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12歳
291 お留守番
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バイバイと、背伸びしてから大きく手を振る。長旅へと出発するブルース兄様たちを見送るのは、結構寂しい。ちらりと振り返ったブルース兄様が、軽く手をあげてくれた。
マジでほとんど手ぶらで出かけて行ったアロンは、すごい。クレイグ団長には睨まれていたけれども。
結局、アロンに押し付けられた指輪は、部屋の戸棚の奥に押し込んである。なんかフラグっぽいから、お預かりはお断りしようと思ったのだが、アロンがしつこかったのだ。渋々受け取ったはいいが、なんか走りまわっているうちに、普通になくしてしまいそうだったので、早々に安全なところへ隠しておいた。
兄様たちが不在の間、俺は留守を任されている。オーガス兄様は頼りにならないからな。一緒にお見送りしていたセドリックも、なんだかもうやる気のない表情だ。まぁ、彼がやる気満々のところなんて見たことないけど。
「セドリック!」
「はい」
「お留守番頑張ろうね!」
「はぁ、そうですね」
小さく頷いたセドリックは、それきり会話を打ち切ってしまう。仕方がなく、ロニーの方を振り返る。頑張ろうねと声をかければ、彼は「はい。頑張りましょうね」と優しく答えてくれる。やっぱりロニーは優しい。無関心なセドリックとは大違いだ。
そうしてロニーとにこにこしていれば、つまらなそうに、遠ざかる一行を眺めていたユリスが、ポケットに突っ込んでいた手を抜いた。ふわぁっと欠伸をした彼は、緩く俺のことを振り返る。
「じゃあ、僕もそろそろ行く」
「どこに?」
そろそろ行くってなに。目を丸くする俺に、ユリスは大袈裟に肩をすくめてみせる。なんだその仕方がないな的な態度は。
「せっかくだから、僕も出かけてくる」
「俺も行く」
「ダメに決まっているだろ」
なんでだよ。
それにしても、引きこもりユリスがお出かけなんて珍しい。一体どこへ行くというのか。俺も行きたいと騒いでやるが、ユリスは取りあってくれない。
俺も連れていけと、ユリスのまわりをぐるぐるしてやるが、彼は鼻で笑うだけである。そうこうしているうちに、タイラーがやって来た。姿が見えないな、とは思っていたが、どうやらお出かけ準備をしていたらしい。
馬車と数人の騎士を連れている。これは近場のお出かけではない気がする。ちょっとお散歩みたいな感じではない。本格的なお出かけだ。
「どこ行くの!?」
「デニーのところだ。しばらく泊まってくる」
大声でユリスの前にまわり込めば、彼はようやく行き先を教えてくれた。デニスの家にお泊まりに行くらしい。なにそれ。友達の家にお泊まりってことだ。すごく楽しそう。
「俺も行く!」
デニスの家には、行ったことがない。行きたいと手をあげるが、ユリスは俺を睨みつけてくる。そして、ものすごく冷たい声で、ピシャリと言い放った。
「空気を読め」
「空気……?」
なにその要求。ぴしりと固まる俺に、ユリスは半眼となってしまう。そのままマジでお出かけしてしまいそうな彼を、慌てて引きとめる。
「待って! 俺も行きたい!」
「だからおまえに教えるのは嫌だったんだ」
どうやら、俺も一緒に行くと騒ぐことを見越して、お出かけの件は直前まで秘密にしていたらしい。なんて嫌なお子様だ。自分だけずるい。グルになって黙っていたタイラーもひどい。
嫌だ行きたいとその場で飛び跳ねるが、ユリスは冷たい目だ。タイラーに目をやるが、彼は小首を傾げるだけでどうにもしてくれない。
誰も俺の味方をしてくれない。しゅんと、肩を落とす俺の横に、ロニーが屈んでくれる。
「ルイス様は、私たちとお留守番しましょうね」
「……うん」
ロニーがちょっと困ったように眉尻を下げるものだから。うんと頷いておく。彼に迷惑をかけるわけにはいかない。
