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11歳
277 謎の謝罪
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湖を目指して、ひたすら森の中を歩く。
やる気なさそうに歩くアロンとは対照的に、ラッセルは俺のことをガン見してくる。どうやら少しでも目を離すと、俺が迷子になると思っているらしい。失礼な。
初めは白猫を抱えて歩いていたのだが、途中で重たくなって手を離したところ、ジャンが慌てて捕まえに行っていた。というわけで今、白猫エリスちゃんはジャンの腕の中である。
ここが立ち入り禁止だと知っているジャンは、ひとりオロオロしている。けれども、アロンを止めることはできないらしく、黙ってついてきている。
途中で面白そうな脇道に逸れようとする度に、ラッセルが邪魔してくる。森の中に湖があることは知っているが、その他に何があるのかは知らない。一度隅々まで探検してみたいところだが、ブルース兄様が許可してくれないのだ。向こうにユリスが居るかもしれないと適当言って道を外れようとするのだが、ラッセルは反対してくる。
「まずはその湖とやらを確認しましょう。それで見つからなければ、森の中も大規模に捜索する必要がありますね」
でもその捜索は騎士たちで行うから、俺は参加してはいけないと言ってくる。俺まで行方不明になられては堪らないと、ラッセルは苦い顔だ。
そんなこんなで最終的には、ラッセルと手を繋ぐ羽目になった。はぐれるといけないので、と微笑むラッセルは、俺のことをこれっぽっちも信用していなかった。アロンがすごい目で、ラッセルを睨んでいる。もしかして羨ましいのか?
「アロンも手繋ぐ?」
「もちろんです」
即答したアロンに、あいている右手を差し出す。
それを受けて、なぜかラッセルが手を離そうとしてきたので、反射的にぎゅっと握っておく。
「なんで離そうとするの」
「え、いや。アロン殿が繋ぐのであれば、私は必要ないかと」
「俺と手繋げて嬉しいだろ。こんな美少年と」
「美少年」
真顔で繰り返したラッセルは、なぜか困惑気味にフリーズしてしまう。どういうことだよ。
「……もしかして、嬉しくない?」
「そんなこと! とても嬉しいです! 光栄です」
瞬時に切り替えたラッセルは、敬礼でもしそうな勢いで「ありがとうございます!」と頭を下げる。すごく忖度されている。俺でもわかる。
ジトッと見上げていると、アロンに手を引かれた。つられて顔を向ければ、ムスッと不機嫌アロンがいた。
「なに、アロン」
「ルイス様は俺のことだけ見ていてくださいよ」
「無茶言うな」
なんでアロンを凝視しながら森を歩かないといけないのだ。足元確認しないと危ないだろ。ちゃんと前見て歩いてと注意するが、アロンは半眼となってしまう。なんだその顔は。
「ルイス様って、ちょっと鈍いですよね」
「ありがと」
「褒めてはないです」
「じゃあ悪口か! なんて奴だ! 俺に謝れ!」
「勢いがすごい」
すごいすごいと褒めてくるアロンに、胸を張る。褒められて悪い気はしない。「だから褒めてはないです」と繋いだ手を振り回してくるアロンは、とても大人気ない。
しかし楽しくなった俺は、ラッセルと繋いだ左手もぶんぶん振り回しておく。ラッセルが、すごく困惑していた。
「あの猫ね、食いしん坊なの。名前呼ぶとおやつもらえると思ってずっと鳴くんだよ」
ジャンの抱える白猫に目をやって、だから迂闊にエリスちゃん呼びできないと教えてあげれば、ラッセルが「申し訳ありません」と真面目な顔で謎の謝罪をしてくる。なに? ラッセルって猫側の人なの? どういうこと?
