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11歳
263 迷子の捜索(sideタイラー)
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ユリス様とルイス様を見失ってしまった。
え。これどうするんだ?
慌てて隣にいる先輩へと目を向ければ、先輩も先輩で困惑したように立ち尽くしている。あ、ダメだこれ。
ここに至るまでの経緯を思い出しながら、そっと頭を抱える。
クレイグ団長がちょっと抜けると言った時には、たいして危機感はなかった。それがこの始末。ダメだ。信頼して任せてもらえたのに、この惨状。団長が知ったらブチ切れることだろう。
というか、何気にアロン殿もいない。あの人は肝心な時にいつも居なくなる。とはいえ、たとえ居たとしてもさらなるトラブルを持ち込む気がするので、今は放っておこう。
「あの、どうしますか?」
先輩であるロニーさんに訊ねれば、困ったように眉尻を下げられてしまった。ルイス様は、この人のことを優しい優しいと褒めまくっているが、どうだろうか。確かにルイス様に対しては優しいが、後輩である俺に対してはすごく冷たい時がある。
少し考えた先輩は、迷うように前を指差す。
「手分けして探す? タイラーは向こうを見てきてくれる?」
「はい」
とりあえず、ここは先輩の指示に従っておこう。ジャンは顔色を悪くして、真っ先にクレイグ団長の元へと走っていった。団長への報告は彼に任せておけば大丈夫だろう。
そうして先輩とふたりして辺りを探したが、一向に姿が見えない。そもそもルイス様はじっとしておくことができない性格だ。ユリス様ひとりであれば、迷子になったらおそらくその場にとどまっておいてくれるはずである。だが、ルイス様と一緒となれば、どう行動するのか予想がつかない。
迷子になったらその場を動くなと言い聞かせているのに、ルイス様はとにかく走りまわる。おまけにここは広大な学園。見知らぬ土地にテンション上がったルイス様が、出鱈目に走りまわっている姿が容易に想像できてしまい頭が痛くなる。そしてその後ろをユリス様がついていくのだ。
ひとりであれば割と大人っぽい振る舞いをされるユリス様であるが、なぜか常日頃からルイス様に張り合っているらしく、ふたり一緒に置いておくとマジで予想外の動きをする。意味不明な言動に、こちらが何度困惑させられたことか。思い出すだけでも眉間に皺が寄ってしまう。
あ、ダメだ。はやく見つけないとなんか手遅れになりそうな気がする。
焦る俺とは対照的に、先輩は落ち着き払っているようにみえる。
その姿に少し安堵した俺は、再度「どうしますか?」と指示を仰ぐ。思案するように眉を寄せるロニー先輩は、きょろきょろと周囲を見回しては、息を吐く。
「しらみ潰しに探すしかないかな」
「ですよね」
それにしても果てしない。もっと範囲を絞って探せないか。ルイス様とユリス様が足を向けそうなところ、と考えてピンとくる。
「あの、ちょっと馬鹿なこと言ってもいいですか?」
「え? ダメ」
「いやいや、そんなこと言わずに」
先輩の方へと身を乗り出して、思い付きを提案してみる。
「ここって噴水ありましたよね? 噴水の前で張り込んでおけば、ルイス様がやって来たりしませんかね?」
「そんな、罠じゃないんだから」
乗り気ではない先輩をどうにか説得する。ルイス様の噴水への執着具合は、正直言ってどうかしている。
真冬だろうがなんだろうが、とりあえず噴水へと寄って行く。初めこそ、噴水のなにが魅力なのか真面目に考えてみたのだが答えは出ない。最近では、もはやそういう習性だと思って諦めることにしている。多分、水が好きなのだと思われる。一時期は湖にも執着していたし。
「絶対に噴水に寄ってくると思うんですよね! ルイス様なら絶対に!」
「うーん」
迷うように小首を傾げる先輩も、ルイス様の噴水への執着は理解しているはずである。
ルイス様は好きなものがはっきりとしている。噴水、猫、菓子に髪の長い男。ロニー先輩のことも、長髪だからという理由で気に入っているらしい。ということで、噴水の前に先輩を置いておけば完璧なのでは?
我ながら馬鹿な提案だとは思うが、これ以上ない名案のような気もしてきた。
どちらにせよ、あてはない。であれば、可能性をひとつずつ潰していくしかない。渋る先輩の背中を押して、噴水へと向かう。どうやら先輩は、ルイス様がこんな馬鹿げた行動をするわけがないと思いたいらしいが、現実を見てほしい。ルイス様であれば、絶対に噴水へと寄っていく。そんでその後ろをユリス様がついてくるはずである。
期待を胸に、先輩とふたりで噴水へと足を向けた。
え。これどうするんだ?
