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14歳
358 極秘事項
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「……辞めちゃうの?」
呆然と問いかければ、ロニーは小さく頷く。
「なんで」
なんで突然そんな話になるのか。辞めるってなに。しかも「辞めることになりました」って、既に決定事項なの? 相談じゃなくて?
「いやだ」
ロニーが辞めるなんて絶対に嫌だ。そんなの納得できない。
「なんでそんなこと言うの」
もしかして俺のせい? 俺が好きなんて言ったから?
「いえ。ルイス様のせいでは」
ロニーは否定してくるが、絶対に俺のせいじゃん。だってそれ以外に考えられない。
綿毛ちゃんを抱っこして、ロニーから視線を逸らすように、抱きしめる。綿毛ちゃんの背中に顔を埋めれば、『泣かないでぇ』と綿毛ちゃんがオロオロと慰めてくる。
「嫌だ。辞めないで。絶対ダメ」
繰り返す俺に、ロニーはどうしようか迷っている。悩むような、苦しむような、声にならない微かな呼吸が聞こえてくる。
「タイミングが少し悪かっただけで。決してルイス様のせいではありませんよ。前からそういう話だったので」
だから泣かないでくださいと。俺の背中に手をあてるロニーは、俺の扱いに困っているようであった。
これ以上ごねるとロニーに迷惑だ。でも、突然辞めてほしくなんてない。前から決まっていたというのであれば、なんで事前に相談してくれなかったのか。俺のせいではないというロニーの言葉を、いまいち信じることができない。
色々と言いたい。泣き喚いて引き止めたい。でも、ぎゅっと唇を噛みしめる。ロニーは、一度決めたことを簡単にひっくり返すような性格ではない。思いつきで行動するような性格でもない。きっと、俺に伝えるまで、すごく考えたはずだ。
だったら、いまさら俺がなにを言ったって、ロニーの決意は変わらないのだろう。ここで騒げば、ロニーを困らせるだけだ。
必死に黙り込む俺は、たぶん変な顔をしていたと思う。だって今にも泣き言が飛び出しそうなのを、無理矢理飲み込んでいる。
「ルイス様」
俺にどう声かけしようか悩んでいるのだろう。俺の名前を繰り返し呼んでくるロニーを、おずおずと見上げる。
だが、いつも通りに優しいロニーの顔を見ると泣きたくなってしまう。
すぐに俯いて「わかった」と口にしておく。
本当は、なにもわかっていないし、わかりたくもないけど。
※※※
「ジャンは辞めたりしないよね」
「はい」
ロニーが辞めるというから、ちょっと心配になって確認する。これでジャンまで辞めてしまったら、俺はひとりになってしまう。
ロニーは、今日一日ずっと悩んでいたのだろう。挙動不審だったのは、俺にどう伝えるべきか考えていたせいだろう。
ロニーはどうして、辞めるということを事前に相談してくれなかったのか。たぶん、俺が面倒くさいからだ。自分でもよくわかっている。辞めないでと、俺に騒がれるのが面倒だったに違いない。ロニーはただでさえ優しいから。事前に相談して、俺が馬鹿みたいに辞めないでと繰り返せば、きっと色々悩んでしまうだろうから。だから直前での報告は仕方がないと自分に言い聞かせるが、やっぱりどこか納得できなくて。
「ジャンは辞めないでね」
「はい」