俺としては猫の可愛いエピソードを披露したつもりなのに、突然のガチ謝罪に面食らってしまう。
どうやら、白猫を持ってきた張本人として責任を感じているらしい。どこで責任感じているんだ。意味不明なことはやめて欲しい。
けれども、これにアロンが全力で食いついた。
「ルイス様に謝罪してください」
「やめなよ、アロン」
ここぞとばかりにラッセルを責め立てるアロンは、表情が輝いていた。こんな時だけ楽しそうである。
やる気なさそうに歩くアロンとは対照的に、ラッセルは俺のことをガン見してくる。どうやら少しでも目を離すと、俺が迷子になると思っているらしい。失礼な。
初めは白猫を抱えて歩いていたのだが、途中で重たくなって手を離したところ、ジャンが慌てて捕まえに行っていた。というわけで今、白猫エリスちゃんはジャンの腕の中である。
ここが立ち入り禁止だと知っているジャンは、ひとりオロオロしている。けれども、アロンを止めることはできないらしく、黙ってついてきている。
途中で面白そうな脇道に逸れようとする度に、ラッセルが邪魔してくる。森の中に湖があることは知っているが、その他に何があるのかは知らない。一度隅々まで探検してみたいところだが、ブルース兄様が許可してくれないのだ。向こうにユリスが居るかもしれないと適当言って道を外れようとするのだが、ラッセルは反対してくる。
「まずはその湖とやらを確認しましょう。それで見つからなければ、森の中も大規模に捜索する必要がありますね」
でもその捜索は騎士たちで行うから、俺は参加してはいけないと言ってくる。俺まで行方不明になられては堪らないと、ラッセルは苦い顔だ。
そんなこんなで最終的には、ラッセルと手を繋ぐ羽目になった。はぐれるといけないので、と微笑むラッセルは、俺のことをこれっぽっちも信用していなかった。アロンがすごい目で、ラッセルを睨んでいる。もしかして羨ましいのか?
「アロンも手繋ぐ?」
「もちろんです」
即答したアロンに、あいている右手を差し出す。
それを受けて、なぜかラッセルが手を離そうとしてきたので、反射的にぎゅっと握っておく。
「なんで離そうとするの」
「え、いや。アロン殿が繋ぐのであれば、私は必要ないかと」
「俺と手繋げて嬉しいだろ。こんな美少年と」
「美少年」
真顔で繰り返したラッセルは、なぜか困惑気味にフリーズしてしまう。どういうことだよ。
「……もしかして、嬉しくない?」
「そんなこと! とても嬉しいです! 光栄です」
瞬時に切り替えたラッセルは、敬礼でもしそうな勢いで「ありがとうございます!」と頭を下げる。すごく忖度されている。俺でもわかる。
ジトッと見上げていると、アロンに手を引かれた。つられて顔を向ければ、ムスッと不機嫌アロンがいた。
「なに、アロン」
「ルイス様は俺のことだけ見ていてくださいよ」
「無茶言うな」
なんでアロンを凝視しながら森を歩かないといけないのだ。足元確認しないと危ないだろ。ちゃんと前見て歩いてと注意するが、アロンは半眼となってしまう。なんだその顔は。
「ルイス様って、ちょっと鈍いですよね」
「ありがと」
「褒めてはないです」
「じゃあ悪口か! なんて奴だ! 俺に謝れ!」
「勢いがすごい」
すごいすごいと褒めてくるアロンに、胸を張る。褒められて悪い気はしない。「だから褒めてはないです」と繋いだ手を振り回してくるアロンは、とても大人気ない。
しかし楽しくなった俺は、ラッセルと繋いだ左手もぶんぶん振り回しておく。ラッセルが、すごく困惑していた。
「あの猫ね、食いしん坊なの。名前呼ぶとおやつもらえると思ってずっと鳴くんだよ」
ジャンの抱える白猫に目をやって、だから迂闊にエリスちゃん呼びできないと教えてあげれば、ラッセルが「申し訳ありません」と真面目な顔で謎の謝罪をしてくる。なに? ラッセルって猫側の人なの? どういうこと?
俺としては猫の可愛いエピソードを披露したつもりなのに、突然のガチ謝罪に面食らってしまう。
どうやら、白猫を持ってきた張本人として責任を感じているらしい。どこで責任感じているんだ。意味不明なことはやめて欲しい。
けれども、これにアロンが全力で食いついた。
「ルイス様に謝罪してください」
「やめなよ、アロン」
ここぞとばかりにラッセルを責め立てるアロンは、表情が輝いていた。こんな時だけ楽しそうである。
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