290 / 660
11歳
277 謎の謝罪
しおりを挟む
湖を目指して、ひたすら森の中を歩く。
やる気なさそうに歩くアロンとは対照的に、ラッセルは俺のことをガン見してくる。どうやら少しでも目を離すと、俺が迷子になると思っているらしい。失礼な。
初めは白猫を抱えて歩いていたのだが、途中で重たくなって手を離したところ、ジャンが慌てて捕まえに行っていた。というわけで今、白猫エリスちゃんはジャンの腕の中である。
ここが立ち入り禁止だと知っているジャンは、ひとりオロオロしている。けれども、アロンを止めることはできないらしく、黙ってついてきている。
途中で面白そうな脇道に逸れようとする度に、ラッセルが邪魔してくる。森の中に湖があることは知っているが、その他に何があるのかは知らない。一度隅々まで探検してみたいところだが、ブルース兄様が許可してくれないのだ。向こうにユリスが居るかもしれないと適当言って道を外れようとするのだが、ラッセルは反対してくる。
「まずはその湖とやらを確認しましょう。それで見つからなければ、森の中も大規模に捜索する必要がありますね」
でもその捜索は騎士たちで行うから、俺は参加してはいけないと言ってくる。俺まで行方不明になられては堪らないと、ラッセルは苦い顔だ。
そんなこんなで最終的には、ラッセルと手を繋ぐ羽目になった。はぐれるといけないので、と微笑むラッセルは、俺のことをこれっぽっちも信用していなかった。アロンがすごい目で、ラッセルを睨んでいる。もしかして羨ましいのか?
「アロンも手繋ぐ?」
「もちろんです」
即答したアロンに、あいている右手を差し出す。
それを受けて、なぜかラッセルが手を離そうとしてきたので、反射的にぎゅっと握っておく。
「なんで離そうとするの」
「え、いや。アロン殿が繋ぐのであれば、私は必要ないかと」
「俺と手繋げて嬉しいだろ。こんな美少年と」
「美少年」
真顔で繰り返したラッセルは、なぜか困惑気味にフリーズしてしまう。どういうことだよ。
「……もしかして、嬉しくない?」
「そんなこと! とても嬉しいです! 光栄です」
瞬時に切り替えたラッセルは、敬礼でもしそうな勢いで「ありがとうございます!」と頭を下げる。すごく忖度されている。俺でもわかる。
ジトッと見上げていると、アロンに手を引かれた。つられて顔を向ければ、ムスッと不機嫌アロンがいた。
「なに、アロン」
「ルイス様は俺のことだけ見ていてくださいよ」
「無茶言うな」
なんでアロンを凝視しながら森を歩かないといけないのだ。足元確認しないと危ないだろ。ちゃんと前見て歩いてと注意するが、アロンは半眼となってしまう。なんだその顔は。
「ルイス様って、ちょっと鈍いですよね」
「ありがと」
「褒めてはないです」
「じゃあ悪口か! なんて奴だ! 俺に謝れ!」
「勢いがすごい」
すごいすごいと褒めてくるアロンに、胸を張る。褒められて悪い気はしない。「だから褒めてはないです」と繋いだ手を振り回してくるアロンは、とても大人気ない。
しかし楽しくなった俺は、ラッセルと繋いだ左手もぶんぶん振り回しておく。ラッセルが、すごく困惑していた。
「あの猫ね、食いしん坊なの。名前呼ぶとおやつもらえると思ってずっと鳴くんだよ」
ジャンの抱える白猫に目をやって、だから迂闊にエリスちゃん呼びできないと教えてあげれば、ラッセルが「申し訳ありません」と真面目な顔で謎の謝罪をしてくる。なに? ラッセルって猫側の人なの? どういうこと?
俺としては猫の可愛いエピソードを披露したつもりなのに、突然のガチ謝罪に面食らってしまう。
どうやら、白猫を持ってきた張本人として責任を感じているらしい。どこで責任感じているんだ。意味不明なことはやめて欲しい。
けれども、これにアロンが全力で食いついた。
「ルイス様に謝罪してください」
「やめなよ、アロン」
ここぞとばかりにラッセルを責め立てるアロンは、表情が輝いていた。こんな時だけ楽しそうである。
やる気なさそうに歩くアロンとは対照的に、ラッセルは俺のことをガン見してくる。どうやら少しでも目を離すと、俺が迷子になると思っているらしい。失礼な。
初めは白猫を抱えて歩いていたのだが、途中で重たくなって手を離したところ、ジャンが慌てて捕まえに行っていた。というわけで今、白猫エリスちゃんはジャンの腕の中である。
ここが立ち入り禁止だと知っているジャンは、ひとりオロオロしている。けれども、アロンを止めることはできないらしく、黙ってついてきている。
途中で面白そうな脇道に逸れようとする度に、ラッセルが邪魔してくる。森の中に湖があることは知っているが、その他に何があるのかは知らない。一度隅々まで探検してみたいところだが、ブルース兄様が許可してくれないのだ。向こうにユリスが居るかもしれないと適当言って道を外れようとするのだが、ラッセルは反対してくる。
「まずはその湖とやらを確認しましょう。それで見つからなければ、森の中も大規模に捜索する必要がありますね」
でもその捜索は騎士たちで行うから、俺は参加してはいけないと言ってくる。俺まで行方不明になられては堪らないと、ラッセルは苦い顔だ。
そんなこんなで最終的には、ラッセルと手を繋ぐ羽目になった。はぐれるといけないので、と微笑むラッセルは、俺のことをこれっぽっちも信用していなかった。アロンがすごい目で、ラッセルを睨んでいる。もしかして羨ましいのか?
「アロンも手繋ぐ?」
「もちろんです」
即答したアロンに、あいている右手を差し出す。
それを受けて、なぜかラッセルが手を離そうとしてきたので、反射的にぎゅっと握っておく。
「なんで離そうとするの」
「え、いや。アロン殿が繋ぐのであれば、私は必要ないかと」
「俺と手繋げて嬉しいだろ。こんな美少年と」
「美少年」
真顔で繰り返したラッセルは、なぜか困惑気味にフリーズしてしまう。どういうことだよ。
「……もしかして、嬉しくない?」
「そんなこと! とても嬉しいです! 光栄です」
瞬時に切り替えたラッセルは、敬礼でもしそうな勢いで「ありがとうございます!」と頭を下げる。すごく忖度されている。俺でもわかる。
ジトッと見上げていると、アロンに手を引かれた。つられて顔を向ければ、ムスッと不機嫌アロンがいた。
「なに、アロン」
「ルイス様は俺のことだけ見ていてくださいよ」
「無茶言うな」
なんでアロンを凝視しながら森を歩かないといけないのだ。足元確認しないと危ないだろ。ちゃんと前見て歩いてと注意するが、アロンは半眼となってしまう。なんだその顔は。
