して、小さく頭を左右に振る。この姿の方が楽。人間に化けると魔力を消耗するからちょっと疲れるのだ。坊ちゃんは、長髪への執着がひどい。前はロニーさんが隣に居たからオレへの被害はあんまりなかったけど。ロニーさんが副団長になって坊ちゃんの側を離れた今、坊ちゃんは頻繁に「人間になって!」とオレに絡んでくる。
その度にお断りするんだけど、坊ちゃんはしつこい。「人間になって! なんでダメなの! ケチ毛玉!」とすごい勢いでオレに詰め寄ってくるのだ。あしらうのもひと苦労。
嫌だよぉ、とできるだけ申し訳なさそうな顔を作ってみるけど、ルイス坊ちゃんは「変な顔するな」と冷たく流してしまう。
「人間じゃなくて。普通に大きくなって!」
『普通に大きく?』
なに、どういうことぉ?
固まるオレのことを持ち上げて、坊ちゃんは「こんなふうに大きくなって」とテーブルに広げてあった本のところまで連れていく。どれどれと覗き込めば、そこには大きな体を持つ動物の姿があった。どうやら図鑑を見ていたらしい。この国にはいない珍しい動物の姿も載っているらしい。おそらくユリス坊ちゃんの部屋から勝手に持ってきたのだろう。
勉強が苦ではなくなったらしいルイス坊ちゃんは、前よりも本を読むようになった。以前では考えられない。坊ちゃんが読書に興味を持つなんてと。オレはよくジャンさんと一緒に『信じらんないねぇ』と言い合っている。まぁ、ジャンさんはオレの言葉に無言で微笑むだけなんだけど。やや引き攣った笑みを浮かべるジャンさんは、多分だけどオレのことが苦手らしい。
けれども、ルイス坊ちゃんに急かされてよくオレと猫ちゃんのお世話をしてくれるいい人なのだ。
坊ちゃんは、オレと猫ちゃんにご飯をあげたり散歩させたりするのは好きみたいだけど、その他のことはあんまりやらない。猫ちゃんを綺麗にお手入れしているのはジャンさんだ。
ジャンさん任せにしていることが気になって、坊ちゃんに出会ったばかりの頃に『自分でやらないの?』と一度だけ聞いたことがある。その時は、うん。ジャンさんにすごく申し訳ないことをしたと思う。ごめんねぇ、ジャンさん。オレ知らなかったからさぁ。
オレの言葉にムスッとしたらしいルイス坊ちゃんは、「俺もお世話できるけど?」と言い張った。そうして勝手に猫ちゃんをお風呂に入れようとしたのだ。あの猫ちゃんは、水が嫌いである。そこまで言えば予想できると思うけど、遠慮のない坊ちゃんが、水嫌いの猫ちゃんをお風呂に連れて行く。そこからはもう悲惨だった。
坊ちゃんは、遠慮がない。おまけに犬猫の扱い方が少々雑。勢いよく猫ちゃんに水をぶっかけた。そして、当然のように大暴れする猫ちゃん。
坊ちゃんの手をすり抜けて、びしょ濡れのまま部屋に戻ってきては走りまわる猫ちゃんと、それを同じくびしょ濡れで追いかける坊ちゃん。この時のジャンさんの絶望したような顔が忘れられない。
あまりにも可哀想だったので、オレも後片付けをお手伝いした。
そんな懐かしい出来事を思い出していると、「ちゃんと聞け!」と、坊ちゃんに揺さぶられた。
『聞いてるよぉ。これユリス坊ちゃんの部屋から持ってきたの?』
「ユリスには内緒だぞ」
真剣な表情で口止めしてくる坊ちゃん。普通に貸してって言えば貸してくれると思うけどねぇ。ユリス坊ちゃんは冷たく見えるけど、ルイス坊ちゃんに対しては結構甘い。
