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12歳

304 変な犬

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『……ちっさ。なにこいつ、ガキじゃん。嘘だろ』
「喋る犬だ。新しいペットにする」

 白猫エリスちゃんを地面におろして、代わりに灰色もふもふを掴んで引き寄せる。前回捕まえた黒猫ユリスに続いて、二匹目の喋る動物だ。この屋敷の庭、変な動物がたくさんいるな。さすが異世界。

『おい。坊ちゃん。いくつだい?』
白髪しらが犬」
『誰が白髪じゃい。この美しい銀色の毛並みを見て、よくそんなことが言えるな』

 お喋りな犬は、ひとりでずっと喋っている。

 遠慮なく毛をわさわさしていれば、頭になんかついていることに気が付いた。毛に埋もれていて目立たないが、なんか角っぽいものがある。毛を掻き分けて掴んでみるが、とれそうにない。

「角が生えている。変な犬だな」
『坊ちゃん。オレが言うのもなんだが、角が生えてんなら、犬ではないと考えるべきではないかね?』
「変な犬」
『人の話聞かねぇな、この坊ちゃん』

 オレは犬じゃねぇよ、と吐き捨てる犬を抱っこして、周囲を見まわす。ロニーとジャンの姿は見えない。

 この変な犬を、どうするべきか。

 黒猫ユリスを拾った時のことを思い出す。あの時は、捨ててこいとブルース兄様がうるさかった。黒猫ユリスをペットにするのに、すごく苦労した。

「犬。ここにいたら、捨てられるぞ」
『マジで? やべぇな』

 軽口を叩く犬をぎゅっと抱きしめて、白猫エリスちゃんを振り返る。この犬を、守ってあげなければならない。

「行くぞ! 猫」

 猫がついてくることを確認しながら、庭をどんどん進んでいく。

『え、なにこれ。オレどこに連れて行かれるの? 坊ちゃん?』

 ずっと喋っている犬を逃さないようにして、駆け込んだのは温室である。冬場はよく、黒猫ユリスがここで寝ていた。今は夏だが、ここは鍵もついているし、犬も逃げられないだろう。

「犬。ここに住んでもいいぞ」
『お、おう。急な寝床紹介どうも』

 地面におろしてやれば、犬は困ったように温室を見まわしている。

『いやあの。オレは別に住処に困っているわけでは』
「でも、庭をうろうろしてると、捨てられるよ」
『その捨てられるってなに。坊ちゃんちは、庭への野生動物の侵入も許さないタイプのおうちなの? もっと大目に見てよぉ。毛玉一匹くらい許してよぉ』

 頼むよぉ、とふわふわの尻尾を振る犬を残して、猫と一緒に温室を出る。そうしてドアを閉めて鍵の掛け方に悩んでいれば、中から『ちょい待ち!』と、大声が聞こえてきた。俺、温室の鍵持ってないや。

『え、なにこれ? 虐待では? こんなか弱い毛玉を閉じ込めるとか正気かね、坊ちゃん』
「ご飯は自分で探すんだぞ」
『鬼畜。もうちょい優しくしてよ』

 ガシガシとドアを引っ掻く犬。温室から出せとアピールしてくるが、庭に放しておくと兄様たちに捨てられてしまう。

「捨てられたくなければ、我慢しろ」
『だから捨てられるってなに。怖いよ、この家。こんなのってあんまりだよぉ』

 シクシクと、ドア越しに悲しいアピールしてくる犬。姿は見えないが、なんか可哀想になってきた。

「……犬。大人しくできるか」
『! できるよ! オレめっちゃおとなしいよ。初心者にも飼いやすいって評判だよぉ』

 後半、適当なことをぶっ込んでくるが、話は通じるし、問題ないかもしれない。おまけに、今は真っ先に反対してきそうなブルース兄様がいない。しれっと飼い始めるチャンスかもしれない。

 そこまで考えて、ドアを開けてやる。きらきらと目を輝かせた犬が、勢いよく飛び出してくる。

「犬の声って、誰にでも聞こえるの?」
『おうよ。オレは賢いからな。犬じゃねぇし』

 ふーん。
 任せろと胸を張る犬に、猫をいじめるなよと念押ししておく。あと、喋るんじゃないぞと口を酸っぱくして注意しておく。喋れることがバレたら、ロニーが捨ててきなさいって言うかもしれないから。

 ところでこの犬、なんで喋るんだろうか。
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