でも空気を読めってどういう意味だろうか。
要するにユリスは、デニスと会うのに俺を連れて行きたくないのだ。ふたりで遊びたいってことだ。確かに、俺はデニスにちょっと嫌われているが。
それにしても、遊びに行くのをお断りされるほどではないはずだ。
デニスの可愛い顔を頭に浮かべながら考え込む俺であったが、ひとつの可能性を思いついてしまった。
ハッと口元を押さえる俺。
「……もしかして。デニスとお付き合いしてるの?」
おそるおそる質問すれば、それまで冷たく俺を睨みつけていたユリスが、ニヤリと口角を持ち上げた。
「さあ? どうだろうな」
「どっちなの!?」
一転して楽しそうに、にやにや笑うユリスは、そのまま馬車に乗り込んでしまう。どうやらブルース兄様たちを見送って、そのまま俺に文句を言わせる時間を作らずに、さっさと出発する計画だったらしい。
「屋敷のことは頼んだぞ。期待はしていないが」
小馬鹿にするように肩をすくめたユリスに続いて、タイラーも馬へと駆け寄っていく。
「というわけで、俺もちょっと行ってきますけど。いいですか、ルイス様。ちゃんと先輩の言うこときいて大人しくしててくださいね」
「俺がロニーの面倒みるの!」
「はいはい。じゃあ、お任せします」
適当にあしらってくるタイラーは酷い。誰がなんと言おうが、今日から俺がブルース兄様に代わり、この屋敷を守るのだ。
※※※
「ユリスがさ。デニスのとこ行った」
「うん。遊びに行くんでしょ? ルイスは? 置いて行かれたの?」
「うん。置いて行かれたの」
早速、オーガス兄様の部屋に報告へと訪れる。
どうやら兄様は、ユリスお出かけの件を知っていたらしい。俺だけが知らされていなかったようだ。酷すぎる。
「あのさ。ユリスって、デニスと付き合ってるの?」
「え、そうなの?」
俺が訊いているんだけど。
首を捻る兄様は、恋愛関係についてはマジで疎い。頼りにならない。
しかし、ユリスはどちらかと言えばデニスのことが嫌いなのだと思っていた。黒猫時代には、俺に対してデニスをどうにかするよう強く言っていた。デニスに「結婚して!」と迫られても、俺を盾にして追い返そうと頑張っていたことは記憶に新しい。
だが、ここ最近。ふたりがよく遊んでいたことも事実だ。
もっぱらデニスがうちにやって来て、ユリスにすり寄っている。可愛い顔して「次はいつ会える?」と、ユリスに問いかけている場面を何度か見かけたことがあった。
俺がふたりの所へ行っても、デニスが「お子様はあっちに行って!」と俺のことを邪険に扱う。それに対して、ユリスはなにも言わない。
そうか。そうなのか。
「ユリスは、デニスと仲良くなったから。俺とは遊んでくれなくなるのかな」
「今もたいして遊んでくれてないじゃん」
それはそうだけど。
でも、たまには遊んでくれる。むしろ嫌がるユリスを気にせず、俺が一方的に彼と一緒に遊ぶことも多い。でも、そこにデニスが入ると、途端に俺は仲間外れになってしまう。
「俺と遊んでくれる人が居なくなってしまう」
ティアンもいないしな。マジで遊び相手がいなくなる。
「別にさ。デニスも一緒に三人で遊べばよくない?」
「これだからオーガス兄様は」
「え。僕なにかおかしなこと言った?」
言った。
もし本当にあのふたりが恋人同士だったら、そこに俺が入っていくのはいくらなんでも野暮だろう。空気読めていないにも程がある。
「……」
そういえばユリス。俺に対して空気読めと言ったな。これはつまりあれだ。もう決定だ。恋人同士の時間に、無関係の俺が首を突っ込んでくるなと言いたかったのだろう。
はぁっと、ため息がこぼれる。オーガス兄様が心配そうにしているが、どうにも気分が沈んで仕方がない。
時間が経てば色々変わるということは、頭では理解している。でもあんまり一度に色々変わってしまうと、ついていけなくなってしまう。
「オーガス兄様はさ、変わんないでね」
「うん?」
「そのまま弱虫で、でもプライド高い器の小さい兄様でいてね」
「なにその突然の侮辱」
弟が酷いこと言う、とめそめそ泣いてしまうオーガス兄様を見て、なんだか無性にホッとしてしまったのだ。
マジでほとんど手ぶらで出かけて行ったアロンは、すごい。クレイグ団長には睨まれていたけれども。
結局、アロンに押し付けられた指輪は、部屋の戸棚の奥に押し込んである。なんかフラグっぽいから、お預かりはお断りしようと思ったのだが、アロンがしつこかったのだ。渋々受け取ったはいいが、なんか走りまわっているうちに、普通になくしてしまいそうだったので、早々に安全なところへ隠しておいた。
兄様たちが不在の間、俺は留守を任されている。オーガス兄様は頼りにならないからな。一緒にお見送りしていたセドリックも、なんだかもうやる気のない表情だ。まぁ、彼がやる気満々のところなんて見たことないけど。
「セドリック!」
「はい」
「お留守番頑張ろうね!」
「はぁ、そうですね」
小さく頷いたセドリックは、それきり会話を打ち切ってしまう。仕方がなく、ロニーの方を振り返る。頑張ろうねと声をかければ、彼は「はい。頑張りましょうね」と優しく答えてくれる。やっぱりロニーは優しい。無関心なセドリックとは大違いだ。
そうしてロニーとにこにこしていれば、つまらなそうに、遠ざかる一行を眺めていたユリスが、ポケットに突っ込んでいた手を抜いた。ふわぁっと欠伸をした彼は、緩く俺のことを振り返る。
「じゃあ、僕もそろそろ行く」
「どこに?」
そろそろ行くってなに。目を丸くする俺に、ユリスは大袈裟に肩をすくめてみせる。なんだその仕方がないな的な態度は。
「せっかくだから、僕も出かけてくる」
「俺も行く」
「ダメに決まっているだろ」
なんでだよ。
それにしても、引きこもりユリスがお出かけなんて珍しい。一体どこへ行くというのか。俺も行きたいと騒いでやるが、ユリスは取りあってくれない。
俺も連れていけと、ユリスのまわりをぐるぐるしてやるが、彼は鼻で笑うだけである。そうこうしているうちに、タイラーがやって来た。姿が見えないな、とは思っていたが、どうやらお出かけ準備をしていたらしい。
馬車と数人の騎士を連れている。これは近場のお出かけではない気がする。ちょっとお散歩みたいな感じではない。本格的なお出かけだ。
「どこ行くの!?」
「デニーのところだ。しばらく泊まってくる」
大声でユリスの前にまわり込めば、彼はようやく行き先を教えてくれた。デニスの家にお泊まりに行くらしい。なにそれ。友達の家にお泊まりってことだ。すごく楽しそう。
「俺も行く!」
デニスの家には、行ったことがない。行きたいと手をあげるが、ユリスは俺を睨みつけてくる。そして、ものすごく冷たい声で、ピシャリと言い放った。
「空気を読め」
「空気……?」
なにその要求。ぴしりと固まる俺に、ユリスは半眼となってしまう。そのままマジでお出かけしてしまいそうな彼を、慌てて引きとめる。
「待って! 俺も行きたい!」
「だからおまえに教えるのは嫌だったんだ」
どうやら、俺も一緒に行くと騒ぐことを見越して、お出かけの件は直前まで秘密にしていたらしい。なんて嫌なお子様だ。自分だけずるい。グルになって黙っていたタイラーもひどい。
嫌だ行きたいとその場で飛び跳ねるが、ユリスは冷たい目だ。タイラーに目をやるが、彼は小首を傾げるだけでどうにもしてくれない。
誰も俺の味方をしてくれない。しゅんと、肩を落とす俺の横に、ロニーが屈んでくれる。
「ルイス様は、私たちとお留守番しましょうね」
「……うん」
ロニーがちょっと困ったように眉尻を下げるものだから。うんと頷いておく。彼に迷惑をかけるわけにはいかない。
でも空気を読めってどういう意味だろうか。
要するにユリスは、デニスと会うのに俺を連れて行きたくないのだ。ふたりで遊びたいってことだ。確かに、俺はデニスにちょっと嫌われているが。
