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13歳
324 好きにしなよ
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俺の指輪を見たロニーは、わかりやすく眉を寄せた。ジャンも、いつにも増して挙動不審になってしまう。
だよね。
やっぱり指輪を贈るというのは、そんなに軽々しい行為ではないよね。すぐにはずすが、置き場所に困る。これが入っていた箱は、アロンがそのまま持ち帰ってしまった。なんとなく、テーブルの上にぽつんと置いてみた。
「ブルース兄様、なんだって?」
気を取り直してロニーに問い掛ければ、柔らかく微笑まれた。「たいしたことでは」と、濁されてしまうが別に構わない。どうせ仕事の話だろうから。俺が聞いたとしても意味はわからないだろう。
なにか言いたそうに、指輪を見つめるロニー。
「アロンにもらった。誕生日プレゼント」
「……そうでしたか」
誕生日プレゼントという点を強調すれば、ロニーはそれ以上なにも言わなかった。
それにしても、どうしようか。
指輪をつけるような趣味はない。だからといって無下にもできない。テーブルの上で、無言で存在を主張するシルバーが、ひどく俺の心を掻き乱す。
あとで考えよう。自分に言い聞かせて、背中を向けた。
※※※
「綿毛ちゃん! 猫に負けてどうする!」
『いやだって。あの猫ちゃん、おっかないよ。あれだね。ペットは飼い主に似るもんだねぇ』
「どういう意味だ」
意味深な視線を向けてくる綿毛ちゃんに、拳を握りしめる。今のはどう聞いても俺の悪口である。待て! と綿毛ちゃんを追いかければ、慌てたように逃げていく。
暇を持て余した俺は、犬と猫を戦わせようと必死であった。どちらが強いのか、はっきりさせたい。
犬は喋ることができるけど、猫の方が気が強い。
ボールを投げても、いつも猫が真っ先に駆けていく。綿毛ちゃんは遠慮しているのか、ボールを抱え込む猫には近付かない。威嚇されるのが怖いのだろう。
「ちょっといいかな」
夢中で遊んでいたため、ドアが開いたことにも気が付かなかった。びっくりして振り返ると、オーガス兄様がいた。ニックはいない。
「なに」
「綿毛ちゃんと遊んでたの?」
俺の質問に答えない兄様は、勝手に椅子に座ってしまう。空気を読んだのか、ロニーとジャンは静かに退出してしまう。
猫に近寄って、ボールをとり返す。再び投げれば、猫は凄い勢いで走っていく。綿毛ちゃんは走らない。
「僕、結婚しようかな」
ぽつりと響いた言葉に、兄様のことを振り返る。
なんだか緊張の面持ち。独り言みたいな言い方だったが、多分俺に向けて言ったのだろう。
「好きにしなよ」
ちょっと突き放すような言い方になってしまった。でも、わざわざ言い直すのも憚られて、そのままにしておいた。
「結婚しようかな。そろそろ」
「うん」
適当に頷いて、再びオーガス兄様に背を向ける。しゃがみ込んで、綿毛ちゃんを撫でまわせば、横から猫が突進してくる。『ぎゃあ!』と大袈裟な悲鳴をあげた綿毛ちゃんは、素早く逃げてしまう。
代わりに猫を撫でれば、上機嫌ににゃあにゃあ鳴き始める。おそらくエリスちゃんは、綿毛ちゃんをライバル視している。
「ねぇ、話聞いてる?」
「聞いてる」
「本当に?」
「聞いてるってば」
語気を強めれば、オーガス兄様は「そ、そう」と弱々しく頬を掻いた。
「なんで俺に訊くの? 結婚したければ勝手にすればいいじゃん」
「そんな言い方しなくても。ちょっと訊いてみただけなのに」
決まりが悪い顔で俯く兄様は、まるで俺に判断を委ねるかのような問い方をしてくる。それが、なんだか苛々してしまう。
なんで俺に言うのか。俺がダメって言ったら結婚しないのか? そんなわけないだろ。俺がいいと言うのを期待するかのような物言いが、俺の心を逆撫でる。
「自分で決めなよ」
言ってから、なんとなく落ち着かない気分になる。
「もう! そんなの俺に訊かないで! ブルース兄様に言えばいいじゃん!」
「そ、そんなキレなくても」
驚くように目を見開くオーガス兄様は、「なんかごめんね」と卑屈に口元を引き攣らせながら席を立った。
出て行く背中からふいっと顔を逸らせば、綿毛ちゃんが『どうしたの? 反抗期かい?』と、短い前足でちょいちょい俺の足を突いてくる。
なんだか無性に苛々して、「もう!」と地団駄を踏む。どうしてこんなに苛立つのか。自分でもよくわからなかった。
だよね。
やっぱり指輪を贈るというのは、そんなに軽々しい行為ではないよね。すぐにはずすが、置き場所に困る。これが入っていた箱は、アロンがそのまま持ち帰ってしまった。なんとなく、テーブルの上にぽつんと置いてみた。
「ブルース兄様、なんだって?」
気を取り直してロニーに問い掛ければ、柔らかく微笑まれた。「たいしたことでは」と、濁されてしまうが別に構わない。どうせ仕事の話だろうから。俺が聞いたとしても意味はわからないだろう。
なにか言いたそうに、指輪を見つめるロニー。
「アロンにもらった。誕生日プレゼント」
「……そうでしたか」
誕生日プレゼントという点を強調すれば、ロニーはそれ以上なにも言わなかった。
それにしても、どうしようか。
指輪をつけるような趣味はない。だからといって無下にもできない。テーブルの上で、無言で存在を主張するシルバーが、ひどく俺の心を掻き乱す。
あとで考えよう。自分に言い聞かせて、背中を向けた。
※※※
「綿毛ちゃん! 猫に負けてどうする!」
『いやだって。あの猫ちゃん、おっかないよ。あれだね。ペットは飼い主に似るもんだねぇ』
「どういう意味だ」
意味深な視線を向けてくる綿毛ちゃんに、拳を握りしめる。今のはどう聞いても俺の悪口である。待て! と綿毛ちゃんを追いかければ、慌てたように逃げていく。
暇を持て余した俺は、犬と猫を戦わせようと必死であった。どちらが強いのか、はっきりさせたい。
犬は喋ることができるけど、猫の方が気が強い。
ボールを投げても、いつも猫が真っ先に駆けていく。綿毛ちゃんは遠慮しているのか、ボールを抱え込む猫には近付かない。威嚇されるのが怖いのだろう。
「ちょっといいかな」
夢中で遊んでいたため、ドアが開いたことにも気が付かなかった。びっくりして振り返ると、オーガス兄様がいた。ニックはいない。
「なに」
「綿毛ちゃんと遊んでたの?」
俺の質問に答えない兄様は、勝手に椅子に座ってしまう。空気を読んだのか、ロニーとジャンは静かに退出してしまう。
猫に近寄って、ボールをとり返す。再び投げれば、猫は凄い勢いで走っていく。綿毛ちゃんは走らない。
「僕、結婚しようかな」
ぽつりと響いた言葉に、兄様のことを振り返る。
なんだか緊張の面持ち。独り言みたいな言い方だったが、多分俺に向けて言ったのだろう。
「好きにしなよ」
ちょっと突き放すような言い方になってしまった。でも、わざわざ言い直すのも憚られて、そのままにしておいた。
「結婚しようかな。そろそろ」
「うん」
適当に頷いて、再びオーガス兄様に背を向ける。しゃがみ込んで、綿毛ちゃんを撫でまわせば、横から猫が突進してくる。『ぎゃあ!』と大袈裟な悲鳴をあげた綿毛ちゃんは、素早く逃げてしまう。
代わりに猫を撫でれば、上機嫌ににゃあにゃあ鳴き始める。おそらくエリスちゃんは、綿毛ちゃんをライバル視している。
「ねぇ、話聞いてる?」
「聞いてる」
「本当に?」
「聞いてるってば」
語気を強めれば、オーガス兄様は「そ、そう」と弱々しく頬を掻いた。
「なんで俺に訊くの? 結婚したければ勝手にすればいいじゃん」
「そんな言い方しなくても。ちょっと訊いてみただけなのに」
決まりが悪い顔で俯く兄様は、まるで俺に判断を委ねるかのような問い方をしてくる。それが、なんだか苛々してしまう。
なんで俺に言うのか。俺がダメって言ったら結婚しないのか? そんなわけないだろ。俺がいいと言うのを期待するかのような物言いが、俺の心を逆撫でる。
「自分で決めなよ」
言ってから、なんとなく落ち着かない気分になる。
「もう! そんなの俺に訊かないで! ブルース兄様に言えばいいじゃん!」
「そ、そんなキレなくても」
驚くように目を見開くオーガス兄様は、「なんかごめんね」と卑屈に口元を引き攣らせながら席を立った。
出て行く背中からふいっと顔を逸らせば、綿毛ちゃんが『どうしたの? 反抗期かい?』と、短い前足でちょいちょい俺の足を突いてくる。
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