嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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13歳

330 長男と(sideブルース)

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「うわ!」

 思わず大声をあげてから、ハッと我に返る。暗い室内に誰かいる。目を凝らして、その正体が判明するなり、肩の力を抜いた。

「なにをしているんですか、兄上」

 日も落ちて外は真っ暗。ユリスとルイスはそろそろ寝る時間だろう。先程部屋の前を通ったところ、なにやら弟ふたりの揉める声が聞こえてきた。いつものことだ。タイラーがどうにかするだろうと、顔は出さずに引き返した。

 そうして自室に戻ってきた俺であったが、なぜか明かりもつけずに兄上が居座っていた。

 急いで明かりをつけて声をかければ、ははっと覇気のない笑いが返ってくる。一体どうしたというのか。

「珍しいですね、こんな時間に」
「あー、うん」

 ソファーを陣取ったオーガス兄上は、やる気なさそうに背中を預けている。兄上のやる気がないのはいつものことだ。だが、部屋に押しかけて来るとは珍しい。

「……飲む?」
「はい?」

 片手で掲げられた酒瓶に、少し考える。明日も早い。だが、兄上からの誘いなど珍しい。

「少しなら」

 短く答えて、向かいの席に腰掛ける。

「酔い潰れないでね。僕、君の面倒見るのはちょっと」
「そんなに飲みませんよ」
「この間、酔ってアロンに掴みかかったの忘れたの?」
「……そんなことありましたっけ?」

 まったく記憶にない。
 え? いつの話だ?

 だが、アロンに掴みかかるなんていつものことだ。たいした問題はないだろう。どうせあいつが余計なことをしたに決まっている。

「僕に掴みかかるのはやめてね」
「しませんよ。そんなこと」

 なにやら饒舌な兄上は、ハイペースでグラスを傾けている。俺よりも、よほど酔い潰れそうな勢いに、心配になってしまう。

 さりげなくグラスを遠ざけたいのだが、兄上が放す気配はない。とりあえず、目についた酒瓶を遠ざけておいた。

「それで。わざわざ酒なんて持ち出して。なんのご用でしょうか」

 一向に本題に入らない兄上を促せば、またもや勢いよくグラスを傾ける。やっぱり酒なんてやめておけばよかったかもしれない。話がまったく進まない。

 だが、酒の力を借りなければ話せないようなことがあると言うのか。嫌な予感しかしない。なにかあったかと思考する。あれか? キャンベルか? 夫婦間の揉め事か? そんなの俺に訊かれても何も答えられないぞ。

「……ルイスがさ」

 ボソッと出てきた言葉に、すべてを察した。

 どうやら最近、反抗期に突入したらしい弟の顔を思い浮かべて、息を吐く。

 弟の成長は喜ばしいが、予想外だったのは反抗期の相手が兄上だった点だろう。兄上は基本的に、ルイスを甘やかしていたはずだ。俺の方がずっと口うるさかったはずだ。

「僕のことを露骨に避けてくる」
「それは、なんというか。はい」

 もしや兄上はそれで落ち込んでいるのか?

 確かに、ここ最近のルイスは兄上の姿を確認するなりどこかへ走って逃げるか、ひたすら黙り込むかの二択である。そういう年頃なのだろうと放置しているのだが、まさかどうにかしろとでも言うつもりか?

 少し身構えていれば、兄上が両手で顔を覆って天井を見上げてしまう。

「僕、なんだろう。あのー、うん。ちょっと嬉しいなって気持ちもあるんだよね」
「……無視されるのが?」
「うん。いや別に変な意味じゃなくて!」

 慌てたように、こちらへ向き直る兄上は、言葉通り微笑を浮かべている。

「だってさぁ。反抗期だよ? それってつまりは、僕のことを兄って認めてくれているわけだろ? そう考えるとさ、つい嬉しくてにやにやしちゃう」

 くすりと笑う兄上の言葉に、目を瞬く。

「そんなこと、考えもしませんでした」

 なるほど、確かにな。
 ルイスは基本的に図々しい性格ではあるが、変なところで遠慮してしまうことを知っている。たとえば、昔の思い出話などをしている時。調子のいい時には首を突っ込んでくるのだが、少し気分が乗らない時などは寂しそうな顔で俯いていたりする。気楽そうに見えて、色々と考えているのだろう。

「僕ね、割とルイスに我儘言われるの好きなんだ。ユリスもさ、ルイスの真似してるのかわかんないけど。最近は色々言ってくるだろ? 結構楽しいんだよね」
「ですね」

 以前のユリスであれば、俺たちと会話なんてしなかっただろう。それが変わったのは、ルイスが来てからだ。

 なにやら対抗心を持っているらしく、ルイスが兄上になにかをねだれば、すかさずユリスも寄って行く。以前のユリスであれば、考えられない行動だ。

 屋敷が明るくなったのは間違いない。

「今の話、ルイスには内緒ね」

 悪戯っぽく笑う兄上に「もちろんです」と頷いて、酒瓶を手に取る。手酌で飲めば、「酔い潰れないでね」と念押しされる。

「だからはやくルイスとも普通に喋りたいんだけど。でも反抗期も嬉しいよね。悩みどころだね」
「大丈夫ですよ」

 励ましを口にして、グラスを置く。別に口から出まかせを言っているわけではない。確かにルイスは反抗期だが、大丈夫だろうとの確信はある。

 頑なに兄上のことを無視し始めたルイスであるが、よく見ていれば、なにか言いたげにしていることがある。

「時間が解決してくれますよ」

 焦る必要はない。成長するというのであれば、兄としてはそれを見守るだけだ。

「ん、そうだね」
「はい」
「ブルースもいつの間にか終わってたもんね。反抗期」
「……俺は反抗期なんてありませんでした」
「あったよ。僕のことすんごい睨んでたよ、一時期。あと僕に向かって舌打ちしたり! すげぇ怖かったんだけど。それに比べたらルイスは可愛い方だよね」
「……ありましたっけ? そんなこと」
「え、こわ。反抗期の間の記憶がなくなるタイプの人? こっわ」

 大袈裟に己の肩を抱く兄上は、酒のせいだろうか。少し顔が赤らんでいた。
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