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11歳

258 落ち着けない

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「いいですか。勝手にうろうろしないでくださいね」
「わかったか、ユリス」
「ふざけるな。気をつけるべきはおまえの方だろ」
「なんだと!」

 偉そうに言い聞かせてくるアロンの言葉に起因して、俺とユリスが睨み合う。それをのんびり眺めていたアロンであるが、横からタイラーが「見ていないで止めてくださいよ」と、文句を言っている。

「はいはい、喧嘩しない」

 パンパンと手を叩いたタイラーは、俺らの注目を集めると、腰に手をあてた。

「いいですか。学園内では勝手にうろうろしないこと。知らない人に絡みに行かないこと」

 知らない人に絡みに行ったことなんてないけどな。適当に聞き流していると「ルイス様に言っているんですよ」と、なぜか名指しされてしまった。

「誰彼かまわず話しかけるんですから、まったく。知らない人にはついて行ったらダメですよ」

 俺がいつそんなことしたよ。まったく心当たりがない。

 戸惑っていると、タイラーが眉間に皺を寄せる。最近、マジで表情がブルース兄様に似てきた気がする。口煩い兄様に似る必要なんてないのに。

「ルイス様。知らない人にお菓子あげると言われたらどうしますよ」
「お菓子だけもらって、ついて行かないから大丈夫」
「なにも大丈夫ではありませんよ。もらったらダメに決まっているでしょ」

 眉を吊り上げるタイラー。冗談だって。流石に不審者からお菓子受け取ったりはしないから安心して欲しい。

 大丈夫と言い聞かせて、ようやくタイラーが納得するかと思いきや。

「でもルイス様って、うちの妹がヴィアン家に侵入した時、怪しいお兄さんとわかっていながらお菓子要求した前科がありますよね」

 アロンが余計なことを言い始める。再びタイラーが口を開こうとするのを制止するため、慌てて「ティアンに会えるの楽しみだね!」と話題を逸らしておく。

 ね? と横に立っていたユリスの腕を掴めば、「いや別に。そんなに楽しみではない」と酷い答えが返ってきた。なんて冷たいお子様だ。そこは普通に楽しみと答えておけばいいだろ。

 午後になり。

 アロンの案内に従い、再び馬車で少し移動した。マジで学園は近くにあるらしく、そこまで時間はかからなかった。

 どうやら本気で俺に学園内を見せたいらしい。そんなことで俺が勉強のやる気を出すわけがないのに。相変わらずブルース兄様は真面目である。

 けれども、異世界の学校とかめっちゃ興味ある。わくわくと抑えきれない興奮に、とりあえずその場で盛大に飛び跳ねておく。それを見たクレイグ団長が、なにやら頬を引き攣らせている。

「ルイス様?」

 ぴょんぴょん跳ねながら、クレイグ団長の顔を見上げる。困った表情をした団長は「落ち着いてください」と控えめに声をかけてくる。

「落ち着いてる!」
「どこがですか。とりあえず跳ねるのやめましょうよ」

 そんなことを言ったタイラーが、俺の両肩に手を置いて、ジャンプを阻止してくる。動きを制限されてしまった俺は、代わりに「行くぞぉ!」と大声で叫んでおくことにする。

「ちょ、だから落ち着いてくださいって」

 俺の口を塞ごうとしてくるタイラーを振り切って、ユリスの手を取る。そのままぶんぶん振りまわせば、「やめろ。僕を巻き込むな」と冷たい目を向けられてしまった。

 今は授業中なのだろうか。そもそもこの学園の仕組みがよくわからない。

 でっかい門を馬車に乗ったままくぐって、学園内に到着する。

 真っ先に駆けおりた俺に、慌ててタイラーと団長が寄ってくる。ヴィアン家の屋敷に負けないくらい広大な敷地に、でっかい建物。マジでファンタジー世界の魔法学校みたいな外観だ。まぁ、学ぶのは魔法ではなく一般的な学問ではあるのだが。

「ルイス様。少しお待ちくださいね」

 今にも駆け出そうとする俺であったが、馬をおりたロニーに優しく言われて、ぴたりと足を止める。

 言われた通りに、その場で静かに待機していれば、「なんでロニーさんの言うことは素直にきくんですか」とタイラーがぐちぐち言っている。

 なにを言っているのだ、こいつは。ロニーに迷惑をかけるわけにはいかないだろうが。
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