冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話

岩永みやび

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11歳

262 どうでもいいから

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「俺の子分にしてやってもいいよ」
「ありがとうございます!」

 ユリスだけずるいので、とりあえず俺も立候補しておく。

 ラッセルは、変なお兄さんではあるが、優しい人だと思う。ユリスの意味不明な上から目線の言葉にも付き合ってあげているし。

 歩きながら、ちらちらとラッセルの顔を見る。

「俺らが双子って知らなかったの? 隊長なのに?」

 疑問だったことをぶつければ、ラッセルが「え」と小さく肩を揺らす。オーガス兄様の話によれば、実は双子でしたとエリックに伝えたことで、王宮はごたごたしているらしい。そんな状況で、第一部隊の隊長なんていう偉そうな立場にいる人がこの件を知らないのは違和感だ。

 ちょっと疑いの目を向けていると、ラッセルは考えるような仕草をしてみせる。

「……えっと、仕事の都合で外に出ていることが多いですから。そういえば、長らく王宮には戻っていませんね。殿下にもしばらくお会いできていません」

 そのせいで情報がこちらまでまわってきていないようです、と冷静に分析するラッセルに「ふーん?」と答えておく。

 なぜか冷や汗を流すラッセルは、「えっと。そういうことだと思うのですが。違うんですかね?」と逆に質問してくる。俺に訊かれても、知らないけどな。

「ところで、これはどこに向かっているんだ。なにかあてはあるのか」

 黙って歩いていたユリスが、少し不機嫌そうな声を発する。

 俺らを先導するラッセルは、迷いのない足取りであるが、確かにどこへ向かっているのか不明である。唐突に、「知らない人にはついていかない」というタイラーの言葉を思い出した俺は、足を止める。

「ルイス様?」

 不思議そうに振り返るラッセルに、すかさず右手を差し出しておく。

「お菓子はどうした!」
「は、い?」

 虚をつかれたらしいラッセルは、「えっと」と口ごもりながら上着のポケットを探っている。

 やがて顔色を悪くしたラッセルは、「申し訳ありません!」ときれいに頭を下げた。どうやらお菓子は持っていないらしい。

 ふむ。

 タイラーは、知らない人にお菓子をあげると言われてもついていくなと言っていた。しかしラッセルはお菓子を持っていない。なのでセーフだ。

「おまえ、すごいな」

 俺を褒めるユリスに、「まぁな」とお答えしておく。俺はできる大人なので。不審者対策はバッチリである。

「考え方が幼稚だな。僕には到底真似できない」
「なんだとぉ!」

 すかさずユリスに掴みかかれば、あっちも応戦してくる。

「え、いや、ちょっと」

 ラッセルがひとりであわあわしている。けれども、ここでユリスに負けるわけにはいかない。「謝れ!」と大声出しておくが、ユリスは嘲笑するだけで謝罪の気配はない。

 なんて嫌なお子様だ。

 とりあえず、一発くらいは殴っておこうと拳を握り締めれば、慌ててラッセルが間に割り込んできた。

「えっと、ほら! アロン子爵を探しにいきましょうか。きっとあちらも心配していますよ」
「アロンはどうでもいいの!」
「えぇ……?」

 なんで俺がクソ野郎を探さないといけないのか。あっちが俺のことを探しに来るべきだ。

 ついには走り始めたユリスを、勢いよく追いかける。ラッセルもついてくるが、その顔は真っ青であった。

 どうやら授業中らしく、外にはあまり人影がない。それをいいことに、再び庭を出鱈目に走っていると、どこからか水音が聞こえてきた。

「噴水!」

 なんと噴水があるではないか。方向転換してそちらに駆けていけば、ラッセルが俺とユリスのどちらを追いかけるかで迷ってしまう。二の足を踏んだ彼は、けれどもすぐに全力でユリスを捕まえに行くと、今度はこちらへと走ってきた。

 渋々ついてきたユリスは、憮然と腕を組んでいる。

「あの、ちょっと落ち着きましょう」

 俺らふたりを並べて、ラッセルが青い顔で言い聞かせてくる。その表情が、なんだかジャンを彷彿とさせて親近感がわく。

「どうした、ラッセル」
「どうしたもこうしたも」

 肩で息をするラッセルは、疲れていた。

「噴水見に行こうよ」
「はい、そうですね」

 さすがは忖度お兄さん。間髪入れずに返答した彼は、小声で「アロン子爵はどうするんですか」ときいてくる。アロンは大人だから。放っておいても大丈夫だと思うよ。
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