先程からジャンを相手に辞めないでと連呼しているのだが、ジャンは面倒くさがることもなく律儀にお返事してくれる。
俺の護衛を辞める件で、忙しいのだろう。ロニーは、騎士団の方へと行ってしまった。部屋に残された俺は、猫を撫でながらジャンに辞めないでと言い続けている。本当は、ロニーに言いたい。でも言えない。だからジャンを相手に、延々と辞めないで発言を繰り返している。ジャンには申し訳ないが、もうちょっとだけ付き合ってくれると嬉しい。
猫を膝に乗せて、隣には綿毛ちゃん。目の前には、ジャン。
ユリス、はやく帰ってこないかな。このどうしようもない気持ちを、誰かに聞いてほしかった。ユリスなら、きっと文句を言いつつも最後まで聞いてくれる。
「ルイス様。いいものあるんですけど」
そんな時である。ノックもせずに部屋に乗り込んできたアロンは、にやにやと悪そうな笑みを浮かべていた。今、こいつの相手をしてやる気分ではない。「忙しいから後にして」とやんわり追い出そうとするが、アロンは空気を読まずに椅子に座ってしまう。ジャンが慌てて立ち上がっている。
「見てくださいよ、これ」
肩を叩かれて、顔を上げる。アロンが手にしていたのは、お皿に乗ったケーキであった。
「食べる」
反射的に答えれば、アロンは「食べましょう。ブルース様に見つかる前に」と悪戯っぽく笑う。なんでブルース兄様の名前が出てくるのか。訊けば、俺と一緒に食べようと思って、こっそり用意したらしい。「みんなには内緒ですよ」というアロンに、こくこく頷いてみせる。
気を利かせたジャンが、お茶を用意しに行ってくれる。
わくわくとフォークを手にすれば、アロンがじっと俺の顔を見つめてくる。
「なに」
「ロニーから聞きました?」
「……うん」
俺の護衛を辞める件だろう。
またもや気分が沈みかける俺に、アロンは「なんでロニーが」と悔しそうに吐き捨てる。ちょっと意外である。アロンは、たしかロニーのことが嫌いであったはず。ロニーが辞めると聞いて大喜びしそうなのに。
「アロンも嫌なの?」
「もちろん。嫌に決まっています」
「そうなんだ」
アロンにも、他人のことを思う心があったんだな。でもそれくらい、ロニーがいい人ってことだろう。
「でも俺、偉かった。ロニーを困らせないように頑張った」
「さすがルイス様ですね」
「うん」
本当は泣いて引き止めたかったけど、我慢した。思い出して、ちょっぴり涙が滲んでくる。アロンに見られる前に、袖で拭っておいた。
「でも止めてくれればよかったのに。ロニーよりも、絶対俺がいいですって」
「……うん?」
いいですってなにが? なんか会話が噛み合っていない気がした。「ちょっと待って」とアロンを制止する。
「止めるってなにを?」
「だから。ロニーですよ。今まで通りルイス様の護衛騎士やってればいいのに。ルイス様もそっちの方がいいでしょ」
「うん。そうだけど」
ん? 別にすれ違ってはいないな。ロニーが俺の護衛を辞める件についての話だ。問題はない。じゃあこの微妙に噛み合わない会話はなんだ。
「アロンの方がいいっていうのは? なにが?」
「副団長ですよ。俺の方が向いてますよね」
「副、団長?」
ぱちぱちと目を瞬く俺に、アロンが「あれ?」と首を捻る。
「ロニーに聞いたって」
「え。俺の護衛を辞めるって話でしょ」
「そうです。ルイス様の護衛を辞めて副団長になるって」
「えぇ!」
びっくりした。なにその話。初耳ですが?
俺の大声に、アロンもびっくりしたらしい。「あれ。これまだ言ったらダメでした?」となぜか俺に向かって問いかけてくる。そのわざとらしい仕草に、ツッコミを入れている暇もない。
「ロニー! 副団長になるの? セドリックは?」
「あの人が団長になるから。空いた副団長の席を誰に譲るかってんで連日揉めていたんですけど」
結局はロニーになってしまいました、と半眼になるアロンは不満そうである。そういえば、アロンは昔からずっと副団長やりたいと主張していた。
いや、そんなことよりも。
「じゃあ、ロニーは出世するってこと!?」
「そうなんじゃないですか?」
待って、それは嬉しい。普通に嬉しい。すっかりと涙も引っ込んで、飛び跳ねるような気持ちになる。ロニーが認められるのは、自分のことのように嬉しい。嬉しくてケーキをパクパク食べる。甘くて美味しい。
「言ってくれればいいのに! ロニー!」
副団長になるなんてすごい。副団長になるから辞めますって言ってくれれば、俺だって素直にお祝いできたのに。なんであんな報告の仕方したんだ。てっきり俺のせいで、俺の側に居るのが気まずくなって辞めるのかと。そういや、ロニーも俺のせいではないと言っていたな。
「……ロニーが、ルイス様の側を離れるのはいいんですか?」
「いいよ。だってすごいじゃん。副団長」
「へー」
ブルース様の読みが外れたな、と呟くアロン。
「ブルース兄様がなに」
「いや。ロニーがルイス様の護衛から外れると知れば、大騒ぎするだろうって」
「ブルース兄様、そんなこと言ってたの?」
確かにロニーと毎日一緒じゃなくなるのは寂しいが、ロニーの出世は嬉しい。別にそこまで大騒ぎするつもりもない。
どうやらブルース兄様は、俺が絶対にロニーを手放さないと予想していたらしい。それで、ロニーが俺の護衛を辞めて副団長になる件を直前まで隠し通そうとしたのだろう。連日俺が抗議に来ると踏んでいたらしい。
それで、ロニーもちょっと言いにくそうにしていたのか。
「でも。副団長になるって言ってくれればよかったのに」
「あぁ、それは。今のところ極秘事項なので。ルイス様相手でも言えなかったのでは? 変に真面目だから」
「そうなんだ。じゃあ仕方ないか」
ロニーだって俺を泣かせるつもりはなかったのだろう。でも、副団長の件は言えない。だからあんなぼんやりと俺のせいではない繰り返していたのだろう。
それにしても。黙々とケーキを食べるアロンを視界に入れる。極秘事項というのであれば、アロンだって俺に漏らすのはまずかったのではないか。ブルース兄様に知られたら、きっと怒られる。
突然ケーキを持ってきたこともそうだし、アロンなりに俺を心配してくれているのかも知れない。
「アロン。優しいね」
ありがと、と早口でお礼を言えば、アロンはにやりと口角を持ち上げる。
「ブルース様には内緒ですからね」
「うん。内緒ね」
ケーキのことも、新しい副団長のことも内緒である。アロンが俺を気にかけて用意してくれたケーキである。なんだかとても甘く感じた。
呆然と問いかければ、ロニーは小さく頷く。
「なんで」
なんで突然そんな話になるのか。辞めるってなに。しかも「辞めることになりました」って、既に決定事項なの? 相談じゃなくて?
「いやだ」
ロニーが辞めるなんて絶対に嫌だ。そんなの納得できない。
「なんでそんなこと言うの」
もしかして俺のせい? 俺が好きなんて言ったから?
「いえ。ルイス様のせいでは」
ロニーは否定してくるが、絶対に俺のせいじゃん。だってそれ以外に考えられない。
綿毛ちゃんを抱っこして、ロニーから視線を逸らすように、抱きしめる。綿毛ちゃんの背中に顔を埋めれば、『泣かないでぇ』と綿毛ちゃんがオロオロと慰めてくる。
「嫌だ。辞めないで。絶対ダメ」
繰り返す俺に、ロニーはどうしようか迷っている。悩むような、苦しむような、声にならない微かな呼吸が聞こえてくる。
「タイミングが少し悪かっただけで。決してルイス様のせいではありませんよ。前からそういう話だったので」
だから泣かないでくださいと。俺の背中に手をあてるロニーは、俺の扱いに困っているようであった。
これ以上ごねるとロニーに迷惑だ。でも、突然辞めてほしくなんてない。前から決まっていたというのであれば、なんで事前に相談してくれなかったのか。俺のせいではないというロニーの言葉を、いまいち信じることができない。
色々と言いたい。泣き喚いて引き止めたい。でも、ぎゅっと唇を噛みしめる。ロニーは、一度決めたことを簡単にひっくり返すような性格ではない。思いつきで行動するような性格でもない。きっと、俺に伝えるまで、すごく考えたはずだ。
だったら、いまさら俺がなにを言ったって、ロニーの決意は変わらないのだろう。ここで騒げば、ロニーを困らせるだけだ。
必死に黙り込む俺は、たぶん変な顔をしていたと思う。だって今にも泣き言が飛び出しそうなのを、無理矢理飲み込んでいる。
「ルイス様」
俺にどう声かけしようか悩んでいるのだろう。俺の名前を繰り返し呼んでくるロニーを、おずおずと見上げる。
だが、いつも通りに優しいロニーの顔を見ると泣きたくなってしまう。
すぐに俯いて「わかった」と口にしておく。
本当は、なにもわかっていないし、わかりたくもないけど。
※※※
「ジャンは辞めたりしないよね」
「はい」
ロニーが辞めるというから、ちょっと心配になって確認する。これでジャンまで辞めてしまったら、俺はひとりになってしまう。
ロニーは、今日一日ずっと悩んでいたのだろう。挙動不審だったのは、俺にどう伝えるべきか考えていたせいだろう。
ロニーはどうして、辞めるということを事前に相談してくれなかったのか。たぶん、俺が面倒くさいからだ。自分でもよくわかっている。辞めないでと、俺に騒がれるのが面倒だったに違いない。ロニーはただでさえ優しいから。事前に相談して、俺が馬鹿みたいに辞めないでと繰り返せば、きっと色々悩んでしまうだろうから。だから直前での報告は仕方がないと自分に言い聞かせるが、やっぱりどこか納得できなくて。
「ジャンは辞めないでね」
「はい」
先程からジャンを相手に辞めないでと連呼しているのだが、ジャンは面倒くさがることもなく律儀にお返事してくれる。
俺の護衛を辞める件で、忙しいのだろう。ロニーは、騎士団の方へと行ってしまった。部屋に残された俺は、猫を撫でながらジャンに辞めないでと言い続けている。本当は、ロニーに言いたい。でも言えない。だからジャンを相手に、延々と辞めないで発言を繰り返している。ジャンには申し訳ないが、もうちょっとだけ付き合ってくれると嬉しい。
猫を膝に乗せて、隣には綿毛ちゃん。目の前には、ジャン。
ユリス、はやく帰ってこないかな。このどうしようもない気持ちを、誰かに聞いてほしかった。ユリスなら、きっと文句を言いつつも最後まで聞いてくれる。
「ルイス様。いいものあるんですけど」
そんな時である。ノックもせずに部屋に乗り込んできたアロンは、にやにやと悪そうな笑みを浮かべていた。今、こいつの相手をしてやる気分ではない。「忙しいから後にして」とやんわり追い出そうとするが、アロンは空気を読まずに椅子に座ってしまう。ジャンが慌てて立ち上がっている。
「見てくださいよ、これ」
肩を叩かれて、顔を上げる。アロンが手にしていたのは、お皿に乗ったケーキであった。
「食べる」
反射的に答えれば、アロンは「食べましょう。ブルース様に見つかる前に」と悪戯っぽく笑う。なんでブルース兄様の名前が出てくるのか。訊けば、俺と一緒に食べようと思って、こっそり用意したらしい。「みんなには内緒ですよ」というアロンに、こくこく頷いてみせる。
気を利かせたジャンが、お茶を用意しに行ってくれる。
わくわくとフォークを手にすれば、アロンがじっと俺の顔を見つめてくる。
「なに」
「ロニーから聞きました?」
「……うん」
俺の護衛を辞める件だろう。
またもや気分が沈みかける俺に、アロンは「なんでロニーが」と悔しそうに吐き捨てる。ちょっと意外である。アロンは、たしかロニーのことが嫌いであったはず。ロニーが辞めると聞いて大喜びしそうなのに。
「アロンも嫌なの?」
「もちろん。嫌に決まっています」
「そうなんだ」
アロンにも、他人のことを思う心があったんだな。でもそれくらい、ロニーがいい人ってことだろう。
「でも俺、偉かった。ロニーを困らせないように頑張った」
「さすがルイス様ですね」
「うん」
本当は泣いて引き止めたかったけど、我慢した。思い出して、ちょっぴり涙が滲んでくる。アロンに見られる前に、袖で拭っておいた。
「でも止めてくれればよかったのに。ロニーよりも、絶対俺がいいですって」
「……うん?」
いいですってなにが? なんか会話が噛み合っていない気がした。「ちょっと待って」とアロンを制止する。
「止めるってなにを?」
「だから。ロニーですよ。今まで通りルイス様の護衛騎士やってればいいのに。ルイス様もそっちの方がいいでしょ」
「うん。そうだけど」
ん? 別にすれ違ってはいないな。ロニーが俺の護衛を辞める件についての話だ。問題はない。じゃあこの微妙に噛み合わない会話はなんだ。
「アロンの方がいいっていうのは? なにが?」
「副団長ですよ。俺の方が向いてますよね」
「副、団長?」
ぱちぱちと目を瞬く俺に、アロンが「あれ?」と首を捻る。
「ロニーに聞いたって」
「え。俺の護衛を辞めるって話でしょ」
「そうです。ルイス様の護衛を辞めて副団長になるって」
「えぇ!」
びっくりした。なにその話。初耳ですが?
俺の大声に、アロンもびっくりしたらしい。「あれ。これまだ言ったらダメでした?」となぜか俺に向かって問いかけてくる。そのわざとらしい仕草に、ツッコミを入れている暇もない。
「ロニー! 副団長になるの? セドリックは?」
「あの人が団長になるから。空いた副団長の席を誰に譲るかってんで連日揉めていたんですけど」
結局はロニーになってしまいました、と半眼になるアロンは不満そうである。そういえば、アロンは昔からずっと副団長やりたいと主張していた。
いや、そんなことよりも。
「じゃあ、ロニーは出世するってこと!?」
「そうなんじゃないですか?」
待って、それは嬉しい。普通に嬉しい。すっかりと涙も引っ込んで、飛び跳ねるような気持ちになる。ロニーが認められるのは、自分のことのように嬉しい。嬉しくてケーキをパクパク食べる。甘くて美味しい。
「言ってくれればいいのに! ロニー!」
副団長になるなんてすごい。副団長になるから辞めますって言ってくれれば、俺だって素直にお祝いできたのに。なんであんな報告の仕方したんだ。てっきり俺のせいで、俺の側に居るのが気まずくなって辞めるのかと。そういや、ロニーも俺のせいではないと言っていたな。
「……ロニーが、ルイス様の側を離れるのはいいんですか?」
「いいよ。だってすごいじゃん。副団長」
「へー」
ブルース様の読みが外れたな、と呟くアロン。
「ブルース兄様がなに」
「いや。ロニーがルイス様の護衛から外れると知れば、大騒ぎするだろうって」
「ブルース兄様、そんなこと言ってたの?」
確かにロニーと毎日一緒じゃなくなるのは寂しいが、ロニーの出世は嬉しい。別にそこまで大騒ぎするつもりもない。
どうやらブルース兄様は、俺が絶対にロニーを手放さないと予想していたらしい。それで、ロニーが俺の護衛を辞めて副団長になる件を直前まで隠し通そうとしたのだろう。連日俺が抗議に来ると踏んでいたらしい。
それで、ロニーもちょっと言いにくそうにしていたのか。
「でも。副団長になるって言ってくれればよかったのに」
「あぁ、それは。今のところ極秘事項なので。ルイス様相手でも言えなかったのでは? 変に真面目だから」
「そうなんだ。じゃあ仕方ないか」
ロニーだって俺を泣かせるつもりはなかったのだろう。でも、副団長の件は言えない。だからあんなぼんやりと俺のせいではない繰り返していたのだろう。
それにしても。黙々とケーキを食べるアロンを視界に入れる。極秘事項というのであれば、アロンだって俺に漏らすのはまずかったのではないか。ブルース兄様に知られたら、きっと怒られる。
突然ケーキを持ってきたこともそうだし、アロンなりに俺を心配してくれているのかも知れない。
「アロン。優しいね」
ありがと、と早口でお礼を言えば、アロンはにやりと口角を持ち上げる。
「ブルース様には内緒ですからね」
「うん。内緒ね」
ケーキのことも、新しい副団長のことも内緒である。アロンが俺を気にかけて用意してくれたケーキである。なんだかとても甘く感じた。
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