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15歳
390 張り切る
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「なんでおまえが張り切るんだ」
「なんでってなに? ユリスは興味ないのか?」
綿毛ちゃんと一緒に、頑張って赤ちゃんのお名前を考えていたところ、横からユリスが偉そうに口を挟んでくる。オーガス兄様には遠慮されたのだが、考えるだけ考えてみようと思ったのだ。だってすごく楽しみだから。
相変わらず椅子に座って動かないユリスは、「おまえに何の関係があるんだ」と信じられないほどに冷たいことを言う。
「俺の弟か妹だもん。関係ある」
「だから。甥か姪だろうが」
いちいち細かい訂正をしてくるユリスは、あまり興味がないらしい。赤ちゃん生まれるのに。楽しみじゃないのだろうか。
「これ以上うるさいのが増えるのはごめんだ」
「どういう意味だ! 綿毛ちゃんに謝れ!」
『え。なんかサラッとオレのことにされた』
ふるふる震える綿毛ちゃんに、今まで黙っていたタイラーが小さく吹き出した。震える毛玉が面白かったのだろう。緩んだ空気に、ユリスが呆れたと言わんばかりのため息を吐く。
「ところでルイス。ジェフリーの話は聞いたか?」
「うん」
心配そうに目配せしてくるユリスに、頷きを返しておく。ジェフリーから手紙がきたのは数日前のことだ。彼の母親が亡くなり、ジェフリーは正式にアーキア公爵家に引き取られるということだった。
「あんなに毎日遊んでいたのに。もう会わないのか?」
「うーん? 会いたくなったら会うけど」
でも今は、距離を置いた方がいいと思うのだ。ジェフリーにとっては大事な時期だ。そこに部外者の俺が首を突っ込んでも、事態を引っ掻きまわすだけだ。ジェフリーが会いたいと言えば、俺はいつでも足を運ぶつもりだけど。今はそっとしておいたほうが良いと思う。
「それよりさ。これ見て! アロンにもらったペン」
「もう何度も見た」
「もう一回見て!」
「しつこい」
アロンにしては、いい物をくれた。前にもらった指輪は、完全に持て余していたが、このペンはお気に入りだ。
アロンは、最近指輪の話をしなくなった。前は、話題に出さなくても、じっと俺の指を見つめたりと、明らかに指輪を意識した行動をとっていた。俺はその度に、なんだか妙なプレッシャーを感じていた。
忘れないでと、アロンにお願いされたあの日以来。彼はなにかと俺に自分の情報を教えてくるようになった。誕生日がいつだとか。昨日はなにをしただとか。どうでもいいことが多いけど。
アロンは、どちらかといえば秘密主義的な人だった。今でも内緒事は多いみたいだが、仕事に関係のないプライベートな話であれば、結構教えてくれるようになったのだ。一体どういう心境の変化だろうか。俺が誕生日をお祝いしなかったことがそんなにショックだったのかな。今思えば、すごく悪いことをしたような気がする。
アロンは、色々と変わったらしい。具体的には、あんまり夜遊びをしなくなった。代わりに俺の部屋に押しかけてくるようになった。アロンは、気まぐれで俺の部屋を訪れては、一方的に近況報告をして帰っていく。ほぼほぼ毎日顔を合わせている。
忘れられるのが嫌だと言っていた。一瞬でも、存在を忘れられるのが嫌なのだとか。ものすごく無茶を言う。我儘にも程がある。
「タイラー」
「なんですか?」
レナルドのことをじっと睨んでいたタイラーが、すぐさま振り向いてくれる。タイラーは、仕事をサボりがちなレナルドのことがちょっと嫌いなのだ。だけどレナルドの方がだいぶ先輩だから。文句は言わずに、睨むだけにとどめているらしい。「文句があるなら直接言ってくれない?」と、レナルドが辟易としていた。
「ティアンいつ帰ってくる?」
あいつは、俺が十五になったら帰ってくると言っていた。俺はもう十五歳である。
いつ帰ってくるのかとワクワク待っているのだが、一向にその気配がない。もしや俺のこと忘れてる?
だが、タイラーは「え? まだですよ」とあっさり言い放った。
「なんで?」
「なんでって。まだ卒業じゃないですよ。冬前くらいじゃないですか?」
「……まだ夏になったばっかり」
「そうですね。もう少しかかりますね」
もう少し待ってくださいと苦笑するタイラー。
「もしかして、ティアン卒業できないとかある?」
留年とか。あるのか知らないけど。なんかそんな感じで卒業先延ばしになっていたらどうしよう。心配する俺とは対照的に、ユリスが「それは面白いな」とニヤニヤしている。一体なにが面白いんだ。
「ティアンに会ってなにするんだ? あいつ、居ても居なくても一緒だろ」
「なんでさっきからそんな冷たいこと言うの?」
人の心がないのか?
ふんっとそっぽを向くユリスは、「僕は別に会いたいとは思わない」と、再度の主張をしている。
「綿毛ちゃんを紹介する! 喋る犬見せたらびっくりするよ」
『オレ、なんか面白い自己紹介考えといた方がいい? 笑えるやつとか? でもなぁ、難しいなぁ』
ひとりで変な心配をする綿毛ちゃんは、『うーん。でも動物が喋ることに驚いて、オレの自己紹介は真剣に聞いてもらえないかもしれない』と、ぶつぶつ言っている。気合いバッチリでいいと思うよ。
「なんでってなに? ユリスは興味ないのか?」
綿毛ちゃんと一緒に、頑張って赤ちゃんのお名前を考えていたところ、横からユリスが偉そうに口を挟んでくる。オーガス兄様には遠慮されたのだが、考えるだけ考えてみようと思ったのだ。だってすごく楽しみだから。
相変わらず椅子に座って動かないユリスは、「おまえに何の関係があるんだ」と信じられないほどに冷たいことを言う。
「俺の弟か妹だもん。関係ある」
「だから。甥か姪だろうが」
いちいち細かい訂正をしてくるユリスは、あまり興味がないらしい。赤ちゃん生まれるのに。楽しみじゃないのだろうか。
「これ以上うるさいのが増えるのはごめんだ」
「どういう意味だ! 綿毛ちゃんに謝れ!」
『え。なんかサラッとオレのことにされた』
ふるふる震える綿毛ちゃんに、今まで黙っていたタイラーが小さく吹き出した。震える毛玉が面白かったのだろう。緩んだ空気に、ユリスが呆れたと言わんばかりのため息を吐く。
「ところでルイス。ジェフリーの話は聞いたか?」
「うん」
心配そうに目配せしてくるユリスに、頷きを返しておく。ジェフリーから手紙がきたのは数日前のことだ。彼の母親が亡くなり、ジェフリーは正式にアーキア公爵家に引き取られるということだった。
「あんなに毎日遊んでいたのに。もう会わないのか?」
「うーん? 会いたくなったら会うけど」
でも今は、距離を置いた方がいいと思うのだ。ジェフリーにとっては大事な時期だ。そこに部外者の俺が首を突っ込んでも、事態を引っ掻きまわすだけだ。ジェフリーが会いたいと言えば、俺はいつでも足を運ぶつもりだけど。今はそっとしておいたほうが良いと思う。
「それよりさ。これ見て! アロンにもらったペン」
「もう何度も見た」
「もう一回見て!」
「しつこい」
アロンにしては、いい物をくれた。前にもらった指輪は、完全に持て余していたが、このペンはお気に入りだ。
アロンは、最近指輪の話をしなくなった。前は、話題に出さなくても、じっと俺の指を見つめたりと、明らかに指輪を意識した行動をとっていた。俺はその度に、なんだか妙なプレッシャーを感じていた。
忘れないでと、アロンにお願いされたあの日以来。彼はなにかと俺に自分の情報を教えてくるようになった。誕生日がいつだとか。昨日はなにをしただとか。どうでもいいことが多いけど。
アロンは、どちらかといえば秘密主義的な人だった。今でも内緒事は多いみたいだが、仕事に関係のないプライベートな話であれば、結構教えてくれるようになったのだ。一体どういう心境の変化だろうか。俺が誕生日をお祝いしなかったことがそんなにショックだったのかな。今思えば、すごく悪いことをしたような気がする。
アロンは、色々と変わったらしい。具体的には、あんまり夜遊びをしなくなった。代わりに俺の部屋に押しかけてくるようになった。アロンは、気まぐれで俺の部屋を訪れては、一方的に近況報告をして帰っていく。ほぼほぼ毎日顔を合わせている。
忘れられるのが嫌だと言っていた。一瞬でも、存在を忘れられるのが嫌なのだとか。ものすごく無茶を言う。我儘にも程がある。
「タイラー」
「なんですか?」
レナルドのことをじっと睨んでいたタイラーが、すぐさま振り向いてくれる。タイラーは、仕事をサボりがちなレナルドのことがちょっと嫌いなのだ。だけどレナルドの方がだいぶ先輩だから。文句は言わずに、睨むだけにとどめているらしい。「文句があるなら直接言ってくれない?」と、レナルドが辟易としていた。
「ティアンいつ帰ってくる?」
あいつは、俺が十五になったら帰ってくると言っていた。俺はもう十五歳である。
いつ帰ってくるのかとワクワク待っているのだが、一向にその気配がない。もしや俺のこと忘れてる?
だが、タイラーは「え? まだですよ」とあっさり言い放った。
「なんで?」
「なんでって。まだ卒業じゃないですよ。冬前くらいじゃないですか?」
「……まだ夏になったばっかり」
「そうですね。もう少しかかりますね」
もう少し待ってくださいと苦笑するタイラー。
「もしかして、ティアン卒業できないとかある?」
留年とか。あるのか知らないけど。なんかそんな感じで卒業先延ばしになっていたらどうしよう。心配する俺とは対照的に、ユリスが「それは面白いな」とニヤニヤしている。一体なにが面白いんだ。
「ティアンに会ってなにするんだ? あいつ、居ても居なくても一緒だろ」
「なんでさっきからそんな冷たいこと言うの?」
人の心がないのか?
ふんっとそっぽを向くユリスは、「僕は別に会いたいとは思わない」と、再度の主張をしている。
「綿毛ちゃんを紹介する! 喋る犬見せたらびっくりするよ」
『オレ、なんか面白い自己紹介考えといた方がいい? 笑えるやつとか? でもなぁ、難しいなぁ』
ひとりで変な心配をする綿毛ちゃんは、『うーん。でも動物が喋ることに驚いて、オレの自己紹介は真剣に聞いてもらえないかもしれない』と、ぶつぶつ言っている。気合いバッチリでいいと思うよ。
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