慌てて隣にいる先輩へと目を向ければ、先輩も先輩で困惑したように立ち尽くしている。あ、ダメだこれ。
ここに至るまでの経緯を思い出しながら、そっと頭を抱える。
クレイグ団長がちょっと抜けると言った時には、たいして危機感はなかった。それがこの始末。ダメだ。信頼して任せてもらえたのに、この惨状。団長が知ったらブチ切れることだろう。
というか、何気にアロン殿もいない。あの人は肝心な時にいつも居なくなる。とはいえ、たとえ居たとしてもさらなるトラブルを持ち込む気がするので、今は放っておこう。
「あの、どうしますか?」
先輩であるロニーさんに訊ねれば、困ったように眉尻を下げられてしまった。ルイス様は、この人のことを優しい優しいと褒めまくっているが、どうだろうか。確かにルイス様に対しては優しいが、後輩である俺に対してはすごく冷たい時がある。
少し考えた先輩は、迷うように前を指差す。
「手分けして探す? タイラーは向こうを見てきてくれる?」
「はい」
とりあえず、ここは先輩の指示に従っておこう。ジャンは顔色を悪くして、真っ先にクレイグ団長の元へと走っていった。団長への報告は彼に任せておけば大丈夫だろう。
そうして先輩とふたりして辺りを探したが、一向に姿が見えない。そもそもルイス様はじっとしておくことができない性格だ。ユリス様ひとりであれば、迷子になったらおそらくその場にとどまっておいてくれるはずである。だが、ルイス様と一緒となれば、どう行動するのか予想がつかない。
迷子になったらその場を動くなと言い聞かせているのに、ルイス様はとにかく走りまわる。おまけにここは広大な学園。見知らぬ土地にテンション上がったルイス様が、出鱈目に走りまわっている姿が容易に想像できてしまい頭が痛くなる。そしてその後ろをユリス様がついていくのだ。
ひとりであれば割と大人っぽい振る舞いをされるユリス様であるが、なぜか常日頃からルイス様に張り合っているらしく、ふたり一緒に置いておくとマジで予想外の動きをする。意味不明な言動に、こちらが何度困惑させられたことか。思い出すだけでも眉間に皺が寄ってしまう。
あ、ダメだ。はやく見つけないとなんか手遅れになりそうな気がする。
焦る俺とは対照的に、先輩は落ち着き払っているようにみえる。
その姿に少し安堵した俺は、再度「どうしますか?」と指示を仰ぐ。思案するように眉を寄せるロニー先輩は、きょろきょろと周囲を見回しては、息を吐く。
「しらみ潰しに探すしかないかな」
「ですよね」
それにしても果てしない。もっと範囲を絞って探せないか。ルイス様とユリス様が足を向けそうなところ、と考えてピンとくる。
「あの、ちょっと馬鹿なこと言ってもいいですか?」
「え? ダメ」
「いやいや、そんなこと言わずに」
先輩の方へと身を乗り出して、思い付きを提案してみる。
「ここって噴水ありましたよね? 噴水の前で張り込んでおけば、ルイス様がやって来たりしませんかね?」
「そんな、罠じゃないんだから」
乗り気ではない先輩をどうにか説得する。ルイス様の噴水への執着具合は、正直言ってどうかしている。
真冬だろうがなんだろうが、とりあえず噴水へと寄って行く。初めこそ、噴水のなにが魅力なのか真面目に考えてみたのだが答えは出ない。最近では、もはやそういう習性だと思って諦めることにしている。多分、水が好きなのだと思われる。一時期は湖にも執着していたし。
「絶対に噴水に寄ってくると思うんですよね! ルイス様なら絶対に!」
「うーん」
迷うように小首を傾げる先輩も、ルイス様の噴水への執着は理解しているはずである。
ルイス様は好きなものがはっきりとしている。噴水、猫、菓子に髪の長い男。ロニー先輩のことも、長髪だからという理由で気に入っているらしい。ということで、噴水の前に先輩を置いておけば完璧なのでは?
我ながら馬鹿な提案だとは思うが、これ以上ない名案のような気もしてきた。
どちらにせよ、あてはない。であれば、可能性をひとつずつ潰していくしかない。渋る先輩の背中を押して、噴水へと向かう。どうやら先輩は、ルイス様がこんな馬鹿げた行動をするわけがないと思いたいらしいが、現実を見てほしい。ルイス様であれば、絶対に噴水へと寄っていく。そんでその後ろをユリス様がついてくるはずである。
期待を胸に、先輩とふたりで噴水へと足を向けた。
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