「ルイス様って、ちょっと鈍いですよね」
「ありがと」
「褒めてはないです」
「じゃあ悪口か! なんて奴だ! 俺に謝れ!」
「勢いがすごい」
すごいすごいと褒めてくるアロンに、胸を張る。褒められて悪い気はしない。「だから褒めてはないです」と繋いだ手を振り回してくるアロンは、とても大人気ない。
しかし楽しくなった俺は、ラッセルと繋いだ左手もぶんぶん振り回しておく。ラッセルが、すごく困惑していた。
「あの猫ね、食いしん坊なの。名前呼ぶとおやつもらえると思ってずっと鳴くんだよ」
ジャンの抱える白猫に目をやって、だから迂闊にエリスちゃん呼びできないと教えてあげれば、ラッセルが「申し訳ありません」と真面目な顔で謎の謝罪をしてくる。なに? ラッセルって猫側の人なの? どういうこと?
俺としては猫の可愛いエピソードを披露したつもりなのに、突然のガチ謝罪に面食らってしまう。
どうやら、白猫を持ってきた張本人として責任を感じているらしい。どこで責任感じているんだ。意味不明なことはやめて欲しい。
けれども、これにアロンが全力で食いついた。
「ルイス様に謝罪してください」
「やめなよ、アロン」
ここぞとばかりにラッセルを責め立てるアロンは、表情が輝いていた。こんな時だけ楽しそうである。
472
お気に入りに追加
3,172
あなたにおすすめの小説

学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……
鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。
そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。
これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。
「俺はずっと、ミルのことが好きだった」
そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。
お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ!
※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています
とある文官のひとりごと
きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。
アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。
基本コメディで、少しだけシリアス?
エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座)
ムーンライト様でも公開しております。
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま
嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした
ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!!
CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け
相手役は第11話から出てきます。
ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。
役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。
そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

顔だけが取り柄の俺、それさえもひたすら隠し通してみせる!!
彩ノ華
BL
顔だけが取り柄の俺だけど…
…平凡に暮らしたいので隠し通してみせる!!
登場人物×恋には無自覚な主人公
※溺愛
❀気ままに投稿
❀ゆるゆる更新
❀文字数が多い時もあれば少ない時もある、それが人生や。知らんけど。

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど
野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。
愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。
それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。
ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。
イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?!
□■
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
□■
第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

繋がれた絆はどこまでも
mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。
そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。
ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。
当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。
それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。
次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。
そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。
その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。
それを見たライトは、ある決意をし……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる