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11歳

248 お騒がせ

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 朝、正門が開く音がした。

 なんだか楽しそうな予感である。庭をうろうろしていた俺は、急いで駆け出す。ロニーとジャンが慌てて追いかけてくる。

 お客さんが来たらしい。豪華な馬車から降りてきた人物をみて、俺は思わず指を突きつけた。

「なにしに来た! デニス!」
「だからデニーって呼んでって、何回言わせるのさ」

 颯爽と言い切ったデニスは、相変わらず可愛い顔をしていた。ぱっちりとした目が、すっと細められる。

「君は、あれだろ。ユリスじゃない方。名前忘れたけど」
「ルイス! 覚えておけ!」

 あぁ、それだそれ。
 ぼそっと呟いて肩をすくめるデニスは、小さく舌打ちした。

「ほんと意味わかんない。双子でしたって、なにそれ」

 敵意丸出しのデニスは、キッとこちらを睨みつけてくる。負けじと俺も睨み返せば、今度は隠しもせずに舌打ちされた。

「ユリスはどこ?」

 俺を押し退けて、屋敷内を目指すデニスは、苛々しているようだった。

 どうやらヴィアン家は、本気で双子説を押し通すつもりらしい。訳あって双子であることを隠していました、と対外的に説明したらしい。一体どんな訳があるというのか。そこら辺は濁しているようである。

 まさか変な魔法でユリスが増えました、とは口が裂けても言えない。この世界では魔法はたいして役には立たないという認識なのだ。人が増えるなんてお伽話レベルである。正直に説明したところで、誰も信じてはくれないだろう。

 どうやらデニスも似たような説明を聞きつけたらしく、乗り込んできたのだろう。「ユリスは! 部屋?」と、荒々しく足を進めるデニスの後を、追いかける。

 まっすぐにユリスの部屋へと向かったデニスは、遠慮なしにドアを開け放つ。

「ユリス!」
「……は?」

 突然の乱入に、ユリスが目を見開いている。仁王立ちとなるデニスの背後からひょっこりと顔を覗かせれば、ユリスに睨まれた。なんでだよ。

「おい、なんでそいつを連れてくる」
「別に連れてきたわけではない。デニスが勝手に来た」

 タイラーがそっと椅子を引けば、デニスはどかりと腰をおろす。足を組んで、ついでに腕も組んだ偉そうなデニスは、ふんっと鼻息荒くユリスを睨みつけている。

「どういうこと?」
「なにが」
「この状況! なんで双子なの⁉︎」
「なんでと言われても」

 眉を寄せるユリスは、手元の本を閉じるとタイラーに片付けるよう指示している。

 迷った末に、俺も席に着く。

 ユリスとデニス。ふたりを交互に眺めていると、デニスに小突かれた。

「なにをする!」
「この間、僕と付き合ったのは君でしょ」
「なんでわかる」
「だってお子様じゃん。信じられない。どうりで変なわけだ。ユリスがあんなにお子様なわけないし」
「なんだとぉ!」

 ここぞとばかりに、俺の悪口を並べるデニスに、両手を振り上げる。「俺に謝れ!」と抗議するが、きれいに無視されてしまった。

「それで、何の用だ。文句を言いに来ただけなら今すぐ帰れ。不愉快だ」
「そんなこと言わないでよ!」

 僕とユリスの仲でしょ? とわけわからんことを口走るデニスは、俺を見るとしっしっと手を振った。

「お子様はあっちに行ってなよ。今から大事な話するから」
「俺も大人だもん!」

 なんだこの失礼な奴は。絶対に出て行くものかとふんぞり返る。ムスッと頬を膨らましていれば、「えぇ? 邪魔しないでね」と嫌々ながら同席を許可された。なんて偉そうなんだ。ここは俺の家だぞ。そっちが遠慮するべきだ。

 黙ってふたりを観察する。手持ち無沙汰なので、ジャンにおやつを要求すれば、「静かにできないなら出て行って」と、再びデニスが嫌そうな顔をする。

 まだおやつの時間じゃないですよ、と眉尻を下げるジャンは、渋々といった感じでキャンディーを持ってくる。早速、口に放り込んで、大人しくしておく。

 ユリスとデニスにも勧めたが、無視された。

 仕方がないので、全部俺のポケットに突っ込んでおく。ジャンが何か言いたそうな顔をしたが、気が付かないフリをしておく。ユリスがいらないなら、俺がもらっても問題はないと思うんだ。

「それでだけど。小さい頃、僕と婚約したのはユリスの方だよね?」

 ピクリと片眉を持ち上げたユリスが「いや」と否定する。

「それはルイスの方だ」
「嘘つかないで」
「嘘ではない」

 ユリスは、デニスとの婚約を俺に押し付けようとしている。どうやら、先日の一件でユリスとの婚約を諦めたデニスであるが、実は俺らが双子だったという話を聞いて、自分が昔、婚約したあのユリスではないと気が付いたらしい。察しがいいな。

「で! ユリスだよ。責任とってよ!」
「なんの責任だよ」

 嫌そうな顔をするユリスは、そそくさと立ち上がる。逃げる気満々だ。デニスも察したのだろう。素早く立ち上がった彼は、ユリスの前にまわり込む。

「責任とって! 僕と結婚して!」
「ふざけるな! 嫌に決まっているだろう。ルイスにしておけ」
「あんなお子様! 僕が相手にするわけないでしょ!」

 誰がお子様だ。とりあえず俺も参戦しておこうと拳を振り上げるが、ロニーに止められてしまった。そのままユリスたちは、言い争いをしながら部屋を出て行った。
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