冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話

岩永みやび

文字の大きさ
上 下
266 / 637
11歳

254 猫のお世話

しおりを挟む
 長旅の準備は大変だったらしい。主にブルース兄様が準備したので、俺はよくわからないが。「なんで俺が」と、兄様が不機嫌そうにぶつぶつ言っていた。

 手伝おうと思ったのだが、なぜか丁重にお断りされてしまった。忙しそうなのに、なぜ。ひとりで準備するよりも、ふたりで準備した方が絶対にはやい。

「おまえに任せると、二度手間になる」
「二度手間……?」

 そんなことを言って、手伝わせてくれなかった。

 ユリスはなんにも気にせず、のんびりしていた。手伝おうという気は初めから持ち合わせていないようであった。

 代わりに、タイラーが忙しく走りまわっていた。

「猫のこと、よろしくね」
「あ、僕が? そこはブルースに任せないんだ」
「ブルース兄様は顔が怖いから。猫がビビってしまう」
「あ、あぁ。なるほど?」

 なるほどと口にしながら、しきりに首を捻るオーガス兄様は、本心ではよく理解していないようであった。猫は繊細なんだぞ。不機嫌顔のブルース兄様がご飯をあげても、警戒して食べないかもしれない。その点、オーガス兄様は見るからに弱そうだから少しは安心である。猫もあんまりビビらないかもしれない。

「名前はエリスちゃん。エリスちゃんって呼べば、おやつをもらいに寄ってくるよ」
「にゃー」

 エリスちゃんという言葉に反応した白猫が、おやつの時間と勘違いして盛大に鳴いている。「こんなふうに、すごく鳴く」と説明すれば、オーガス兄様は「はぁ、そうなんだ」と気の抜けた返事をする。

 ちゃんとわかっているのかな?

 すごく心配である。やっぱりブルース兄様にお願いしようかな。迷っていると、オーガス兄様は「任せてよ。ニックがなんとかするよ」と、はやくも人任せ発言をしている。名前のあがったニックが、露骨に嫌そうな顔をする。

「……やっぱり、ブルース兄様に頼むからいい」

 白猫をぎゅっと抱っこして、ふるふると首を左右に振れば、オーガス兄様が「え?」と驚きに目を丸くする。

「なんで? いいよ、僕が世話しておくよ」
「いい。大丈夫。遠慮する」
「なんでそんな急に」

 言葉を失うオーガス兄様は、ニックと顔を見合わせている。けれども、そこまでの情熱はないらしく、あっさりと「そう? ならいいけど」と猫のお世話係を諦めてしまう。

 ということで、猫のお世話はブルース兄様にお任せすることにした。

「よろしくお願いします」

 猫を抱えてぺこりと頭を下げれば、ブルース兄様が天を仰ぐ。「なんで俺が」という苦い呟きが聞こえてきたような気もする。

「オーガス兄様はダメだった。ちゃんとお世話できるか怪しい」

 低く唸ったブルース兄様も、同じ考えに至ったらしい。それ以上の反論はしてこなかった。

「名前はエリスちゃん。でもエリスって言うとおやつもらえると勘違いしてすごく鳴くから注意してね」
「にゃー」

 再び盛大に鳴き始めた白猫をそっと見下ろして、次にブルース兄様を見上げる。

「ほら。こんなふうに」
「なんで呼んでみせたんだ」

 鳴きまくる猫を持て余していると、兄様が文句を言ってくる。だって説明に必要だったんだから、仕方がないだろ。

「今はおやつの時間じゃないから、我慢しろ」
「にゃー」

 根気強く言い聞かせるが、猫は理解してくれない。おやつはどこだと鳴いている。困ったな。

「ペットは飼い主に似るというのは、本当だな」
「どういう意味?」

 しみじみ呟くブルース兄様を問いただせば、兄様はぎゅっと眉間に皺を寄せる。

「どうって。意地汚いところがそっくりじゃないか」
「俺はこんなんじゃない。大人だもん」
「どこがだ。毎日おやつ寄越せとうるさいだろ」

 それはユリスも一緒である。俺はおやつ欲しいと主張するだけマシというものだ。対して、ユリスはおやつになんて興味のないフリを貫いている。しかし、いざおやつの時間になれば、すごく真剣におやつと向き合っている。俺が横から手を伸ばせば、すごい形相で睨み付けてくるのだ。

 白猫を抱える腕に、力を込める。放っておけば、そのうち諦めるだろう。にゃあにゃあ言っている猫を抱えたまま、俺は自分の荷物を用意すべく、急いで自室へと駆け戻った。
しおりを挟む
感想 448

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした

和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。 そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。 * 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵 * 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

愛する人

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」 応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。 三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。 『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。

神子の余分

朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。 おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

処理中です...