それにしても、遊びに行くのをお断りされるほどではないはずだ。
デニスの可愛い顔を頭に浮かべながら考え込む俺であったが、ひとつの可能性を思いついてしまった。
ハッと口元を押さえる俺。
「……もしかして。デニスとお付き合いしてるの?」
おそるおそる質問すれば、それまで冷たく俺を睨みつけていたユリスが、ニヤリと口角を持ち上げた。
「さあ? どうだろうな」
「どっちなの!?」
一転して楽しそうに、にやにや笑うユリスは、そのまま馬車に乗り込んでしまう。どうやらブルース兄様たちを見送って、そのまま俺に文句を言わせる時間を作らずに、さっさと出発する計画だったらしい。
「屋敷のことは頼んだぞ。期待はしていないが」
小馬鹿にするように肩をすくめたユリスに続いて、タイラーも馬へと駆け寄っていく。
「というわけで、俺もちょっと行ってきますけど。いいですか、ルイス様。ちゃんと先輩の言うこときいて大人しくしててくださいね」
「俺がロニーの面倒みるの!」
「はいはい。じゃあ、お任せします」
適当にあしらってくるタイラーは酷い。誰がなんと言おうが、今日から俺がブルース兄様に代わり、この屋敷を守るのだ。
※※※
「ユリスがさ。デニスのとこ行った」
「うん。遊びに行くんでしょ? ルイスは? 置いて行かれたの?」
「うん。置いて行かれたの」
早速、オーガス兄様の部屋に報告へと訪れる。
どうやら兄様は、ユリスお出かけの件を知っていたらしい。俺だけが知らされていなかったようだ。酷すぎる。
「あのさ。ユリスって、デニスと付き合ってるの?」
「え、そうなの?」
俺が訊いているんだけど。
首を捻る兄様は、恋愛関係についてはマジで疎い。頼りにならない。
しかし、ユリスはどちらかと言えばデニスのことが嫌いなのだと思っていた。黒猫時代には、俺に対してデニスをどうにかするよう強く言っていた。デニスに「結婚して!」と迫られても、俺を盾にして追い返そうと頑張っていたことは記憶に新しい。
だが、ここ最近。ふたりがよく遊んでいたことも事実だ。
もっぱらデニスがうちにやって来て、ユリスにすり寄っている。可愛い顔して「次はいつ会える?」と、ユリスに問いかけている場面を何度か見かけたことがあった。
俺がふたりの所へ行っても、デニスが「お子様はあっちに行って!」と俺のことを邪険に扱う。それに対して、ユリスはなにも言わない。
そうか。そうなのか。
「ユリスは、デニスと仲良くなったから。俺とは遊んでくれなくなるのかな」
「今もたいして遊んでくれてないじゃん」
それはそうだけど。
でも、たまには遊んでくれる。むしろ嫌がるユリスを気にせず、俺が一方的に彼と一緒に遊ぶことも多い。でも、そこにデニスが入ると、途端に俺は仲間外れになってしまう。
「俺と遊んでくれる人が居なくなってしまう」
ティアンもいないしな。マジで遊び相手がいなくなる。
「別にさ。デニスも一緒に三人で遊べばよくない?」
「これだからオーガス兄様は」
「え。僕なにかおかしなこと言った?」
言った。
もし本当にあのふたりが恋人同士だったら、そこに俺が入っていくのはいくらなんでも野暮だろう。空気読めていないにも程がある。
「……」
そういえばユリス。俺に対して空気読めと言ったな。これはつまりあれだ。もう決定だ。恋人同士の時間に、無関係の俺が首を突っ込んでくるなと言いたかったのだろう。
はぁっと、ため息がこぼれる。オーガス兄様が心配そうにしているが、どうにも気分が沈んで仕方がない。
時間が経てば色々変わるということは、頭では理解している。でもあんまり一度に色々変わってしまうと、ついていけなくなってしまう。
「オーガス兄様はさ、変わんないでね」
「うん?」
「そのまま弱虫で、でもプライド高い器の小さい兄様でいてね」
「なにその突然の侮辱」
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