371 / 586
14歳
356 鋭い人
しおりを挟む
翌朝。
なんか瞼が重い気がしつつも、なんとか起きる。寝起きの悪いユリスを引っ叩くが低く唸るばかりで起きる気配はない。
それに比べて、綿毛ちゃんはシャキッと起き上がる。尻尾を振りながら俺のことを覗き込んでくる綿毛ちゃんを撫でて、ベッドから降りれば、ちょうどタイラーがやって来た。
「あ。またユリス様のベッドに潜り込んで」
「いいじゃん。それくらい」
朝からうるさいタイラーは、俺のことを追い出そうとしてくる。俺の部屋には、ジャンが居るだろう。そしてロニーも。
昨日のことを思い出して、二の足を踏んでしまう。ロニーはいつも通りに遊んでくれると言ってくれたが。
「どうしたんですか? はやく着替えてきてください」
タイラーに背中を押されて、渋々廊下に出ようとしたところ、ユリスが体を起こすのが見えた。
「おい、ルイス」
雑に呼びかけられて足を止めるが、ユリスはなにも言わずにじっと俺のことを見ている。その問いかけるような視線に、軽く頷いておく。
綿毛ちゃんを伴って、部屋に戻った。心配なことはたくさんあるが、ユリスの言う通り大丈夫だろう。言葉こそは発しなかったが、ユリスの言いたいことはわかった。
「おはよー、ジャン」
「おはようございます。ルイス様」
部屋には、俺の着替えを用意するジャンがいた。ちょっと探してみるが、ロニーの姿はない。がっかりするような、安堵するような。もしかして昨日の一件が原因で今日は来ないとかないよね? と少し心配になってくる。ロニーに避けられるのは、とても嫌だ。しかしジャンに尋ねてもなにも知らないらしく「今日は遅いですね」と首を捻るばかりである。
ちらちらとドアに視線を投げながら着替えを済ませる。いつもはロニーが髪を整えてくれるのに。仕方がなく、ジャンに櫛を手渡した時、ようやくロニーがやって来た。
「……おはよ」
ちょっと身構えて挨拶すれば、ロニーは「おはようございます」とにこやかに応じてくれる。いつも通りのロニーだ。ジャンから櫛を受け取って、すぐに髪を整えてくれる。
その優しい手つきに、ホッと胸を撫で下ろす。ロニーはいつも通りだ。なにも変わっていない。
「ロニー」
「はい」
「今日は猫と一緒に散歩しよう」
「いいですね」
にこにこと答えてくれるロニーにつられて、笑みがこぼれる。綿毛ちゃんも、安心したように尻尾を振っている。
本当によかった。ロニーは真面目だから、俺の告白が原因で距離を置かれたらどうしようと思っていた。昨日の告白をなかったことにはしてほしくないけど、必要以上に気にしてほしくはない。これは俺の我儘だけど、普段通りに接してほしい。この件でロニーに迷惑はかけたくない。
そうして部屋を出ようとしたところ、廊下にボケっと突っ立っているアロンを発見して面食らう。なにこいつ。なんでこんなところに?
「アロン。おはよう」
ひらひらと手を振れば、アロンが眉を寄せる。なにかを探るような鋭い目線に、思わず目を逸らしてしまった。
「ルイス様」
「なに」
「こいつとなにかありました?」
こいつと言ってアロンが指さしたのは、俺の後ろにいたロニーである。なにこの人。なんでそんなに鋭いのか。
だが、昨日の件は誰にも言うつもりはない。あれは俺とロニーの秘密なのだ。あわあわしていれば、アロンがわかりやすく顔を歪める。不機嫌モードになってしまった彼は、「もういいです」と言い置いて背中を向けてくる。そのまま帰ると思いきや、ちらりと俺を振り向いたアロンはなんだか悲しそうな顔をしていた。
「俺は、ルイス様を泣かせたりはしませんけどね」
ロニーを睨みつけて、早足に去っていくアロン。思いもよらない言葉に、咄嗟に返事ができなかった。
いやそれよりも。なんで俺が泣いたって知ってるんだよ。あの口振りだと、ロニーが泣かせたと言わんばかりである。なんでそこまで知っているのか。
まさかロニーがアロンに話したのか?
