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12歳
316 好きってなに
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「はい、返す」
白猫の首輪に装着していた指輪を返せば、アロンは一瞬だけ苦い顔をしてみせた。けれどもすぐに締まりのない笑顔を浮かべると、「いいですよ」と遠慮してしまう。
いいですよってなに? これはアロンのだろうが。俺はお預かりしていただけだぞ。
「返す」
んっと差し出すが、アロンは受け取ってくれない。なんだこいつ。
困惑する俺は、足元で大人しくしている綿毛ちゃんと白猫エリスちゃんを見比べる。指輪をはずされたエリスちゃんは、ちょっと不機嫌そうにも見えてしまう。オシャレの邪魔されて、怒っているのかな。
「ちょっと貸してください」
そう言って俺の手から指輪をとりあげたアロンは、片膝をつく。貸してもなにも。これはアロンのものだって。
「これは、ルイス様に」
そう言って、右手で器用に俺の左手をとったアロンは、薬指に指輪をつけてくる。
「……あれ? サイズ合わないですね」
だから、何度もそう言っているだろ。人の話を聞かないアロンは、首を捻ると「まぁいいです」と、雑に指輪を握らせてくる。
「それ。ルイス様が持っていてください」
「猫につけていい?」
「それはちょっと」
なんでだよ。オシャレ猫にしたいのに。
困ったように眉尻を下げたアロンは、俺の目を覗き込む。
「俺、ルイス様のこと好きですよ」
「……うん」
まただ。また好きって言った。
目を瞬く俺に構わず、アロンは「だから。それはルイス様が持っていてください」と早口になる。
手のひらに乗った指輪を、ぎゅっと握りしめる。
なんとなく気まずくて、しゃがみ込んだ俺は、綿毛ちゃんを撫でまわす。空気を読んだのか。黙っている綿毛ちゃんは、ちょっとオロオロしていた。
「じゃあ俺、片付けとかあるんで」
一方的に言い捨てたアロンは、そのまま背中を向けてしまう。振り返ることなく荷馬車の方へと駆けていくアロンを見送って、立ち上がる。
「……お土産は?」
ぼそっと呟けば、ロニーとジャンが「え?」と小さく声を漏らした。なにそのリアクション。
『坊ちゃんは、お土産の方が大事かぁ』
なぜかしみじみと分かったような口を利く綿毛ちゃんに、指輪を見せてあげる。再び猫につけてあげようとするが、綿毛ちゃんが『やめなよぉ』と止めに入る。
「なんで?」
『だってさ。それはあれだろ。あの人から坊ちゃんへのプレゼントだろ』
そうなのかな。でもクソ野郎だし。
アロンは、気軽に好きと口にする。俺のことが好きだと言った口で、女の子のナンパに失敗したと平気で笑うような奴である。今だってそうだ。
俺のことが好きと言いつつ、すんげぇ好みの女の子の話をしてくる。俺はどういう反応をすればいいんだよ。
「アロンはね、よくわかんないや」
ね? とロニーを振り返れば、彼は困ったように唸ってしまった。
お出迎えも済んだので、屋敷に戻る。オーガス兄様は、クレイグ団長と話し込んでいたので、庭に置いてきた。
ユリスの部屋を訪ねれば、「どうでした?」とタイラーが前のめりに訊いてくる。
「アロン、元気だったよ」
「結局なんだったんですか?」
首を捻るタイラーに、ロニーが説明してあげている。くだらない理由だと知ったタイラーは、「うわぁ」と露骨にひいていた。だよね。
「これ。アロンにもらっちゃった」
指輪を見せれば、タイラーが怪訝な顔になる。預かっていたのでは? と不思議そうだ。
「どうすればいいと思う?」
猫の首輪につけるのはダメらしい。だが、俺には大きいしな。となると、使い道がない。また戸棚の奥にでも隠しておこうか。
「僕のはどうなった」
話に割り込んでくるユリスは、お土産のことを言っているらしかった。お土産は、俺もまだもらえていない。出発前、ユリスは魔法に関する何か珍しい物を持ち帰ってこいとおねだりしていた。
取りに行くと立ち上がるユリスは、どうやらブルース兄様の部屋に突撃するつもりだ。こいつは魔法云々が絡むと、途端に積極的になる。
「ブルース兄様、今お疲れだよ」
「なぜ」
「帰ってきたばっかりだから」
「そんなの。なぜ僕がブルースに気を遣わないといけないんだ」
意味がわからないと突っぱねるユリスは、そのまま部屋を出て行ってしまう。
『お兄さんが一気に疲れたのって、オレが原因かなぁ』
ぼんやり呟いた綿毛ちゃんに、「さぁ?」と首を捻っておいた。
白猫の首輪に装着していた指輪を返せば、アロンは一瞬だけ苦い顔をしてみせた。けれどもすぐに締まりのない笑顔を浮かべると、「いいですよ」と遠慮してしまう。
いいですよってなに? これはアロンのだろうが。俺はお預かりしていただけだぞ。
「返す」
んっと差し出すが、アロンは受け取ってくれない。なんだこいつ。
困惑する俺は、足元で大人しくしている綿毛ちゃんと白猫エリスちゃんを見比べる。指輪をはずされたエリスちゃんは、ちょっと不機嫌そうにも見えてしまう。オシャレの邪魔されて、怒っているのかな。
「ちょっと貸してください」
そう言って俺の手から指輪をとりあげたアロンは、片膝をつく。貸してもなにも。これはアロンのものだって。
「これは、ルイス様に」
そう言って、右手で器用に俺の左手をとったアロンは、薬指に指輪をつけてくる。
「……あれ? サイズ合わないですね」
だから、何度もそう言っているだろ。人の話を聞かないアロンは、首を捻ると「まぁいいです」と、雑に指輪を握らせてくる。
「それ。ルイス様が持っていてください」
「猫につけていい?」
「それはちょっと」
なんでだよ。オシャレ猫にしたいのに。
困ったように眉尻を下げたアロンは、俺の目を覗き込む。
「俺、ルイス様のこと好きですよ」
「……うん」
まただ。また好きって言った。
目を瞬く俺に構わず、アロンは「だから。それはルイス様が持っていてください」と早口になる。
手のひらに乗った指輪を、ぎゅっと握りしめる。
なんとなく気まずくて、しゃがみ込んだ俺は、綿毛ちゃんを撫でまわす。空気を読んだのか。黙っている綿毛ちゃんは、ちょっとオロオロしていた。
「じゃあ俺、片付けとかあるんで」
一方的に言い捨てたアロンは、そのまま背中を向けてしまう。振り返ることなく荷馬車の方へと駆けていくアロンを見送って、立ち上がる。
「……お土産は?」
ぼそっと呟けば、ロニーとジャンが「え?」と小さく声を漏らした。なにそのリアクション。
『坊ちゃんは、お土産の方が大事かぁ』
なぜかしみじみと分かったような口を利く綿毛ちゃんに、指輪を見せてあげる。再び猫につけてあげようとするが、綿毛ちゃんが『やめなよぉ』と止めに入る。
「なんで?」
『だってさ。それはあれだろ。あの人から坊ちゃんへのプレゼントだろ』
そうなのかな。でもクソ野郎だし。
アロンは、気軽に好きと口にする。俺のことが好きだと言った口で、女の子のナンパに失敗したと平気で笑うような奴である。今だってそうだ。
俺のことが好きと言いつつ、すんげぇ好みの女の子の話をしてくる。俺はどういう反応をすればいいんだよ。
「アロンはね、よくわかんないや」
ね? とロニーを振り返れば、彼は困ったように唸ってしまった。
お出迎えも済んだので、屋敷に戻る。オーガス兄様は、クレイグ団長と話し込んでいたので、庭に置いてきた。
ユリスの部屋を訪ねれば、「どうでした?」とタイラーが前のめりに訊いてくる。
「アロン、元気だったよ」
「結局なんだったんですか?」
首を捻るタイラーに、ロニーが説明してあげている。くだらない理由だと知ったタイラーは、「うわぁ」と露骨にひいていた。だよね。
「これ。アロンにもらっちゃった」
指輪を見せれば、タイラーが怪訝な顔になる。預かっていたのでは? と不思議そうだ。
「どうすればいいと思う?」
猫の首輪につけるのはダメらしい。だが、俺には大きいしな。となると、使い道がない。また戸棚の奥にでも隠しておこうか。
「僕のはどうなった」
話に割り込んでくるユリスは、お土産のことを言っているらしかった。お土産は、俺もまだもらえていない。出発前、ユリスは魔法に関する何か珍しい物を持ち帰ってこいとおねだりしていた。
取りに行くと立ち上がるユリスは、どうやらブルース兄様の部屋に突撃するつもりだ。こいつは魔法云々が絡むと、途端に積極的になる。
「ブルース兄様、今お疲れだよ」
「なぜ」
「帰ってきたばっかりだから」
「そんなの。なぜ僕がブルースに気を遣わないといけないんだ」
意味がわからないと突っぱねるユリスは、そのまま部屋を出て行ってしまう。
『お兄さんが一気に疲れたのって、オレが原因かなぁ』
ぼんやり呟いた綿毛ちゃんに、「さぁ?」と首を捻っておいた。
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