冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話

岩永みやび

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11歳

265 本来の目的

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 ラッセルと別れて、ようやくティアンを探しに行くことができた。

 ラッセルは隊長をやっているだけあって、騎士としても優秀らしい。騎士志望の子たちに剣術を教えて欲しいと言われて学園に来ていたようだ。本人いわく、これも二つ返事で了承したらしい。さすが忖度お兄さん。意地でも上からの頼みには応えたいらしい。

 不名誉なあだ名とは裏腹に、爽やかな顔をしていたラッセルは、別れ際に俺とユリスに対して「私の名前、覚えておいてくださると嬉しいです。なにかあったらいつでもご連絡を!」と強引に握手して去って行った。

「そういえば、ジャンとアロンは?」

 クレイグ団長は学園側への挨拶のために不在である。しかし、タイラーたちと一緒に居たはずのふたりが消えている。きょろきょろすれば、タイラーとロニーが静かに顔を見合わせている。

「ジャンは、団長のところへ。えっと、アロン殿はちょっと。どこ行ったんですかね、あの人」

 しきりに首を傾げるタイラーは、たいしてアロンのことは心配していないらしい。まぁ、アロンは大人だしな。放っておいても大丈夫だろう。

 それより今は、ティアンである。

 行き当たりばったりでティアンを探すなんて不可能では。この学園すごく広いし。だが、そこはタイラーがしっかりしていた。

 事前にティアンと連絡を取って待ち合わせ場所と時間を決めていたらしい。そういう大事なことは、はやく言えよ。てっきり無計画に乗り込んだのだと思っていた。

「俺は、ルイス様みたく勢い任せには生きていないので」
「勢いは大事だよ」

 さらっと俺を貶してくるタイラーの相手を適当に済ませて、待ち合わせ場所に向かう。どうやら俺たちに学園内を見学させるために、わざと待ち合わせのことを内緒にしていたらしい。
 俺はともかく、面倒くさがりのユリスは、事前に待ち合わせしていると知れば、時間になるまで部屋に引きこもる可能性があったからな。

 是が非でも学園を見学させたいという強い気持ちを感じる。結局は、ユリスと俺が迷子になったことで有耶無耶になってしまったけど。

 待ち合わせ場所だという一室にて。

 戻ってきたクレイグ団長は、ジャンと一緒であった。来客があった際に使用される部屋らしく、物珍し気に室内を歩きまわっていた俺を捕まえた団長は、怖い顔をしていた。

「なぜすぐに迷子になってしまうのですか」
「迷子にはなっていない。ちょっと走ってただけ」

 ねえ? とユリスに同意を求めれば「あぁ」という短い返事があった。苦い顔をする団長は、俺らから目を離したことを後悔しているようだった。

「ところで、アロンは?」
「どっか行った」
「あいつ……!」

 団長の怒りの矛先がアロンへと向かった頃。

 ようやくティアンがやって来た。久しぶりに会うティアンは、あんまり変わっていなかった。

「本当に来たんですね、ルイス様」
「久しぶりだな、ティアン!」

 俺を見るなり口元を覆ったティアンは、見慣れない制服姿であった。相変わらずの細身で色白。いつものティアンである。

 元気に挨拶をしたはいいものの、次にかけるべき言葉がなんだか見つからない。

 俺、いつもティアンとなに喋ってたっけ?

 ティアンの顔を凝視しておけば、向こうも気まずそうに視線を逸らしてくる。

「げ、元気?」
「え? あ、はい。元気ですけど。ルイス様は?」
「俺はいつも元気」
「でしょうね」

 再び、会話が途切れてしまう。

 あれ? なんか気まずいな。ぴたりと口を閉ざす俺らを、団長が怪訝な顔で見てくる。

「ユリス!」

 困った末に、ユリスに丸投げすれば、彼は眉を寄せると、渋々といった様子でティアンへと絡みに行く。

「あー、なんだ。あんまり変わらないな」
「まだ入学したばかりですからね。ユリス様もお元気そうで」

 なんだろう。この感じ。
 ティアンが居なくなった当初は、めっちゃ寂しかったはずである。今日だって会えるのを楽しみにしていた。だが、実際に会ってみるとなんだろうか。もちろん嬉しさはあるのだが、接し方がいまいちわからない。

 俺、マジでいつもティアンとなにしてたっけ?

 たいした会話はしていない気がする。くだらない、どうでもいいやり取りばかりだったはず。

 だが、今はそのどうでもいいやり取りが出てこない。それは向こうも同じらしく、口うるさかったはずのティアンが、特になにも言ってこないのは違和感がすごい。

「元気だったか、ティアン」
「だから元気ですってば。何回きくんですか」

 ふふっと笑ったティアンの顔に、なんだか無性に懐かしさが込み上げてきた。
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