でも、ロニーはそんな口が軽い人ではない。じゃあ一体どうして。
「俺、そんなにわかりやすい?」
隠し事が下手だと、ユリスやブルース兄様に言われたことがある。心配になる俺であったが、ロニーは「そんなこと」と否定してくる。
「今のはちょっと。あの人が鋭いだけですよ」
困ったように教えてくれるロニーに背中を押されて、ユリスの部屋に向かう。その背後では、話についていけないジャンが、ぱちぱちと目を瞬いていた。
※※※
「交換してもいいぞ」
「なにが?」
ロニーとタイラーが居ない隙を狙ったように、ユリスが腕を引いてくる。
「護衛。交換してもいいぞ」
「なんで?」
「なんでって。おまえはロニーを側に置いて平気なのか?」
「うん」
どうやら俺とロニーの仲を懸念しているらしい。まぁ、振られたからな。
でもロニーはいつも通りだ。なにも変わらない。
ユリスが心配してくれたことが意外で、素っ気ない反応をしてしまった。こいつは揉め事大好きなので、てっきり俺とロニーの件を揶揄ってにやにやするんだとばかり思っていたのに。
心配するだけでなく、ロニーとタイラーを交換してやってもいいと提案してくるユリスに、頬を掻く。ユリスが積極的に手を貸してくれるのは珍しい。それと同時に、昨日からずっと心配をかけてしまって申し訳ないような気分にもなってくる。「ありがとう」と呟けば、「別にいい」と顔を逸らされてしまった。
「弟の面倒を見るのは、兄としては当然だからな」
「なんで俺が弟になってんの」
どさくさに紛れて、兄の座を奪おうとしてくるユリスは油断ならない。腕を組んで偉そうにふんぞり返るユリスは、ブルース兄様そっくりだった。もしかして兄様の真似でもしているのだろうか。
「ロニーは優しいから。いつもと一緒だよ」
「そうか。あいつは優秀な騎士だな」
ユリスが人を褒めるなんて珍しい。しかも褒められたのがロニーとあって、なんだか照れてしまう。へへっと笑っていれば、ユリスが変なものでも見るかのような目を向けてきた。失礼だと思う。
なんか瞼が重い気がしつつも、なんとか起きる。寝起きの悪いユリスを引っ叩くが低く唸るばかりで起きる気配はない。
それに比べて、綿毛ちゃんはシャキッと起き上がる。尻尾を振りながら俺のことを覗き込んでくる綿毛ちゃんを撫でて、ベッドから降りれば、ちょうどタイラーがやって来た。
「あ。またユリス様のベッドに潜り込んで」
「いいじゃん。それくらい」
朝からうるさいタイラーは、俺のことを追い出そうとしてくる。俺の部屋には、ジャンが居るだろう。そしてロニーも。
昨日のことを思い出して、二の足を踏んでしまう。ロニーはいつも通りに遊んでくれると言ってくれたが。
「どうしたんですか? はやく着替えてきてください」
タイラーに背中を押されて、渋々廊下に出ようとしたところ、ユリスが体を起こすのが見えた。
「おい、ルイス」
雑に呼びかけられて足を止めるが、ユリスはなにも言わずにじっと俺のことを見ている。その問いかけるような視線に、軽く頷いておく。
綿毛ちゃんを伴って、部屋に戻った。心配なことはたくさんあるが、ユリスの言う通り大丈夫だろう。言葉こそは発しなかったが、ユリスの言いたいことはわかった。
「おはよー、ジャン」
「おはようございます。ルイス様」
部屋には、俺の着替えを用意するジャンがいた。ちょっと探してみるが、ロニーの姿はない。がっかりするような、安堵するような。もしかして昨日の一件が原因で今日は来ないとかないよね? と少し心配になってくる。ロニーに避けられるのは、とても嫌だ。しかしジャンに尋ねてもなにも知らないらしく「今日は遅いですね」と首を捻るばかりである。
ちらちらとドアに視線を投げながら着替えを済ませる。いつもはロニーが髪を整えてくれるのに。仕方がなく、ジャンに櫛を手渡した時、ようやくロニーがやって来た。
「……おはよ」
ちょっと身構えて挨拶すれば、ロニーは「おはようございます」とにこやかに応じてくれる。いつも通りのロニーだ。ジャンから櫛を受け取って、すぐに髪を整えてくれる。
その優しい手つきに、ホッと胸を撫で下ろす。ロニーはいつも通りだ。なにも変わっていない。
「ロニー」
「はい」
「今日は猫と一緒に散歩しよう」
「いいですね」
にこにこと答えてくれるロニーにつられて、笑みがこぼれる。綿毛ちゃんも、安心したように尻尾を振っている。
本当によかった。ロニーは真面目だから、俺の告白が原因で距離を置かれたらどうしようと思っていた。昨日の告白をなかったことにはしてほしくないけど、必要以上に気にしてほしくはない。これは俺の我儘だけど、普段通りに接してほしい。この件でロニーに迷惑はかけたくない。
そうして部屋を出ようとしたところ、廊下にボケっと突っ立っているアロンを発見して面食らう。なにこいつ。なんでこんなところに?