ルイス坊ちゃんのことを弟だと思っているらしく、なんだかんだいって面倒みてあげている。
「これ! しろくま! 綿毛ちゃんにそっくり」
『……そう?』
じっと図鑑を見てみるが、全然似ていないと思うけど。強いていえば、色が似ているくらいだと思う。
「これくらいの大きさになって! はやく!」
『無理だよ?』
どうやらこのままの姿で大きくなれと言いたいらしい。
『大きくなってどうするの?』
「俺が上に乗って寝る!」
『嫌だよぉ』
「嫌だ! もふもふの上で寝たい! はやく大きくなって! ケチ!」
『やーめーてぇ』
何度言われようが無理なものは無理だ。坊ちゃんはオレのことをなんだと思っているのか。この姿がオレの本来の姿であって、人間に化けられるのはオレを生み出したご主人様のおかげだ。だから好きに姿を変化させられるわけではないと説明するのだが、ルイス坊ちゃんは納得しない。
「嫌だ」
『嫌って言われてもぉ。どうしようもないよ?』
「じゃあちょっとでいいから」
『だから大きくはなれないってぇ。諦めてよ』
手強い坊ちゃんは、オレのことをぎゅっと抱きしめる。
「……ご飯たくさんあげたら大きくなる?」
『太っちゃう』
「じゃあ一年くらい待つから。それまでに大きくなってね」
『無茶振りだよ?』
まぁ、一年後にはどうせ忘れているだろう。ルイス坊ちゃんは飽きっぽいからね。
『大きく?』
ルイス坊ちゃんの部屋でのんびり寝転んでいた時である。椅子に座って、なにやら真剣に本を読んでいた坊ちゃんが突然オレのもとへと駆け寄ってきた。いつも通り、「寝るな、犬!」とか言って勢いよく叩かれそうな予感のしたオレは、慌ててシャキッと身を起こす。
坊ちゃんは、割とすぐに手が出る。ユリス坊ちゃん相手にも、遠慮なく頭を叩いてよく激怒させている。そこから掴み合いの喧嘩に発展することもしばしば。そうなると、オレは坊ちゃんたちの足元で『やめなよぉ』と声をかけることしかできない。間に割って入るなんて絶対に無理。
そんな無理なことを平然とやってのけるタイラーさんはすごい。タイラーさんは、物怖じしない性格らしい。坊ちゃんたちが我儘言っても平気な顔で突っぱねるし、ダメなことはダメと言う。ユリス坊ちゃんに睨まれても涼しい顔をしている。その怖いもの知らずな性格はちょっと羨ましい。
オレの前までやって来た坊ちゃんは、けれども予想に反してオレが寝ていたことには少しも触れずに、「大きくなって!」とひたすら繰り返す。
なに? どういうこと? それは初めてのお願いだね。
『人間になれってこと? 疲れるから嫌だぁ』
オレなりに言葉の意味を理解して、小さく頭を左右に振る。この姿の方が楽。人間に化けると魔力を消耗するからちょっと疲れるのだ。坊ちゃんは、長髪への執着がひどい。前はロニーさんが隣に居たからオレへの被害はあんまりなかったけど。ロニーさんが副団長になって坊ちゃんの側を離れた今、坊ちゃんは頻繁に「人間になって!」とオレに絡んでくる。
その度にお断りするんだけど、坊ちゃんはしつこい。「人間になって! なんでダメなの! ケチ毛玉!」とすごい勢いでオレに詰め寄ってくるのだ。あしらうのもひと苦労。
嫌だよぉ、とできるだけ申し訳なさそうな顔を作ってみるけど、ルイス坊ちゃんは「変な顔するな」と冷たく流してしまう。
「人間じゃなくて。普通に大きくなって!」
『普通に大きく?』
なに、どういうことぉ?
固まるオレのことを持ち上げて、坊ちゃんは「こんなふうに大きくなって」とテーブルに広げてあった本のところまで連れていく。どれどれと覗き込めば、そこには大きな体を持つ動物の姿があった。どうやら図鑑を見ていたらしい。この国にはいない珍しい動物の姿も載っているらしい。おそらくユリス坊ちゃんの部屋から勝手に持ってきたのだろう。
勉強が苦ではなくなったらしいルイス坊ちゃんは、前よりも本を読むようになった。以前では考えられない。坊ちゃんが読書に興味を持つなんてと。オレはよくジャンさんと一緒に『信じらんないねぇ』と言い合っている。まぁ、ジャンさんはオレの言葉に無言で微笑むだけなんだけど。やや引き攣った笑みを浮かべるジャンさんは、多分だけどオレのことが苦手らしい。
けれども、ルイス坊ちゃんに急かされてよくオレと猫ちゃんのお世話をしてくれるいい人なのだ。
坊ちゃんは、オレと猫ちゃんにご飯をあげたり散歩させたりするのは好きみたいだけど、その他のことはあんまりやらない。猫ちゃんを綺麗にお手入れしているのはジャンさんだ。
ジャンさん任せにしていることが気になって、坊ちゃんに出会ったばかりの頃に『自分でやらないの?』と一度だけ聞いたことがある。その時は、うん。ジャンさんにすごく申し訳ないことをしたと思う。ごめんねぇ、ジャンさん。オレ知らなかったからさぁ。
オレの言葉にムスッとしたらしいルイス坊ちゃんは、「俺もお世話できるけど?」と言い張った。そうして勝手に猫ちゃんをお風呂に入れようとしたのだ。あの猫ちゃんは、水が嫌いである。そこまで言えば予想できると思うけど、遠慮のない坊ちゃんが、水嫌いの猫ちゃんをお風呂に連れて行く。そこからはもう悲惨だった。
坊ちゃんは、遠慮がない。おまけに犬猫の扱い方が少々雑。勢いよく猫ちゃんに水をぶっかけた。そして、当然のように大暴れする猫ちゃん。
坊ちゃんの手をすり抜けて、びしょ濡れのまま部屋に戻ってきては走りまわる猫ちゃんと、それを同じくびしょ濡れで追いかける坊ちゃん。この時のジャンさんの絶望したような顔が忘れられない。
あまりにも可哀想だったので、オレも後片付けをお手伝いした。
そんな懐かしい出来事を思い出していると、「ちゃんと聞け!」と、坊ちゃんに揺さぶられた。
『聞いてるよぉ。これユリス坊ちゃんの部屋から持ってきたの?』
「ユリスには内緒だぞ」
真剣な表情で口止めしてくる坊ちゃん。普通に貸してって言えば貸してくれると思うけどねぇ。ユリス坊ちゃんは冷たく見えるけど、ルイス坊ちゃんに対しては結構甘い。
ルイス坊ちゃんのことを弟だと思っているらしく、なんだかんだいって面倒みてあげている。
「これ! しろくま! 綿毛ちゃんにそっくり」
『……そう?』
じっと図鑑を見てみるが、全然似ていないと思うけど。強いていえば、色が似ているくらいだと思う。
「これくらいの大きさになって! はやく!」
『無理だよ?』
どうやらこのままの姿で大きくなれと言いたいらしい。
『大きくなってどうするの?』
「俺が上に乗って寝る!」
『嫌だよぉ』
「嫌だ! もふもふの上で寝たい! はやく大きくなって! ケチ!」
『やーめーてぇ』
何度言われようが無理なものは無理だ。坊ちゃんはオレのことをなんだと思っているのか。この姿がオレの本来の姿であって、人間に化けられるのはオレを生み出したご主人様のおかげだ。だから好きに姿を変化させられるわけではないと説明するのだが、ルイス坊ちゃんは納得しない。
「嫌だ」
『嫌って言われてもぉ。どうしようもないよ?』
「じゃあちょっとでいいから」
『だから大きくはなれないってぇ。諦めてよ』
手強い坊ちゃんは、オレのことをぎゅっと抱きしめる。
「……ご飯たくさんあげたら大きくなる?」
『太っちゃう』
「じゃあ一年くらい待つから。それまでに大きくなってね」
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まぁ、一年後にはどうせ忘れているだろう。ルイス坊ちゃんは飽きっぽいからね。
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