冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話

岩永みやび

文字の大きさ
上 下
260 / 637
11歳

249 おやつあげたい

しおりを挟む
 デニスは、ユリスとお付き合いをするべくやって来たらしい。責任とってと連呼するデニスは、とてもしつこかった。逃げまわるユリスの後を、執拗に追いかけまわしている。

 ユリスを追いかけるデニスの後をついて行く俺。

 途中、廊下ですれ違ったブルース兄様が、眉間に皺を寄せて変な顔をしていた。けれども口は出してこない。デニスが「こんにちは! お兄様!」と元気に挨拶していた。

 困った顔をしながら俺を追いかけるロニーは、早々にこの追いかけっこから離脱したいようだった。

 そうして散々逃げまわったユリスは、俺を指さす。

「あいつと付き合えばいいだろ。お似合いだぞ」
「絶対に嫌! なんであんなお子様をぼくが相手にしなくちゃいけないのさ」

 ふたりして好き放題言い過ぎだろ。誰がお子様だ。こっちは精神年齢的には君らよりもずっと年上ですが?

 ユリスに駆け寄ったデニスは、遠慮なしにその腕をとる。「僕と結婚して?」と、小首を傾げるデニスは、可愛い顔してた。

 密着するふたりをじっと眺めていれば、ロニーが俺の肩に手を置いてくる。

「ルイス様。お部屋に戻りましょう」

 どうやら本気で巻き込まれたくないらしい。「え、俺を見捨てないでくださいよ」と、タイラーがロニーに縋っている。それを無言で振り払って、ロニーは俺の手をとってくる。

「じゃあ猫と遊ぼう」
「いいですね」
「うわ、つめた。マジで冷たい。後輩を見捨てないでくださいよ」

 ぐちぐち言ってるタイラーをガン無視するロニーを見上げる。いつもは優しい長髪男子くんなのに珍しい。今日は機嫌でも悪いのかな?

 タイラーを見捨てて自室に戻った俺らは、猫と遊ぶ。余談だが、最近お母様が白猫のことをエリスちゃんと呼んでいる。俺の名前がいつの間にかルイスになっていたため、代わりに猫をエリスちゃんと呼び始めたのだ。
 そんでもって、お母様はよく猫におやつをあげている。そんなんだから、いつの間にか白猫が自分の名前をエリスちゃんだと認識し始めた。エリスちゃん呼びすると、おやつがもらえると思っているのか、擦り寄ってくる。

 本日も、エリスと呼べば寄ってきた白猫を捕まえて、もふもふする。

 おやつを寄越せとにゃあにゃあ鳴くので、猫用にとジャンが用意してくれたおやつをちょっとだけ与えてやる。

「美味しいか?」
「にゃー」

 にゃーにゃー鳴く猫は、もっと寄越せと主張しているらしい。でもあんまりあげるとダメってジャンが言うしな。

 白猫とおやつを交互に見て、次にジャンを盗み見る。こちらに背中を向けていて、俺のことは見ていない。

「ほら、食べろ」
「ダメですよ、ルイス様」

 こっそり追加のおやつをあげると、ロニーが止めに入る。

「嫌だ。あとちょっとあげる」
「ダメですよ?」

 どうやらロニーも、猫におやつをたくさんあげることには反対らしい。でも俺はあげたい。おやつあげるの楽しい。正直、猫のお世話の中で、食べ物あげるのが一番好き。

 隙をみてこっそりあげたりしているのだが、ジャンに気付かれると苦い顔をされてしまうのだ。

「おやつのあげすぎは良くないですよ?」
「うーん」

 確かに、健康面を考えるとそうなのだろう。手に握った猫のおやつと、白猫を見比べる。猫には長生きして欲しい。であれば、健康は大切だ。迷った末に、おやつをあげるのは諦めた。

 しかし、握っていたおやつを無駄にするわけにもいかない。ぱっと自分の口に放り込もうとすれば、ロニーが全力で止めてくる。俺の腕を握って放さないロニーは、珍しく真剣な顔だった。

「ルイス様? ダメですよ」
「なんで」

 俺は知っている。この猫用おやつは、うちの料理人が手作りしていることを。日持ちするように乾燥させてあるらしい。どんな味かすごく気になる。

 けれどもロニーは折れてくれない。俺におやつをとられると思ったらしい白猫も、すごく大声で鳴いている。

「なんでもお口に入れたらいけません」
「でも猫はいっつも食べてる」
「それは猫ちゃん専用なので。ルイス様はいけません」

 ロニーがここまで粘るなんて珍しい。これ以上、彼に迷惑はかけられない。
 ここは諦めよう。わかったと力を抜けば、ロニーが俺の手から猫のおやつを奪っていく。

 それを寄越せとアピールしている白猫を抱き上げて、顔を埋めておく。すごくもふもふ。

「おやつは諦めろ」

 言い聞かせるが、猫は鳴くばかりで、俺の言葉を理解しているのかよくわからない。こいつも黒猫ユリスみたいに喋ればいいのに。
しおりを挟む
感想 448

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした

和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。 そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。 * 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵 * 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

愛する人

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」 応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。 三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。 『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。

神子の余分

朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。 おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

処理中です...