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12歳

303 指輪の活用

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 暇すぎて。

 部屋の戸棚を片っ端から開け放っていく。「散らかしたらダメですよ」と、ロニーが困った顔をしているが、だって暇なんだもん。

 ユリスが帰ってきて、ちょっとは屋敷が賑やかになったが、あいつは基本的に俺とは遊んでくれない。オーガス兄様も、エリックに押し付けられたという仕事が忙しいらしく、最近は相手をしてくれない。ブルース兄様もまだ帰ってこない。

 暇で仕方がなかった。

 棚の中の物を、とりあえず全部ひっくり返しておく。ジャンが無言で片付けていく。ロニーが眉を寄せる。その繰り返しである。

「ルイス様。散らかしてはいけませんよ」
「わかってる」

 何度も口にするロニーに、適当に返事をしておく。俺だって、それくらい知っている。あとでちゃんと片付けをするつもりなのだが、その前にジャンが全部片付けてしまうのだ。

 そうして満足するまで部屋を散らかしてみれば、戸棚の奥から、指輪が出てきた。細身のシルバー。アロンに預かっておいてと頼まれたものだ。

 気まぐれで、指にはめてみる。どうやらアロンの物というのは本当らしく、俺には大きい。ピッタリはまってくれない指輪を外して、眺めてみる。結構良さそうな代物だが、よく見ると細かい傷が入っている。たぶん、アロンが使っていたからだろう。

 お気に入りと言っていたし、そんな大事な物を、なんで俺に預けたんだろうか。

「その指輪。どうしたんですか?」
「アロンが俺に預けて行った」

 ほら、とロニーに差し出すが、彼は手に取ろうとはしない。

「それは、大事なものなのでは?」
「うん。アロンもそう言ってた」

 なんでそんな物を、俺に預けたのか。大事物ならば、きちんと自分で保管しておけばいいのに。

 再び戸棚に隠そうとして、視界に入った猫。俺の邪魔をするように、うろうろしている白猫の首には、オシャレな首輪がある。そういえば、これもアロンにもらったものである。

 首輪と、指輪を見比べる。

「見て。ロニー」
「いいですね」
「でしょ」

 へへっと笑って自慢すれば、ロニーが褒めてくれる。

 エリスちゃんの首輪に、指輪をはめてみた。なんかいい感じである。オシャレでいいと思う。これならなくす心配もない。

「見て! ユリス」
「……アロンが見たら、泣くんじゃないか?」
「なんで?」

 オシャレ猫を自慢しようと、ユリスの部屋に突入する。指輪の件と合わせて説明すれば、ユリスは意味不明な感想をこぼす。

「うわぁ。可哀想」

 タイラーも、勝手にアロンを憐れんでいる。「すごいですね! 可愛いですね!」的な反応を期待していた俺は、拍子抜けする。なにが可哀想なんだ。

「可愛いよな、猫」
「にゃー」

 猫に問いかければ、嬉しそうな鳴き声が返ってくる。猫も喜んでくれて、アロンも本望だと思う。

 けれども、タイラーは「それきっと、ルイス様につけてほしかったんですよ」と言ってくる。そんなこと言われても。俺には大きいもん。

 オシャレ猫に進化したので、早速庭を散歩に行こうと思う。白猫を抱っこして、ユリスも誘うがお断りされてしまった。

「少しは外で遊んだ方がいいよ」
「余計なお世話だ」

 つんっと、そっぽを向くユリスは放っておいて、外に出る。庭に猫を置いてみれば、白猫は楽しそうに走りまわる。それを見て、俺もテンションが上がる。わーっと手を挙げて駆け出す。

 ジャンが慌てて追いかけてくるが、ロニーはにこにこと微笑んでいる。庭だからな。そんなに危険はない。森や噴水にさえ近付かなければ、最近は庭を好きに歩いても、ロニーは文句を言わない。

 だからバタバタと好きに猫を追いまわしていれば、そのうちジャンとロニーの姿が見えなくなる。そのうち追いつくと思うので、気にしない。

「猫は今日も可愛いなぁ」

 上機嫌に猫と並んで歩いていた時である。

 ガサッ。

 なにやら音がした。咄嗟に足を止めて、音がしたあたりを凝視する。色とりどりの花が咲く花壇。その一部が、ガサガサと揺れている。

「猫」

 絶対になにかいる。急いで猫を抱き上げて、そろそろと距離をとる。

 ロニーとジャンは、まだこない。緊張が走る中、猫を抱き締める腕に、力がこもる。

 ガサガサと。再び花壇から音がした次の瞬間。

 なんか灰色のものが、眼前に飛び出してきた。

『おまえが犯人だなぁ!』

 ぽてっと、俺の足元に落下した灰色は、すごくもふもふしている。白猫エリスちゃんと、同じくらいの大きさ。ピンと立った耳。短い手足。

「……喋る犬だ」

 なんてこった。
 今度は、喋る犬をゲットしてしまった。
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