「アロン。おはよう」
ひらひらと手を振れば、アロンが眉を寄せる。なにかを探るような鋭い目線に、思わず目を逸らしてしまった。
「ルイス様」
「なに」
「こいつとなにかありました?」
こいつと言ってアロンが指さしたのは、俺の後ろにいたロニーである。なにこの人。なんでそんなに鋭いのか。
だが、昨日の件は誰にも言うつもりはない。あれは俺とロニーの秘密なのだ。あわあわしていれば、アロンがわかりやすく顔を歪める。不機嫌モードになってしまった彼は、「もういいです」と言い置いて背中を向けてくる。そのまま帰ると思いきや、ちらりと俺を振り向いたアロンはなんだか悲しそうな顔をしていた。
「俺は、ルイス様を泣かせたりはしませんけどね」
ロニーを睨みつけて、早足に去っていくアロン。思いもよらない言葉に、咄嗟に返事ができなかった。
いやそれよりも。なんで俺が泣いたって知ってるんだよ。あの口振りだと、ロニーが泣かせたと言わんばかりである。なんでそこまで知っているのか。
まさかロニーがアロンに話したのか?
でも、ロニーはそんな口が軽い人ではない。じゃあ一体どうして。
「俺、そんなにわかりやすい?」
隠し事が下手だと、ユリスやブルース兄様に言われたことがある。心配になる俺であったが、ロニーは「そんなこと」と否定してくる。
「今のはちょっと。あの人が鋭いだけですよ」
困ったように教えてくれるロニーに背中を押されて、ユリスの部屋に向かう。その背後では、話についていけないジャンが、ぱちぱちと目を瞬いていた。
※※※
「交換してもいいぞ」
「なにが?」
ロニーとタイラーが居ない隙を狙ったように、ユリスが腕を引いてくる。
「護衛。交換してもいいぞ」
「なんで?」
「なんでって。おまえはロニーを側に置いて平気なのか?」
「うん」
どうやら俺とロニーの仲を懸念しているらしい。まぁ、振られたからな。
でもロニーはいつも通りだ。なにも変わらない。
ユリスが心配してくれたことが意外で、素っ気ない反応をしてしまった。こいつは揉め事大好きなので、てっきり俺とロニーの件を揶揄ってにやにやするんだとばかり思っていたのに。
心配するだけでなく、ロニーとタイラーを交換してやってもいいと提案してくるユリスに、頬を掻く。ユリスが積極的に手を貸してくれるのは珍しい。それと同時に、昨日からずっと心配をかけてしまって申し訳ないような気分にもなってくる。「ありがとう」と呟けば、「別にいい」と顔を逸らされてしまった。
「弟の面倒を見るのは、兄としては当然だからな」
「なんで俺が弟になってんの」
どさくさに紛れて、兄の座を奪おうとしてくるユリスは油断ならない。腕を組んで偉そうにふんぞり返るユリスは、ブルース兄様そっくりだった。もしかして兄様の真似でもしているのだろうか。
「ロニーは優しいから。いつもと一緒だよ」
「そうか。あいつは優秀な騎士だな」
ユリスが人を褒めるなんて珍しい。しかも褒められたのがロニーとあって、なんだか照れてしまう。へへっと笑っていれば、ユリスが変なものでも見るかのような目を向けてきた。失礼だと思う。
1,582
お気に入りに追加
3,020
あなたにおすすめの小説
彼の至宝
まめ
BL
十五歳の誕生日を迎えた主人公が、突如として思い出した前世の記憶を、本当にこれって前世なの、どうなのとあれこれ悩みながら、自分の中で色々と折り合いをつけ、それぞれの幸せを見つける話。
妹を侮辱した馬鹿の兄を嫁に貰います
ひづき
BL
妹のべルティシアが馬鹿王子ラグナルに婚約破棄を言い渡された。
フェルベードが怒りを露わにすると、馬鹿王子の兄アンセルが命を持って償うと言う。
「よし。お前が俺に嫁げ」
結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい
オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。
今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時―――
「ちょっと待ったー!」
乱入者の声が響き渡った。
これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、
白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい
そんなお話
※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り)
※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります
※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください
※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています
※小説家になろうさんでも同時公開中
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目
カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる