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13歳
335 追いかける
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『やめてよ、なにその呼び方。違うから。人間とは時間の感覚が違うんだって。まだ若いから、オレ』
突然、普段にも増して饒舌になった綿毛ちゃんは、どうやら俺の発言が気に食わなかったらしい。
だが、綿毛ちゃんの話を聞く限り、こいつは相当な年齢だ。俺のお父様よりも確実に上だろう。人間の寿命を上回っている気がする。数年単位でお昼寝とか、正気ではない。
「綿毛ちゃん何歳?」
『嫌な質問するね。もう忘れたよぉ』
へらへら誤魔化す綿毛ちゃん。なんだか楽しくなってきた俺は、ベッドの上に立ち上がって、毛玉を捕獲しようと躍起になる。ユリスが迷惑そうに顔を顰めたが、気にしない。
「待て! 毛玉!」
『いやいや。オレを踏み潰す勢いじゃん。ちょっと落ち着きなよ』
わーわー言って頑張っていた俺であるが、毛玉は素早い。短い足で、頑張って跳ねている。
「やめろ、うるさい」
「ユリスも手伝えよ!」
「嫌だ。部屋に戻れよ」
小さく舌打ちするユリスは、もう眠いとかふざけたことを言い出す。まだまだパーティーはこれからだ。ここで寝るなんてとんでもない。
「観念しろ! 綿毛ちゃん!」
『わかった! もう逃げないから。だからちょい落ち着こうか、坊ちゃん』
「待て!」
『聞けよ、オレの話を』
逃げないと言いつつ逃げまわる綿毛ちゃん。嘘つきわんこめ。
テンション上がる俺であったが、ここで思わぬ邪魔が入った。
「こら! 今何時だと思ってるんですか!」
勢いよく開かれたドアと、響いた怒声。ギクリと動きを止める俺たちを睨みつけたのは、タイラーであった。
どうやら俺らの声を聞きつけてやって来たらしい。
「はやく寝る!」
遠慮なしに怒鳴ってくるタイラーは、部屋の明かりをつける。眩しくて目を細める俺であったが、タイラーが「こら!」と再び大声を出す。
「どっから持って来たんですか」
どうやらクッキーとジュースを見つけて、怒っているらしい。慌ててジュースを飲み干す俺。綿毛ちゃんも、口をもぐもぐさせている。残りのクッキーを頬張ったらしい。ユリスだけは、無関係を装ってそっぽを向いている。
「どこで見つけてきたんですか」
じっとジュースを見据えるタイラーは、寝巻き姿であった。彼の部屋は、この隣である。俺が綿毛ちゃんを追いまわす音を聞きつけたのか。もう少し静かに追いかけるべきだった。
これ以上、怒られるのは嫌なので、目についたもふもふを指さしておく。
「綿毛ちゃんが持ってきた」
『ひどい。冤罪だ』
ちょいちょいと短い前足を動かす綿毛ちゃんは、『オレじゃないよ?』とタイラーにアピールしている。
『見てよ、この可愛い手足を。ジュースなんて持てるわけないでしょ』
確かに。あの短い前足でグラスを持つのは無理がある。タイラーの眉間に皺がよる。これはもう正直に言うしかない。
「厨房にあった」
「まったく」
腰に手を当てたタイラーは、間違いなく怒っていた。「こんなに散らかして」と、文句を言いながら片付けを始める彼の手伝いをする。部屋の主であるユリスは、ムスッと黙り込んで無関係を貫いている。
「よく見つけましたね。隠していたのに」
少しだけ感心したように呟くタイラー。なんでも、俺が厨房からお菓子を盗み出すので、料理人と結託して、ジュースは俺の手が届かないところに隠していたらしい。そういえば、レナルドは背の高い棚の上からジュースを取り出していた。あそこは、踏み台がないと俺には届かない。
「レナルドにとってもらった」
タイラーが怖い顔をするので、白状すれば、彼は意外そうに片眉を持ち上げた。
「仲良かったですっけ?」
「ううん。初めて話した」
これに、タイラーが怪訝な顔をする。
この時間に、レナルドが屋敷内に居たことを不思議に思ったらしい。
「なんかね、アロンと飲んでるんだって」
「あぁ、あの人と」
納得したように頷くタイラーは、アロンとレナルドが仲良しだと知っているらしい。
「レナルドはいい人」
とりあえずお伝えしてみるが、タイラーの顔色は晴れない。まぁ、あのクソ野郎と仲良しというだけで、なんかこう、うん。ちょっと性格に難ありなのかと疑いたくなる気持ちはわからなくもない。
客観的に見ても、夜中にジュース取りに来た子供相手に、注意するどころか隠し場所を教えてくれた。ダメな大人の対応だな。
ささっと片付けをしたタイラーは、今度はユリスに向かって小言を言い始める。
「僕に言うな。ルイスが勝手に乗り込んできたんだ」
しれっと俺のせいにしている。確かに俺から乗り込んだが、ユリスだってノリノリだった。ジュースだって飲んでいた。クッキーも食べていた。
「はい。もう寝る。ルイス様はお部屋に戻る」
テキパキと指示するタイラーに、俺は唇を尖らせる。だが、このまま粘っても意味はない。仕方がなく、綿毛ちゃんを抱っこする。
「あのね、綿毛ちゃんっておじいちゃんなんだよ」
『違うから!』
ついでに先程知ったばかりの情報をタイラーに教えてあげるが、綿毛ちゃんが勢いよく否定してくる。嘘つきわんこめ。
こうして、真夜中パーティーはお開きとなった。
突然、普段にも増して饒舌になった綿毛ちゃんは、どうやら俺の発言が気に食わなかったらしい。
だが、綿毛ちゃんの話を聞く限り、こいつは相当な年齢だ。俺のお父様よりも確実に上だろう。人間の寿命を上回っている気がする。数年単位でお昼寝とか、正気ではない。
「綿毛ちゃん何歳?」
『嫌な質問するね。もう忘れたよぉ』
へらへら誤魔化す綿毛ちゃん。なんだか楽しくなってきた俺は、ベッドの上に立ち上がって、毛玉を捕獲しようと躍起になる。ユリスが迷惑そうに顔を顰めたが、気にしない。
「待て! 毛玉!」
『いやいや。オレを踏み潰す勢いじゃん。ちょっと落ち着きなよ』
わーわー言って頑張っていた俺であるが、毛玉は素早い。短い足で、頑張って跳ねている。
「やめろ、うるさい」
「ユリスも手伝えよ!」
「嫌だ。部屋に戻れよ」
小さく舌打ちするユリスは、もう眠いとかふざけたことを言い出す。まだまだパーティーはこれからだ。ここで寝るなんてとんでもない。
「観念しろ! 綿毛ちゃん!」
『わかった! もう逃げないから。だからちょい落ち着こうか、坊ちゃん』
「待て!」
『聞けよ、オレの話を』
逃げないと言いつつ逃げまわる綿毛ちゃん。嘘つきわんこめ。
テンション上がる俺であったが、ここで思わぬ邪魔が入った。
「こら! 今何時だと思ってるんですか!」
勢いよく開かれたドアと、響いた怒声。ギクリと動きを止める俺たちを睨みつけたのは、タイラーであった。
どうやら俺らの声を聞きつけてやって来たらしい。
「はやく寝る!」
遠慮なしに怒鳴ってくるタイラーは、部屋の明かりをつける。眩しくて目を細める俺であったが、タイラーが「こら!」と再び大声を出す。
「どっから持って来たんですか」
どうやらクッキーとジュースを見つけて、怒っているらしい。慌ててジュースを飲み干す俺。綿毛ちゃんも、口をもぐもぐさせている。残りのクッキーを頬張ったらしい。ユリスだけは、無関係を装ってそっぽを向いている。
「どこで見つけてきたんですか」
じっとジュースを見据えるタイラーは、寝巻き姿であった。彼の部屋は、この隣である。俺が綿毛ちゃんを追いまわす音を聞きつけたのか。もう少し静かに追いかけるべきだった。
これ以上、怒られるのは嫌なので、目についたもふもふを指さしておく。
「綿毛ちゃんが持ってきた」
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ちょいちょいと短い前足を動かす綿毛ちゃんは、『オレじゃないよ?』とタイラーにアピールしている。
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確かに。あの短い前足でグラスを持つのは無理がある。タイラーの眉間に皺がよる。これはもう正直に言うしかない。
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「よく見つけましたね。隠していたのに」
少しだけ感心したように呟くタイラー。なんでも、俺が厨房からお菓子を盗み出すので、料理人と結託して、ジュースは俺の手が届かないところに隠していたらしい。そういえば、レナルドは背の高い棚の上からジュースを取り出していた。あそこは、踏み台がないと俺には届かない。
「レナルドにとってもらった」
タイラーが怖い顔をするので、白状すれば、彼は意外そうに片眉を持ち上げた。
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「なんかね、アロンと飲んでるんだって」
「あぁ、あの人と」
納得したように頷くタイラーは、アロンとレナルドが仲良しだと知っているらしい。
「レナルドはいい人」
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「あのね、綿毛ちゃんっておじいちゃんなんだよ」
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